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フランダースの犬

2002/11/12
家も仕事も、家族も友人も。そして、ずっと一緒だった名犬パトラッシュさえも。全てを失ったネロ少年は裸足で教会へと向かいます。
たまたま開いていたカーテン越しに、晩年想いをよせていたルーベンスの絵がネロを見下ろす。ネロ少年は呟きます。
「あぁ。ルーベンスの絵だ。ルーベンスの・・・。マリア様、ありがとうございます。僕は今、本当に幸せです」
時を超え、ルーベンスの絵は一人の少年を、不幸の奈落から救い上げる。そして、もう一つの救いがネロの目の前にやってきます。
「パトラッシュ・・・」もう食べさせてあげられないと、ネロの唯一の理解者、アロアの家においてきたはずのパトラッシュがこちらに走ってくる。
ネロは幸せをかみしめます。これ以上のしあわせを他所に、何を望み、誰を憎むというのか。
大人達の利害と悪意によって裸足となったネロ。しかし、ネロは大人も、社会も、憎もうとはしませんでした。
彼は知っていたのかも知れません。怒りは、人を幸せにしないことを。誘う天使に導かれ、二つの命は旅立ちます。
そして、ネロとパトラッシュの至福を他所に、私はこの絵を描きながらその二つの命に縋りついてしまうのです。
誰一人として、こんな生き方をするべきではないんだ、と。


クリミアの天使

2002/08/18
イギリスの、とある町に聳え立つ名家の豪邸。そこに、優しい両親や兄弟達と何不自由なく幸せに暮らす少女がいました。
ある日、少女はボランティアで生まれて初めて病院へ行きます。少女はそれまで「病院」という所を知りませんでした。
お金持ちである彼女は、病気になればお医者さんが家に来てくれるのが普通だと思っていたのです。そこはとても狭く、換気が悪いために
新鮮な空気も入ってこない。異臭の中に汚いベットがぶつかり合うように並んでいました。各病棟では酒を飲み、売春する者までいる。
この当時の病院とは、秩序と衛生のない酷いところでした。この時はじめて、少女は人間の悲惨さ、惨めさに目を開きます。
恵まれた家庭に育ったこの少女は、自分が幸せであればあるほど、不幸な人のことを考えるようになっていきました。

1837年2月7日。17歳になった少女は、この日不思議な夢を見ます。「私のところに来て奉仕しなさい」目の前に天使が舞い降り
自分に手をさし向けてそう言うのです。しかし、その時少女にはどうすることが神様に奉仕するという事になるのかその意味が分かりませんでした。
それからというもの少女はその答えを懸命に探しはじめます。「自分のしたいこと」ではなく「自分のすべきこと」は何か。
少女が答えを見つけ、動き出したのは24歳になった7年後のことでした。

彼女は離縁も辞さない両親の猛反対を押し切り、近所のサリスベリという町の病院へ。そこで、修道女のように病気や怪我の人の世話をしたいと願いでます。
当時の看護婦といえば、身寄り、身分の無い人達の職業です。見れば、彼女は身なり、仕草、言葉遣いから名家のお嬢様であることが誰にでも取ってわかる。
「本気なのかね?」と、院長は信じられないという風で彼女に名前を尋ねました。彼女は答えます。

「・・・フローレンスです。フローレンス・ナイティンゲール」


三目の国

2002/06/22
とある商人の男が商売仲間からこんな話を聞きます。「あの山の麓では、三つ目の娘が毬つきをして遊ぶらしい」
それを聞いて男は思いました。「その三つ目の娘を見世物にすれば、楽して金もうけができるな・・・」
男はさっそく三つ目を縛る縄をもってその山へ出かけて行きます。そして、待つこと半刻。本当に三つ目の少女が現れるのでした。
男は娘に襲いかかり、縄で少女の手を後ろに縛り上げました。三つ目の娘は恐怖と苦痛に震え、泣きながら許しを乞います。
「おねがいです。おねがいです。どうか許して下さい。お家に帰して下さい」
しかし、男は聞き入れようとしません。男は娘を縛っている縄をひっぱり、無理矢理町へ連れて帰ります。
しくしくと泣きながら男に従う三つ目の少女。町につくと、それを見た人々は口々に言いました。
「おい!あれを見ろ!なんて酷い事をするんだ!子供を縄で縛って家畜のように引いて歩いているぞ!」
男はあっという間にかけつけた役人達に取り囲まれてしまいます。男は必死に弁解しました。
「違う!違うんだ!あの子の額をよく見てくれ!!あの子は三つ目の化け物なんだよ!!!」

結局、男は奉行所で裁きを受ける事になります。男は土下座をしてお奉行の登場を待ちます。
「おもてを上げよ」やって来た奉行の命令に従い、顔をあげた男は驚愕します。
なんと、奉行もそのまわりの役人も、みな三つ目だったのです。 奉行は、珍しいものを見るように男をまじまじと見て言いました。
「裁きは一先ず置いておく。まずはこの二つ目の化け物を見世物にせい!」


その光が照らすもの

2003/2/9
第二次世界大戦。ヨーロッパ戦線ではドイツがフランスを侵略。フランスは難攻不落と言われたマジノ要塞を落され已む無く降伏します。
ドイツ総統ヒトラーのパリ入場にあわせ、沢山のドイツ兵がフランスにやってきます。その中に、とあるパン屋に通いつめる青年兵士がいました。
パン屋の娘は、やがてこの兵士と顔見知りになります。当時、ナチスの党政策により配給を止められていたユダヤの人達は、小さな子供までもが
街頭で物乞いをしなくてはなりませんでした。この青年兵士は、その子供たちに影でそっとパンを分け与えていたのです。
後にそれを知ったパン屋の娘は、この青年兵士の優しさに深く感動し、いつしか二人は恋におちます。

しかし、その四年後事態は急変します。ロシア地方において、極冬軍の猛反撃を受けたドイツ軍は次々と敗退。フランス市民も銃を取ってナチスに蜂起。
ドイツ軍は各地で敗れ、フランスはまた独立した一国家に戻ります。青年兵士は民衆との市街戦で戦死。娘は同じフランス市民に虐待を受けます。
この狂気はドイツ兵と付き合っていた全ての女性が対象でした。髪を切られ、服を引き裂かれ、体中にナチスの鍵十字をペイントされて市中を引き回されました。
一通り町を回ると、彼女は貨車から乱暴に放り出さる。・・・その彼女に、コートとパンを与え、抱きしめてくれる人がいました。
あの人はもういない。フランス市民もドイツ兵も、今や私の見方にはなり得ない。私にはもう頼れる人などいないのに、いないはずなのに、一体誰が。
「…だ…れ?」切れた唇で懸命に問う彼女をそっと制し、その人は答えます。

「あなたのパンと、あなたの大切な人によって、生き長らえた者です」

青年の祈りは、届いていたのです。


ずっといっしょに2

2002/07/22
一人の小さな男の子が天に召されました。天使のお迎えを受け、共に天国へ向かいます。
「ちょっと寄り道をしてもいいかな?」天使は男の子に言います。向かった先は薄汚れた横町にある、地下の廃屋でした。
戸口の傍には藁や灰などゴミの山が積まれており、その中に、干乾びた野の花と一緒になったボロボロの植木鉢がありました。
天使はその植木鉢を指さして言います。「あれを、持って行こうね。そのわけは、飛びながらお話してあげましょう」

「あの家には、生まれながらにして体の弱い女の子が住んでいたの。もう、少しの間も起きていられない程に体が弱くてね。
生まれてから一度も外に出ることが叶わなかった。日の光をあびることさえなかったの。一番元気の良い時でも、松葉杖を使ってやっと数歩
あるけるくらいだったのよ。家はとても貧しくて、この汚い地下の部屋以外に住む所がなかったの。母親は我子をかわいそうに思ってね
野花の芽を摘み、鉢に植えてその子のベッドに添えてあげたの。その芽が、女の子の唯一の友達となったのよ。女の子は一生懸命に世話をし始めたわ。
水を与え、小さな窓からやっと差し込んでくる日の光をその可愛らしい芽に与えた。女の子は、唯一のお友達である小さな芽のために精一杯尽くしたの。
やがて、その芽が名も知らぬ可愛い花を咲かせると、女の子は生涯で一番幸せな気持ちになって。そして、その花の方を向いて死んでいったのよ」

「・・・かわいそう。それなら、その植木鉢は絶対に持っていかないとね!でも、どうして天使さんはその女の子の事をよく知っているの?」
男の子の問いに、天使は胸の植木鉢をぎゅっと抱きしめる。
「・・・知っていますとも、この花の事も。だってその女の子は…この、私だったんですもの」


かわいそうなぞう

2001/11/25
戦争で殺さなければならなかった、上野動物園の象の物語。
「ここに爆弾が投下され、檻から動物が逃出して人を襲ったら大変だ。みんな殺してしまうように。」動物園は軍隊からそう命令されます。
何日も動物にえさを与えない日々が続きます。「かわいそうに、かわいそうに」昨日まで、我子のように象を可愛がってきた係りの人は
ただただ、檻の前をいったりきたりすることしか出来ません。そんなある日、二頭の象は彼の前に歩み出て、檻の中で芸当を始めました。

前足を折り曲げ鼻を高く上げてばんざいのポーズをしました。互いに体を支えあい、狭い檻の中をぐるぐると行進しました。象はやせ細った体で一生懸命です。
芸をすればまたえさが貰えると思ったのです。首筋をなでてほめてもらえると思ったのです。 あの時に、帰れると思ったのです。
「あぁ!トンキーや!ワンリーや!!」象係りの人はもう我慢できません。バケツに水とじゃがいもをいれて、檻の中へかけこみました。
力尽き、倒れた象に抱きすがって泣き叫びました。

「さぁ!食べろ!!食べてくれ!飲んでくれ!飲んでくれ!!」


帰るために

2001/03/27
ここはスペインの片田舎。ある日、おじいさんは河原に傷つき倒れていた、翼を持つ少女を助けます。
おじいさんの孫娘は、彼女が翼を持つ意味を考え、飛ぶ練習をしようと勧めます。
「きっとあなたには、帰る場所があるはずだよ!」
そして、少女は空へ帰る。数年後。平和そのものだったスペインに、突然の悲劇が訪れます。ドイツ空軍による
スペイン・ゲルニカへの無差別爆撃。少女は家を、家族を失い、その命さえ消え逝こうとしていました。
傷つき、動けない体で彼女が空に見つけたものは、帰ってきた天使。少女は呟きます。「…知っていたの?」天使は悲しげな瞳で答えます。
「ごめんなさい…。でも、もぅ大丈夫。一緒に帰ろう・・・。」


涙の庭(種の狭間を越えてV)

2001/02/12
少女はどんなに辛い事があっても決して人前では泣かない。でも、どうしても我慢できない時に、森の奥の一箇所だけ
日のあたるこの場所で、一人きりで泣きます。いつもそれを見ていた森の精である彼は、ある日、掟を破って少女の
前に姿を現します。少女を慰めたい一心で。「がんばったね。辛かったんだね。」って。