家も仕事も、家族も友人も。そして、ずっと一緒だった名犬パトラッシュさえも。全てを失ったネロ少年は裸足で教会へと向かいます。
ふと、たまたま開いていたカーテン越しに、晩年想いをよせていたルーベンスの絵がネロを見下ろす。ネロ少年は呟きます。
「あぁ。ルーベンスの絵だ。ルーベンスの・・・。マリア様、ありがとうございます。僕は今、本当に幸せです」
時を超え、ルーベンスの絵は一人の少年を、不幸の奈落から救い上げる。そして、もう一つの救いがネロの目の前にやってきます。
「パトラッシュ・・・」もう食べさせてあげられないと、ネロの唯一の理解者、アロアの家においてきたはずのパトラッシュがこちらに走ってくる。
ネロは幸せをかみしめます。これ以上の幸せを他所に、何を望み、誰を憎むというのか。
大人達の利害と悪意によって裸足となったネロ。しかし、ネロは大人も、社会も、憎もうとはしませんでした。
彼は知っていたのかも知れません。怒りは、人を幸せにしないことを。やがて、誘う天使に導かれ、二つの命は旅立ちます。
そして、ネロとパトラッシュの至福を他所に、私はこの絵を描きながらその二つの命に縋りついてしまうのです。

誰一人として、こんな生き方をするべきではないんだ、と。