戦争で殺さなければならなかった、上野動物園の象の物語。

「ここに爆弾が投下され、檻から動物が逃出して人を襲ったら大変だ。みんな殺してしまうように」動物園は軍隊からそう命令されます。
何日も動物にえさを与えない日々が続きます。「かわいそうに、かわいそうに」昨日まで、我子のように象を可愛がってきた係りの人は
ただただ、檻の前をいったりきたりすることしか出来ません。そんなある日、二頭の象は彼の前に歩み出て、檻の中で芸当を始めました。

前足を折り曲げ鼻を高く上げてばんざいのポーズをしました。
互いに体を支えあい、狭い檻の中をぐるぐると行進しました。
芸をすればまたえさが貰えると思ったのです。首筋をなでてほめてもらえると思ったのです。
あの時に、帰れると思ったのです。
「あぁ!トンキーや!ワンリーや!!」象係りの人はもう我慢できません。
バケツに水とじゃがいもをいれて、檻の中へかけこみました。
力尽き、倒れた象に抱きすがって泣き叫びました。

「さぁ!食べろ!!食べてくれ!飲んでくれ!飲んでくれ!!」