一人の小さな男の子が天に召されました。天使のお迎えを受け、共に天国へ向かいます。
「ちょっと寄り道をしてもいいかな?」天使は男の子に言います。向かった先は薄汚れた横町にある、地下の廃屋でした。
戸口の傍には藁や灰などゴミの山が積まれており、その中に、干乾びた野の花と一緒になったボロボロの植木鉢がありました。
天使はその植木鉢を指さして言います。「あれを、持って行こうね。そのわけは、飛びながらお話してあげましょう」

「あの家には、生まれながらにして体の弱い女の子が住んでいたの。もう、少しの間も起きていられない程に体が弱くてね。
生まれてから一度も外に出ることが叶わなかった。日の光をあびることさえなかったの。
一番元気の良い時でも、松葉杖を使ってやっと数歩あるけるくらいだったのよ。
家はとても貧しくてこの汚い地下の部屋以外に住む所がなかったの。母親は我子をかわいそうに思ってね
野花の芽を摘み、鉢に植えてその子のベッドに添えてあげたの。
その芽が、女の子の唯一の友達となったのよ。女の子は一生懸命に世話をし始めたわ。
水を与え、小さな窓からやっと差し込んでくる日の光をその可愛らしい芽に与えた。
女の子は、唯一のお友達である小さな芽のために精一杯尽くしたの。
やがて、その芽が名も知らぬ可愛い花を咲かせると、女の子は生涯で一番幸せな気持ちになって。
そして、その花の方を向いて死んでいったのよ」

「・・・かわいそう。それなら、その植木鉢は絶対に持っていかないとね!でも、どうして天使さんはその女の子の事をよく知っているの?」
男の子の問いに、天使は胸の植木鉢をぎゅっと抱きしめる。

「・・・知っていますとも、この花の事も。だってその女の子というのは…この、私のことですもの」