ベートーヴェン・プロジェクト第7回
彩の国さいたま芸術劇場・音楽ホール
2001.12.8
四角関係ドラマ番組のオープニング曲
J.ハイドン:歌劇《薬剤師》序曲
あまり知られてはいませんが、ハイドンは実に生涯20以上ものオペラを作曲しています。《薬剤師》は、ハイドンが仕えていたエステルハージ家が離宮に作った新たな歌劇場の完成を祝して上演されました。ハイドンが宮廷楽長に昇進した2年後の事です(1768年)。その後はウィーンでも再演され、大好評だったようです。
当時のイタリア喜劇界を代表する劇作家ゴルドーニの戯曲をもとにしたこの歌劇は、有名なモーツァルトの《フィガロの結婚》などのように、とても人間くさいドラマです。後見人をしている若い娘との結婚を密かにたくらむ老薬剤師、その娘に恋する青年2人と娘本人(結構積極的?!)による「四角関係」ドタバタ喜劇。当時の世相を反映して、背景に憧れの国トルコも登場します。現代に置き換えるなら、民放地方局の制作なのでマイナーだが、時事も交えてなかなか楽しめる娯楽番組、といったところでしょうか。
序曲は、古い形式で書かれていています。劇中のドタバタを連想させる1・3楽章、それぞれの思いを表すかのように微妙に表情を変えつつ穏やかに流れる2楽章の三楽章構成となっています。これはバロック歌劇の序曲によくある形式です。
今までハイドンの歌劇に馴染みのなかった方は、これを機会にお聴きになってみてはいかがでしょうか?きっと新たなハイドンの世界に魅了されることでしょう(最近ようやく、CDショップにハイドンオペラが増えてきています)。
N.W./第1ヴァイオリン奏者(職業:薬剤師)
18世紀パリのエスプリ
W.A.モーツァルト:交響曲第31番ニ長調《パリ》 K.297
就職活動のためマンハイムとパリへ旅行中の青年モーツァルトが、パリでの公開演奏会のために書いた、意欲作です。この曲の初演が成功したことを父親に伝えるモーツァルトの手紙では、リハーサルは最低な出来で彼をやきもきさせたものの、本番では作曲者の意図したとおりに聴衆がノリノリ状態となり、演奏中に拍手喝采(今のロックやジャズのライヴと同じような光景ですね)、終演後はうれしくてアイスクリーム(当時はさぞ高価だったでしょう)を食べに行った、とあります。当時のパリの聴衆のツボにハマった個所としては、まずは冒頭のユニゾンによるファンファーレ的開始。テンポの速い楽章でのこういう始まり方自体はお約束パターンだったのですが、第3楽章は予想を裏切って弱奏で始まるあたり。そして第1楽章の中ほど、バスのピチカートにのってヴァイオリンが跳ね回る上で管楽器が長い音を吹くあたり(アーノンクール氏による指摘)。ここがどうしてウケたのか、現代日本人筆者の認識ではよくわかりませんが、全体として非常にメリハリの効いたダイナミクスと舞曲的な進行感が支配する中、ふっと現れる意外性(おとぼけ感)が「18世紀パリのエスプリ」なのかもしれません。
モーツァルトにしては珍しく周到な作曲・修正プロセスを経たため、現在残っている自筆譜および筆写譜と初版譜で多くの違いがあります。本日の第1楽章は、あまり一般的でない初版バージョンでの演奏を試みます。この曲をよく聞き込んでいる方なら「あれっ?」と思われる個所があるかと存じます。それは演奏ミスではございません(たぶん)。
S.N./第2ヴァイオリン奏者
本日が初演記念日
L.V.ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op.92
188年前の今日(12月8日)、この曲が公開初演されました。当時はナポレオン戦争のさなかで、「ハーナウ戦役傷病兵のための慈善演奏会」という名目。場所はウィーン大学の講堂で、ベートーヴェン自身が指揮しました。当日のプログラムは、この曲が1曲め(つまり「前プロ」)で、デュセックやプレイエルといった同時代の作曲家の行進曲が続き、メインは「ウェリントンの勝利(戦争交響曲)」でした。第7交響曲がこの演奏会の企画に合わせて作曲されたわけではありませんが、壮大なイメージで、エネルギーにあふれ、概して景気のいい曲想がうけたのか、《戦争交響曲》とともにたいへんなヒットとなり、CDなどない頃ですから、ピアノの連弾や弦楽五重奏などに編曲された楽譜が、後々までよく売れたようです。近年、改めて19世紀の室内楽編曲版のCDが出ていますので、お聴きになってみるのも一興かと思います。
第5と第6の交響曲で、短い主題を徹底的に労作展開する設計手法を確立したベートーヴェンが、ここで新たに提示するのは、比較的長い旋律線に一定の鋭いリズムの繰り返しを組み合わせる手法で、いわば「歌いながら踊る」スタイルです。《運命》のテーマが鼻歌やダンスに向いてないのとは対照的です。そのあたり、19世紀のきまじめな専門家筋からは批判もあったようで、ロマン・ロランが伝えるところによると、「北ドイツでこの作品は、飲んだくれの曲と言われていた」そうです。さらに20世紀前半の巨匠、ワインガルトナーは「この曲を指揮することは、他のいかなる曲におけるよりも精神的疲労をきたす」と発言しており、どうやら第7を受け入れる感覚は、ロックコンサートやカラオケで熱狂・陶酔する感覚と近いような気もします。実際、楽器を手にとって通しで演奏してみると、相当な運動量が要求される一方、リズムの反復の中にどこか催眠術のような効果もあって次第にトランス状態に至り、最後はヘトヘトになります。第1楽章中ほどのフォルテシモのところなど、第2ヴァイオリンの右腕の動きにご注目いただくと、事の次第が視覚的に確認できます。
S.N./第2ヴァイオリン奏者
(禁)無断転載
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