ベートーヴェン・プロジェクト第0回
三鷹芸術文化センター風のホール
1997.11.23
W.A.モーツァルト:交響曲第29番イ長調K.201(186a)
第1楽章:アレグロ モデラート イ長調 2/2
第2楽章:アンダンテ ニ長調 2/4
第3楽章:メヌエット イ長調 3/4
第4楽章:アレグロ コン スピーリト イ長調 6/8
若きモーツァルトの交響曲では、ト短調の25番と並んでおなじみの(?)29番ですが、作曲年は1774年、18歳の作です。この頃のモーツァルトは、父レオポルトとイタリアやウィーンへ旅をして(共に3回目)、先々で就職活動をしますがいずれも不首尾に終わり、たまにザルツブルグに帰ればコロレド大司教から出された宗教曲の宿題が待っているといった生活でしたが、今で言えば高校生の若者が、学校へはほとんど行かず、頻繁に海外へでかけてもっぱら時代の最先端に直に触れる毎日を送るようなものですから、もともと並外れた才能に恵まれていればなおのこと、いきいきと変化に富み、意欲的な創作が生まれるのも、もっともなことと思われます。
当時のウィーンは、様々な人種が交流して活気ある国際的文化都市であり、現在「ウィーン気質」と呼ぶ一種の保守性が定着するのは、19世紀後半以降のことです。29番の交響曲は「ウィーン風」と言われることがありますが、その意味は「1770年代西欧世界の流行の最先端にして最もおしゃれなスタイル」と理解した方がいいでしょう。
イ長調(シャープ3つ)という、モーツァルトの交響曲としては比較的珍しい調性で書かれたこの曲は、ハ長調、ト長調、ニ長調といった多数派の調性と比べると、シャープ1つ分ハイになると言いますか、心地良く熱を帯びた感じと新鮮なイキの良さにあふれています。
当時の交響曲としては意表をつく弱音による開始で、オクターヴの跳躍をバネにしてどんどん盛り上がり、パート相互の掛け合いや、高低・強弱の対比などが効果的に織り込まれている緻密な音楽が第1楽章。第2楽章はヴァイオリンが弱音器をつけ、何やら落ち着いた雰囲気なようでいて、実は結構いたずら小僧といった風情。第3楽章のメヌエットは小幅に飛び跳ねるような符点リズムで特徴づけられ、さしずめバッタの行進曲といったところ。最終楽章は遊園地に行って、のっけからジェットコースター、次にバイキング、さらにフリーフォールと乗り継いでいくような勢いで爽快に終わります。こういう音楽は大人になってしまってからでは書けないかもしれません。
S.N./第2ヴァイオリン奏者
F.P.シューベルト:交響曲第5番変ロ長調D.485
第1楽章:アレグロ 変ロ長調 2/2
第2楽章:アンダンテ コン モート 変ホ長調 6/8
第3楽章:メヌエット アレグロ モルト ト短調 3/4
第4楽章:アレグロ ヴィヴァーチェ 変ロ長調 2/4
この交響曲の完成は、1816年10月、シューベルト19歳の時ですから、モーツァルトが29番の交響曲を書いたのとほぼ同じ年頃の作品です。(ちなみに、有名な歌曲「野ばら」や「魔王」は前年の1815年の作です。)
シューベルトはまちがいなく天才肌の作曲家ですが、モーツァルトのように職を求めて各地を渡り歩いたことも、ベートーヴェンのようにお金持ちの貴族のバックアップがあったわけでもなく、あくまで一介の音楽教師であって、作曲家としては「偉大なるアマチュア」と言うべき人です。自作の出版はすでに存命中から活発でしたが、それでガッポリ儲けたという話もありません。しかし、ベートーヴェンの音楽の影響下にある環境に生まれた根っからのウィーン人であり、シューベルティアーデといった仲間内の集まりが何度も開かれたことが示すように、生涯を通じて多くの親友やファンに恵まれ、また誰よりも「歌」を愛した人です。モーツァルトの時代と違い、芸術家という「職業」が徐々に成立してくる19世紀初頭という時代の申し子であったとも言えましょう。
この曲は完成後まもなく、当時ウィーンのブルク劇場のビオラ奏者だったオットー・ハトヴィヒの自宅で初演されています。ハトヴィヒはシューベルト家と親しく、フランツの父がチェロを弾く一家の弦楽四重奏の演奏に加わったりした人で、アマチュアの演奏家を集めてプライベートなコンサートを開き、指揮していました。一般市民がもっぱら楽しみとして楽器を演奏するということが、この頃から盛んになってきたのです。今日のコンサートは、演奏メンバーの技量や人数の点で、この曲の初演の状況にかなり近いのではないかと思われます。
トランペットやティンパニを用いず、フルートは1本という室内楽的な編成で、表面的にはハイドンやモーツァルトのような雰囲気もありますが、ここには明らかにシューベルト独自の「歌」があります。各楽章で現われるすべての旋律に歌詞をつけてもいいような、親密感にあふれる曲ですけれども、単に親しみやすいだけでなく、どこか嘆きや厳しさが感じられるところが「シューベルト節」なのでしょう。特に第2楽章は、息の長い慈しむような主題が次々と転調していく中に、有名な未完成交響曲にも通じる、シューベルト独特の情緒が漂います。
今年(1997年)が生誕200周年にあたり、31歳で世を去ったシューベルトの青春時代に想いを馳せつつ、心を込めて演奏したいと思います。
S.N./第2ヴァイオリン奏者
(禁)無断転載
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