ベートーヴェン・プロジェクト第4回
三鷹芸術文化センター風のホール
2000.4.23
21世紀型テンポで
W.A.モーツァルト:歌劇<フィガロの結婚>序曲
初めて耳にしたモーツァルトの曲といえば、多くの人がこの曲か《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》のどちらかを挙げるのではないでしょうか。それは、この曲が非常に印象的で、あらゆる人を元気にさせるようなパワーをもっているからです。オペラの中で使われている旋律は全く出てこないのですが、「これから始まるぞー!」と観衆に呼びかけて期待感をあおる効果としては、世に数ある序曲の中でも最高レベルです。
そこでこれを勢いよく高速テンポで演奏するのが一般化していますが、楽譜には「Presto、4分の4拍子」と書いてあります。近年の多くの演奏は、「Presto、2分の2拍子」の雰囲気ですから、大急ぎの2倍速でやっていると言えます。18世紀当時どんなテンポで演奏されたかわかりませんが、少なくとも本日の演奏では、20世紀の高度成長型テンポではなく、ゆったりめの21世紀型テンポでまいりたいと存じます。
S.N./第2ヴァイオリン奏者
蹄の音や銃声も聞こえる?
J.ハイドン:交響曲第73番ニ長調<狩>Hob.I:73
ハイドンが残した数多くの交響曲や弦楽四重奏曲には、《校長先生》《めんどり》《奇跡》《冗談》《剃刀》など、ユニークなニックネームがつけられている作品が多くあります。
本日演奏する交響曲第73番《狩》もそのひとつ。自筆譜から作曲家自身が第4楽章に《La Chasse(狩)》とタイトルを記したことが確認されており、これがそのまま交響曲第73番の愛称として親しまれています。当の第4楽章といえば、《狩》のネーミングにふさわしく、オーボエを伴う2本のホルンによる狩猟旋律が特徴的で、展開部の第1ヴァイオリンによる軽やかなメロディが野山を駆け巡る鳥獣を思い起こさせます。
18世紀当時のヨーロッパでは、本来は生活の糧であった狩猟が人々の楽しみのひとつになっていました。ハイドンのみならず、モーツァルトやベートーヴェン、ロッシーニなど数々の作曲家が狩の楽しみに惹かれ、狩猟音楽をモチーフとした曲に挑んだのもうなずける話でしょう。
思えば、ハイドンが勤めたエステルハーザ宮の領地は元はといえば狩の城で、その周辺は現在でも緑豊かな土地だそうです。
もうひとつ話をすると、実はこの第4楽章、同じくハイドン作曲のオペラ《酬いられたまこと》の序曲を転用したものなのです。このオペラは火災で炎上したエステルハーザ宮オペラ劇場が再建された際のこけら落としとして、1781年、ハイドンが48歳の時に初演され、その後間もなく交響曲第73番が作曲されたとみられています。
同じ曲でありながら片方は交響曲の終楽章として、もう片方はオペラの幕開けとして、始まりと終わりというまったく正反対の使われ方をしているのはおもしろいと思いませんか?
S.Y./第1ヴァイオリン奏者
ハイリゲンシュタットの頃
L.V.ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調作品36
ベートーヴェンの創作期は大きく3つに分けられており、交響曲第2番は、最盛期を見る直前、初期と中期の過渡期で目立たないながらも、重要な意味をもった楽曲として存在しています。
スケッチによると、この曲は1800年、第1交響曲に続いて着想され、1802年に田舎町ハイリゲンシュタットにおいて、集中的に書き進められました。しかしこの時期は彼にとってまさに苦しみの時・・・。金銭的には恵まれていましたが、数年前から患っていた聴覚の低下が著しくなり、絶望の渕で暗澹たる時間を過ごしていたのです。
彼の死後に見つかった“ハイリゲンシュタットの遺書”とは、まさにこの時期に書かれたもので、いかにその悩みが深かったのかを如実に語っています。がしかし、この遺書は死出の置き手紙ではなく、傑作輩出に向けた“決意の書”ではなかったでしょうか。今まで人を排し、悶々と悩んできた彼。思いのたけを書きつけたことで心の整理がついたのでしょう。「課せられた創造すべてをやり遂げるまではこの世を捨てられない」と、焦りや挫折、そして死までを芸術の原動力として取り込んでしまったのですから。
このようなことから、第2が辛い時期の作にもかかわらず、曲調を明るくしているのもうなずけます。また、3楽章に従来の優雅なメヌエットに代わるスケルツォをもってくるなど、随所に“遊び”をちりばめたことにも、彼の新たなる挑戦を感じます。
この曲の初演は、1803年4月5日。アン・デア・ウィーン劇場にて、オラトリオ《オリヴ山のキリスト》など、いくつかの自作品と共に行われました。この頃はまだ、交響曲そのものがウィーン市民によく理解されるには至りませんでしたが、楽員が疲れてしまうほど朝から念入りなリハーサルをしたり、前評判の高さに目をつけて当日の入場料や指定席を値上げしてみたり、すべてにおいて貪欲で、次の時代に向けた大きな意気込みを感じさせるものとなりました。
「不幸について考え込まないようにする一番良いことは仕事に集中することだ」。とベートーヴェンは言葉を残していますが、第2番はひっそりとした存在ながらも、様々な苦難に磨き上げられた素晴らしい作品となっています。
H.A./第2ヴァイオリン奏者
(禁)無断転載
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