ベートーヴェン・プロジェクト第5回
三鷹芸術文化センター風のホール
2000.10.22
【3】づくし
W.A.モーツァルト:歌劇《魔笛》序曲
アマチュアオーケストラの定番となっている《魔笛》序曲ですが、冒頭と中間部のアダージオほどオーケストラの持ち味が明白にあらわれるフレーズもめずらしいものです。テンポ、音色のほか、とりわけ3度鳴り響く和音は、演奏者によってアウフタクトやフェルマータの長さもまちまち。実は、この3つの和音は、モーツァルトとフリーメイソンとの関係を明白に象徴しています。
《魔笛》の台本と音楽に、フリーメイソンの秘数である3という数字が意図的に取りこまれている事実には注目すべきものがあります。ざっと挙げるだけでも、【3】人の侍女、【3】人の童子、【3】つの神殿、【3】つの扉など、3にまつわる具象がいくつも登場します。さらに序曲を含め、《魔笛》の大部分の曲がフラット記号【3】つの変ホ長調で書かれています。実際に変ホ長調は、フリーメイソンに関係する音楽を書くときにモーツァルトがよく用いていた調性です。そして最初に触れた序曲の【3】つの和音は、新参者がロッジのドアを【3】回叩く様子、すなわちフリーメイソン流の入門の儀式を表わしているといわれています。
劇団主催者で《魔笛》の台本作者でもあるシカネーダーも、当時の知識人の多くがそうであったように、やはりフリーメイソンの一員でした。《魔笛》のオペラ化自体はシカネーダがモーツァルトに持ちかけた話ですが、フリーメイソンの儀式や信条を暗喩的に用いることで、その思想を広めようというアイデアは、ふたりが共謀した末に産み出された賜物でしょう。そして、宮廷劇場でなく場末のアン・デア・ウイーン劇場にて、しかも母国語であるドイツ語での上演を敢行したという背景からは、より広い層にアピールしようという彼らの意図が感じられます。
S.Y./第1ヴァイオリン奏者
スペシャルゲスト光臨
W.A.モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467
交響曲や弦楽四重奏というジャンルにおいてはハイドンが時代のパイオニアであったのに対し、協奏曲についてはモーツァルトがパイオニアであり、完成者であると言えます。
鍵盤楽器のための協奏曲では、ハイドンでさえ10曲程、その多くはオルガンやチェンバロ用のものですので、ピアノ(クラヴィーア)協奏曲はモーツァルトの得意分野でした。このことは、モーツァルトの残した50曲あまりの協奏曲のうち、約半数がピアノのための楽曲であることからも明らかです。
本格的なピアノ協奏曲の作曲は17歳から晩年までに至り、「21番」は、「20番」に続き、1785年にウィーンで作曲されました(当時29歳)。自らの演奏活動に追われる中、演奏会ギリギリ前日に完成したというのですから、当時の売れっ子ぶりがうかがえます。さらには、同時期に《フィガロの結婚》を作曲、敬愛する作曲家ハイドンとの親交を始めた頃でもあり、活気に満ち満ちた、まさに絶頂期のウォルフガングの姿が見えてきます。
この協奏曲は、暗い陰のある「20番」とは対照的で、その憂さを晴らすかのような、あっけらかんとした行進曲風のテーマから始まり、楽曲全体がきらびやかな雰囲気に彩られています。繊細で美しい第2楽章は、映画《短くも美しく燃え》(1967年)でテーマ曲として使われ、今ではスーパーマーケットのBGMになっているくらいですから、皆様一度は耳にされていることと存じます。はたして本日の演奏はいかが響きますでしょうか?
本日ご出演の小倉貴久子さんは、プロフィールの通りフォルテピアノ(時代楽器)の名手ですが、モダンピアノでも活躍されておいでです。本日はモダンの方でお届けいたします。
創立5周年記念の特別ゲストとしてご共演いただく事は、誠に光栄であり名誉であると同時に、いささかの興奮を禁じ得ません。
T.W./コンサートマスター
新しいベートーヴェン像
L.V.ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67 《運命》
この「第5」交響曲は、《エロイカ》の初演後1804年にスケッチが始められながら、 一時中断されて間に第4を挟んだのち、ようやく1808年に完成しました(当時38歳)。同年12月、アン・デア・ウィーン劇場での自主演奏会にて初演。《田園交響曲》や《合唱幻想曲》、ピアノ協奏曲やミサ曲抜粋なども交えて盛り沢山なプログラムでした。しかし4時間におよぶ長丁場に加えて会場はひどい寒さ、さらに練習不足で《合唱幻想曲》がやり直されるなど、演奏会としては散々だったようです。
「第5」の大きな特徴といえば、誰しもが耳になじみのある冒頭の4つの音。これが曲全体にわたり変形しながら実にドラマティックな展開を導いています。《運命》という標題は作曲者の命名ではなく、この動機についての“運命はかく扉を叩く”という逸話が広まって定着したわけですが、この話は弟子のシンドラーが捏造したものとされています。一方、別の弟子・チェルニ−は、この動機はホオジロ鳥の鳴き声を模倣したものという説を述べており、それに従えば「交響曲第5番《ホオジロ》」となって、一般的なイメージとかなり違ってきます。ただ、《田園》と同時期の作曲ですので、動機発想における鳴き声説の可能性は高いかもしれません。また、通例的な「運命的闘争から勝利へ」といった解釈についても、むしろ純粋に「緊張や不安から昇華へ」と考える方が曲の本来の姿に近づけると思われます。
一般的に、不遇で不屈の作曲家というイメージが強いベ−ト−ヴェンですが、近年の研究によれば、パトロンである貴族達との交流を通して、当時の作曲家としては高額の報酬を得ていたり、女性関係については結婚こそできなかったものの、意外にもてていたという事実が明るみになってきました。また、職人的な色の濃かったハイドンやモーツァルトと違い、一市民としての芸術家像がクローズアップされつつもあります。そんな新たなベ−ト−ヴェン像を心に描けば、《運命》も今までとは違った響きに聞こえてくるのではないでしょうか。
H.A./第1ヴァイオリン奏者
(禁)無断転載
第7回
|
第6回
|
第4回
|
第3回
|
第2回
|
第1回
|
第0回
これまでの演奏会の記録 TOP
トピックス
|
プロフィール
|
コンサート
|チケット|
メンバー募集!
リンク
|
メンバー専用
|
メール
|
TOP
|
HOME