ベートーヴェン・プロジェクト第3回
武蔵野市民文化会館小ホール
1999.11.6
不倫相手??の女性の死を悼んで
ハイドン:交響曲第99番変ホ長調Hob.I:99
本日お聴きいただくハイドンのシンフォニーは、1999年にちなんで交響曲第99番。メジャーな曲ではありませんが、ハイドンの作品のなかでとくに人気の高い交響曲第100番《軍隊》、101番《時計》と同時代に作曲され、これらの傑作とともにロンドンの観客を熱狂させた隠れた名曲です。ハイドンがヨーロッパ各国で評価されようになった頃の1790年、長年仕えたニコラウス・エステルハージ侯爵の死去に伴ない、ハイドンは実質的に自由に音楽活動ができるようになりました。その機にうまく乗じたのが、ハイドンの崇拝者であり音楽家でもあるザロモン。彼の申し出によって、ハイドンがピアノによる指揮を行ない、ザロモンがコンサートマスターを勤める第1回目の「ザロモン演奏会」が1791年にロンドンにて開催され、大盛況のうちに幕を閉じます。
ハイドンはロンドン市民の拍手喝采に気をよくしたらしく、再びコンサートを開くことを喜んで承諾したばかりか、いったんウィーンに引き上げて交響曲第99番と100番、101番の作曲に着手するという入念な下準備までして演奏会に臨んだようです。
99番の初演は1794年2月10日。当時のロンドンの有力新聞各紙がアンコールとブラヴォーを送り続ける観客の様子を連日伝え、17日には再演されたということですから、張り切った甲斐は充分にあったのでしょう。音楽人生のほとんどをエステルハージ家に捧げてきたハイドンは、数度のロンドン遠征によって、貴族の庇護を受ける古典的音楽家から脱し、一般市民が聴く演奏会で収入と名声を得る近代的音楽家のパイオニアになったといえます。
品行方正で平穏な生涯を送った感のあるハイドンですが、そうでもないようです。なぜなら、彼が何年にも渡って親交を結び、また敬愛してやまなかった貴婦人マリアンネ・フォン・ゲンツィンガーが1793年に亡くなっており、彼女の死はハイドンの心に相当の痛手を残していた模様だからです。あるハイドン研究家は、第99番の第2楽章は夫人への哀悼の意を込めて作曲されたという説を立てています。いわれてみれば、第2楽章にはハイドンならではの音楽のいたずらや計算ずくの滑稽さがなく、美しい旋律の根底に哀愁と怒涛の感情を漂わせているようにも聞こえてきます。
S.Y./第1ヴァイオリン奏者
惨憺たる<第5>同時初演
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68<田園>
作家ロマン・ロランが「傑作の森」と呼んだ、ベートーヴェンの名作期をなす数々の作品の中に、ひときわ異彩を放って存在しているのが、《第6》(1808年・当時37歳)です。18世紀末頃からウィーンや南ドイツで流行していた自然描写曲に影響を受けたようで、それまで培ってきた心理的かつ抽象的な内容から、絵画的なものへと趣を変えています。初版の楽譜には《田園交響曲》と題され、また彼の作品にしては珍しく、各楽章に標題がつき、のちの標題音楽の先駆けともなりました。しかし実際は「絵画的描写よりも感情の表現」と作曲家自身が記すように、田園の写実でもロマンチックな幻想詩でもなく、自然への素朴な愛情を投影した古典交響曲として存在しています。
この曲は、1807年に本格的なスケッチが始められ、翌年初夏、ウィーンから馬車で1時間の風光明媚な田舎町ハイリゲンシュタットで完成されました。ここはかつて、失いつつある聴力回復のため、転地療養に訪れた土地であり、焦燥と挫折の末、思いあまって「遺書」を書きつけた場所でもあります。人づき合いを断ち、自問自答に明け暮れる日々...。そんな彼に自然は、偉大なる愛をもって、新たな決意とインスピレーションを授けてくれました。生涯に40軒あまりの家を転々とした引越魔の彼にとっても、この自然多き地には格別の思い入れがあったに違いありません。
初演は1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場にて、 同じく新作の《第5》、《合唱幻想曲》らとともに自信をもって行われました。しかし、寒さで観衆の入りが悪く、様々なアクシデントも重なって、《合唱幻想曲》では演奏を中断、やり直しの事態に...。「ダ・カーポ!」(始めから!)と叫ぶ彼を背に、観衆が足早に帰るという、演奏会としては惨憺たる結果に終わっています。
幾多の挫折と苦しみに耐え、それでも芸術家として、名曲《第6》を世に送り出した不屈の男・ベートーヴェン。「あぁ、何回やってもうまくいかん!」と悶え苦しみ、一演奏家として否応なしに今日を迎える私たちにとって、これほど心強い存在はないでしょう。
H.A./第2ヴァイオリン奏者
(禁)無断転載
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