「ワールドカップを支えるもの」


 パリからTGVで1時間ほどのランスを訪ねた。今日はここで試合はない。この前、デンマーク−サウジアラビア戦を観に行ったときは一杯ひっかけたデンマークサポーターで溢れかえっていた街が、静けさを取り戻していた。それでも、通りには出場国の国旗が掲げられ、ワールドカップのグッズショップがあちこちにある。


競技場に近づくと、やっぱり警備の人があちこちにいる。すごいヒマそうだ。「近くで写真を撮りたいんだけど」と声をかけると、イタリア移民だというジョゼッペさんはついておいで、と案内してくれた。のこのこついて行くと、何とスタンドの中まで連れていってくれた。嬉しかった。試合の日には競技場の近づくこともできないっていうのに。ジョゼッペさんは大のサッカー好きで、若き日にはイタリアリーグでプレーしていたこともあるという人のいい爺さんだ。今はランスに住み、大会期間中はボランティアで警備をやっているという。ひとしきりサッカー談義を繰り広げ、別れ際、お礼に青いTシャツをあげた。


郊外の小さな町、ランス。でもこの町にはクラブチームがあり、すごく立派な専用競技場がある。ランスは97−98フランスリーグのチャンピオンの栄冠を手にしている。この街の人たちがサッカー好きになるのもうなづけた。


 リヨンは陽射しが心なしかパリより明るく、心地よい街だ。ジャマイカ戦の下見も兼ねて、今度はリヨンのスタジアムを訪ねた。スタジアムを訪れたら、地元クラブチームのユニフォームとマフラーを記念に買う事にしている私は、さっそく「オリンピック・リヨネーズ」のショップを探した。たいていのグッズショップはスタジアムの側にある。だけど見当たらない。うろうろしていて、人影のあった建物の中の人に尋ねると、「きょうは休みなの」と言う。「ユニフォームが欲しかったのにー」と残念がると、球団関係者のカトリーヌさんは申し訳なさそうに、「じゃあ、せっかくだからスタジアムの中を見ていく?」と、これまた競技場内を案内してくれた。私たちが入っていった建物は、球団事務所だったのだ。ひとしきり見学させてくれた後、彼女は、街なかのもう一件のクラブショップの場所を教えてくれた。


いそいそともう一件の店を訪れると、今度はサイズがない。あーあ、と溜息をついていると、「どこからきたの」と店のお兄さんが話しかけてきた。日本から、と答えると、ちょっと待って、と背中に「NAKATA」の文字が入った店のスタッフTシャツを持ち出してきた。テレビで時々Jリーグを放送していて、中田選手がお気に入りなんだとか。彼はジャマイカ戦はこれを着て日本を応援するんだ、と話してくれた。


ワールドカップを観るだけでなく、こうして地元クラブチームをめぐるのも楽しい。奇しくも「Jリーグもよろしくお願いします」と言った中田選手の言葉を思い出した。ワールドカップを支えるもの。それはサッカーを愛する人の小さな親切だったり、地元クラブチームから育ったサッカーへの愛情だったりする。

〜雪〜



7/3 「フランスの記憶」
7/4 「夢を奪った犯罪者たちへ」
7/13 「スタジアムを包む声」
7/15 「消えたサポーター」