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私家版ベスト

冒頭の何年ぶりかに再会した姉弟のぎこちない会話からして秀逸。

弟「仕事の帰り?」
姉「え?だって今日は土曜日でしょ」
弟「あ…勘違い。服装がちゃんとしてるから…」

姉弟が何年も言葉を交わしていないだろうこと、弟が曜日も分らないようなだらしない暮しをしていること、姉は普段からきちんとした生活を送っているらしいことなど、主役の2人の境遇や関係がごく短いやりとりの中で説明調になることなく簡潔に表現されている、見事な導入部である。幼くして両親を亡くした姉弟がそれぞれこれまでどういう人生を歩んできたかは想像に任せるしかないが、全編にわたって交わされる自然な会話で2人が精神的に深いところで支え合っているんだなというのが映画を通してちゃんと感じられる。

単調な田舎の暮しに耐えられず、訳も無く苛立っている弟。自分がしっかりしなきゃと常に気を張っているシングル・マザーの姉。正反対の性格な2人が、肉親ゆえの思いやり・衝突・愛情・反発を通してお互いに影響し合い、自分を見つめ直して行く。自由奔放に暮していた弟は幼い甥っ子に対して父性に目覚め、一方姉は少し羽目を外すことを覚える。別に人生の大きな目標を達成する話ではなく、感動の涙にくれる展開もないけれど、何も言わなくても分かり合える肉親がゆえの信頼関係が静かに心に染みてくるような、そんな映画だった。僕自身は肉親とそれほど仲良くないので、うらやましいような複雑な気持ちにもなる。親代わりで弟の面倒をずっと見てきたのであろう姉が弱気になった時、今度は自分の番だというように、たとえ遠くにいても心は傍にいるからねという弟の気持ちが優しく切なく響くタイトルである。

姉の上司役のマシュー・ブロデリックの童顔がかなり可愛い。ちょっとやな奴の役柄で良い味を出している。

状況設定はパニックものなのに、アクション・サスペンスに徹底したところが面白さの理由なのだろう。爆弾をしかけられたバスに閉じ込められた乗客...各々は全く関係がないのに、突然運命共同体となってしまう。普通はここで「瀕死の娘に会いに行く途中の親」とか「家庭崩壊寸前で家を出てきた妻」とか人間ドラマがわざとらしく次々と出てきそうなもんだが、乗客全員が最後の最後まで「ただの運の悪い人達のまま」ってのが潔い。ちなみに僕が気になったのは「ザーマス眼鏡のおばさん」。彼女はいったい何物だったのだろう...救出されるときも一瞬板の上で足をすくませて存在感をアピールしてみたり...どこか気になるおばさんであった。

人間ドラマが全然無い分だけ、はらはらドキドキに集中できる。一刻を争うエレベーターシーン、次から次へと障害をクリアしていかなければならないバスシーン、余計な事をあれこれ考えるひまもなく画面に引き込まれて見入ってしまうのが楽しい。それに比べると、最後の地下鉄シーンは印象が薄い。要らなかったんじゃないのかな。

キアヌ・リーブスの二の腕がかっこいい。もともと華奢な人なのにトレーニングであんなになるもんなのかと感心。また、そういうキャラ設定なのだろうが、全編を通じてキアヌはほとんど笑わない。数少ない笑うシーンのうち、乳母車を轢いてしまった後「中は空き缶だったよ」とS.ブロックに言う時の笑顔がイケます(はーと)。

この映画の「秘密」は最後まで分からないのが正しい見方である。途中で分かったよ、っていう人がよくいるようだが、ラストシーンの種明かしで、「ああ、やっぱりね。」としか思えないなんて、お気の毒としかいいようがないではないか。途中幾度か腑に落ちないシーンがあるのに(この医者はなんで母親と言葉を交わさないのだろう..とか、結婚記念日ディナーでの奥さんの態度とか...)最後まで気がつかなかった僕など我ながら相当頭が悪いと思うが、おかげでラストシーンは存分に楽しめたからよしとしよう。あ〜馬鹿でよかった。「秘密」明かされた瞬間、映画の画面とシンクロするように、今まで見たシーンを頭の中で大急ぎでプレイバックする..一瞬何がなんだか分からなくなるあの感覚は初めて見た人だけのしあわせな特権だ。

ところで上には上がいるもので、友達のスーザン姐さんは最後まで見ても秘密が分からなかったのだそうで(笑)...って、あんたそれじゃあこの映画見た意味がないわよ。

子供を全力で愛しながらも乗り越えられない壁を感じている母親の苦悩が痛ましい。子供は子供で、自分の特殊能力がために殻に閉じこもってしまう。お互いに愛し合っているのに、なぜ分かり合えないのだろう。やりきれないもどかしさだけが募るが、最後に少年が呪われた自分の能力を自ら受け入れることで長年の親子の見えない壁が一瞬にして崩れ去る...おばあちゃんからの伝言を母親に伝える最後のシーンは感動的だった。

自分をさらけ出すのは勇気がいるけど、得るものも大きい。自分を誤魔化さずに接することができる友達が僕にはいったいどのくらいいるのだろう。

登場人物が全員思い込みが激しく、誰も他人の言う事に全く聞く耳を持ってないのが痛快。それぞれが自分のことしか考えず勝手な行動を取り続けているのに何かに導かれるようにどんどん展開していくストーリー(って作り話なんだから当たり前だが)に翻弄される主人公が哀れでいとおしい。さんざん笑ったあとに、本当の飾らない自分の傍らにいてくれる人が誰かいたらいいな、と思って心が和むような、とても後味がいい映画だった。

出てくるキャラが皆とんでもなく漫画的。とりわけオスカーを受賞したダイアン・ウィースト演じる落ち目の大女優の傍若無人ぶりは誰にも止められない勢いがある。他に、芝居も出来ないくせにギャングの愛人というコネを生かして女優を気取るオリーブの勘違いぶりや、始めは彼女のボディーガードをしぶしぶ務めていたチンピラのチーチが、自分の隠された意外な才能を開花させ、どんどんそれにのめり込んでいくさまが可笑しい。

友達になった主人公とチーチが「いくら頑張っても才能のある人には敵わない、と悟った原体験」をお互いに告白するプールバーの会話が気が利いている。自分が持っていたはずの無限の可能性が実は幻想であることに気付かされた、少年から大人になる時の切なさのようでもあり、もう背伸びをしなくてもいいんだと悟った、呪縛から解放されたすがすがしさでもあるような、独特な感情に包まれるシーンだった。

夜空に瞬く幾千もの星。光の速さで何百、何千年もかかる遥か彼方にある星も多い。一千光年先の星ならつまりその星の一千年昔の姿を見ているということ。逆にもし向こうから地球を見ることができたら、彼らは一千年前の地球を見ているはず。日本だったら平安時代…なんてことを考えていると雄大な気分になってくる。

アメリカのある家庭のリビングを映すカメラがどんどん引いていく。上空からアメリカ大陸を眺め、大気圏を抜け、月、火星、木星の軌道から太陽系を越えて、時間の軸を逆回しにしながらさらには銀河系まで離れて一気に大宇宙まで飛び出してしまう冒頭シーンは圧巻。さっそく宇宙の神秘に取り込まれてしまう。

アマチュア無線が趣味の女の子が主人公。電波の海にあてもなく呼びかけるとやがて見知らぬ人が応えてくれる…そんな喜びを科学者となった今でも持ち続けて、今度はもっと遠く、宇宙の彼方の誰かに向かってひたすら呼びかけている。一向に成果が上がらず、国家予算も打ち切られたプロジェクト(というよりは彼女の夢そのもの)を続けたい一心であらゆる財団・篤志家に支援を募るが誰も相手にしてくれない。現実離れしているという理由で。「ライト兄弟が空を飛びたいと語ったとき、誰が信じただろうか?現実味だけを追っていたのでは科学の進歩などありえない」。半ば絶望的に我を忘れて熱く語る彼女の姿に胸を打たれる。この科学者を、ファザコン娘を演じさせたら世界一のJ.フォスターが熱演。誰にも相手にされなくても宇宙人との交信をひたすら求める姿は、幼くして亡くした父親の記憶を追いつづけているようにも見えた。

科学か信仰か...ガリレオの時代みたいで違和感があったが、これが結構大きなテーマになっている。アポロ計画で宇宙を飛んだ飛行士の中には、帰還後伝道師となった人もいると言うが、神の存在について科学者としての自分の考えを曲げられなかったJ.フォスターも、地球外の存在とコンタクトした瞬間、自分の中にパラダイムシフトが起きる。 地球で起きている争い事、自分の周りの悩み事がいかに些細なことであるか…うまく言い表せないが、雄大な感覚に心が洗われるような体験を共有できる。

ところで、J.フォスターが宇宙船に乗り込む前にいた「控え室」、あれはいったいなんなのだ? 無理やり好意的に解釈すれば「彼女の孤独感・不安感を見ている人にも共感してもらうための演出」なのかもしれないが、日本人から見ると悲しいギャグとしか思えない。見ている方はいったいどうしていいのか分からなくなる本当に困ってしまうシーンであった。

K.スペイシー演じる主人公は何歳の設定なのだろうか。高校生の娘がいるんだから40代前半か。それにしても毎朝シャワー浴びながらシコシコいたすとは、なんともお盛んな。最近すっかり枯れた感のある自分からするとうらやましい限りである。まあそんなことはどうでもいいことだが。

この映画、出てくる人々がそれぞれに自分を偽っている。主人公の妻、娘の同級生、隣人の退役軍人のおじさん…みんな本当の自分に許せないところがあって、無理して自分を繕っている。そんなストレスはますます自分を追い込んで、ついには自己破壊へと行き着くしかないというのに。

自然体で自分らしくしているのが、近所のゲイカップルやオタクビデオ少年といった、一般的にはアウトローな人たちというのも皮肉な話だ。飾ることのない自分自身を出すことでやっと心が解放されたチアガール嬢のラストの笑顔が印象的。それまでとはまるで人が違ったような柔らかい表情になっちゃって。みんな本当はこういう表情になれるのにね。分かっていても戻れない、気づいた時にはもう遅いっていうのが人間の弱さ、愚かさなのだろうか。

F.マクドーマンドがアカデミー賞にノミネートされるまで彼女が主演だったとは気がつかなかった。彼女が演じる女警官はそれほど自然にさりげなく日常を過ごしているのだが、それがとても力強い生き方であるのが回りの人間との対比で浮き上がってくる。

映画に出てくる他の連中が揃って「嘘つきは泥棒の始まり」を地でいっている。最初は幼稚な狂言芝居から始まるのだが、一つ計画がつまづくとその後はそれを取り繕おうとしてどんどん泥沼にはまっていく、愚かにも弱く哀しい人々。対照的に、事件の捜査にあたった妊婦警官マージはあくまで冷静淡々と彼らを追いつめていく。

息詰まるような決死の捜査活動を決行している訳ではない。が、他の人々が回りに流されて自分を見失っていく中、ひとり自分の生活ペースを守っていく姿には精神的な力強ささえ感じるのだ。ひとの気を引きたい思いが高じて、自分が嘘をついていることすら分からなくなってしまっている高校時代の同級生と再会する話が、本筋とは関係無く挿入される。ただ自分らしくいることがいかに大変なことか、彼女の静かな強さを感じさせるエピソードだ。

少女の頃の父親は全能の神にも等しい不思議なひとだった。魔法のペンダント?を使って何かを掘り当てていたのも、実際は普通に三角測量をしていただけかもしれない。それでも少女にとっては畏敬の念を覚える存在だったのだろう。

やがて思春期を迎えた少女にとって父親は徐々に神秘の存在ではなくなってくるが、それでも謎めいた何かがあった。 「南」に残してきた愛人の影。初めて母につく嘘。父には父の人生があると漠然と悟った少女の前には、弱さも持った普通の一人の人間としての父がいた。

一個の人間としての父との対面。それは自分自身をも一人の人間として捉える作業でもある。成長の中で受け入れなければいけない少女の戸惑いが静かに語られて心に響いた。

El Surとは「南」のこと。スペイン内戦時代に父が残してきた秘密がそこにあるらしいが、結局明らかにはされない。スペイン人にはきっといろいろな想いが交錯するキーワードなのだろう。

映画はそもそもファンタジーだということを忘れていると違和感があるかもしれない。一緒に見に行った友達は映画館を出るなり「こんなことあり得ないよ。」と一言。こらこら、人が感動している横でそれはないだろ、え?U田!

「それを作れば彼がやって来る」…神の声?を聞いた主人公が訳のわからないまま自らの生活の糧であるとうもろこし畑をつぶして野球場を作ってしまう。そこは失った過去の夢を叶えに様々な人が集まってくる「夢のフィールド」となる。球界を追放された野球選手たち、忘れられたオピニオンリーダーの作家、青春時代にやり残したことがある老医者…みな失った過去を取り戻し、自分を取り戻していく。最後に「彼」との感動の再会。失われた時間を少しずつ埋めるかのようなキャッチボールのシーンに静かに心を動かされる。

そしてラストシーン。これほどまで静かで美しいラストが他にあるだろうか。

はっきり言って主人公は困った奴だ。父親の異常なまでの期待と愛情に押し潰されるように精神を病んでしまったことには同情を禁じえないが、いくらピアノの才能が素晴らしく、ピュアな心の持ち主だとしても、一緒にいると疲れるだろうな。それにしても彼の周りの人々が優しい。優しすぎる。これほどまでに優しくなれるのだろうかと自問してしまった。

申し分のない相手との婚約を破棄してまで主人公に嫁ぐことを決心した妻。 美談が過ぎるようにも感じたが、ただ愛される幸せより、自分を必要としている男を支えることを選んだことに感動。そういう形の幸せもあるんだな。

見事復活リサイタルで演奏を終え、満場の拍手に包まれる会場には主人公の母親と姉の姿もあった。涙で顔が上げられない母親の傍らで、椅子から跳び上がらんばかりに喜ぶ姉の姿に胸を打たれる。父親の過剰なまでの愛情に懸命に応えようとする主人公の姿を小さい頃からそばで見てきた姉にとっては、何十年の思いが凝縮した瞬間だったのだろう。他人(この場合は肉親だが)のことにこれほどまで喜べることができるだろうか、自分は誰かにこれほど思われているのだろうか…ほんの2・3秒のだが、この映画の中で一番印象的なシーンだった。

映画の冒頭、問わず語りに主人公が生い立ちを話す中で「父親はもう亡くなった」と言っていた(と思う)。時間が前後していてはっきりしないが、あの時点ではまだ父親は健在だったような。人生を台無しにされた父親へのささやかな抵抗だったのだろうか。

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