天穂日神
アメノホヒノカミ
別称:天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)、天菩比神性別:系譜:天照大神の第2子。兄は天忍穂耳神。子は天夷鳥神(アメノヒナドリノカミ)。出雲氏の祖神神格:農業神、稲穂の神神社:綿向神社、桐生天満宮、出雲伊波比神社、亀戸天神社、天穂日命神社
 天穂日神が生まれたのは、天照大神素盞鳴尊誓約をしたときである。 順番でいうと天忍穂耳神に次ぐ2番目である。 神名のホは「秀」に、ヒは「火」にも通じ、生命力が火のように燃えさかる他より秀でた稲穂ということになる。

 国譲りの際に登場する天穂日神は、天照大神の命で地上の統治者大国主命のもとに交渉役として遣わされる。 ところが、彼を説得するどころか逆に大国主命に心服して地上に住み着き、3年経っても高天原にはなんの連絡もしなかった。 こうした話からすると、天穂日神はよく言えばけっこう柔軟な感覚の持ち主とも言えようが、やっぱり意志が弱く、だから役目をサボることになった不忠者というイメージが強い。 まあ、どうとらえるかは読者の感覚や学生時代の過ごし方によっても左右されるところであろう。 とまあ、これが「古事記」に記されている姿である。
 ところが、これとは逆のイメージを伝えるものもある。 天穂日神を祖神とする出雲氏に関係する「出雲国造神賀詞(イズモノクニノミヤツコノカムヨゴト)」に、やはりこの神が天照大神から地上の悪心を鎮めることを命じられたことが記されている。 このとき天穂日神は、自分の息子の天夷鳥神と剣神経津主神を派遣し、見事に地上の乱れを平定したというのである。 こちらでは、決していい加減な性格ではなく、天孫降臨に先立って地上の地ならしをし、露払いの役目を果たした偉大な神であることが強調されている。

 天穂日神を祖神とする出雲一族は、出雲東部の意宇群を支配する豪族である。 一般に各地の豪族の祖神とされる神は、その各地の国土開発、産業振興の神としての性格を持ち、さらに人々の生活全般の守護神として信仰されていることが多い。 この神もそうしたことから考えれば、偉大な業績を成し遂げた神としてのイメージの方が本来の姿に近いといっていいだろう。 実際、農業をはじめ養蚕、絹糸、木綿の神として産業開発の面でその霊力を大いに発揮している。