天忍穂耳神
アメノオシホミミノカミ
別称:正哉吾勝勝速日(マサカアカツカツハヤヒ)天忍穂耳神性別:系譜:天照大神素盞鳴尊との誓約の際にはじめに生まれた神で、天照大神の養子。邇邇芸命の父神格:稲穂の神、農業神神社:阿賀神社、英彦山(ひこさん)神宮、西寒多神社、新田神社
 れっきとした天照大神から神武天皇までと続く神々の系譜の中に存在する神である。 あまりに聞き覚えがないが、名目上の天照大神の長男である。 天照大神素盞鳴尊との誓約の際にはじめに生まれた神なので、実質上は素盞鳴尊の子供になるのかもしれない。

 皇室の祖神の系統に連なる神であるから、本来は稲穂の神である。 「忍」は威力あるもののこと、「穂」は文字通り稲穂であり、「耳」は実をいっぱいつけて頭を垂れる稲穂の様子から、俗にお金が貯まる耳とされる福耳を連想したものであろう。 その意味で、「立派に実った大きな稲穂」をたたえた呼び名といえよう。
 さて、天孫降臨の項でも述べたが、天忍穂耳神は本来天孫降臨の主役となっていてもおかしくないほどの血筋をもっている。 しかしこの役目を自分と栲幡千々姫命との子、邇邇芸命に譲ってしまった。 命じられるままにしておけば地上の大きな権力を手にすることができたのだが、自らそれを放棄してしまった彼の行動は、不自然な主役交代劇として神話の中での謎とされている。

 この神の別称に正哉吾勝勝速日天忍穂耳神というのがある。 これは、彼が生まれた誓約の際に、実父素盞鳴尊が誓約を勝ち取ったことに大喜びして、最初の子につけた名である。 「まさにわれ勝てり、勝つこと昇る日のごとく速し」という勝利の感激そのままである。 占いもある意味賭け事のようなもので、これに勝った素盞鳴尊は有頂天になって高天原で狼藉の限りを尽くし、天照大神を困らせて天岩戸に隠れさせてしまう。 こんな素盞鳴尊の行為は、大穴を当てて舞い上がり、羽目を外しすぎて大失敗をやらかすギャンブラーと似ている。 そういった理由で、ギャンブルに限らず、この神は勝運、授福の神として信仰されている。