微笑みとぬくもりを交わして




  【12】



 風呂、と一言に言ってもクリュースにおいて『湯に浸かる』のは主に貴族や裕福な商人達で、平民は体を拭くだけか水浴び、後は冬場のサウナというのが一般的だ。ただ国の法律上性行為を職業とする者は清潔にする事が義務付けられていて、その為ちゃんと店を構えている娼館の娼婦達には湯に入る習慣があった。だから大抵娼館街には周囲の娼館が金を出し合って作った娼婦達の為の共同浴場がある。
 貴族であるシーグルはともかく、セイネリアが自分用の風呂として湯船をわざわざ用意してあるのはそういう事情があって、ただ将軍府を建てるにあたって二人で入れるくらいのサイズにしたから――当然ながら、一緒に入れば温まったり体を洗うだけで済む訳がなかった。

「だからお前は、何故まず俺の体を洗おうとするっ」
「勿論俺が楽しいからだ」

 と、セイネリアが答えれば流石にシーグルも即反論出来なくなる。呆れながらもやり過ぎない限り好きにさせてくれるのは、それがシーグルにとって『我慢出来ない程嫌な事』ではないからだ、という事をセイネリアは知っていた。
 二人で湯船に入る場合、放っておくとシーグルは向かい合わせになるように湯船の反対側へ入ってしまう。それではセイネリアがつまらないから『洗ってやる』という名目で彼を自分と同じ側、更に言えば中で足をのばしているその上に座らせるのだ。そうすれば彼の顔を見難いものの、触る分には好き放題という状態になる。

「俺は子供じゃない」
「俺も子供を洗ってるつもりはない」

 言いながら彼の股間を撫でるように掠めれば、彼の体が僅かにびくりと反応したのが分る。こうして一緒に風呂に入るのもそれなりの回数になってきた筈なのに、彼の体はいつも緊張していて、だからつい聞いてみたくなる。

「お前は貴族様らしく侍女に体を洗わせていなかったのか?」

 貴族が風呂に入ると言えば、湯船に入って以降は全て侍女に手入れをさせる、というのがよく聞く話だ。

「シルバスピナ家はそういう無駄な贅沢はしない。騎士として普段から怠惰な生活を送らないように言われ……て……お前、どこ触って……あ」

 上半身を洗うついでに胸の尖りを摘まんでやれば、彼の腕が止めようとこちらの腕を掴んでくる。

「だから俺に洗われる時はいつもそんな緊張しているのか?」

 耳の後ろで囁きながら、セイネリアは彼の腕を無視してその胸の上をしつこく擦った。

「それはっ……お前がただ洗う以上の事を必ずしてくる、から、だっ」

 彼の腕には益々力が入る。だがそれでセイネリアの手を止められる筈もなく、耐えようと背を丸くする彼のその耳に息を吹きかけた。

「これくらいは慣れろ」

 言ってから今度は耳朶を銜えて吸ってやる。そうすれば彼が逃げようとして益々体を丸くするから、セイネリアもそれを追って体を倒す。彼に後ろから覆いかぶさるような体勢になってから、更には片手を彼の胸から離して、膝を立てていく彼の足のぴったりと閉じたその間に無理矢理入れた。

「慣れるかっ、まて……中でそれ以上、は……」

 膝の少し上あたりに入れた手を少しづつ股間のほうに移動させていって、彼の性器に触れるぎりぎりのところで止める。そこから内股を掴んで撫でれば、びくびくと彼の体が震えた。

「セイネリアっ、これ以上やったらもう一緒に風呂に入らないからなっ」

 今度は怒鳴った彼の声に、セイネリアはパッと両手を離して体を起こした。
 そうすればシーグルは湯船のへりを掴んでひっぱり、すごい勢いで反対側に移動する。ざばざばと派手な音を立てて湯が波立ち、溢れて床を濡らすのを見てセイネリアは肩を竦めた。

「悪かった、調子に乗り過ぎた」

 シーグルは顔を赤くしてこちらを睨みつけている。

「お前、最近なんでも謝れば済むと思っているんじゃないだろうな」

 それには思わず自分で自分の言動を思い出してから、セイネリアはつい笑ってしまった。

「あぁ、そういえば俺は最近お前によく謝るな」
「しかも、謝るだけで改善しない」
「なにせ行動の方は衝動的でな、考えて止める前にやっている。だがお前が怒ると悪かったと思うのは本当だ。ちゃんとそれで止めるだろ?」
「その時はな。だが次にまた同じ事をする」
「だから行動は考えるより先に出ているんで抑えようがない」
「嘘だ、お前のは絶対わざとだ」
「嫌なら止めろ、それで俺が止めればいい……事にしてくれ」

 シーグルはそれでも睨み付けてくるが、セイネリアが笑っているのを見れば怒るのが馬鹿馬鹿しくなったのかため息と共に目を閉じる。セイネリアとしてはそんな彼の表情の変化さえ楽しくて触りたくなるのだが、これ以上やりすぎると本気でシーグルがへそを曲げて今夜は一人で寝ろと言い出すのが分っているからその衝動は流石に抑えた。
 まぁ、セイネリアの言い訳は半分本当だが半分嘘なのは確かだ。
 衝動で行動してしまうのは本当だが、本気で抑えられない訳ではない。一応シーグルが『怒るものの止めれば許してくれる』範囲で収まる事くらいしかそのまま行動に移したりはしない。それを越した行動をした場合は……自分がおかしい時で彼に本気で止めて貰わなくてはならなくなるが。


 風呂から上がれば、後はベッドに入るだけとなる。
 一応シーグルの寝室となっているこの部屋は、セイネリアにとってこの将軍府内で一番心身共に安堵出来る部屋といって差し支えない。元から自分の寝室で寝る気が無かったため私物が向うではなくこちらに置いてあるのもあるのだが、それよりもシーグルの生活の気配が見えるのが一番ここを心地よいと感じる原因だろうとセイネリアは思う。

「寝る前に飲むのか?」

 シーグルが聞いてきて棚に向かおうとするのを、だがセイネリアは止めた。

「いい、今日は飲まない」
「そうか」

 そうすれば踵を返してベッドの方にやってくるシーグルを、セイネリアは満足そうに見つめた。

「風呂に入った日は飲まないのか?」

 ベッドに上がる前に唐突にシーグルが聞いてくる。

「あぁ……確かにそうだな。だが別に風呂が理由じゃない、風呂の後はお前がさっさと寝るからだ」

 それを聞いて、微妙な表情を浮かべてベッドに上がろうとする体勢のまま止まってしまったシーグルを、セイネリアは腕を引いて上掛けの中へ引きずり込んだ。

「おい、待てっ……」

 ベッドの上で藻掻く彼を抑えつけるように抱き込めば、彼は大きくため息をついて力を抜いた。

「唐突は止めろ」
「我慢が出来ない」

 彼の声は怒っている。とはいえこの程度はいつもの事で彼の許せる範囲だと分かっているから、セイネリアは彼の額にキスを落していつも通りその髪に鼻を埋めた。

「どうせ酒を飲んでも酔える訳ではないからな、飲むのはお前がぐずぐずしてなかなか寝ない時の暇つぶしだ」
「……羨ましいことだな」
「そうでもない、いくら飲んでも酔えないというのは味気ないものだぞ」

 そこまで言ってから『酔えない』その理由に思い至ったのか、シーグルは顔から怒りを消してこちらを見あげてくる。

「もしかして……剣の所為で酔えないのか?」
「あぁ、飲み過ぎて体に支障が出るようになれば勝手に体が正常に戻される」

 そうすればシーグルの表情はこちらに同情したように変わるから、セイネリアは笑ってその両方の目元にキスをした。

「だが飲んで即という訳じゃない。そこまで体に影響が大きくない異常は大して魔力は働かないらしくてな、普通より早く治るなという程度だ」
「それは影響が大きい異常なら治るのは逆に早いという事か?」
「そういう事だ。命にかかわるような怪我などは大量に魔力が放出されて気味の悪い勢いで治る。だから俺をひっぱたく場合はな、怪我にならない程度に加減して叩いた方が俺の痛みは長く持つぞ」
「それはいい事を聞いた、覚えておく」

 と、そこですまして答えたシーグルだったが、ふと思いついたように顔を顰めた。

「なら酒だって普通より少しさめるのが早い程度じゃないのか?」

 セイネリアは笑って、会話中に少し離れていた彼の体を引き寄せた。

「元々強かったからな。体に異常が出るくらいでないと酔った気にならん」

 それには更に顔を顰めたシーグルを見て、セイネリアはまた彼の顔中にキスを落す。それから今度は最後に唇にキスをして、じっくりと彼の熱い口腔内を感じる。

「ン……」

 最初は舌先を触れ合わせて、そこから徐々に深く絡ませてから唇を離し、角度を変えてまた合わせなおす。3度程合わせ直したところでシーグルが深く息を吐いたから、セイネリアは彼の額にキスして顔を離した。

「……なぁ、あの時も、お前……本当は、一度死んだ……のか?」
「あの時?」

 ぼおっとしたまま呟いたシーグルの言葉をセイネリアは聞き返した。そうすれば彼の顔は、途端、少し辛そうに歪む。

「エフランの森で……俺を追って大穴に落ちた時だ。丁度よく動物の上に落ちたなんて嘘だったんだろ」
「あぁ――そうだな、あんなところに丁度よくクッションになる程大型の動物などいる筈がない」

 言えば彼は更に辛そうに顔を顰める。だからセイネリアは笑ってやって、彼の額にまた口づける。

「お前は気にする必要はない、死なない体を最大限利用しただけだ。あの時だけはこの体に感謝したぞ。お前を助けて満足して死ぬのもいいが……やはり、生きてまたお前を抱けるほうがいい」
「……当然だ」

 シーグルは少し怒ったように言って顔を横に向けてしまった。セイネリアは笑いながらその彼の顔を追いかけるように唇を合わせた。合わせれば彼は大人しく受け入れてくれて、彼の舌の感触を味わう事が出来る。彼の熱を感じて、彼の味を感じて、心を満たしてくれる。
 今度は殊更ゆっくりと舌を絡ませてから顔を離して、まだ少し拗ねた顔をしていた彼にセイネリアは聞いた。

「今日はいいのか?」

 そうすればその顔のまま彼の頬が僅かに赤く染まって、彼は視線を泳がせながら口を開いた。

「十分寝られる時間に終わるなら……いい、が」
「了解した」



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 お風呂H(までいってませんが)はラブラブバカップルの基本……(==。
 



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