求めるモノと偽りの腕
※この文中には一部ですが、性的表現が含まれています。また戦闘で残酷系描写もあります。苦手な方はご注意を。




  【7】



「ったく、こりゃとんでもない拾いモンだぜ」

 やっと自分の番が回ってきた男は、力を失ってごろりと転がっている青年の腿を掴むと、無造作に持ち上げて体を広げ、足の間からだらだらと白濁液を零している場所に指を入れる。

「うは、こらもうヌルヌルどころじゃねぇな」

 指を入れただけで白い液体が噴出した様子を見て、男は試しに指を増やし、奥深くを数度突き上げてみる。

「は……あん、はぁ、ぁ……」

 力なく、けれども妖し気に腰を揺らす青年の瞳に正気の光はない。けれども、体は無意識に更なる快楽を求め、早く入れて欲しいと言うように男に向けて更に足を広げていく、指に絡みついた肉がびくびくと奥へ引き込もうとする。それだけでもう遊んでる余裕もなくなり、男はすぐに自分の雄を青年の中にねじ込んだ。

「ぁあああぁっ」

 熱い感触が男をきつく締め付ける。弾力ある肉の感触が、蠢くように男の欲望の肉塊を包み込んで絞り上げてくる。

「おぉぉう、すげぇ」

 自然と笑みの浮かぶ唇を舐めて、兵士とは思えないような細い青年の腰をがっしりと掴むと、男は今度は腰を引いた。深くへと誘ってくる肉壁に逆らって抜こうとすれば、それは追いすがるように更に締め付けてくるものの、中に満たされた液体のぬめりのせいでずるずると出ていく。その締め付けと、肉壁の動きに逆らうその感触が男の快感を膨れ上がらせる。

「なんて淫乱な穴だよ、こりゃやべぇ」

 再び深く突き込めば、そこからは押し出された白い液が溢れる。それを拭きとるように指でぐるりとなぞってやれば、嬉しいのかその周囲の肉がひくひくと蠢く。
 だが、そうしてじっくりと男が時間を掛けて愉しんでいられたのもその時までで、まるで痙攣するかのように奥でびくびくと締め付けられれば、男はすぐにでも達しそうになって歯を食いしばるしかなかった。
 そうして、どうにかそれを越えはしたものの、もう余裕がない事を悟った男は、すぐに激しい抽送を開始する。

「ぁ……んん……うぶ……ふぁ……」

 ふと顔をあげれば、まるで唇に取り付くように青年の唇を吸っている魔法使いの姿があって、男は小さく悪態をつく。

「くそ、声きけねぇじゃねぇか」

 とはいえ、男は魔法使い連中に文句が言える立場ではない。なにせこの魔法使い共は、今までの仲間内の貢献度から相当の発言権を持っている。少なくとも、やっと呼ばれてお楽しみにありつけた男では、全くもって話にならない。
 そして何より、魔法使いなんていう得体の知れない連中といえば、逆えば何をされるか分からない。
 そもそも、彼らに会う前、まだクリュースに来て間もない連中ばかりのこの仲間内では、魔法使いなどというものを今まで見たことがある人間など誰一人としていなかった。なにせ、魔法使いなんて堂々と名乗って表を歩ける人間など、クリュース国外にはいやしないのだから当然だ。
 だから仲間と言っていても、その実は皆魔法使い達を恐れている。恐れていてもこうして仲間扱いなのは、それだけ彼らが旨い目に合わせてくれるからというだけだった。
 この青年のように。

「んんんんんっぁああぅ」

 快楽に塗れた喘ぎが耳に心地よく届く。青年の体内の奥深くに入れたまま何度か揺らして、男は満足げなため息をついた。
 最後の一滴まで搾り取ろうとするかのように締め付けてくるその感触を愉しみ、目を瞑って浸ろうとする。
 だが、そんな余裕もない。

「おい、終わったんなら早くどけよ」

 目を血走らせた別の男に肩を掴まれ、男は嫌そうに振り向いた。全くこういう時ばかり仲間だと言い出す連中が増える、とそう考えながら青年から離れた男は、丁度その時、階段を下りてくる見慣れない人影を見つけた。

――なんだ、また自称『仲間』な連中が増えたのか。

 だがそう思った直後、人影の一人の顔を見て、男の頭からその考えは掻き消える。
 その人物の目は、どう見てもおこぼれにあずかりに来た仲間の目には見えなかった。今にも殺さんばかりに部屋の中を睨むその目は、敵以外の何者でもないのは確実だった。

「お、おいっ、皆っ、誰かっ」

 だが男は驚きすぎて上手く言葉が出せず、そして目の前の獲物に夢中な仲間達は誰も侵入者に注意を向けない。
 青年のか細い悲鳴のような声が上がる。新たな男のものが青年の赤く濡れきった肉の中に埋め込まれていく。白い液体が押し出されて飛び散り、肉と肉がぐちゃぐちゃと交わるその様を息を飲んで凝視する男達に、注意を呼びかける仲間の声など聞こえるわけがなかった。

 どうしようと、焦りと恐怖に固まる男と、侵入者の男の目が合う。

 途端、咆哮ともいうべき声と共に、相手は矢のように一気に走り込んできた。……いや、実際は普通に走れないその人物がそこまで速いはずがないのだが、恐怖に竦む男には、それは一瞬で近付いてきたように思えた。
 そうして、まず、即座に一人。
 今丁度男と入れ替わってお楽しみの最中だった仲間は、快感にだらしくなく顔を歪ませたまま、胴から頭が切り離された。
 それに悲鳴を上げる間もなく、見ていた男もまたその直後に絶命した。
 憎しみに燃える黒い瞳に見下ろされて、腹を貫く感触を感じて、男は自分の最後を知った。







「隊長っ、ご無事ですかっ」

 だが、声を掛けても、床に倒れたままのシーグルはピクリとも動きはしなかった。勿論返事をしてくれる筈もなく、シーグルがマトモな状態でないのは確実だった。
 それでも、死んではいない、と思いたい。まさか死姦をしていた筈はない、とアウドは自分に言い聞かせた。ここにくるまでの道すがらキールから聞いていた、魔法使い達がシーグルを狙う理由からすれば、そう簡単に殺す事はない筈だった。

「野郎っ」

 二人始末した事でやっと他の連中も事態を察したらしく、半裸状態の男達が剣だけを持ってアウドに襲い掛かってくる。右、左、そしてもう一人左――盾で一度に3つの剣を受けたアウドは、そのまま吠えて彼らを力づくで弾き飛ばした。そうしてすかさず、一番近くに転がった男にとどめを刺す。
 剣で向かってくる男達の腕は所詮ただのごろつきレベルで、人数だけならまだ4人残っていてもアウドが手こずる相手ではなかった。
 だが、問題はそこではない。
 視界の隅で、いつの間に離れていたのか、すぐに剣が届かない位置で魔法使いが杖を掲げていた。問題はそれがキールの予想通り二人いる事で、アウドは魔法使いの一人に向かっていきながら、心の中で呟いた。

――頼むぜ、文官殿。

 案の定、ほんのわずかの差で魔法使いの術が先に完成するものの、アウド自身には何も起こらない。
 この時、アウドは倒すべき相手しか見ていなかった為状況が見えていなかったが、実はキールの術で他人にはアウドの姿が数人に分離して見えていた。だからアウドに術を掛けようとした魔法使いは狙いを迷う事になり、結果アウドの剣が届くまでに術が発動できなかった。
 だが、もう一人の魔法使いの方は対応が早かった。

「ぐあぁっ」

 今一瞬前まで見えていた魔法使いではなく、剣で貫かれて倒れたのは残っていたごろつきの一人だった。ちらと視界の中を探せば、今倒れた男がいたと認識していた場所に斬ろうとしていた魔法使いが立っている。
 魔法が分からないアウドでも、結果だけみれば何が起こったのかはわかる。つまり、魔法使いと男の場所を入れ替えたという事だ。
 アウドが狙った方が幻術系の魔法使いだったのがそもそも運が悪かったのだが、魔法使いが二人とも術に失敗した後、狙われていない空間系魔法使いの方が、術の対象者をアウドではなく仲間の魔法使いに切り替えたのだ。

「ちっ、やっぱ問題は魔法使いかよ、文官殿も二人は無理か」

 ちらと抗議の視線をキールに向けたアウドだが、彼にはキールが何をしたのか分かっていないのだから仕方ない事でもある。
 幻覚なら目を瞑るとかでも対処出来そうな気がするものの、物理的に移動されたのでは剣だけではどうにもならない。襲ってくる雑魚連中を盾でふっとばしながら、アウドは忌々し気に仕留めそこなった魔法使いを睨んだ。
 だがここで、また唐突に状況が変わる。
 部屋の中でもほぼ真中に近い一角に、瞬間的に現れた一団。ここに魔法使いがいる事からも転送術だとはすぐ分かったものの、彼らの特徴ある姿に、その場にいたものは全員顔を引き攣らせた。

「まさか……」

 アウドは思わず息を飲む。
 全員が全員黒い服装で固め同じエンブレムをつけた一団は、人数でいえば4人とそう多くはない。しかもその内二人は子どもに見えて、他1名は若い女性だった。
 けれど戦力という点ならその中の一人で十分過ぎる事を、あのエンブレム――それを統べるあの男を知っている者なら皆分かっている。

「セイネリア・クロッセス、本人……か?」

 黒の剣傭兵団の長、最強と呼ばれる黒い騎士、セイネリア・クロッセス。アッシセグにいる筈の彼が何故ここにいるのか分からなくても、これが本物か偽物かなど、その姿を見れば瞬時に判断できる。実際、アウドは実物の彼を見るのが初めてだったのにかかわらず、その男が『あの』セイネリアだと直感で分かってしまった。

 黒い騎士が現れたのを見てすぐ、魔法使いは慌てて逃げ出そうとあたふたと呪文を唱え始めた。だがその姿を見てセイネリアが動こうとすれば、そこにまた新しい一団が登場する。

「彼らの処分は我々で」

 魔法使いと思われるローブ姿の人影が4つ現れると、彼らはそれぞれ、最初からこの場にいた魔法使い二人を両脇から取り押さえた。
 だが、黒い騎士はそれに何も答えない。
 ただ、彼の怒りの気配が辺りを支配し、魔法使い達に向けられる。

「えー、彼らは我々の法を犯したのです、我々のやり方で罰するという事で理解して貰えませんかねぇ? なぁに少なくとも、ここであっさり殺された方がマシという目にはあうと思いますのでぇ……だめですかね?」

 奥にいたキールが言えば、軽く一瞥した後分かったというように、セイネリアは視線を魔法使い達から外した。そうして、床に倒れるシーグルの方へと歩き出した。

「くっそぉっ」

 そこへ。
 残っていた雑魚共が、一斉に黒い一団に向かって襲い掛かる。
 恐らく、その一団なら黒い騎士以外は戦闘能力はないと思った連中は、彼が離れるのを見た途端、最後の望みを掛けて突破口を開こうとしたのだろう。そんな事、セイネリア・クロッセスの名を知っていれば思いつきもしないだろうが。
 勿論、連中の望みはあっさりと砕かれる。それもおそらく最悪の形で。
 ドン、と床が弾けた重い音の後、床に転がるのは男達と……元、彼らの体の一部であったもの。床には、黒い騎士から直線状に伸びる黒く焼けたような跡があり、その跡に体を横断されたせいで、彼らの体はいくつかの部分が切り離されてしまっていた。

「面倒だったからな、雑で悪いが」

 黒い騎士が持っていたのは、その風貌に似合いすぎる黒い剣だった。刀身まで黒い、みるだけで不吉な何かを感じさせる剣。おそらく、その剣を持っている事から傭兵団の名前がついたのだろう『黒の剣』という名そのままの剣だった。
 それがいわくのある特別の剣である事は疑いようがない事で、黒い焦げ跡を床に付けたのと同じく、切断した男達のその部分をも黒く焦げさせていた。幸か不幸か、それが血止めになったらしく、男たちは気を失う事もなく自分の状況を見て、そしてその恐怖と絶望に半狂乱で叫び出す。却って即死したものの方が幸せだったのかもしれないというその状況は、戦場を知っているアウドでさえ眉を顰めるほどだった。

 そんな男達にはもう目もくれず、セイネリア本人はシーグルの傍に膝を落とし、そうしてそっとその頬に手を伸ばした。



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セイネリアさん登場。しかし次回……。



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