求めるモノと偽りの腕
※この文中にはほんのちょっと程度ですが、性的表現が含まれています。苦手な方はご注意を。




  【6】



「確かに、満月は明日という事で少々油断していましたねぇ」

 呟かれた魔法使いである文官の言葉に疑問を感じはしたものの、それ以前にそののんびりとしたいつも通りの声に苛ついて、アウドはキールに詰め寄った。

「そんな事はどうでもいい、隊長の居場所を探す方法は何かないのかっ」
「落ち着いて、アウドさんっ」

 掴みかかっていかんばかりのアウドをセリスクが止めれば、魔法使いは大仰に安堵のため息をついてみせる。アウドとしては正直そんな彼の態度も気に障るのだが、ここで揉めてる暇もないと思い直す。

「とりあえず、まずはシーグル様がいなくなった現場に行きましょうか。魔法が使われたなら、ちょっと残り香を拾えるかもしれませんしねぇ」


 ――というキールの発言から、移動分の時間の後。
 3人はシーグルが消えたと思われた路地に来たのだが、そこで初めて、この魔法使いだという文官は本当に魔法使いだったのだと、アウドとセリスクは納得する事になった。
 路地の石畳に何やら粉を落として魔法陣を描きだしたキールは、描き終えると杖でその魔法陣を叩き、呪文を唱える。
 ただ見ているだけしか出来ない魔法とは無縁の騎士二人は、それで思わず息を飲んだ。

「た、隊長?!」

 魔法陣が光ると同時に、そこから僅かに透けて浮かび上がった姿は間違いなくシーグルで、それは現れると同時に目の前の何かを見て表情を強張らせ、剣に手を掛けて一歩後ろへと飛びずさった。……だがその先はなく、それだけでシーグルの姿は消えた。

「おい、これはどういう事なんだ?」

 二人がキールを見ると、彼にしては珍しく、いつも飄々とした文官青年は思い切り顔を顰めていた。

「まず、私の術はですねぇ、魔法陣一つで一人分の姿しか映せません。シーグル様は明らかに何かを見ていましたけど、向うに書いたもう一つの陣には何も浮かび上がってこない。つまり、シーグル様の見たのは実態のない幻術か、私がしたように投影した影だった可能性が高い。そしてシーグル様が後ろに飛びのいた途端に消えたという事は、そこで転送系の術が使われたと考える事が出来ますねぇ」
「つまり、どういう事だ?」
「つまりですねぇ、2種類の魔法を使えるかなりの能力者か〜魔法使いが二人関わったと考えられる訳ですね。これは少々面倒かと……」

 少し考え込んでから、今度はシーグルの姿が消えた辺りの地面を指でなぞりながらキールは何かを始める。その手元をアウドはのぞき込む。

「それで、何か追う手段はあるのか?」

 言えば魔法使いはアウドを振り返り、ちょいちょいと手招きをした。

「貴方は最後にシーグル様の傍にいましたからねぇ、多少は繋がりが取れるかもしれません。ちょーっとここに手をついて貰えませんかねぇ」

 魔法使いの傍の地面には石が円を描くように並べられていて、キールはその中心を杖で指した。藁にも縋りたい思いのアウドとしては、戸惑う事もなくそこに手を置く。そうすればキールは杖でその手の傍を叩き、早口で呪文を唱える。

「え、ちょっ……」

 彼らのしている事を一歩離れたところで見ていたセリスクは、唐突に姿を消した二人にただ驚く事しか出来なかった。

「文官殿……アウドさん? 一体……」

 いなくなった魔法使いとアウドを呼んだところで返事が返る筈もない。
 地面に書いていただろうものも消えていて、セリスクは呆然とその場に立ち竦むしかなかった。








 服を整えたリーズガンは、足元に転がっている青年を見下ろして、唇に歪んだ笑みをうかべた。

「まだまだ名残惜しいが……こんなところにしないとならないだろうな」

 言いながらしゃがんで、リーズガンは倒れる青年のその荒く上下する胸に手を這わせる。ゆっくりと肌を撫で、固く存在を主張した朱い突起を摘まむ。

「あ……ふぁ……」

 完全に正気を飛ばした瞳の青年は、けれども快感に瞼と肌をぴくぴくと震わせて喘いだ。

「まったく……想像以上だったよ。早く時間など気にせず好きなだけ楽しみたいものだ」

 リーズガンの手は胸を離れ、青年の下肢に届く。何度かイカせて今は萎えている彼のものを軽く指で弾き、それで上がる声を愉しむと、今度はその奥の後孔に指を伸ばす。

「は、あんっ……うぁ……」

 溢れるものを感じながら指を中にいれれば、青年の体はびくんと震え、自ら足を開いていく。もっと奥を突いて欲しいのだともいうように腰を浮かして、身を捩って切なげに喘ぐ。

「まだ足りないのかね? 本当に淫乱だな君のここは」
「あ、あ、あぁっ」

 少し乱暴に指を出し入れさせれば、それに合わせて腰を揺らす青年。指を飲み込む彼の中は引き込むようにぎゅっと締め付けてきては緩み、これが指でなく己の雄であればとリーズガンに思わせる。

「本当に名残惜しい……」

 言いながら、指の動きを更に速く、強くしていく。青年も床で身を捩りながら腰を揺らめかし、甘い声を上げ続ける。
 けれど、それで最後まで彼をイカせてやる前に、魔法使いの声がすぐ傍で聞こえた。

「イシュテイト様、そこまでで。これ以上は我々が」

 リーズガンは舌打ちする。
 だが、仕方なく指を抜き、手を拭きながら彼から離れると、魔法使いは早く出て行けというようにリーズガンを外へと促した。

「これ以上、彼の出すものを無駄に垂れ流されるのは見ていられないかね」

 嫌味で言えば、魔法使いはあっさり、はい、と返した。

「あれは我々にとっては最高の馳走。無駄にされてはたまりません」
「ふん、馳走か」

 流石にリーズガンがシーグルを抱く間は、部屋には誰も入れず、当然魔法使い達も外で待たせておいた。『客』であるのだから、体も洗ってから連れてこさせたし、自分が楽しんでいる間は無粋な邪魔をさせない約束もしていた。
 それでも、こんなところではやはり落ち着かない、とリーズガンは思う。それでもさっさと調教されきってしまえば、いつでもこちらの好きに楽しめる。

「いいか、やりすぎるなよ。まだ使えるウチに殺すのは許さんからな」
「はい、それは心得ています。なにせ我らとしてもここで彼を殺してしまうのは勿体なさすぎる」

 リーズガンは、言うと同時に来た時と同じマントを羽織り、顔をフードの下に隠す。
 最後に、天井を見つめたまま荒い息を吐く青年の姿をちらと振り返って、その様子を眺めてから部屋を出ていった。






 一瞬で切り替わったあたりを焦って見渡して、アウドはおそらくそれを行ったろう男を問い詰めた。

「あんた……何をやったんだ?」

 よっこいせ、と彼らしく緊張感のない声を出して、魔法使いは立ち上がった。

「緊急事態ですからねぇ、スペシャルゥ〜なアイテムを使ってみたんですよぉ」
「だから、何をやったんだっていうんだよ。あの人を探してるのに問答をしてる暇なんかねぇだろ。ここはどこだ、セリスクをどうしておいてきた」

 のんびり口調だけでも気に触るのに、そこで得意げにそんな事を言われればアウドがキレかけるのも仕方ない。服を捕まれて凄まれたキールは、叱られた猫のように首を引いて目を閉じてから、ゆっくりと気まずそうにアウドの顔を見上げた。

「ぇえ〜とだっからぁですねぇ、とっておきのアイテムを使ったっていったじゃないですかぁ。使われた呼び出し石の気配とあの場の魔法の残り香を追いまして、一番それを強く感じる転送ポイントに飛んだんですよ。それに……セリスクさんを置いて来た理由はですねぇ、おそらく今、シーグル様の状況を考えると……見られたくないだろうと思いましたので」

 それでアウドの頭も冷える。
 もしやとは思っていたものの、はっきり言われると改めて怒りが湧く。そしてそこから連鎖的に、自分の過去の罪をも思い出す。
 
「貴方なら、そういう状況のあの方を見ても冷静に対処できるでしょう?」

 どこまでこの魔法使いが知っているのか、それはアウドにはわからない。ただ、相当のところまで事情をわかっていそうなのは確かで、そうなのだとすれば魔法使いの言い分は正しいと判断せざる得なかった。

「分かった。とにかく、この近くに隊長がいるって事なんだな。……とにかく探そう」

 のんびりした口調の魔法使いも状況は分かっているのだろう、それですぐに目を瞑って魔法の気配を辿りだす。なにせ今はアウドが闇雲に動くより、この魔法使いの言う通りにした方が目的を果たせる確率はずっと高い。しかも相手が魔法使いであるなら、たとえシーグルを見つけられても、アウドだけで対処する事は難しいだろう。

「ふむ〜どうやら地下のようですねぇ。だいたいの方向も分かりましたので、後は近くへ行ってからまた探れば建物の特定も出来ると思います」

 キールが言えば、アウドは彼に顔を近づけて叫ぶ。

「なら、すぐに……」

 だがそれを制するように、キールがアウドに杖をつきつけて顔を引かせる。

「その前に、念のため保険を掛けておきましょう。私も魔法使い二人を相手できるか分かりませんし、敵側のほかの戦力も分かりません。なぁに、すぐ終わりますのでお待ちくださいな」

 言ってまた杖で地面を叩いて何事かを呟いた魔法使いは、叩いた場所に開いた黒い穴のようなところに石粒らしきものを数個落とす。数秒さえ惜しいアウドとしては気が急いて仕方ないのだが、石が穴に消えたのを確認すると同時に、キールは顔を上げて西の下区へ入る道を指さした。

「さぁあっちです、急ぎましょう」

 途端、アウドは走りだした。






 どこかで、だれかが、動いている。視界がゆれている、だれかが叫んでいる。だれかが遠ざかって、だれかが近づいてくる。
 だれだろう……あぁでもそんな事はどうでもいい。そもそも今、自分が誰で、何をしているのかさえ分からない。わからないけれどどうでもいい。考えなければ、ただ楽しくて気持ちの良い事だけを感じていられる。

 シーグルの意識は全くない訳ではなかった。
 けれども、体中を巡る熱は思考する力を飛ばし、膨れ上がる快感は他の感覚すべてを支配してそれ以外感じられなくする。五感全て、濁った意識下ではマトモに機能せず、目も耳も正常に動いているのにその情報を頭が正常に受け取れない。

 たとえば、ほら、今目の前にいる誰か。

 自分の上にのしかかって、激しく揺れている誰か。
 それは、彼だ。
 彼が誰かは分からないけど、それは彼だ。彼が自分を抱いているのだと思えば、体は更に歓喜に震える。手を延ばしてさらなる快感を強請る。
 何も考えなくていい、ただ求めるだけでいい。

 だってこれは……どうせ現実ではないのだから。

 意識は夢の中を漂うようにただ虚ろで、現実感などどこにもない。
 視界はどうせ霧の中のようにあやふやなのだから、思うものを見ればいいだけだ。
 シーグルは手を伸ばす、誰かに手を伸ばして、求める。
 何も考えなければ、望むまま求めればいい。
 体の中の深くに男の存在を感じ、埋められて、注がれて、満たされて、シーグルは歓喜の声を上げる。
 焦点を結ばない青い瞳からは涙が止めどなく溢れていた。



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そんな訳で次回はシーグル救出劇。



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