求めるモノと偽りの腕
※この文中の後半部分には性的表現が含まれています。苦手な方はご注意を。




  【5】



 満月直前の月が空を明るく照らしはしても、今は夜、辺りには街灯と僅かに起きている者の窓の明かりが見えるだけだった。
 月が真上近くになる時間、アウドが兵舎に帰ってくれば、既にシーグルの隊の者達は装備を整えて出かける準備をしているところだった。

「皆、どうして……」

 呆然とアウドが呟けば、皆に指示を出していたグスが睨んでくる。

「お前さんは隊長の傍にいたのか? 状況を知ってンなら教えてくれ」
「首都の屋敷に帰る時、途中で隊長が馬を下りて路地に入ったんだ。急いで追いかけたんだが、俺が路地に入った時にはもう、隊長の姿はなかった」
「そうか、やっぱ文官殿に連絡入れたのは正解のようだな」

 アウドはシーグルが消えてから、辺りを探しては見たのだ。それでも全く手がかりになるものさえなかった事を考えれば、確かに魔法が関わっている可能性は高いだろう。アウドも皆に知らせた後、すぐにキールにも連絡を取るつもりで帰ってきた。

「だがっ、何故皆隊長に何かあった事を知ってるんだ?」

 グスは自分の冒険者の証である支援石を取り出して見せた。それは赤く光っていて、呼び出し石が使われた事を示していた。いろいろと狙われる事が多いシーグルの事を考えて、念のためにと持つ事になった冒険者用の魔法アイテムが使われたのだ。

「俺とセリスクの石が光った。全員のじゃないのは多分、余裕がなくて手に触れたのを使ったとかだろうな」

 呼び出し石は、石といっても何かの鉱石の欠片を使ったものとは違い、粉を固めて石の形にしてあるものだ。二重構造になっている内側の層に魔法が込めてあって、外側の層を壊して内側の層を外気に当てる事で魔法が発動する。だから使用方法は単純で、石を踏みつぶすなりして壊せばいい。

「朝になりゃ事務局で発動場所を調べて貰う事が出来るが、それまで待ってる訳にゃいかねぇからな。外出許可は取ってある、とにかく俺達でも探せるとこは探すぞ。……そうだアウド、お前、ここへ来る前に、首都のシルバスピナの館の方に知らせてきたか?」
「あぁ、隊長の馬を置くのと同時に伝えてきた」
「そうか、ならリシェの方には?」
「そちらは……まだだ。だが、隊長の兄上が、まだ知らせないほうがいいと……」

 フェゼントがすぐに報告して大事にしない方がいいと言ったのは、シーグルの奥方の事を考えての事だった。それはすぐにグスも考えたらしく、彼は苦々しい顔をしながらもフェゼントの判断を否定しなかった。

「そっか。まぁ、そうだな、もうちっと状況がはっきりしてからがいいな、確かに。ともかく、兵舎にいた別の隊の魔法使い殿が俺達に協力してくれるって事でな、俺らはこれからその人と一緒に探しに行く、もちっとしたらセリスクがウチの文官殿を連れてくる筈だから、お前はここで待ってそっちと合流しろ」
「いや、俺もっ……」

 待てと言われても、こんな時に一秒だって無駄に出来る筈がない。アウドが自分もいくと抗議しかければ、グスがその体を止める。

「酷い顔だぞお前。必死で走り回ってたんだろ、ちっとでもいいから休め。どうせ今晩は寝れないんだ、もし戦闘って事になった時にお前さんが使えないとかなり戦力が落ちる」

 それでアウドは、一気に気が抜けたように傍の段差に座り込んだ。

「……なら、隊長が消えたのは、『ボウンの店』の隣の路地だ、多分入ってすぐに消えたと思う」
「分かった」

 座ったまま自分に落ち着けと言い聞かせて、アウドは去っていくグスの背中を見て、手で祈りの形を組んだ。








 フード付きのマントに顔を隠して、夜の道を男は歩く。
 男はある店の前にくると入口に立っている男に手を上げ、そうして中へと入っていく。そこは西の下区にある、古ぼけた個人店のようなこじんまりとした建物だった。だが、外見はただの見せかけだけのもので、実際ここに用がある者達は皆、入ってすぐに続く地下への階段を下りていく事になる。
 男もまた、階段を下りて、そうして明かりが漏れるドアを開くと足を止めた。

「ほう……」

 そこに広がる光景を見て、男の口元が自然と歪む。

「あぁっ、はぁ、あぁ、んぐっ、ん……」

 むっと鼻につくすえた匂いが充満する部屋の中、男達に囲まれて白い肢体が揺れている。普段はその体を鎧に包んで殆ど肌を見せない彼が、全身素肌を曝して男たちの手に撫で回され、弄られていた。

「これはまた、期待通りに素晴らしい光景じゃないか」

 呟いて、ごくりと喉を鳴らす。
 もうどれほど男達を受け入れたのだろうか、正気を完全になくして虚ろな瞳で喘ぐ青年は、いつもの凛とした表情から想像出来ない程淫らな顔をしている。魔法使いにせがむように口づけ、舌を出して絡め合っているその様子は普段の彼とは全くの別人だった。
 細い腰は波打つように揺れ、その尻の間からは、彼を突き上げている暗色の男の性器が現れては消える。後ろから回された別の男の手が彼の胸に回されて、指先がその胸の頂きを摘まんで擦る。そうすれば彼は顔を上げて一際高く喘ぎ、腰の動くリズムが不規則になる。別の生き物のように腰だけが速く動くさまは、彼が自分で動かしているのだという事を示していた。
 薄暗い明かりの中、てらてらと光る彼の肌は、どこもかしこも男達の吐き出した欲の体液に濡れていた。今もまた男の一人が、彼の肌に醜い雄の肉塊を擦り付け、白い液体をその白い肌に擦り付けていく。
 くちゅ、くちゅ、じゅ、じゅ、と液体が溢れ、伝い、かき混ぜられる音が、途絶える事なく彼の体のいたるところから鳴っている。時折激しく男が腰を打ち付ければ、肉と肉がぶつかり合う乾いた音が響く。

「ふぁ、あぁん、あんっ、やぁ、あぁ、いぁあぁぁっ」

 大きく背をのけ反らせて唇が魔法使いから離れれば、彼は盛大に喘いで男の上に乗ったまま背を大きく逸らした。口を大きく開き、恍惚の瞳を天井に向け、びくんびくんと体を震わせて男の精をその体の奥深くに受け入れた。
 尻から溢れる液体は彼の下肢をまた汚し、雄を飲み込んでいたその部分の肉が彼の胸の上下運動に合わせて蠢く。下層民の者の醜い肉塊に絡みつくように蠢くその様は浅ましくもっと雄が欲しいと強請っているようで、見ているその男もまた、早くそれを味わいたくてたまらない気分になる。

「はぁ、あぁ……」

 そうして暫く体を震わせた後、そのまま後ろに倒れ込んだ彼の下肢には別の魔法使いがしがみつき、必死の形相で彼のモノを舐めていた。普段から連絡を取っている魔法使いの見た事もない様子に、男は苦笑と共に声を掛けた。

「おい魔法使いっ、俺は向うの部屋にいるからな」

 呼ばれた事で我に返ったのか、銀髪の青年の性器を恍惚とした顔でしゃぶっていた者が顔を上げて、あまり嬉しくなさそうな顔で軽く頷いて見せる。
 男はそれに頷き返すと、この地下にあるもう一つの小部屋に悠々と向かった。

「ぃあぁぁぁっ」

 だが、悲鳴にも近い青年の嬌声が聞こえて、男は一瞬足を止めて彼に目をやる。
 今度は、先ほどまで彼の胸を弄っていた者が、後ろから圧し掛かるように腰を彼の尻に押し付けていた。毛に覆われた醜い尻は彼の倍以上に大きく、まるで大人が子供を無理矢理犯しているかのようにも見えた。

「まったく、こちらが味見する前にやりすぎてガバガバというのは勘弁してもらいたいものだがな」

 呟いて、言った通りの小部屋に入った男は、そこでようやく頭から被っていたフードを上げると、そのまま身体全部をすっぽり隠すマントを外した。

「しかし、やはりセイネリアという男の情夫だっただけはある、本質はとんでもない淫乱だ」

 自然と湧いてくる笑みに歪む唇を撫で、その男――リーズガン・イシュテイトは喉を軽く震わせた。
 騎士団に入ってきた時から目を付けていた、あの美しい青年をとうとう抱けるのだと思えば、大声で笑いたくなるほど楽しくなってくる。

 騎士団での役職上は上司といっても、血筋的な格の差がありすぎて巧く追い込めず、いつもいつもこちらを見下して来た美しい青年。最初に見た時から絶対その身体を思う様貪りたいと狙っていた彼を、やっと味わう事が出来る。
 リーズガンは、微かに聞こえてくる別部屋の彼の喘ぎ声を聞きながら、部屋の客用椅子に腰かけた。目を瞑って、その音が止むのを、いまかいまかと待ち焦がれる。

 ここにいる男達は、いわゆるクリュースに来たものの、未だに冒険者の資格すら取れていない半端者のごろつき集団だった。当然、シルバスピナ卿であるシーグルの顔を知らなければ、貴族法も知らないし、旧貴族の鎧と普通の鎧の区別もつかない。自分達が欲望のままにしていることが、どれだけ大それた事なのかも分からない。
 彼らはただ欲の為に、仲間の魔法使いが見つけてきた美しい青年を捕まえて愉しんでいるだけだった。夢中になってやりすぎて、廃人にしてしまったり殺してしまう事もあるかもしれない――今回の計画はそういうシナリオだった。
 リーズガンはただ、魔法使いがちらと漏らした所為で、自分もあの青年で楽しみたいと言い出した『客』、つまり金を払っておこぼれをもらいに来ただけの男という設定になっている。

 勿論実態は、魔法使いとリーズガンがグルで、あの男達に全ての罪を被って貰おうという計画である。

 リーズガンとしては、まずこれで念願だったシーグルの体を愉しんで、殺すまではいかないところまでやらせてこの場所を漏らすつもりであった。出来るなら、ここでたっぷり調教されて、男が欲しくて溜まらない身体になってから助けられるというのが一番いい。完全に『堕とす』事が出来れば、殺す必要もなくなるだろう。
 この計画を提案してきたのはあのシーグルの性器を嬉しそうにしゃぶっていた魔法使いで、彼らは彼らとしてシーグルを手に入れたい理由があるという事だった。それが彼の体液を欲しいというのには驚いたが、互いに利害が一致する為協力する事になった。彼らとしても、シーグルがリーズガンに飼われるようになって自分達も呼んでもらえるならそれでいいという事で、リーズガンはシーグルが帰る時間や同行者等の情報と金を出し、魔法使いが実行の人手と手順を整えたのだ。

――少し来るのが早すぎたか。

 夢中でシーグルの体を貪っていた男達の様子を思い出し、リーズガンは顔に僅かばかりの苛立ちを浮かべる。
 だが、もっと遅くなれば、シーグルの体力が残ってなくて反応の薄い彼を抱く事になってしまったろうし、遅くなれば遅くなるほどここが見つかる可能性が高くなる。自分まで共犯者として捕まるようではこの計画の意味がない。
 やがて、とぎれとぎれに聞こえていた別室からの彼の声が止む。さてそろそろかと期待に高鳴る心と体をどうにか抑え、リーズガンは舌舐めずりをして、落ち着かなげに手を組んだ。




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後2話くらい(?)は、こうしてシーグルサイドと助ける側の話が交互に入る感じになります。。



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