心の壁と忘れた記憶
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【7】



 白いベッドに横たわる白い身体。
 部屋のランプ台の明かりは落としてないからその姿がよく見えて、ベッドに下して服を脱がせた後の彼の身体をアウドは暫く眺めていた。どこまでも白い肢体は記憶のままで……ただ酔っているせいか赤味を帯びているその姿は余計に扇情的だと思う。それはもう、こちらの理性など簡単に溶かす程に。
 シーグルは完全に酔っていた。
 目はかろうじて開いているが虚ろで、このままあと数分でもほうっておけば寝てしまうだろうという状態だった。アウドの飲んでいた酒はかなり強かったから、弱い彼なら一気に酔いが回ってしまったに違いない。
 アウドは自分も服を脱ぐと、彼の姿から目を離さずずっと見つめながらベッドにあがった。
 酔って意識がぼやけているシーグルは、閉じかけた瞳をこちらに向ける事もなくベッドの上に横たわっていた。酔いの所為かその顔は薄紅色に染まっていて、薄く開かれた唇から漏れる吐息は熱い。行為はこれからなのに既に事後のようなそんな姿はそれだけでヤバイなとアウドは思って、苦笑しながらも彼の上にゆっくり自分の体を下していく。
 上を向かせて、仰向けにさせて、そうしながら下肢から胸までを彼の体の上に置いた。密着した肌が酔って僅かに熱い彼の体温を伝えてくる、細くて筋肉だけの彼の体の固い感触を教えてくれる。それはやはり変わりなく彼だと分かるもので、それが嬉しくて思わずアウドは顔を彼の肩口に潜らせて、彼の首筋から喉を唇で辿るように舐めた。変わらず若々しい肌は極上の滑らかさを舌に伝え、鼻に届く微かな甘い匂いは彼である事を実感できる。膨れ上がる欲望を抑えきれなくて雄同士が触れるように下肢をつければ、彼の腰が逃げようとするからそれを許さずに逆にそれ同士が擦れるように少し動く。そうすれば小さく喘いだ彼が今度は足を閉じようとしてきて、アウドはその足を抑えて広げ、その間に自分の下肢を入れて更に強く互いの股間を擦りあわせた。

「や……だぁ」

 酔っている所為か何処か子供っぽい口調で言いながら、だるそうにシーグルは首を左右に振る。その間も互いの雄同士を擦り合わせ、手を添えて互いの肉棒を絡めて擦れば、彼の体はびくびくと震えて息が更に荒くなっていく。

「や……だ、や、ぁ……ぁぅん」

 酔っている彼はおそらく体が怠くて自由に動かす事が出来ないのだろう。眉を寄せて、泣きそうな顔で喘ぎながらも体はほぼ無抵抗でされるがままだった。ただ息だけは上がって、喘ぎ声はだんだん高くなっていく。唇は開かれたまま切なげに空気を求めて息を吸い、熱い息を吐く。それを見ているだけで我慢できなくなったアウドは、自らの唇を押し付け、その熱い息ごと彼の唇を奪った。舌を侵入させて熱く蕩けるその粘膜の中を味わい、吸い、唾液を纏ってとろとろの舌を絡めとる。

「ん……ぅ……う……」

 逃げる彼の唇が離れて、それを追い掛けて再び合わせれば、ぴちゃぴちゃと唾液が絡まる音が聞こえてくる。それさえもが自分の興奮を更に煽って、アウドは必死になって腰を揺らして雄同士を擦りつけた。
 そうすれば我ながらあっけなく一度目の限界は訪れて、アウドは唇を離してから大きく息を吐くと一度起き上がった。シーグルはやはり虚ろな瞳で寝ているだけだったがその下肢が自分の吐き出したもので濡れているのを見て、あの美しい人を自分が汚したという背徳感を伴った妙な興奮にまたすぐ股間に血が溜まっていくのを自覚した。

「すみません」

 思わず謝ってしまいながらも彼を汚した自分のものを指に絡めて、彼の片足を持ち上げて後孔に指で押し込む。自分が最後に抱いた時より更に男を知ったろうそこは指を喜んで受け入れ、絡みつき、奥へと引き込むように蠢いてアウドを誘う。それに抑えがきかなくなって、少し乱暴にそこを解してすぐアウドは自分のまた熱に膨らみきった雄を押し付けた。

「や、ぁ……だめ……や」

 力のないその声は恐らく本気で止めているものではないのだろう。その証拠に彼の顔は虚ろなままでアウドを見てはいなかった。ただ今までの経験からこの先の行為を拒否するのは彼の条件反射のようなものだとそう思って、けれども拒否の言葉に体は止まって、だから彼の中に入る前に一度、アウドはその体を強く両腕で抱きしめた。

「申し訳ありません、やはり俺は貴方が欲しいです。今だけですから……」

 そうすれば、ふわりと。
 シーグルの腕がこちらの背に回されて、ゆるく抱きしめ返された。

「あ、ぁ……今、だけ、だ……」

 その時の彼がどこまで正気を取り戻していたかは分からない。もしかしたら彼にとっては夢の中のつもりの言葉だったのかもしれない。けれどもその言葉と、背にある腕の感触と、それから抱きしめて顔を埋めた彼の肩口から届く彼だけのその匂いを感じて、最後にアウドを引き留めていた鎖は切れた。

――あぁ本当に、貴方は変わらない。俺が焦がれた貴方のまま、貴方は生きていてくれた。

 記憶通りの匂い、記憶通りの肌。かつて貪った彼の姿と今の彼を重ねてそれを実感する度にアウドの理性は剥がれ落ちていく。自分が焦がれて思い浮かべていたそのままの彼を貪れる喜びに、他は何も考えられなくなる。

「う……あ……」

 慣らすのは最小限のまま、申し訳程度で押し込んだぬめりだけで強引に入れてしまおうとすれば、シーグルは苦しそうな顔をするもののこちらの背に回していた腕に力を入れてしがみついてくる。
 今だけ……だとは分かっている。
 けれど、愛しい人が自分を受け入れてくれると感じる喜びは大きすぎて、それに耐えられなくなってアウドは一気に奥まで突きあげた。

「うぁあぅっ」

 素直に声を上げて大きく逸らしたその喉に舌を這わし、そこから顎を伝って顔に届き唇に口づける。あっさりと再び口腔内への侵入を許してくれた舌で彼の舌を絡めとり、唾液を流し込んで彼の中でかき混ぜる。そうしている内にぎゅうっと締め付けてくる下肢の感触に耐えられなくて腰を揺らせば、彼の足がこちらの体を挟むようにして絡みついてくる。それでより体が密着してしまえばそれだけでまた興奮が高まるのを抑えられない。理性が働かなくてつい彼を突き上げる動きが乱暴になってしまっても、耳に届くのは彼の快楽を含んだ甘い声であるから止めらる訳がない。更に彼を貪りたくて、更に彼の声が聞きたくて、意識せず動きはいっそう激しくなる。

「あぅっ、あ、あ、あ、んっ、あぅ、あぁっ」

 唇を離して、少し体を上げて動きやすい分大きく強く突き上げれば、それに合わせて彼の腰が波打つように妖しく揺れる。薄いがはっきりと筋肉が浮き上がる腹が上下に激しく動いて、その間で解放を求めて揺れる彼の雄を手で握れば、より自分のものが締め付けられる感触と共に彼の背が大きくしなって高い声が耳に届く。

「あぁうっ」

 それには本気で達してしまいそうになって、アウドは歯を食いしばって耐えると彼の両足を抱き上げて腰を浮かせ、そこに思い切り腰を叩きつけていく。不安定な体勢で揺さぶられる彼が首を振ると、少しだけ記憶より伸びた彼の銀糸の髪が枕の周囲に散らばり、汗ばんだ顔に張り付つく。その様さえ酷く扇情的で、アウドはまた彼に口づけたくなって体を倒し、伸びあがって唇を押し付けた。そうしながらも止められない腰は小刻みに彼の奥を突きあげ、擦られて締め付けられるその甘い感触が脳天まで響いた。

「あ、あ、や、あぁっ」

 そこで全身がぶるりと震えて、アウドは今度は愛しい主である彼の中に吐き出した。
 急激にではなくゆっくりと快感が引いて行く中、唇では尚も彼の口内を貪って震えて逃げようとする彼の舌を追いかけて絡ませる。途中から忘れていた彼のものに手を伸ばせば、先程より更に濡れそぼっているそれの感触に彼が達してくれていた事が分かってアウドの口元に笑みが湧いた。だから今度はそのぬめりを手で集めてから彼のものを握って、くちゃくちゃと卑猥な音が響くのを楽しみながら手の中の彼を擦ってやる。

「ぁ……ふ……」

 そうすれば、虚ろな目で喘いだシーグルのその中が蠢く。中の肉が波打って引き込むように自分の肉を食もうとする。それはとんでもない快感で、またアウドは歯を噛みしめる事になった。
 それでも、既に二度達した後というのもあって多少の余裕があるから、その一瞬の感覚をやり過ごせば頭がマトモに働きだす。くったりとしている彼から唇を離して、その顔に浮かぶ汗を吸い込むように顔のあちこちに唇で触れる。耳の後ろに鼻を入れれば、彼独特の甘い匂いが鼻一杯に感じられて、アウドは嬉しくなってその周囲を舐めた。
 それから首に流れる汗を舐めて、そのまま舌を下して彼の首を伝って鎖骨のくぼみを舌で押す。そうして上下に激しく動くその胸まで舌が達すると、触れる感触からぷくりと立ち上がっている彼の小さな乳首をみつけ、今度はそこを執拗に舐める。

「あ……はぁ、ん、ぁ……」

 艶めかしい声と共に中の肉がまた蠢いて、それに引きずられるようにアウドもゆるく腰を突きあげる。それと同時に少し手の中のものに力を加えてやれば、またぎゅっと締め付けて奥に引き込んでくれるからアウドは思わず唸って止まった。

「ったく、ヤバイんですよ、貴方は」

 悪態を付ながらも舌で唇を舐めて、ごくりと喉を震わせてからにやりと笑う。
 本当にこれは反則だ、とアウドは思う。普段は真面目そのもので色ごとなんて興味がないといった空気を纏っているくせに、時折見せる危うさには酷く色気があって、抱いてみれば男を悦ばせる事に慣れた極上の身体だなんてヤバ過ぎる。しかもおそらく、ここにきてからあの男に散々抱かれているせいだろうが反応が前よりずっと『慣れて』いて、酔っているせいもあって素直に快楽を受け入れているから触れればそのまま求めてくれる。
 素の彼を知っているだけに今の彼の身体の淫らさに溺れる。彼が自分だけのものであればいいのに、と身の程知らずにも思いそうになる。

「今だけでいいです……今だけは、俺を欲しがってください」

 だから言葉でそれだけだと自分に言い聞かせて、すっかりまた膨れた自分の性器で彼を再び突き上げだす。液体で満たされたそこはずっと滑りがよくなっていて、勢いを付ければさっきより深い場所まで届く。その所為か奥を突けば上がる彼の声が先ほどよりも高くて、その度に彼の体に力が入る、中でぎゅっと締め付けられる。びくんと体全体が跳ねたように反り返る。

「あぅ、あ、あぐっ、あぅ、あっあっ」

 滑りが良い分勢いが付くから肉と肉が当たる音が高くなり、その音でも自分の動きが速くなっていくのが分る。ここまでくると頭が彼を味わう事で一杯になるから、彼の足を掴んで広げてベッドに押し付け、ひたすら腰を叩きつけた。
 それでも彼の手はこちらの肩を掴んで、突き上げる度にその手にぐっと力が入る。それがまるで引き寄せようとしてくるように感じられたから、嬉しくて腰の動きを止める事なくそのままで顔を下し、彼の耳元へ唇を寄せて直にその耳の中へ言葉を吐きだした。……聞いていなくても忘れてくれても構わないから、言いたかった言葉――貴方を愛しています、と。

「ふ、うんっ……ぁ……」

 直後、彼の中が激しく収縮して、アウドはまたその中に精を注ぎ込んだ。
 抱きしめて、口づけて、最後の最後まで彼の中に出し切ってから、自分の雄を引き抜いて彼をベッドに下してやる。

「あ……セイ、ネリア……」

 小さく聞こえた声には自嘲の笑みを浮かべて、アウドは閉ざされたシーグルの瞼の端に光る涙をそっと舐めとり、ベッドを下りた。




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 今回のエロはアウドがもう辛抱堪らんって感じな誘いまくりな(但し本人は意識してない)シーグルを目指してみました。
 



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