ゆくべき道と残す想い
※この文中には後半少しだけ性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【3】



 天井の高い魔法ギルドの建物の中でも、個別の部屋に入ればそこまで天井が高いと言う訳ではない。特に個人の部屋になればそれは顕著で、魔法使いは割合狭い部屋を好む傾向があるというのもあって皆狭いところで作業をしている。とはいえ部屋自体が最初から狭いパターンの他にも、部屋は広くても本や荷物がぎっしり詰め込まれていて狭くなっている、というパターンもあるのだが。
 ここの場合は後者であった。

「えぇ、ヘタに手を出すとですね、そっりゃぁあ取り返しが付かない事になると思いますよぉ。あの人にはギルドとしちゃ味方だと思っててもらいたいでしょう?」

 のんびりとした口調は普段通りでも、騎士団での時よりも幾分か歯切れの良い声でキールはそう言った。そうすれば、彼の目の前にいるギルド内で一桁内に入る偉い魔法使いである男は唸った。

「二兎を追おうとすれば必ず失敗します、優先すべき目的だけに絞るべきですねぇ」
「わかっている、だからあくまで『治療』だけしかさせておらん」

 その言葉には少しほっとして、キールの声も軽さを取り戻した。

「それならいいんですけどねぇ。あの人は真面目で義理堅い方ですからねぇ、ここで貸しを作っておく事はきっと後でいい方向で返ってくると思いますよぉ」

 ともかく、クギを刺しておかなくては、というのがシーグルを魔法ギルドの方に連れていくと決めた時に真っ先に思った事で、アウドをつけておいたとはいえ、実際キールは気が気ではなかったのだ。

「あの人の意識がないからバレないだろう〜なぁんて思って手を出してたりしてた日には、後々バレて計画が根本からひっくりかえると思いますしねぇ」
「だからそれくらいわかっていると言っているだろう、あの男相手でバレないだろうなどと思う事はありえんわ」
「えぇ、それなら良かった」

 それには嫌みのようににこりと笑顔で返してから、キールは内心ため息をつきたくなる。
 魔法使いという立場にあって、ずっとギルドに所属してきたキールには、魔法使いたちの願いも、ギルドの計画も、どちらもずっと馴染んできたもので頭の中に刷り込まれている。
 だが、シーグルの下について彼を近くでみてきた今では、どうにも彼に情が湧いてしまったようで、ギルドの計画には従いつつも、彼の立場や意志が出来るだけ尊重される事を考えてしまうのだ。
 まったく、自分も相当にあの真っ直ぐ過ぎる坊やに感化されてしまったらしい、と思いながらも、それが厄介だとは思っても感情部分が妙に心地良いのだから困ったものだとキールは思う。――あの男でさえも心が動かされる、その気持ちが分かるとも思ってしまう。

「まぁだが、彼が旧貴族の立場などというものでなければ、魔法使いにしてしまいたいところだな」

 愚痴のように聞こえた声に、キールは思わず苦笑した。

「そうですねぇ、シーグル様は魔法使いを目指せるくらいには元の魔力がおありですからねぇ」

 言いながら、あまり目を合わせないように見てみれば、相手は考え込んでいて、どうやらかなり本気らしいとキールは呆れたくなった。

「いっその事、騎士としての腕がいいならどこかから魔剣を持ってきて与えるのも良いか。なにしろ黒の剣の事を話すにしても、我々魔法使いの事を教えるにしても、その資格がないと話にならない」

 大魔法使いと呼ばれ、自分の倍は楽に生きているだろう男でも、ここに来て焦っているというのがその発言で分かる。
 確かに、魔剣の事も、自分達の立場についても、話すには魔法使いという存在の根本的な説明が必要になる。それは勿論、魔法ギルドの規約として魔法使いにしか話せないもので、どれだけ自分たちの命運を掛ける重要人物であってもそれは例外ではなかった。
 となれば後は、彼に話してもいいだけの立場を与えるか、許されるだけの理由を作らなくてはならない。

――まぁ、シーグル様の性格と能力的には、魔剣の主になってもらうというのは一番手っ取り早くはありますけどね。

「説得して我々の側に引き込むにしても、事情を何も話せない状態ではさすがに無理がある。話す事が出来さえすれば、少なくともあの男よりも引き入れやすいと思うのだが……」

 それは確かに、と思いつつも、なんだかそれに同意してやる気はしなくて、キールはもうこの相手との話を切り上げる事にしてそっと後ろに後ずさる。ただし、回れ右をする直前、まだぶつぶつと何か呟いている男に、最後にもう一つクギを指しておくことにした。

「シーグル様を説得してそこからあの男を動かそうというなら、それは絶対に騙したり暗示を使ったりなどという手を使わず、あくまでもシーグル様自身を納得させないとなりません。そしてその為には事情を話さない訳にはいかないでしょうねぇ」

 事情を聞いたらあの青年はどうするだろうか。正直なところ、かなりいい可能性で、シーグルは魔法使い達の意見にはある程度同意してくれるとキールはみている……無条件で協力してくれるという程ではないのは確実だろうが。
 そうして後は、相手が顔を上げるより早く、キールはくるっと踵を返すとさっさとその場を後にした。








 アウドの指がそこを開くように押し入ってきて、覚悟はしていてもシーグルはびくんと肌を震わせた。

「そっちはいい、から、やめろ、アウド……」

 とはいっても、彼の指はまったく止まる事はなくて、それ以上のシーグルの言葉もまた、喘ぐ声に変わってしまう。

「ん……く……」

 それでも出来るだけ声を抑えて、シーグルは感覚に耐える。耐えないほうがいいと分かっていても、反射的な事はどうしようもない。

「あ……」

 指を増やされて、ぐっと奥の内壁をひっかくように指を動かされれば、その感覚の強さに思わず顔があがって声が出る。

「やめ、ろ」

 言ってもアウドが止める筈はない、そして彼が何かを言って返してくる事もない。なにせ彼の口は今、シーグルの性器を銜えてそれを愛撫している最中であるのだから。

「う……ぁ、うぁ」

 アウドの指が乱暴ともいえる動きでシーグルの中を突く。じゅ、じゅと音をたてて指が激しく出し入れされる。それに合わせてアウドは口でシーグルのモノを強く吸い上げ、おまけに唾液で濡れそぼったその根本を手でやわらかく撫でてくる。そうなればもう、シーグルは彼の与える感覚に飲まれるしかなく、声も抑えられなくなって、もどかし気に指の動きに合わせて腰さえ揺れてしまっていた。

「はぁ……ふぁ、ああっ」

 股間にある部下の頭を鷲掴みにし、背をくんっと弓なりに逸らしてシーグルが達する。
 終われば体から力が抜けて、べったりと背をベッドにつける。
 息だけが荒い中、指が抜けていく感覚にまたびくんと顎を上げ、後始末とばかりにまだ舐めているアウドの舌に反応して肌がびくびくと震える。

 治療も2日目に入り、正気でいる方が普通になってくれば、今更と言っても極力最後までされたくはなくて、シーグルはアウドに抱かれる事を嫌だと言って拒絶した。ならば口でして差し上げます、それも嫌なら無理にでもヤります、と言われてこうなった訳だが……自己嫌悪の度合いは変わらないかと、シーグルは天井を見たままぼんやりと考えていた。

「物足りないんじゃないですか?」

 言って、抜かれた筈のアウドの指が後孔の入口をまた撫でてきた。
 それだけで、そこが反応してきゅうっと動いてしてしまったのを、シーグルは自覚して顔を赤くする。

「そんな事はない」
「本当ですか?」

 少し笑み交じりの声が聞こえて、指が浅い位置まで入ってくる。

「ここの反応は足りないって言ってるようですが」
「……うるさいっ、いいんだっ」

 浅い位置のまま引き抜かれた指にシーグルがほっとすれば、今度は先ほどよりも深く、それでも奥には届かない場所まで入って来て、しかもゆっくりではあるものの出し入れを始める。耳にくちゃくちゃと水音が響いてくる。それと同時に、シーグルの息が再び熱を取り戻す。

「どうします? これでも口と指だけでいいんですか? それとも……」

 浅い位置ながら抽送の動きだけは早くなっていって、シーグルも思わず声が漏れそうになる――そこへ。

「そこはもう、アウドさんが挿れてですねぇ、私がシーグル様のを口でしてさしあげるっていうのでどうでしょうかぁ?」

 能天気というかのんびりというか、どう考えてもこの場をぶち壊す声が聞こえて、シーグルは驚いてベッドの上で飛び跳ねた。当然ながら驚いたのはアウドも同じで、彼もまた驚いたあまり指をシーグルの深くまで突き入れてしまって、直後のシーグルの悲鳴を聞いて二重に焦る事になった。

「んあぁぅっ……ぐ」

 薬がまだ燻る体は急な刺激に耐えられなくて、そこでまたシーグルは軽く達してしまっていた。

「おぉ〜や、シーグル様はまだまだ治療が必要なようですねぇ〜ではでは次は私もぉぜひぜひお手伝いさせて貰いたいところですねぇ」
「文官殿っ」

 シーグルより先に立ち直ったアウドが怒鳴って顔を上げる。

「キール……」

 ぐったりとベッドに倒れて、睨み付ける余裕もなく、涙目の顔を見られたくないシーグルが顔を手で覆ったままその名前だけを呟く。

「ふむ、これはこれはぁ〜タイミングが悪かったという奴でしょうかねぇ。でも来た時は真っ最中のどう考えてもお邪魔だろうなぁってとこだったので、これでも終わるのを待っていたのですけどねぇ」

 それはつまりアウドに喘がされていた時から見ていたという事で、シーグルは体の熱が下がった今、顔だけに熱を感じて、目だけを手からちらっと外して能天気な魔法使いを睨んだ。

「……どこから見てたんだ」
「それは確かぁ〜『そっちはいいからやめろアウド』からでしたでしょうかぁ」

 シーグルは更に自分の顔が熱くなるのを自覚した。

「文官殿、お願いですから部屋に入る前にノックくらいはしてください」

 恥ずかしさと自己嫌悪でベッドで動けないシーグルを見てから、代わりにアウドはキールに非難の目を向けた。

「いやぁ、私なら構わないでしょうし〜と思ったのですけど、考えれば今のシーグル様ならいつコトの最中でもおかしくない状態でしたねぇ」

 シーグルは恥ずかしいやら悔しいやら腹立たしいやらで、感情が昂ぶりすぎて声も出せなくなっていた。顔を隠すのにも手だけではどうにもならなくなって、だるい体でどうにかシーツを引っ張って体毎顔を隠した。

「それで文官殿、何か御用があるんでしょうか? ……ったく、まさか本当に俺の手伝いにきただけって訳じゃないだろし、ただ様子を見に来ただけだってなら、俺が隊長の体の具合を今言いますけど」
「いや〜、出来れば本気で私もお手伝いをさせて貰いたいんですけどね」

 そこでぎろりと睨まれるに至って、流石にマイペースを貫くお気楽魔法使いも調子にのるのをやめたらしい。
 彼はこほんと一つ咳払いをすると、懐から石を3つ取り出して言った。

「えーシーグル様が普通に話せる状態になったらですねぇ、奥方用とご兄弟用とそれから隊の皆さん用にですね、それぞれ一言づつでもいいのでこれに直接状況を伝える言葉を下さいませんかぁっ……てコトで」



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困ったキールさんの回。この人はイイ性格してますがいろいろ苦労してるんですよ……というお話。



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