知らなくていい事
将軍と側近での二人。二人のいちゃいちゃ+セイネリアが裏でちょっと動きます。



  【6】



 セイネリアがいないとやけに殺風景に感じる将軍の執務室を見て、シーグルは軽くため息をついた。
 セイネリアが一人で出かけてシーグルが留守番となった場合、勿論将軍の仕事準備や書類の整理などもするが、基本はキールのところへ手伝いを行く事にしている。キールの現在の仕事場である上位資料室は重要書類の作業場になっていて、キールがそこの主としていつもいるのは当然として、基本アルワナの双子とエルクアがほぼ常駐、あとはソフィアがいる事も多く、余程忙しい時だとエルもいるという状態だった。
 今日も書類整理が終わったから、シーグルはキールのところへ移動するつもりだったのだが……。

「アウド、これをもって貰えるか?」
「はい、というかそちらも俺が持ちますよ」
「いや、これくらいは俺が持つ」
「いや……立場的に貴方は手ぶらで、こっちに全部持たせて当然なんですが」

 セイネリアがいないから、将軍の執務室に今いるのはシーグルとアウドだけである。ちなみにアウドはセイネリアがいる時は呼ばれないとこの部屋の中には入ってこないで、廊下か待機部屋の方にいる。セイネリアがいない時は中で仕事を手伝って貰うのだが、そういう時のアウドがやたら嬉しそうなのはあからさま過ぎて笑えるくらいだ。今はこれから移動だから荷物を手伝って貰うところだった。

「しかし将軍様がいないとこの部屋がやけに広く感じますね」

 シーグルが戸棚類の鍵を確認していれば、アウドがそう言ってきて思わずシーグルも笑ってしまった。

「あぁ、俺もそう思った。あいつは体も態度もデカイからいると部屋の広さを感じさせない」

 それにアウドは大笑いをして同意する。
 そのまま荷物――といっても殆どが書類だが――を持って、シーグルはアウドと部屋を出ると、警備役にキールのところへ行く事を告げて歩きだした。

 キールのいる資料室はこの階の一つ上の最上階で、その階は他にも魔法の武器庫等、幹部以外には見せられないようなものを置く部屋や、屋上の見張り用の待機部屋、転送用の部屋があった。最初に将軍府の建物に入った時、エルが何でここの主の部屋が最上階じゃないんだと言った事があったが、それにセイネリアは隠すモノが多いからこの方が都合がいいと言っていた。やましい連中なら俺がいる階より上に行こうなんて思わないだろ、と追加で言えばエルはそれで納得したが、本当にセイネリアはどこまでも実用性重視だとシーグルは思った。
 通常、最上階の一番行きにくい奥の部屋に当主がいるのは勿論その身を守るためだが、当主の威厳を示すためでもある。セイネリアからすれば自分が守られる必要はないと考えているだろうし、威厳よりも都合優先という事で――とはいえ、彼の場合はいる場所で威厳を示す必要もないのも確かだ。
 どれだけえばり散らしている貴族だって、セイネリアを前にしたら怖くて真っすぐ目を合わせられなくなるのだから、彼自身はその場にいるだけで威厳なんていくらでも示せる。

「まぁ〜ってましたよぉ。それじゃ早速席に座ってくださいねぇ〜」

 キールの部屋に入ればすぐそう声を掛けられて、既に書類が置かれた自分の作業机を見てシーグルは顔をひきつらせた。

「なんでこんなに多いんだ……」

 呆れながらも座れば、キールはこちらを見ないで机を睨んだまま答えた。

「とりあえずおっかない将軍様に挨拶だけでもぉ〜とか、はぁやい話ご機嫌取りしたい連中が多いんですよっ。実際に会いに来る度胸もないから手紙になるんでしょぉぉうねぇっ」

 確かに、シーグルの担当する書類は貴族からのモノばかりで、セイネリアに見せる必要のある要件が書いてあるモノと、どうでもいいくだらないご機嫌伺いや挨拶の手紙を区別するのが主な仕事だ。そうして後者には名前だけ控えて当たり障りのない返事を書いておくところまでやっておく。ある意味、将軍府の仕事としては意味のない事をしている気もするが、いくらくだらないと思っても立場があるとやらなければらならない仕事である事をシーグルは分かっている。

「ま〜必要以上に形式がきっちりした文面で書いくるのはぁ〜嫌がらせ半分だとおぉもいますけどねぇ」

 やけくそ気味に言ってくるキールの言葉にはシーグルも内心で同意する。平民ばかりの元傭兵団のごろつき連中に、わざと貴族でないと読み書きが難しい文書を送りつけているのもあるのだろう。クリュースの言語には一般人が使う簡易言語の上に貴族以上の者や公式文書で使われるための上位言語がある、本気で元黒の剣傭兵団の者達がただの平民冒険者しかいなかったなら、専用の人間を雇わらなくてはならなくなるところだったろう。
 ちなみに部屋の奥では双子と元騎士団でのシーグルの同僚であるエルクアがやはり必死に事務仕事をしていて、そちらから声が返ってきた。

「でも馬鹿だよね、なんたってこっちには旧貴族の元当主様がいるんだからね!」
「だよねっ」

 言ってきたのはレストとラストだ。ただその言葉にシーグルは頭が痛くなる――いや確かに読めるし返事も書けるがこちらの負担が増えるだけなんだが、と。ただこの手の文書はそこまで難しい書き方をしていないものならキールもエルクアも読めるし、エルや双子達、ソフィアもかなり覚えて読めるようになっている。あとは流石に元ボーセリングの犬というべきかカリンも読む方ならほぼ完璧なので、一応普段はどうしても難しいものだけがシーグルに回ってくるようにはなっていた。
 ただし、キール周りの手が足りない状況の時は、その区別さえ出来ずにシーグルに丸投げされる事もある……今回のように。

「や〜でも今回はたまったま将軍様のお出かけが続いて助かりましたぁ〜」

 さっきまで机をみたまま動かなかったキールが、そこで大きく背伸びをした。それにラストが言ってくる。

「でもマスターこのところ城には滅多にいかなくなってたのに、何かあるのかな?」

 シーグルは今見ていた手紙を置くと、それに返した。

「何かあるのかもしれないし、たまたま続いただけかもしれない。ここから暫くまた、何度か頻繁に行く事があるのなら何かあると断定していいが」

 疑うのはせめて3回目があってからだろう。そういうつもりでシーグルは返したのだが、エルクアがなんだかやけに疲れたような顔の笑みを浮かべてこっちを見て来た。

「あの男の事だから〜……城にいる誰かとこっそり会って、今頃ベッドで情事の真っ最中……かもしれない!とか」

 シーグルはそれに冷静な声で返した。

「何かいい情報を持つ者がいたのならそれもあるかもしれないな」

 そうすればそこにいた者が皆、作業の手を止めて、わざわざシーグルをじっと見てくる。シーグルとしては当たり前の事を言っただけだから、皆のその反応が良く分からない。そこでキールが頭を掻きながら顔を顰めて聞いてきた。

「あー……えーと、シーグル様を連れていかないのは、実はあの男にやましい部分があるからではないかとぉ……いう話なのですが」

 彼にやましい事情があったからシーグルを付いてこさせなかった……という可能性は勿論ある。それならそれで心当たりもあるといえばある、のだが。

「別にあいつが誰と寝ていようとやましい話じゃないだろ。あいつの場合、半分仕事みたいなものだろうしな」

 それに双子ははははっと笑って、エルクアは何故か机に突っ伏した。だがそこで、キールが少し考えながら言ってくる。

「ではぁその将軍様のご相手が摂政殿下だったとしたらどうでしょう?」

 それには一瞬、シーグルは声が出なくて固まった。

「今日は摂政殿下とのお話という事ですし〜、夫を亡くした摂政殿下とぉ〜現在の体制を作るのにいっちばん貢献した将軍様がそぉいう関係になるのは自然な成り行きですしねぇ〜実際宮廷では皆噂しておりますよ、将軍様を引き留めておくために摂政殿下が……」
「キール」

 と、最後までキールが言い切る前に、シーグルが声を上げた。
 そうして声の圧に黙った魔法使いを、シーグルは真っすぐ睨みつける。

「今の発言が何か確証があって言っている事なら構わない。だが、俺を揶揄うためだけに彼女を侮辱したのなら許さない」

 魔法使いは、直後にあっさり頭を下げた。

「申し訳ございません、今のは確かにもしもの話としても言うべきではありませんでした」

 言葉遣いさえ変わっていたから、本気で彼が謝罪しているのは分かる。シーグルはそれで一息つくと書類に手を伸ばし……たのだが。そこでラストが無邪気な声で聞いてきた。

「でもさ、確証があるならいいって……じゃぁマスターと摂政様が本当にそういう仲だったらいいって事?」

 シーグルは眉を寄せたがそれでも出来るだけ冷静な声を装って答えた。

「彼女の立場として、頼る人間としてあいつとそういう関係があったとしても……俺には文句を言う資格はない。彼女の夫は死んだのだから。ただ……多分、もし、ロージェからセイネリアを誘ったとしても、あいつはそれを断る、と思う」
「えーまぁ、そりゃ……ね」
「確かにそうだと思うけど……それってさ……」

 シーグルの言葉に、レストとラストはどう返すべきか困ったように顔を見合わせていた。だがそれから、彼らは同時にこちらを向いて顔を顰めて聞いてくる。

「それってマスターとしては、貴方の元奥さんに手を出したら貴方が落ち込むから手を出さない筈って事でしょ? つまり実際、シーグルさんて奥さんが誰か別の人と寝る事があったら辛いって思う訳だよね?」
「それは……そうだ……が、今の俺には彼女にとやかく言える権利はない、から」
「でも、ショックでしょ?」
「あ……あぁ」

 双子ともが立ち上がって身を乗り出してまで言ってくるから、シーグルも思わず気圧される。

「でも、マスターが他人と寝ててもショックじゃないんだ?」

 だがそれにはちょっとムっとして言い返した。

「あいつとロージェじゃ違いすぎるだろ。……そもそもセイネリアと寝た事がある人間の数を考えてみろ、いちいち気にしてられるか!」

 それには何故かキールも双子もエルクアも視線を逸らして溜息をついた。

「……まぁ、そりゃそうですけどねぇ……でも普通はぁ〜やはりですねぇ、自分の相手が別の人間とぉ……ってたら怒るんじゃないでしょうかねぇと」
「あいつの場合、寝ると言っても大抵は仕事みたいなモノだろ、それで今まで情報収集なり交渉なりやってきたというのだから、今更俺が文句を言ってどうなるんだ」
「え……いやその……普通はそれで割り切れないものなんですけどぉねぇ」

 見れば、キールがまた頭を押さえていた。





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 すいません、次回こそこの続きちょいやったらセイネリアとシーグルのいちゃいちゃです。
 



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