幸せぽい日常――夏の特訓編――




  【5】



 レイはあれから結構寝たせいか夕方には復活して、張り切って食事を作ってくれたためその日はそこそこ豪華な夕飯になった。……勿論、レイが溺れてくれたおかげで魚が多く取れたというのもあるが。

「すわぁっこの香草マッシュポテト焼きならば魚も飽きずに食べられるだろうっ」
「わー、おいしー」
「レイさん天才ですっ」
「そーだろそーだろぉぉっ」

 子供達もレイを褒めておだてるのももう慣れたもので、特に料理に関しては本気で褒めるからレイも気分よく調子に乗る。フユも料理に関してはレイが調子に乗っても余程でなければ釘をさす気はなかった。なにせ今は子供達がいるから、調子に乗って作られ過ぎたものを無理矢理食べたりあちこちに配りにいったりしなくていいのでレイの好きなようにつくらせている。
 とはいえ、いくらガツガツ食べていたとしても、子供達も限界に近いようだった。

「ふっふっふ、いくらでもおかわりしていいのだぞっ」
「は〜い」
「ふぁぁい」

 疲れ切ったところで腹が満たされてくれば一気に疲れがきて眠くなるもので、食べながらも子供達の目が閉じそうになっていく。ついにはうつらうつらと頭を揺らすに至って、フユが声を上げた。

「はいはい、ノーマとエリアドは眠いならさっさと寝ていいっスよ」
「はぁ〜い」
「ひゃぁぁい」

 もう半分瞼が閉じている2人は、言われてすぐに寝床として作ったところに倒れると眠りに落ちた。見事なまでの即寝である。
 フユは試しに寝た2人のほっぺたやおでこをつついてみたが、まったく反応しないくらいに見事に熟睡している。

――ま、今回は体力作りって事で多めにみてやるスかね。

 本当はどんなに疲れていても、気配を感じて起きられるくらいでないと困るのだが。ただもともと孤児の2人はそれなりに人の気配には敏感な方ではある。気づくだけならノーマの方が優秀なのは確かだが、エリアドもカンはいいから素質的には悪くない。
 自分と同じレベルを求めてしまうと不満は出るが、最初から2人で一人前を目指しているからそこまで焦るつもりもない。とりあえず今回は体力をひたすら上げる事が目標であるからそれ以外は目をつぶる事にする。

――なにせ、ここから先鍛えるにはまず体力がないとならないスからね。

 無茶をさせて技能を身に着けさせるには、まず土台としての体を作ってもらわないとならない。セイネリアがまず体を作ったように、まずは体のスペックを上げてからでないとシゴク間に壊れてしまう。……なんて事を考えていたら、外野から声が聞こえた。

「フユ……お前今、なんか怖いこと考えてたろっ。邪悪なオぉーラが出ていたぞっ」

 おや、と意外そうにフユは近くにいたレイを見る。

「レイは思ったより元気そうっスね」
「まぁな、結構寝たからな!」

 思いきり得意げにレイは胸を張って答える。
 実はレイは体力はなくてすぐへばりはするが、割合復活は早かったりする。完全に動けないくらいに潰しても、少し寝れば元気一杯になるという特技(?)を持つ。勿論、その寝ている間の爆睡っぷりは感心するほどだが。……ただそもそもボーセリングの犬としては、すぐ体力切れを起こすのも、つねろうが叩こうが無反応な程爆睡するのも論外だが。
 だからちょっとフユは考えた。

「そーっスかぁ、なら俺ちょぉおっとレイで試したかった事があるんスよね」

 そう言って笑えば、明らかにレイは動揺して身構える。

「待てフユ、だめだぞっ、子供達の教育に悪いっ、ここは我慢をしてだなっ」
「大丈夫っスよ、2人とも完璧に寝てますからレイの叫びくらいじゃ起きないスからっ」
「いやまて、だめだ、やめっ、うあ”ぁぁ〜〜〜〜」

 フユはレイの首根っこを掴んで引きずって浜までいくとその腰にまたロープをくくりつけ、今度はロープを引いて海の中に入っていった。

「おーい何するつもりだっ」
「いやーレイの事っスから、夜の海なら魚じゃなくアレが釣れるんじゃないかと思いましてね」
「アレ?」
「はい、奴は夜行性っスから、ネタ的にもレイなら絶対絡まってくると思うんスよね」
「だーかーらー奴って何だー」

 暴れて逃げようとするレイを気にせず、フユは海の深い方へ入っていく。

「そらもうタコに決まってるじゃないスか。レイのネタ度なら必ず奴に絡まれて勝手に触手プレイされてくれると思うんスよね」
「ちょおま……がふぉっ」

 そこでレイの足がつかなくなって彼は一旦海に沈む。だがすぐに顔を出して抗議してくる。

「お前っ本気かぁっ」
「本気っスよ〜魚とは違ったモノが食べられて子供達も喜ぶこと間違いなしっス、頑張ってくださいねー」
「うばばばばばっ」

 そこでレイは波をかぶる。
 その後暫くレイの叫び声とフユののんきな声が響いていて……それはレイの体力がなくなるまで続いた。








 翌朝、昨日と同じくフユが殺気を出して近づいていくと、ノーマはナイフを投げる前に驚いて飛び起きた。これは有望である。
 続いてエリアドも、ノーマが起き上がったのに気づいて起きた。
 そして2人が顔を上げればそこにはにっこり笑ったフユがいて、2人共即立ち上がって背筋を伸ばした。

「おはよーございますっ」
「おはようございますっ」

 だが今日はもう一人……レイは起き上がらない。

「師匠っ、レイさん寝てますっ」

 だからエリアドがそう言ってきたが、穏やかにフユは答える。

「今日はまだ寝かせてていいっスよ、昨夜はレイががんばって食料を確保してくれたっスからね」

 そう言って見せたのは桶の中にいる(今までとは違う種類の)魚やエビ等。残念ながら目当てのタコは取れなかったが、成果自体はかなりのものだった。
 子供達は瞳を輝かせる。

「分かりましたっ」
「ンじゃ食事の準備は俺がしますから、2人は水汲みにいってきてくれまスかね」
「はいっ」

 2人は元気よく山へと向かっていった。
 フユはこれだけのやりとりをしていてもピクリとも反応せずにごーがーと鼾をかいて寝ている相方をみる。……レイは確かにつぶれてもぐっすり寝れば元気になるが、逆に言えば元気になるところまで寝ないと起きないのである。それでも無理矢理爆睡中のレイを起こすと本気で半分寝た状態で起きるため基本は寝かせておく事にはしている。

「まぁ今日はレイの楽しいトコがいっぱい見れて俺も気分いいスからねー」

 なぁんて言いながら背伸びをしてしまうくらい、実は今日のフユは機嫌がいい。フユは基本自分の感情はコントロールできる人間ではあるのだが、気づかないうちにそれなりにストレスはためるらしい。そういう時に、レイの面白顔とか面白叫び声とかを聞くと結構解消されるのだ。
 なので鼻歌でも出そうな気分でフユは朝食の準備に取り掛かる。実はレイが食堂係になって料理やら菓子作りに凝ったおかげでフユもいろいろ作れるものが増えていた。なにせ人がやってみせた事は大抵出来るので、レイが作ってくれたものも大抵は再現できる。最近では自分で少し手を加えてアレンジしたりもして、少し楽しくなったりもしてきていた。

――俺も引退したら料理人にでもなろうスかね。

 手先が器用なのは言うまでもなく、毒を見極めるために微妙な味の変化に気づける。毒の調合や、毒の味をごまかすためにどんな調味料を入れればいいかとかも分かっているし、考えれば考える程結構向いているのではないかと思う。
 それにレイがデザートを作って、自分が料理となればそれはそれで楽しくやっていけそうではないか……と、そこまで考えたらなんだか笑えてきた。

――しかしっスね、まさか自分が引退した後の事を考える日がくるなんてですね。

 暗殺者を続けて、いずれは死ぬだろうくらいにしか考えていなかった自分からすれば馬鹿みたいに平和な変化だ。なにせそもそも自分の未来を考える事があり得ない。本当に人生というのはおもしろい。

 そんな事を考えながらもフユは手際よく朝食の準備を進めていく。ついでに昼の分も大体準備しておいて軽く炙ったりお湯を入れたら終わりという状態にもしておく。
 そんな事をしている間に、どうやらレイが起きたらしい。

「ふがーーーーーーーーーーー。はぁっ」

 大きく背伸びをした後、ため息をついてからレイがもそっと起き上がる。

「おはようっス」

 声を掛ければビク、と軽く震えてから、レイがこちらを見て来た。

「お、おおおおおおぉう、おはよーゴザイマス」
「いやー、大丈夫っス、食料は十分スから暫く海に投げ込んだりしないっスよー」
「あ、あああああああ……おぉう」

 レイは立ち上がって、それからちょっとフユと距離を取った。

「あーレイ、朝食は俺が用意したンで、ちょっと子供達を迎えに行ってもらるスかね。ロープを辿っていけばいいことになってるスから、レイでも安心してたどり着けるっッスよー」

 レイはじりじりとフユから距離を取りつつ、それを言われてからばっと謎のポーズを取った。

「ふはははは、よぉっし、それなら了解した、言ってこようっ」




 ……ということで送り出した訳だが。
 なぜかレイが山に向かってから暫くして、ノーマだけが帰って来た。しかもノーマは、帰ってくるなり大声で言ってくる。

「師匠っ、レイさんが植物の魔物に襲われましたっ」

 そんなモノいたスかね――というのがフユが真っ先に思った事だが、それでも急いでノーマについていくことにした。そうして行った先では……というか、そこに近づく前に聞こえた声でフユは呆れる事になる。

「あ、や、あぅん、はぁ、うがっ、がががががががっ、だめっ、あんっ」

 どうみてそういうときのレイの声が聞こえてきて、それに向かえば、ロープを張った位置から少しずれた藪の近くでレイが動く蔦に絡まって悶えていた。ちなみにそばではエリアドが微妙な顔をして、恥ずかしそうにこちらに手を振っていた。

「師匠ー、こっち、です」

 フユはその場で立ち止まって悶えるレイを冷静に観察した。
 
「うあーあぁぁぁん、あ、あ、あ、あぎゃ、うぎ、あふぅん、フユっ、たぁすけろっ」

 レイの言葉は無視で、ただひたすら悶える彼を見てから、フユは笑って彼に言った。

「さっすがレイ、やっぱり最終的には触手プレイしたかったんスねー」
「あぁぁぁん、したくないわっ」
「まったまたー、気持ちよさそうじゃないスかー」
「ちがーーうう、んんっ」

 服も半分はだけてしまって、触手達はぬるぬるした分泌液をまとってレイの服の中へと入り込んでいく。

「あ、だめぇ、はん、あん、ぎゃん」

 レイの腰の動きを見たところ、なかなかに触手はテクニシャンなようである。

「まったくレイはー朝っぱらからエロイ声出して仕方ないっスねぇ。あー……子供達はさくっと下りてていいっスよ」

 ちょいちょい、と弟子達に手を払って見せると、2人は『はーい』といい声を出してほっとした顔で山を下りていく。

「ロープを辿れって言ったのに、どぉしてレイは道をそれるんスかねぇ。だっからそんな目にあうんスよ〜。そこまでくると自分から襲われに行ってるようにしか見えないスからねぇ」
「見ってない、で……あん、いい加減たすけろっ」

 フユはニコっと笑って答えた。

「いやぁ折角スから、レイが触手に(ピー)されて(ピー)に(ピー)して(ピー)になるまで見てようかと思いまして。どうぞレイは心置きなく楽しんでくださいっス」





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 この話はエロらしいエロはないので、これがその代わり……かな。エロくはないです(==;;
 



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