仮面と嘘と踊る人々
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【11】



 近づいてくるセイネリアの体を抱きしめるようにその背に手を伸ばして、シーグルは目を閉じた。
 セイネリアのキスはいつも長い上にしつこい。だからキスが終わっただけでこちらは頭がぼうっとしてしまったりするのだが、先程もだが今日の彼はやはり少しだけ違った。唇を合わせて舌を絡ませて、舌同士を擦り合わせながら互いの舌の感触を感じていたら……彼の唇が離された。
 そうっと薄目を開ければなんだからまるで泣きそうな顔で彼がこちらの顔を見ていたから、シーグルは見てはいけないものを見てしまった気になってまた目を閉じた。……が、彼がそれに気づかない筈はない。

 彼の顔が下りてきて、額にキスされた。

 いや別にそれだけならいつもの事過ぎてどうという事はないのだが、そこから頬、目元、両瞼、耳元、首筋と矢継ぎ早にあちこちにキスしてくればシーグルだって大人しくしていられないというものだ。

「おい、やめろっ、しつこいぞっ」

 本気で暴れて逃げようとするのだが、セイネリア相手では簡単に押さえつけられる。完全に手をベッドに押し付けられて、彼はひたすら顔周辺のあちこちにキスされた。

「馬鹿っ、くすぐったい、やめろっ、本気で怒るぞっ」

 セイネリアの気配は笑っている。顔を睨めば何かたくらんでる時のそれだから、分かっていて完全に遊んでいるのだろう。

「おいっセイネリアっ、これでやめなかったら本気で許さないからなっ」

 言えばそこでピタリと彼はキスを止めて顔を離した。勿論押さえつけていた手も離してくれた。シーグルが、はー、と大きくため息を付けば、彼は今度ばそのまま自分の上に倒れ込むように覆いかぶさってきた。

「悪いな、少し調子に乗り過ぎた」

 彼の顔はこちらの首元に埋まっているから表情は見えない。けれどその声はふざけている声とは違って本気で謝っている声だったから、シーグルはどう返すべきか困った。

「お前は俺相手だとすぐ調子に乗るだろう」
「そうだな」
「俺が本気で怒るまでは大丈夫だと思ってるだろ」
「まぁな」
「本当は抑えられる筈なのにわざと抑えてないんだろ」

 すると彼はそこで喉を揺らして笑い始める。振動がこっちに伝わる程楽しそうに笑って、それから手だけを上げてこちらの前髪をかきあげて顔を撫でてくる。

「まぁ……抑えられないというよりは、抑えたくないだけだな」
「それは甘えだ」

 また彼は笑う。

「分かってる」
「悪いと思ってるのか?」
「あぁ、悪いと思ってる」
「それでも調子に乗るのか」
「あぁ」
「ガキめ」

 それにはついに声を上げて笑い出して、暫くしてからセイネリアは顔を上げた。シーグルは睨んだ、彼は笑っていた、幸せそうに。あまりにも柔らかで満ち足りたような顔をしていたから、シーグルは睨んでいた表情を保ちきれなくなった。
 そうして彼はこういう時にいつも通りの言葉を告げてくる。

「愛してる」

 本当に、それはそれは幸せそうに。彼を知る人間なら絶対にありえないと思うような優しい顔で。そうして顔を近づけてくれば唇が塞がれる。今度はいつも通り長いのだろうなと思ったら……その通りになった。

 経験値的に仕方ないが、セイネリアはキスが上手い。
 昔みたいにがっついてこない今は更にそう思う。

 最初のうちは浅く唇を重ねるだけで、ついばむように舌先だけを触れ合わせては離してすぐに合わせ直す。それを何度か繰り返していくうちに、いつの間にか一度に合わせている時間が長くなって舌を深く絡ませるようになっている。口の中に唾液が溢れて、その中で舌を擦り合わせれば音が漏れて、聞いているうちに彼の背に置いた手に力が入ってしまうのもいつもの事だ。

「ん……ぅ……」

 少し苦しくなってくるタイミングで僅かに唇を離してくれれば声が漏れる。そこですぐにまた唇が合わされて少し冷たくなった唾液が入ってくるけど、たまに彼は離したまま少し待つ事もある。

「あ……」

 そうすればシーグルは反射的に目を開けて彼を見る。ただ目を開けたものの彼の顔をぼんやり認識する程度ですぐまた唇が塞がれてしまうから、この時の彼の顔をちゃんと見れた事は殆どなかった。
 そんなやりとりを繰り返して、彼の体にしがみついて、彼の体温に包まれていれば……やがて少し意識が飛んで、気付けばベッドの上で上半身を起き上がらせた彼にじっと見下ろされている……というのがここ最近は多かった。

 だから意識がはっきりして、彼の嬉しそうな顔が分かったら、シーグルは少し不機嫌そうに眉を寄せる。それを見てセイネリアは苦笑しながら頭の横に手を置いて顔を落としてきて、額と瞼にキスをしてくる。
 それから足を開かせられて、その間に彼が体を入れて片足を持ち上げられるのもいつもの事、なのだが。

「お、い……」

 今日は片足を持ち上げられて胸に押し付けられるのと同時に、喉元にキスをされた。流石にこれはちょっと苦しい。だが文句を言おうとしたら彼の顔は胸へとずれて、こちらの胸の小さな尖りを舐めて来た。わざとたっぷり唾液を擦り付けるようにして水音を立てながら、彼はこちらの乳首を吸って、甘噛みして、舌で転がすようにする。シーグルはなんだかいたたまれなくて、顔を見られたくなくて思いきり横を向いた。
 それだけでなく、足を持っていない方の手がこちらの股間を触ってくる。それはまさに『撫でる』としかいいようのない触り方で、掌で周囲からそのもの全体を、時には半分握るように強く、時には離れそうになるぎりぎりの位置で軽く、弄ぶように触ってくる。

「う、ん……」

 いくら性欲が強くないシーグルだってそれで反応しない訳がない。ただ状況的になんだか恥ずかしくて、そして彼の思う通りになるのが癪で、だから顔を背けて声を抑えるのが精いっぱいの抵抗だった。
 前はそうしていると顔を見せろとか言ってきたセイネリアだが、最近はそんな事を言うより実力行使をしてくるようになった、だから。

「う、あ」

 前を撫でていた彼の手が離れたと思えば、唐突に指が中へ入ってくる。ムカつくことに慣れた体はそれですぐにその指を受け入れて飲み込もうとするのが分かるからシーグルはきつく目を閉じた。

「少し我慢しろ」

 言いながら彼がきつく閉じた瞼にキスしてくる。

「少しじゃないだろっ」

 思わず怒鳴れば彼は笑いながら、かもな、と言ってくる。シーグルとしては彼がそう言ってきたなら次はどうなるか分かるから、目をぎゅっと閉じたまま歯を噛み締めた。

「う、ぐ」

 指が一気に増やされて奥深くを抉る。それだけでなく中で広げて、激しく擦ってきて、ぐぽ、なんて音まで聞こえてくればシーグルはシーツをきつく握り締めるしかない。それでやっと抜かれても安心なんかできる訳はない。足を更に広げられて、腰を持ち上げられて、今度はもっと熱を持った肉の塊が押し付けられる。最初はただ広げられる感触で、後から一気に入って来て息が詰まる。

「う、う、う、う……あぐっ」

 入れば一度セイネリアは宥めるようにこちらの顔にキスをしてくる。髪を撫でて、こちらの体勢が楽になるように腰を持ち上げてくれて、それから改めて更に奥へと一度軽く突き、更に足を持ち上げ直してこちらが感触に慣れるまで待ってくれる。
 それは確かに彼の優しさというか気遣いなのだろうが、実はシーグルはこの待ってくれている時はあまり好きではなかった。なにせ彼が入ったままじっとしている時というのは、彼の呼吸のタイミングだとか、こちらの中の肉が彼を締め付けているその感触とかがはっきりわかってしまうのだ。

「いい、から、さっさと動け」

 だからシーグルはいつもそう言う。さっさと熱に浮かされてしまえばそういう生々しい感触を気にしている余裕がなくなるからだ。それですぐにセイネリアが動きだすかどうかは……実は彼の気分による。今日は少し嫌な予感がしていたから案の定、彼はすぐに動き出さない。

「いい加減慣れろ」

 耳元でそう囁かれて、そのまま耳たぶをちゅ、と音を立てて吸われる。ぞくぞくっと背筋に駆け上がってくるものがあって中で彼を締め付ける。そうすれば彼が笑っているのを振動で感じて、そこでまた彼を包む中の肉がびくびくと反応してしまうのが分かってシーグルは泣きそうな気分になった。
 セイネリアの手が体のあちこちに触れてくる。
 腰をなぞるように撫でて、尻を掴んで、繋がっているその場所を撫でる。

「や、め……」

 消え入りそうな声でそう抗議すれば、彼は今度は完全にこちらの雄を掴んで扱き出す。それだけでなく耳たぶをしゃぶるように音を立てて舐めてきて時折、愛してる、と小さな声でささやいてくる。そういうのは意識が飛びかけている時ならまだ許せるが、正気の時にはやめて欲しかった。
 これだから慣れてる奴は――なんて思いながらも、耳をしゃぶってくる彼から逃げるようにシーグルは顔を出来るだけ背けて肩を上げる。それでも面白がるように彼は耳やこめかみのあたりを舐めたり吸ったりしてきてシーグルは更に追い詰められる。
 ただそこでやっとゆっくり、中にいる彼が動き出した。




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 なんかいちゃいちゃしてたらエロが途中までになってしまいました。ので次回は続き。
 



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