しゅんじょう はなのおぼろよ
春情花の朧夜

家守敬白(96.4.5)

本編は全18章に分かれており、かなりの長編なので、ここでは2章ずつをひとつのファイルに収めました。左側の「い」「ろ」「は」のところをクリックしてください。
原文は、当時(江戸末期)の言文一致に近い形で書かれているようで、比較的現代語に近いこともあって、会話の部分はあまり手を加えていません。当時の喋り口調が少しは伝わってくるはずです。


目次

 1 ご新造さん茶碗を出す手握られて 2 浅からぬ影を交えて梅柳
 3 夜の花や沈吟はのちに恋衣4 照る日にもぬれ色のある茄子かな
 5 吹かれたらなびくさまあり糸柳6 洩れる暇のありて嬉しや寝屋の月
 7 絡まって離れぬ垣の糸瓜かな8 数珠をくる手にも折りたき桜かな
 9 後家お雛見るとひとしく色好み10 奥の院目がけてしぼる総身かな
 11 花吹雪寝屋に舞い散る絡み合い12 小雨降る明けの枕辺桜紙
 13 帆柱のごとくそそり立つ怒り竿14 寝乱れの髪たくしあげ裾開き
 15 唐紙に耳押し付け聞く玩言かな16 花の腎飲むほどに気やる夫婦かな
 17 玉門に登竜血しぶき散り乱れ舞う18 朧夜に夢見し御前睦言の


 花は盛り、月は隈なきを看るものかは、とはよく何にて引き出さるる兼好法師が妙言にて、実に道理と思うものから初代春水がものせし粋書のごとく、男女の引張措にやや不怪気なる界へ至り、いかなる夢やを結ぶらん、作者もいまだ知らざりけりと、そのまま逃げて除くときは、雲かかる月風そよぐ花の、余情はいとど深めんけれど、それより一層ぶち出して、痒いところへ手を届かせ、アウンの息のはずむに任せ、それぞれ幾世変わりなば、その人情の根元を、おおわず洩らさす書をもって、一人至れり尽せりと微笑の鼻をうごめかせば、ああ我ながら、呼ぶなりけり。

吾妻雄兎子(梅亭金鵞)述  


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