その13 帆柱のごとくそそり立つ怒り竿
寄席の昼席が終わったらしく、端唄、新内などの看板がかかっている入り口からどやどやと人が大勢出てくる中に、ひときわ目立つ小意気が新造がいた。はっとしたように往来をいくある武士の顔をじろじろと見続けている。そんなことも知らずに群集を押し分け、足早に屋敷小路のほうへ向かおうとしている武士の後ろから新造は声をかけた。
「もし。あなたさま。粋野の旦那さま。半七さまではいらっしゃいませんか」
呼び止められて振り返った武士は新造の顔を見て、思わずとんと膝を叩いた。
「いや。お前は助十郎さんの家にいたおいきさん。めっぽう美しくなったので実に見違えてしまいやした」
「あれまあ。あいかわらず嬉しがらせがお上手だよ」
「久しぶりだね。この近所においでなのか」
「はい。この先の新道にいますから、ちょっとお寄りなすってくださいまし」
半七はすこし考えた。
「お前のところへも行きてえけれど、そちらの家のものを知らねえから窮屈だ。しかし、いろいろ話もあるからちょっとどこかへ上がらねえか」
と言って、周囲を見回した。「魚新が静かそうだ」
魚新は近くの料理屋だ。半七はおいきを伴なってその2階の奥座敷に上がり、酒肴を取り寄せて2人でこれまでのことを話した。
「こっちもひょんな了見違いから浪人者となってしまったが、助十郎さんは変わったこともないかしらんて」
「おや。ご存じございませんか。大変わりでございます」
「え、そりゃまあ、どういうわけで」
「やはりあのご新造さまの……」と言いかけて、おいきは半七が気の毒がるだろうと思って言い直した。「ご新造さまともお別れなされ、いまではお屋敷を出て上方のほうへ行ってしまいなされましたわ」
「そりゃまあとんだことだ。どういうわけで」
と半七も口には出したが、大方の事情を察して太い息をついた。
「さあ、もうひとつ、お酌をしましょう」
話題の変え時だった。
「何だかすごく酔ってきたぜ」
「私じゃなくてお花さまとこうして相対で上がっていたら、さぞお嬉しゅう……」
「何だな。つまらねえことを言っちゃいけねえ」
「お前さんはいまはどこに行っていらっしゃいます」
「梶原様のお屋敷さ」
「それじゃあ遠くはないのだからちょっと寄って下さいましな」
「こっちも遊びどころがほしいが、行ったらこれが睨むだろう」
半七は小指を立てた。
「いいえ。そんなものはないのでございますわ」
「甘く言うぜ。どうして一人で置くものか」
「おや。一人も同じこと。山出し女(田舎を出たての下女)と私ばかりでございますもの。もっとも、ほかにも世話をしてくれる者があるのでございますが、それは一月に1度か2度しかきやしませんわ」
おいきは誰かの囲われ女なのだろうと半七は推量した。
「それじゃあ浮気のし放題。随分、気楽な世界だね」
「そういうわけにはいきませんが、苦労なこともございませんのさ」
「さあ。お代わりを頼もう」
「たいそう酔って切ないのでございます」
「久しぶりだからちったあ酔ってもいいやな」
「それじゃ助けてくださいましよ。まんざら他人でもございませんからさ」
と言うと、おいきは居ずまいを崩した。膝頭から赤い腰巻をちらりとさらし、ほんのりとした目もとで半七の顔をじっと見る。そうするのは、はっきりとは口に出さないが、お花の代わりに半七と寝たことがあったからだ。半七はそのことはすでにお花から聞いているので、おいきの気持ちがわからないでもなかった。
「こっちもまた、お花と一緒に寝た堕落かなんぞのように思われてならねえが、どういうもんだろう」
おいきは顔を少し赤らめて襦袢の裾を直した。
「おまはんはお知んなはりになるまいが、実はおまはんとご一緒に寝てナニしたことがあるのだから、あつかましいけれど、私のほうじゃ、ただのお方じゃないと思っているのでございますわ」
そして、半七に気のあるおいきは、お花と代わって寝たことや藤沢で見た夢のことを打ち明けた。
「さようか。そりゃ面目ねえ。とんだ目にあいましたのう」半七は初めて聞いたようなふりをして、わざと頭をかいた。「しかし、藤沢の夢はこっちのせいじゃあるめえの」
「いいえ。それもおまはんがご新造さんのご名代のとき、あまり嬉しがらせたから、つい夢にまで見るようになったのでございますよ。それだから家の女をつかまえては常々、おまはんのお噂をして楽しんでいるのでございますわ」
「言ってくれるなあ。それは助さんののろけのことだろう」
「おや。そんなら私のところへ寄って聞いておみなはい。さあ、何でも連れ申さずにゃおきませんよ」
と膝をすり寄せて、半七の手を取って引っ張ってくる。
「へん。そんな気休めを言って本気に寄られたら、それこそ困ってしょうがあるめえ」
「あれ。憎らしい。いつ気休めを言いましたえ」
と言うと、なおさら擦り寄って半七の体にぴったりとくっつき、穴の開くほど情を含ませて男の顔をじっと見ている。以前と違って浮気性ではない半七だったが、ほろ酔いのせいか、つい出来心が起きてきた。
「お花さんの身代わりにお前が寝たというのが嘘か誠か改めてみようか」
半七はおいきの体に手をかけて抱きよせ、前をかき分けてほかほかとした内股へ手先をずっと突きこむと、もとよりその気のおいきは股を緩めて花弁を押し付けながら目を細めた。
「なにとぞよく改めてみておくんなさいよ」
おいきは男の頬へ前髪の冷たいところを押し付けて恥ずかしそうに下を向く。半七は、その額口より撫で下ろし、そこを左右に開いて人差し指と中指をぬるりと差し込めば、早くも兆していたのか、溢れるようにぴちゃぴちゃと音を立てるので、さらに遠慮せずにくじった。
「こんなに毛深くて大きいものじゃなかったっけ」
「あれ。憎らしい。歳のいかないときと少しは違ってきたあねえ」
「それでもこっちにとっては同じことだ」
半七がふんどしをはずすと、帆柱のようになった節くれだった大物竿がぬっと現れた。
「おやまあ。大きくておいしそうなこと」
半七のものを横目でちらと見てそう言うと、おいきは目を閉じて鼻を鳴らし、男の首へ両手をかけて抱きしめた。
女が腰をひねりくじっている手へそこをすりつけるのは、入れて欲しいしぐさの現れであろうと思った半七は、おいきをそのまま転ばして、燃えるような緋の湯文字をヘソの上までまくりあげた。そして雪のような内股へ、太腰を割り入れてはずむ自分のものを両肢の割れ目に押し付け、あてがって、2〜3度ぐっと押すと、すぐに根元までずぶっと入る。女に抱きついて、口を吸ったり吸わせたり、頬ずりしながら腰を使うと、女は下から強く腰を持ち上げた。
「どうだえ。違ったかえ。身代わりのときのあれと違っていやあしますまい。おまえさんのはどうも、どうも夢のときでも本当のときでも、よくってよくってしかたがないわ。あれさ。私あもうやるよ。はあ、いく。ああ、いく」
「この前はお花さんのそれと思って夢中でしたから、味も何にも知れなんだが、それ、それ、根元をくわえて引っ張るのは、どうも、どうも、こてえられねえ」
半七はそこの耳に呻き頭をぐりぐりとねじ込んだり、頭の裏でとがりの筋をそろそろと百撫でして、女宮の口をぐいぐいと突く。さらに百襞を胴中の筋できつく、ゆるく撫でると、女はたまらず火のように熱くなった。汗汁がぬらぬら、ぴたぴた、こぼこぼと不思議な音をたてるに従って、おいきはさらに夢中になり、火より熱いものを男の顔へすりつけ、腹を凹ましたり、膨らませたりしながら、しっくりと食い締めて、尻を回したり、腰を右へ左へとひねって持ち上げる。
「あれ、いいよ。いきます。ああ、いく。もし、あなたさま、あれ、どうしよう、よくって、よくって、死ぬよ、死ぬよ」
夢中になって悶えよがり、ところてんほどに固まった女の身をぬるぬると男の頭へあびせかけた。半七はたまらずに2、3度身震いして、突き立てた。
「それ、それ。いくぞ。ああ、いく、いく」
徳利と猪口がチリン、チリン、カチカチと音を立てていた。
その14 寝乱れの髪たくしあげ裾開き
伊勢国(三重)、松坂宿の藤枝屋では、慎み深かった後家のお雛が薬酒のわなにかかり、助蔵と契りを交してしまったが、その後は一度も助蔵を近づけようとしなかった。助蔵は内心、悶々として、面白く思っていなかったが、恨みを述べる暇もないほど忙しかったので、そのままにしておいた。
あるとき、一家揃って何やら相談をすると、お雛はのれん分けした店の亭主に後を任せて、自分は一人の親爺と荷担ぎの男を連れて信濃国(長野)の善光寺に参詣の旅に出かけてしまった。
助蔵は旅のお供は自分だろうと秘かに思っていた。旅は道連れ、夜は情け、というではないか。あの夜の出来事以来、お雛がよそよそしくしているのは人目をはばかっているからで、つれなく見せてもちゃんと考えているはずだと思っていたのに、期待は外れて取り残されてしまった。番頭扱いだった自分を今度の亭主は軽々しく使うのも腹立たしい。この上は、お雛の後を追って信濃へ行き、どこかの宿場か村でお雛を掴まえて、駆け落ちするか自分を婿に迎えるか話をつけるのが近道だと決めつけた助蔵は、わずかの黄金を用意すると藤枝屋を出奔してしまった。
しかし、お雛が出発してから4〜5日も経っていたことなので、なかなかお雛に追いつけない。善光寺近くの織物の取引先に立ち寄ってお雛の様子を尋ねると、お雛は江戸に向かったというので、また助蔵も中山道を江戸へと向かった。思い当たるところが芝の高輪にあるので、まずはその家を訪ねてみようと思っていた。
さて、寄席の帰りに計らずも半七とばったり出会ったおいきは、奥座敷で半七と睦言を楽しんだ後、また会う約束をして別れたばかり。だらしなくないように寝乱れの髪を撫で上げ、着物の裾を合わせて横町から出てきたところで、今度はばったりと助蔵と出会ったので、互いに顔を見合わせてびっくりした。
「やあ。おいきじゃねえか」
「おや旦那。どうしてここへ」
とは言うものの、腰に刀はなく、まげはもちろん服装も町人めいていることにおいきがいぶかしがると、助蔵は頭をかいて、松坂の藤枝屋へ商人として住み込んでいたこと、だがそこも面白くないので藤沢へ戻ろうとした帰り道であることなどをお雛のことは隠して適当につくろって話した。
助蔵はおいきにとって恩のある人である。そこで、何はともあれ自分の家へ助蔵を招いた。道すがら、藤沢から江戸へきた経緯、いまは喜六の世話になって暮らしていることなどを、こちらも適当につくろって話した。
そうこうしているうちに家に着いたおいきは、家の格子をがらっと引き開けると下女に言いつけて助蔵の足を洗わせ、喜六の着物を与えた。そして着替えるや否や、疲れを癒す薬になるからと風呂へ行かせ、助蔵が出て行くとすぐ下女に、酒、肴の用意をさせた。
久しぶりに見たおいきはすっかり江戸風になっており、なまめかしいほどの美しさだ。住まいの趣や手道具も抜け目はなく、しきりと好奇心が沸いてくるので、風呂もそこそこに助蔵はおいきの家へ戻った。
「もう上がっておいでなさいましたかえ。誠に早い湯だねえ」
「久しぶりに顔を見たせいか、恋しくなって仕方がねえから大急ぎで入ってきたのさ」
おいきは下女に場を遠慮するよう目で合図した。
「さあ、たいそうなご馳走をこしらえておいたから、一口おあがんなさいまし」
と酌を始めた2人であったが、これまでの物語は尽きず、めぐる杯に日も暮れて、ろうそくをともすころには十分、酔いを催していた。おいきは下女に助蔵のことを鎌倉の兄さんで上方からの戻りだといい、食事も取り膳同然で、初更(夜8時)の鐘の鳴るのを待ちかねて下女をさっさと寝かしつけた。
助蔵とおいきが床に就くと、助蔵は背筋を伸ばしておいきの耳元で囁いた。
「こっちに入って一緒に寝てもいいのか」
おいきはにっこり笑った。「いいえ。悪いよ」
「それでもこんなになったものを」
と助蔵は女の布団にもぐりこんで、ふやけたものを握らせた。
「おや。たいそう腹を立てたね」
「そりゃそうと、喜六さんという人にこられちゃ大変だのう」
「大丈夫。先月のはじめに上方に行ってまだ帰ってきやしないもの」
「ありがてえ。なにとぞ、行ったきりにしてしまえばいい」
「ほんとにねえ」
「しかし、お前は喜六さんのほうがいいかもしれねえ」
助蔵は女の太股に片足をぐっと差し込んだ。
「あれさ。帯を解きなさいよう」おいきは男の帯を解いて手繰り寄せた。「久しぶりだねえ」
真っ白な肌を助蔵の体に横抱きにぴったりと押し付け、男の枕のところへ左手を差し込んで衿首を抱きよせながら、股を広げてあてがった。すっかり待ちぼうけをくった大物のカリ高は紫色に筋張って反り返っている。百里あまりの長旅をしてきた後だったので烈火のごとくほてり、すっかり頭に血がのぼっていた。
だが、女の真ん中へあてがっても、そこは蓋のようになっていて入っていこうとしなかったので、そこの裏で真ん中を持ち上げながら2本の指で春草をくじりまわし、口を吸う。そして、茎首のエラを歓び頭に押し付け、双丘をぐりぐりしているうちに、汗が指に伝わってぬらぬらしてきてすっぱ、すっぱと音がしてきたので、もはや十分なころだろうと男の頭をぐっと押し込むと、中のぬめりで胴中まですっぽりと入る。嬉しくなって突き立てると、それは花園いっぱいに広がって、まわりの襞が茎節に吸い付き、抜き差しするたびに食い締めてくる。そのよさが例えようのないほどいいものであったので、助蔵は思わず鼻声を出した。
「ああ、ううう。もうたまらねえ。それ、いきそうになってきたよ」
「あれ。嫌だよ。早くやると抜かせないよ。ああ、もう中いっぱいに膨れあがって、お前さんのものはどうしてこのように大きくなったえ。ああ、もうやるよ。出るだろうね。おお、どうしよう。お前もいいかえ」
「いいとも、いいとも。久しぶりといい、何とも心地いい。ああ、いく、いく」
「私もいいよ。またいくよ。おお、可愛い。いいよ、いくよ」
男の股間はどきんどきん、そこから脂汗がたらあり、ぬらぬら。2番目をとるつもりであったが、助蔵は旅の疲れ、おいきは昼間に茶屋で半七と存分にやった腰疲れで、そのまま拭きもせず、抱きついたまま寝てしまった。
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