春情花の朧夜 その17〜18

その17 玉門に登竜血しぶき散り乱れ舞う

 好山記内の恩にひかれたお花は、『うちなびく柳の糸のたよたよと……』の歌にならって名前をお柳と呼び改め、表向きは娘の守役、夜は記内の閨の花となっていた。
 布団の上で寝転がっている記内に、お柳がたばこを吸い付けて「はい」と手渡した。
「深いご縁やら誠に厚いお恵みで、私はもとより半七までご譜代のお歴々と肩を並べて御前のお勤め。それにかねがね申しておいた藤兵衛の娘・お登世をあのように半七の嫁にしていただいて、私もあなたさまとこうして……」
 お柳はそう言いかけてにっこり笑い、記内の顔を横目で見るとうつむいた。
「あなたさまとこうして、それからどうしたのだ。それでお終いなのか」
「あれ。そうじゃございませんが、何だか言葉がつかえてしまいました」
「ふっ。つかえるという歳でもあるめえ。ツバなしでもいけ抜けのくせに」
 記内がお柳の股へ手を入れると、お柳はすぐに力を緩めてそこを探させた。
「あなたさまとこうして嬉しい思いを致しますと寝覚めがよいのでございますよ」
 お柳は記内にぴったり寄り添った。
「半七も今ごろは新しい女房の豊波と2人で楽しみの最中だろうか。お道具は大きいし、やりかたも巧者だというから、実に女はとろけるということだ。のう、お柳。誠か」
「そのようなことは存じませんよ」
「まあさ。そんなことを言わずに、どういうふうにしてよがらせたか、教えてくれればいいのにのう」
「もう嫌でございますよ。どうせあなたさまとこうやって何するのですから」
「それはそのほうが何と言おうと半七には及ばないことだから、今夜は無理に及ぼすつもりで加勢を頼んでおいた」
 記内は枕近くの手箪笥から閨中の秘密の大妙薬、長崎の女乱香、精保丸、ろうがんなどの女悦薬を取り出した。
「これを用いてやらかせば何ほどの上手を尽くしても男根1本でよがらせる粋野氏には負けぬ気じゃ」
「ああれ。また」
「いやさ。これもそのほうへのご馳走じゃ。なにとぞ思い入れ、堪え忍んで嬉しがってもらいたい」
「まあ。これをつけるとおかしな気持ちになるとは奇妙な薬でございますねえ。毒にはなりませんかえ」
「どうしてそのようなものを用いるものか。さあ、さあ。夜が明けるまで楽しむのじゃ」
 お柳を仰向けに押し倒した記内は、邪魔な白縮緬の湯巻をヘソの上までまくりあげて、白い股を広げた。そして、人差し指と中指に薬をつけ、女門の両縁から紅舌の下っ面、枝肉深奥のあたりへ塗りたくり、自分へも頭の先から根元までくるくると塗り付けると、玉開を探った手に丸薬2粒ばかりを乗せて、枕元においてある鉄瓶の湯でぐっと飲み込み、たばこ盆の火入れの中へ女乱香をつまんでくべた。不思議な香りが漂ってくる。
 お柳はその間、ずっと明かりのほうへ女院を広げていたので、気が急いていた。
「もし。早く遊ばしましなねえ」
「おっと、承知。これからそろそろ取り掛かるのじゃ」
 記内はそう言うと、すぐに2本の指でお柳の真ん中の溝を上から撫で下ろし、そのまわりを押しのけた。小枝肉から奥の奥へと指をくじり入れたり、あるいは2本の指を入れながらツバを塗った親指の腹で歓びのとがりのぐりぐりしているところをぬるぬると撫で上げ、ひさしのひらひらしているところをつまんでひねる。
 部屋中に広がった女乱香の煙を嗅ぎこんだお柳は、さながら酔ったようにうっとりとなり、奥の院の中は一面にむずがゆく、淫心がいつになく増してきた。心の底から淫らになり、目を細めて鼻息をはずませ、額口から耳タブのあたりをのぼせ上がったようにてらてら光らせている。尻を左右にもじり、悶えて、はあ、はあと息をして、ときどき身震いする。
 女と対照的に男は落ち着いて女の尻を自分の膝のところへ抱きよせると、真っ黒な薬をカリ高の頭から根元にまで塗って、魂が入った鉄のてっこ棒のように踊っている紅舌のとがりをそれでこすりながら、真っ白に膨れた女の乳をなめて子どものようにすっぱすっぱと吸った。固くなった乳首を指の先でひねくり回し、あるいは舌をありったけ出させてちぎれるほどにちゅうちゅうと吸って、十分に楽しませている。
 やがて烈火のものを女の真ん中に臨ませ、両脚をすくい上げて玉中を覗きこむと、女の舌頭はぴくぴく動き、奥の院から出る湧き水がとわたりから菊座の上へとしたたり流れている。女はさもよさそうな様子だった。記内が見とれていると、女は鼻息を激しくして実を震わせた。
「あれ。じらさないで入れてくださいよ。薬のせいか、ひとりでにそれ、出ますよ。あれ、いきます。切ないよ。半分でもいいからさ、ああ、お入れ遊ばしてよ」
 お柳が懇願するのを見澄ました記内は、天に昇るが如くに猛っている大蛇をよがりの水に浸して滑り込ませた。お柳が声を上げた。
「おおお。ああ、うん、うん。おお、嬉しい。初めっからこのようでは明日の朝になるまでには私ゃ生きていられないよ。あれ、あれ。ずっと行きつづけだ」
 お柳は眉毛の間にしわを寄せ、男にしっかり抱きついての大よがり。男の切っ先が急所の小口にあたるたびにどくどくと愛水を流して気をやりつづけている。
 男は大蛇をぐっと引き抜いて女のぬめりをよく拭き取ると、すぐにまた押し込んで高腰に突き始めた。いったんぬめりを拭いたので、今度の玉中はしっくりと締め付けて格別の風味である。根元までぐっと押し込めてから右手で玉院の縁をさわってみると、一物をいっぱいにほおばっているそこは、乳を飲みながらおしゃぶりでべろべろして遊んでいるように、すっぽすっぽと男のものをくわえこんでいる。奥へ吸い込もうとする気味のよさに盆の窪からしびれるような快感が沸き上がってきたので、ここぞとばかりにいっそう早く腰を抜き差しすると、女はまたもよくなってきたのか腰を持ち上げてすすり泣く。
「あれ。奥のほうがどうやらいきそうになってきました。一緒にやってよ」
「そんならやるか。それ、いい、いい。そなたも早く。いまじゃ、いまじゃ」
「あい、あい。それ、それ。いきますよ」
「いくのが知れるのか。それ、どうじゃ、どうじゃ」
 男は快楽の口へよがりの水を弾き入れた。
「あれ、知れますよ。よく知れます。おお、うれしい。またいって、いって、しかたないよ」
 だくだく流れる情の水は女の入り口にあふれて、2人は股中をぬめらした。
 一時あまりの楽しみは雨となり、また曇りとなる。巫山の夢の睦言とはこのようなものであったのだろう。


 お柳は紙を取り出してあたりをすっぽりと拭いた。2人ともたぼこを吸い、お茶を飲んでやっと一息つけたようだ。
「おお、切なかった。あの、もし。あなたさま。今夜はどんな形をして何を申したのか、気がついたときにはあまりの取り乱しで、愛想がつきやなさいませんかと案じられてなりません」
「いや、いや。夫婦となってみれば、奥底に隔てがあっては面白くない」
「おほほ。打ち解けすぎて骨なしのようになってしまったよ。もうお薬はおよしなさいな」
「それなら気を変えて抱いてくりゃれ」
 両脚を投げ出し、股から誇らしげに突き出して座っていた記内は、お柳を向かい合わせに座らせてその足を広げ、抱え上げた。一物の先がちょうど真ん中のところに当たる形だ。女が男の首筋にまわした手を締め付けてかじりつく。記内が女の尻を下からすくい上げて2度、3度、尻餅をつかせるようにすると、ずぶずぶぬっと根元まで入った。男はすぐにその手を女の背中に回してきつく抱きしめた。
oboro_17.jpg「さあ、こうして入れてはよくないか」
「いいえ。やはりよいのだよ」
 お柳は前に手をやってそこを探った。
「おや、おや。よくまあ入ったこと」そして、2つ、3つ、腰を使ったが、どうもしっくりいかないようだ。「これじゃじきに外れそうで何だかおかしいねえ」
「そんならばこうしよう」
 記内は女の左足をはずすと、入れたまま女の体をくるりと回して四つんばいにさせた。自分は中腰になって膝をつく。
「後ろからではどうじゃ」
 女の腰をかかえて大技物を抜き差ししては40〜50回、続けて突き立てると、女はたまらずまたぬらぬら、すぽすぽ。
「あれ、あれ。あんまり奥へ届きすぎます。おお、気がいきそうになってきました。あれ、どうしよう。掴まえどころがないやねえ」
 と、悶え悶えに言うので、男が両脚を伸ばして女の頭のほうへ投げ出すと、女はその足にかじりついておっ立て尻ではあ、はあと布団にくいついて気をやり始めた。
 男もたまらずこすりつき、ずぼり、ずぼりと突くと、女は2度目をやり始めるので、その拍子に男も気をやって、どっく、どっく、すっぽ、すっぽ、ぐっちゃぐちゃ。
「おお、またいきます」
「私もどうやら死ぬようじゃ。それ、それ。やるぞ。続けいきじゃ。おお、いい味だ。吸い込む。これはたまらぬ」
「あれ、あれ、いいよ。私ゃもう死にます、死にます」
 2人は幾度やったのか数知れない。
 こうして真のよがりが度重なってお柳は記内の胤を宿す。やがて世継ぎを産んだお柳はお部屋さまとして尊敬され、栄華の身となる。


その18 朧夜に夢見し御前睦言の

 お登世を妻に迎えた半七は、昼間から箪笥の輪を鳴らすほどに楽しみづくありさまで、おいきのことを何となく忘れがちになっていた。しかし、顔を出さないのは不実の至りであろうと、ある日、暇をもらうとこの前、会ったときに聞いたおいきの家へとやってきた。
 おいきの家の入り口にさしかかると、中から男の話し声が聞こえてくる。はてな、と耳をそばだてて聞いてみると、何やら助十郎に似ている気がするので、なおも様子を伺っているところへおいきが格子を開けた。2人は思わず顔を見合わせて、まずいと思った半七は物陰に身を隠しておいきを手招きした。
「こないだは久しぶりで誠にありがとう」
 と半七が笑うと、おいきもにっこりしたが「私こそ」と言ったきりで、どうも間が悪そうだ。半七は切り出した。
「ときにお前の家に助十郎さんがいるじゃねえか」
「あの、こないだお前さんとお別れ申した帰りに、上方からの帰りだと言ってきたのでございます」
「さようか。それはさぞかしお喜び」
 おいきの手先をちょっとつねると、「あれ、そんなことを。嫌な」と目もとをほんのり赤くした。
「それはほんの冗談だが、助さんが帰ってみれば正解。いやらしい真似はできねえから真面目なおつきあいにしなきゃならねえが、その代わりに随分お前の力になったとしても、不実なことはしやしめえよ」
「もう、じれったい。あいにくなところへ帰ってきたのだから、どうしたらよかろうと気がもめて……」
「何さ。気をもむこたあねえ。いまお前に久しぶりに会ったことにして、お前の家へ行こう。助さんにもいろいろ話があるから」
「あれさ。他人になってしまうのなら気をもみやしないけれど」
「それでも助さんが出てきた日にゃ、お花さんといい、お前まで」
「おや。お花さんとおっしゃるけれど、私が何したので、お花さんとはどうもなさりはしないもの。それともどこかで何をしたのかえ」
 と半七の顔を覗きこんだ。
「なんのさ。どこでも何をした覚えはねえけれど」半七は頭をかきながらもじもじした。「そんならば間があるのならこれぐらいのことはよかろう」
 半七は往来の絶え間を見計らっておいきをちょっと引き寄せると、軒の雀のように口をチュウ、チュウ。

 おいきの家ではおいきがそんなことになっているとも知らない。先ほどまでは喜六もいて泊まっているお雛から束の間も離れようとしなかったのだが、やむをえない用があったと見えて、「戻りしだい一口飲むから肴を用意しとけ」とおいきに言いつけて出ていった。そしておいきが近所の魚店へ品を見に外に出たところで、ばったり半七と出くわしたというわけである。家にはお雛と助蔵が残っていた。
 お雛と差し向かいの助蔵が小声で言った。
「何をひとつ言う暇もございませんでしたから知らん振りしていましたが、実は私はあなたのお後を追って参ったのでございます。それなのに、いつの間にやら喜六さんを御亭主になさいますとは、あんまりじゃございませんか」
「あれさ。それにはいろいろ訳があって、話そうと思っているうちに急にこちらへくることになってしまったのだあね。それだからここへきた翌日にお前と顔を付き合わせて私ゃびっくり。夢じゃないかと思ったほどだ。
 しかし、お前には気の毒だったけど、お前だっておいきさんという人ができていて、頼もしい仲になっているじゃないか。私のような老婆に思いを残すこともなかろう。それに、よもや喜六さんの前でお前が口に出すような気遣いはあるまいと思うから平気な顔をしていたのさ。だが、お前さんと一度でもあんなことになったのは、よくよく深い縁があるのだろうから、喜六さんに言って立ち行きできるようにしてあげるから、おいきさんと2人で仲良く楽しみな」
「そりゃ私も喜六さんへ対してはすまないことをしたと思っております。女はさておき諸道具までいただいたご恩があるので、喜六さんはもちろん、あなたへもお恨みを申し上げる筋ではございませんが、おいきはもともと私どもで使っていた下女、あなたは私のご主人さま。そのご主人さまに命をかけて惚れ込んで、思いの届いたのがたったの一夜では、どうしてあなたとおいきを一緒に並べられましょう。しかし、喜六さんというお方のできたあなたと末永くとは申しません。幸いなことにおいきも留守なので、もったいないお体。もう一度、させてくださいまし」
 そう言うと、矢庭に助蔵はお雛に飛び掛かった。
 強く抵抗したらどのようなことになるかわかったものではなかったので、お雛は抱かれるままに身を縮めた。
「もう一度ならいいが、おいきが帰るといけないから」
「何。まだ帰るころじゃございません」
 助蔵は、お雛を無理に転ばしてすぐに太腰を割り込ませ、熱鉄となった嫉妬の一物の頭へツバをもつけずに押しあてがうと、ただの一突きでずぶりと入れた。花園は乾いていたので、その両端が茎の出っ張りにまくじれこんだ。
「ああ、もう木のようでひどいのう」
「何だかどうも私はじきにいきそうでなりません」
 助蔵が腰の突き立てを早めようとしたとき、表からおいきの声が聞こえてきた。
「さあ、さあ。なにとぞこちらへ」
 おいきがいまにも格子を開けそうなので、助蔵はあわてて腰を引き抜き、2人は飛びのいた。そして何食わぬ顔をしていたところに、おいきの招きで半七が入ってきたので助蔵はびっくり。おいきが紹介した。
「久しぶりにいま、表でお目にかかりましたのでお連れ申しました。半七さまです」
 気の落ち着いてきた助蔵が膝を進めて半七に、例の別れのとき以来の礼を述べると、半七もまたこれを返した。そして2人がこれまでを話しているときに喜六も戻ってきた。
「これはこれは粋野の旦那さま。どうしてこちらへ」
 喜六は梶原家の呉服のご用を引き受けていたので、半七とは顔見知りだったのである。かくして、半七と助蔵の久しぶりの対面に、半七の振る舞いで喜六、お雛、おいきの5人分の肴を取り寄せ、その夜は大酒宴となった。


 その後、半七は好山記内の屋敷を訪れ、お花(柳)にいまの助蔵の様子を語った。気の毒がったお花は、記内に進言して喜六に呉服のご用をいいつけ、半七は多くの黄金を助蔵に貸し与えた。助蔵は喜六とお雛の国々の織場の問屋を引き受けて芝明神前へ店を出し、大勢の人を使う商人となった。
 助蔵に恩を感じていた半七は、ことあるごとに助蔵を取り立て、またお花とのことを物語りし、「いま、そこもとが立身できたのもすべてお花の働き」と話した。助蔵は過去の過ちを悔やんだが、半七を通じてお花に離縁状を渡し、また、秘かにお花に会って、このほど世話になったことの喜びの礼を述べ、おいきとも引き合わせた。
 お柳よりすべての委細を聞いた記内は、ある日、香梅の別荘へ半七、お登世、助蔵、おいき、喜六、お雛を招いき、魚十、大七、小倉庵、あなのうなぎ平岩などの店よりおびただしい料理を取り寄せて終日、祝宴を催した。
 酔いもたけなわになって夕日が西に傾き、金竜山(浅草寺)の6ツ(夕6時)の鐘が聞こえてくると、記内は席を等しく分けて寝床を設けた。うえのほうの座敷に記内がお柳と寝て、2の座敷には半七とお登世、3の座敷には喜六とお雛、4の座敷には助蔵とおいき、腎張りのいずれも劣らぬ上反大物、くわえて引っ張る蛸壺揃いが枕を並べて雑魚寝になって、このような交合も一興だと取り組み始める。
 記内とお柳が本手に組むと、半七はお登世を尻から取り、横で取る喜六とお雛はよがり声をあげ、助蔵はおいきと茶臼で取りのめす。4対の夫婦が4つの場所で鼻息はあ、はあ、くっちゃくちゃ。根っこをぎちぎち、口を吸い、舌と舌がチュウ、チュウ。その楽しみもまた好いた者同士である。こっちが終われば向こうが始めて、何番と限りなく朝までやり明かした。

 好山とお柳、半七とお登世、助蔵とおいき、喜六とお雛の夫婦はいずれも仲睦まじく、男女それぞれ数名の子どもをもうけた。好山と半七は梶原家の礎となって尊敬を集め、助蔵は商売が栄えて今長者と商人仲間からもてはやされる。伊勢松坂の藤枝屋の家名を継いだ喜六は、お雛と江戸本町に出店を持ち、こちらも繁昌した。
 みな、百歳を超えてなお突きつづけ、腎水と閨の楽しみは一向に尽ることがなかった。誠にめでたい人々である。

(了) 


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