中嶋莞爾特集上映『箱-TheBox-』『はがね』同時公開 レポート
 
公開時チラシ(クリックで拡大されます)
今回の上映にあたって
 昨年末、一週間限定で行われた特集上映は、正式な一般公開としては『箱-TheBox-』のみならず、実は1994年製作の『はがね』にとっても初めてのものだった。これまで国内外の映画祭や企画上映では何度か上映されてきたが、今回が事実上の「一挙同時初公開」となる。
 席数50弱のオフシアター館、渋谷アップリンク・ファクトリーでの公開だったが、上映に際しては16ミリのオリジナルプリントを用いる事ができた。またそれぞれ一本毎の料金設定(2回通し券もあり)が組まれ、いわゆる「同時上映」ではない各回入れ替え制。デイタイム4回とレイトショウ1回を組み合わせたタイムスケジュールは、一週間限定の短いスケジュールといえども、合計33回の上映回数を数えることになる。一日一回のみをレイトショウで公開したとすれば、一ヶ月以上かかる上映回数であることから、これを短期間集中でどれだけ集客できるかが難しい点だった。詳細なスケジュールは別掲の通り。

黒坂圭太さん
初日・黒坂圭太さんとのトークショウ
 まずは上映初日。集客が期待できる公開期間中の休日は、初日(18日)と二日目(19日)の土日、及び23日の祝日となる。師走も押し迫っているし、最終日がクリスマスイブ(!)となることから後半の日程があまり期待できない。だからこそ最初の土日にトークイベントを配した。が、その初日の集客が、休日にしてはあまりかんばしくない…。いきなり勢いがないのには正直気分が落ち込む。夕方より気を取り直して黒坂さんとのトークショウに臨んだ。
 アニメーション作家 黒坂圭太さんとのトークの回は30名弱の入り。イベントプログラムにしては少ないが、会場が元々手狭なためそれなりの体裁を保つ事はできた。黒坂さんとは旧知の仲で、私が教鞭を取っている某大学でも大変お世話になっている。実にパワフルかつ繊細なアニメーション作品を、個人作家の立場から20年以上製作し続けているベテランであり、現在製作中の新作『緑子』は60分を越える長編。その映像的なクオリティーは、あまりにも重厚な物で、気が遠くなりそうな綿密な作業の末に生み出されている。本当に完成が楽しみだ。今回は黒坂さんの作品歴の断片映像も御紹介し、共に作家という立場から興味深い御話を戴く事が出来た。

黒坂×中嶋トーク概要
 アニメーションと実写というお互いのジャンルの隔たりがあるはずなのだが、よくよく考えてみればアニミズムというアニメーションの語源が示すように、「動かない物に生命を与える」感覚は、自分の作品にそのまま符合するものだと述べた。
 また逆に黒坂さんのおっしゃる「あくまでも『描いている、動かしている』という感覚で制作しているのではなく、自分が生み出す異世界の全てを、細部に至るまでシミュレーションし、その一端をカメラで覗き込むかのように作っている」というお話は、自分の実写の創作感覚と何も変わらないものだと感じた。
 一般のアニメーションというジャンルに収まり切らない、黒坂作品の魅力、オリジナリティーは、モチーフに関する常識的、記号的な捉え方を捨て去り、文字通り全く白紙の段階から純粋に世界を見据えようとする観察力の高さに有る。私も実写の作家として、現実の中にある当たり前の約束事にとらわれない、鋭い発想力を持って、現実世界と響き合うもう一つの現実、つまり異世界を作り上げたいと述べた。
 また黒坂さんの「僕が落ち込んでて、救いや癒しが欲しい時は『はがね』を、元気が有り余ってて逆に冷静な緊張感が欲しい時は『箱』を見たいと思う。」というお話も、とても分かりやすくて面白い…。
 私のしゃべりがややこしいせいか(笑)、少々固めの内容だったかもしれないが、全体的に深みのある有意義な内容を語り合えたと思う。黒坂さん本当にありがとうございました。

山崎樹範さん
二日目・山崎樹範×中嶋トークショウ
 二日目の日曜日は初日の不調を取り戻すかのように、昼間の回から大入りの状況。特に稼ぎ処、『箱』に出演してもらった山崎樹範氏とのトークが催される回は、立ち見が大勢出る盛況ぶりとなった。
 撮影当時はまだ所属劇団の一役者でしかなかった山崎君だが、今では演劇のみならず映画、TVドラマやバラエティーにも活躍中の俳優である。私の映画のエンターテイメントではない異質な作風に対して、山崎君のキャラクター性というのは、今でこそ一見かなりの違和感を感じるが、作品の中ではそれが不思議と溶け合っている。主役ではないにせよ、ラスト15分くらいは彼の演技が作品を締めくくるだけに、とても重要な役柄を好演してくれている。
 この日のトーク内容は前日のものとは打って変わって、あまり映画のややこしい話は極力控え、ゲストである山崎君に的を絞ったラフなノリにしようと努めた。ファンサービスという意味合いもあったが、私の映画をメインに来て下さったお客さんには少々不満があったかもしれない(笑)。

中嶋莞爾
 当時無名であった山崎樹範を起用しようと思った理由や、撮影時の裏話、暴露話等、笑えるような真面目なような情けないような(笑)、実に我々二人の意外な組み合わせがカオスを生んだトークだったが、結構楽しめる内容になったと思う。
 例えば撮影当時は極めて腰の低い人だった山崎君が、「今では多少はえらそうに振る舞ってるんじゃないの?」という私のツッコミに「あ、今でもそれは変わってないです…名前呼ばれたら怒られるもんだと思って、いつも『スイマセン』が口癖になってますから(笑)…会う人はみんな偉い人だと思うようにしてます…。」とあっさり答える。
 また「そもそも役者を志したきっかけは?」という月並みな質問に「本当に子供の頃から一日中テレビばっかり見てるテレビっ子だったんですよ…何とかしてこのTVの中に入りたいと思ってて…」という述懐が、今ではすっかりサクセスストーリーとなっていて心地良い。
 さらに「今後の野望は…?」という質問に「ものすごくかっこいい人、きれいな人ばかりが主役となるTVドラマの世界で、自分のようなキャラクターが主演する事で、ドラマにリアリティーを与える事ができれば嬉しい。」と控えめながらに野心を語ってくれた。
 とてもここに全てを採録する事はできないが、とにかく俳優 山崎樹範の演技に対する率直さや、てらいのなさが感じられ、またユーモアに溢れた存在感が改めて確認できるトーク内容となった。「演技の幅を広げて行きたい」と言う山崎君に改めてオファーできる日が来れば嬉しいと思う。

上映後半の集客の伸び
 公開3日目は一旦集客が落ち込んだが、その後は安定した伸びを示した。特に昼間の回が思ったより安定している事に驚く。平日であるにも関わらず満席になることもあり、良い意味でこちらの予想を裏切る流れである。また二回通し券での入場者が大半を占め、延べ人数としての入場者数を倍に跳ね上げてくれるのがありがたい。各回入れ替え制で、合間の時間がかなり開いてしまうにもかかわらず、外で時間をつぶしてきちんと二回分鑑賞してくれる観客の皆さんには感謝するばかりだ。集客のピークはイベントの有無とは関わりなく、12月23日の祝日。この日だけで初日の3倍近い入場者を迎える事が出来、後半の伸びを実感する状況となった。最終日は平日のクリスマスイブであり、さすがに期待はしていなかったが、これも思ったよりも客入りは下がらず・・・これにて短かったようで長かった一週間のプログラム、全33回は終了。
 大体の入場者数は把握しているつもりだったので、それなりの手応えは掴んでいたが、全ての回に顔を出していた訳ではないので、映画館側の正確な集計が気になるところだった。

結果報告
 上映開始以前にアップリンク・ファクトリー責任者、鎌田さんに伺っていた話では、通常一週間の上映を自主制作作品が行うとなると、そこそこの入りで300名前後、500名入れば大成功というところらしい。オフシアター館であり、マスコミに騒がれそうな有名人が出演している訳でもないし、何しろ私自身がまだ無名の映画作家であり、内容も決して万人受けするものではない。にもかかわらず、総入場者数は734名の好成績を出すに至った。欲を言い始めればきりがなく、目標1000!とも考えたいところだが、現実的な状況を冷静に把握した上で、700名を目標としていた自分にとっては成功といえるだろう・・・。
 もちろん一般の映画に比べれば大した数字ではないし、この程度の数字を成功と考えること自体が甘いのかもしれない。しかしたかだか一週間の上映が終了しただけで、これでおしまいという訳でもない。まだ事実上未配給作品でもあるのだし、今後も上映の機会を増やして行くつもりだ。大切な事はこうしたひとつひとつの機会を確実に押さえ、しっかりとステップを登って行く事だろうと考えている。DVDの販売も次の一つのステップであるし、次回作へ本格的に着手することが何よりも大きなポイントである。とにかくちゃんと一般のお客さんが入る作品なのだという事を、この目で確認できたのが今回の収穫だった・・・。

 今回の上映、宣伝に関しまして、多大なる御協力を戴きました皆様方に心より御礼を申し上げます。そして、何よりも足を運んで下さった皆様、ありがとうございました。
2005年新春 中嶋莞爾

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