ファン交 2023年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by

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■日時:2023年1月22日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)

●テーマ:2022年SF回顧「国内編」&「コミック編」』
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、香月祥宏さん(レビュアー)、岡野晋弥さん(「SFG」代表)、福井健太さん(書評家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、林哲矢さん(レビュアー)


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1月例会は毎年恒例、22年の国内作品とコミックの回顧企画です。

まずは国内編で、森下さん・香月さん・岡野さんが出演。お三方が一致して推薦していたのが長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』と春暮康一『法治の獣』でした。

『プロトコル~』は事故で片足を失ったダンサーが、AI技術者の開発した義足を装着して再び舞台に立つ物語です。森下さんは「ダンスを描く表現力が凄い」と描写力を絶賛し、香月さんはAIの学習と主人公の父親が認知症を患っていく過程が対照的に描かれているとし、そこを通じ人間らしさとは何かが問われていると指摘します。また岡野さんも「直木賞の候補になればいいのに」と絶賛します。

『法治の獣』は異星生物と地球人類とのコンタクトを描くバリバリの本格宇宙SF。森下さんはやはり22年にでた宮澤伊織『神々の歩法』ともども新進作家にハル・クレメントの影響が顕著だと述べます。ただ『法治の獣』では、人類が異星生物と直接コンタクトできない点が現代的だという指摘もありました。

また香月さんからは22年の傾向として、『新月』『新しい世界を生きるための14のSF』など若手作家を取り上げるアンソロジーが刊行され書き手の多様化が進んだことと、佐々木譲・熊谷達也・白石一文・荻原浩などベテランのエンタメ作家がSFに進出したこと、特殊設定ミステリが多数発表されたことの3点が挙げられました。

続いてコミック編では、福井さん・日下さん・林さんが出演。しかしこちらでは、お三方の推薦作がどれひとつとして被らないという事態に。全部をレポートする紙幅がないので筆者(鈴木)の主観でいくつか紹介します。

まず福井さんのオススメは衿沢世衣子『2年1組うちのクラスの女子がヤバい』。思春期の女子のみに発動し、自分でも制御できない超能力を得てしまった少女たちの物語です。舞台となるクラス全員が何らかの超能力の持ち主ということで、青春群像劇のテイストがあります。

続いて林さんのオススメはへじていと作・山岸菜画『全部ぶっ壊す』。破壊神と英雄が現代日本に転生して兄妹になってしまうという設定ですが、壊す対象がモノではなく概念というのが特徴。特にシニフィカシオンを壊してしまい会話が成立しなくなるエピソードには言語実験的な要素もあるといいます。

日下さんが挙げていたのは内山まもる・円谷プロダクション『ザ・ウルトラマン単行本初収録&傑作選』。故内山まもるがコロコロコミックなどに発表したウルトラマンのコミカライズで、単行本未収録作を集めたレア作品集です。

あとコミックではありませんが福井さんが採り上げたのが五味俊晶編『真鍋博の本の本』。美術館の学芸員が、真鍋博の描いた書籍・雑誌の表紙イラストをまとめた本なのですが、凄いのはその収集範囲で、星新一などの著書はもとよりマイナーな業界誌まで渉猟しひたすらスキャンする徹底ぶりに、日下さんが「偏執的な本」と評するくらいでした。

ということで毎回のことながら盛りだくさんで終わった回顧回で、二次会でも紹介しきれなかった作品名が挙がっていました。次回2月例会は海外・メディア編です。

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■2月例会レポート by  

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■日時:2023年2月18日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:2022年SF回顧(海外編・メディア編
●ゲスト 中村融さん(翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、縣丈弘さん(B級映画レビュアー)、冬木糸一さん(レビュアー) 
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1月に引き続き、今回は海外作品と映像作品の22年回顧です。

まず中村さんの推薦作ですが、「普通のベストは冬木さんにまかせた」ということで、あまり話題にならなかった5本。

アンヌ=マリー・ヌヴォル『ロシアの星』、イターシャ・L・ウォマック『アフロフューチャリズム』、ニー・ヴォ『塩と運命の皇后』、マルカ・オールダー他『九段下駅』、ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとシャドウェルの影』

『ロシアの星』は世界初の宇宙飛行士ガガーリンにまつわる物語を虚実交えて描いた連作集。『アフロフューチャリズム』は評論で、タイトルの意味を一言でまとめると、非西洋的世界観とSFなどを結びつけた文化のこと。ジャズ・ファンクミュージック・文学などを横断しアフロ系アメリカ人による世界観を描き出します。『塩と運命の皇后』はヒューゴー賞受賞作を含むベトナム系アメリカ人作家による中編集。『九段下駅』は中国とアメリカによって分割された東京を舞台に男女の刑事がバディを組んで事件を解決する警察ドラマの連作。『シャーロック・ホームズ~』では、実はワトスンが書いてきた正典はすべてウソだと明かされ、実はクトゥルフが……という風に展開します。

続いて冬木さんのベスト5は、

サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』、チャン・ガンミョン『極めて私的な超能力』、アーカディ・マーティーン『平和という名の廃墟』、宝樹『三体X 観想之空』、デイヴ・ハッチンソン『ヨーロッパ・イン・オータム』

『いずれすべては~』は『新しい時代の歌』の作者による短編集ですが、「長編よりいい」とは中村さんと冬木さんの一致した評価。『極めて私的な超能力』はトップクラスの韓国作家によるこれも短編集。『平和という名の廃墟』は銀河帝国を舞台に道の知性体とのファーストコンタクトと外交ドラマを結びつけたPF。『三体X』は宝樹のデビュー作となった『三体』シリーズの二次創作ですが、独自の時間理論などすでに宝樹の作家性が出ているといいます。『ヨーロッパ~』は未知の感染症によって分裂した近未来のEUを舞台にひょんなことからスパイになった料理人の物語です。

メディア編で縣さんイチオシは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。スパイダーマン三部作の完結編で、マルチバースという概念をテコに旧シリーズとも接続する力業も見せつつ、ヒーローの責務とは何か?を問いかけた作品です。

添野さんが挙げたのが『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』。これまで黙殺されてきたアフロフューチャリズムを実践した映画で、虐げられてきた者が強大な力を手にしたとき復讐するかをテーマにした作品。「視点がハリウッドの外に出ていて、今すごいことが起きつつあると実感させてくれる」と添野さんは指摘します。

その添野さんが「昨年最大の問題作」と評したのが『NOPE/ノープ』で、ハリウッド近郊で映画撮影用の馬を飼育する牧場に謎の飛行物体が現れまるという『トワイライト・ゾーン』風の物語。監督はオタクで随所に日本の特撮/アニメの影響がうかがえるそうです。またこの作品にもアメリカ映画史におけるアフロ系アメリカ人の立ち位置が投影されているとか。

邦画ではコミック原作の『恋は光』。なぜか恋する女性が光って見えるようになった大学生の話で、なぜ光って見えるのか、恋とは何なのかという登場人物たちの疑似科学的・哲学的議論と奇妙な四角関係がパラレルに進む点が見所ですが、後半のサプライズがSF的。ユーモラスで切ない青春ラブコメです。

邦画でもう一作、『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』。なぜか学生が主人公になりがちなタイムループもので、社会人をメインに据えた異色作。気づくと締切直前の修羅場に戻ってしまう広告会社を舞台に、登場人物にタイムループを上司へ報告してそこから抜け出すのと、仕事をちゃんと間に合わせるという二重のミッションを課した点がミソだそうです。

ということで、今回も2時間の枠には収まりきらなかった回顧企画。2次会でも海外SFのトピックや配信ドラマの件で盛り上がっていました。

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 ■3月例会レポート by 

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■日時:2023年3月18日(土)14:00-17:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:創元SF60周年!「創元SF文庫総解説」生解説
●出 演:岡本俊弥さん(レビュアー) 、大森望さん(翻訳家)、
     渡辺英樹さん(レビュアー)、石亀航さん(東京創元社) ほか
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2023年は、東京創元社がSF出版に参入してから60年目にあたり、『Web東京創元社マガジン』では『創元SF文庫総解説』が始まっています。今回は、創元SF文庫の歴史と出演者のオススメ本について伺いました。

まずは渡辺さんによる創元SF文庫の歴史について。SF文庫の源流は、1963年9月に始まった創元推理文庫のSFマークです。第1弾はブラウン『未来世界から来た男』でした。

65年、武部本一郎が口絵と本文イラストを手がけたバローズ『火星シリーズ』が大ヒット。その一方でバラードやメリルのアンソロジーなど当時最先端だったニューウェーブ系の作品も紹介し、65年から73年ごろにかけて基本的なラインナップが出そろいます。

その後一時低迷した時期もありましたが、78年のプリースト『スペース・マシン』、ニーヴン&パーネル『神の目の小さな塵』をきっかけに再び新しい作品が翻訳されるようになります。特に80年に出たホーガン『星を継ぐ者』は40年以上読み継がれるロングセラーになりました。

91年にはレーベルを変更して創元SF文庫がスタート。07年には日本作品の収録も行うようになり、翌08年からは年刊日本SF傑作選の刊行が始まり、09年現在まで続く創元SF短編賞が発足します。

続いては岡本さんから、データで見た創元SF文庫について。原書の出版年代別で見ると、多いのが60年代と70年代。80年代も多いのですが、これはデュマレストやダーコーヴァといった長大なシリーズものが含まれるからだそう。その後21世紀に入ってから10年代の作品がまた増えています。他社の動向は気になるか?という質問に対し石亀さんは「版権取得から出版まで2年くらいかかるので、よその動きを見てからじゃ遅すぎる。新しいものをどう読者に届けるかが問題」と答えます。

作家別の出版点数ではバローズが最多で43点、タブ、ホーガンと続きます。シリーズ別ではデュマレストで31点。ローダンを抱えるハヤカワ文庫SFのシリーズもの比率が2分の1に対し、創元は4分の1程度だそうです。

後半はゲストの方々によるお気に入り作品の生レビューです。岡本さんはバラード『沈んだ世界』。中学生のころバローズやチャペックなどと並行して読んでいて、伊藤典夫さんによる解説のアジテーションが強烈に残っているそうです。

大森望さんはメリル編『年刊SF傑作選』。特に主流文学の作品も収録した後期の編集方針は、SFもヘンな文学も好きという読者を多く生み出しました。SFと時代の空気がシンクロする感覚は、後に大森さん自身がアンソロジーを編集するとき大きな影響を受けたとか。

渡辺さんはプリースト『スペース・マシン』。実は十代のころ『逆転世界』に心酔していたころは大したことないと思っていたのが、総解説のため再読して評価を改めたそうです。19世紀のイギリスを舞台にウェルズやヴェルヌへのオマージュを満載した冒険SFです。

石亀さんが総解説を企画したのは、もちろん60周年を記念してのものですが、このタイミングでやらないと古い情報を集めるのが難しくなるという側面もあったそうです。ウェブ上での連載は全6回、完結後に書き下ろしレビューを増補し、今年末には書籍化の予定です。

『Web東京創元社マガジン』のURL:
http://www.webmysteries.jp/
渡辺さんによる「SF文庫データベース」のURL:

https://www.asahi-net.or.jp/~yu4h-wtnb/database/database00.htm

渡辺さんによる「創元SF文庫の歴史」のURL:
https://shimirubon.jp/series/144

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 ■4月例会レポート by  

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★お休みです。

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 ■5月例会レポート by

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■日時:5月6日(土)19:00-20:30
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:読んで、集めて、書庫を建て 〜乱れ殺法SFファン控〜
●ゲスト: 水鏡子さん(レビュア)、北原尚彦さん(作家)、大森望さん(翻訳家)


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今回のファン交は、4年ぶりに対面形式で開催されたSFセミナーに合わせて上京した水鏡子さんに、書庫となろう系小説について伺いました。

もともと買う本は年間200冊程度で、蔵書も5000冊程度だったという水鏡子さん。ところが書庫を造ったとたん、本を入れるスペースが一杯あるからと、いきなり買う本が急増し始め、4年前には何と年間で3800冊も購入してしまいます。その後は意識して減らしたといいますが、それでも年間2500冊ペースが続いています。ちなみに北原さんでも、買うのは年間750冊程度だとか。

さぞ金がかかるだろうと思いがちですが、『本の雑誌』に掲載されたリストでは、1ヶ月に354冊買った月でも費用はたった70,653円。1冊当たり200円にもなりません。これは安い本ばかり買うほかに、まんだらけやブックオフの株主優待を駆使した結果だそう。

なぜこんなことになったのか。「学生時代は昼飯を我慢して本を買っていた。それが可処分所得が増えたら、1冊当たりの単価は上昇せずに、買う本の冊数が増えた」と水鏡子さん。

一度ある本を安く買ってしまったら、同種の本を高値では買えなくなるそうで、たとえばハヤカワSFシリーズでも許容価格は300円まで。『金属モンスター』は未購入ですが500円では買わない、と断言します(北原さんいわく「『金属モンスター』って、ひところは3000円くらいしたんですが……」)。

またこれまで興味のなかったジャンルでも、1冊買うと増殖しはじめるとのことで、北原白秋の童謡の本を買えば西条八十や野口雨情の本も買い始め、旅行記を買えば外国人の日本見聞記にも領域が広がり、さらに知り合いからマルクス経済学やアウトドアの本をもらい受けたりするので、買うべき本の種類が際限なく増えていきます。

続いては水鏡子さんの書庫が画像で紹介されました。2階建ての日本家屋の実家とその隣に建つ真っ白な直方体。前者に第1・第2書庫があり、後者こそ本の雑誌社の『本棚が見たい!』でも採り上げられた、10万冊収容可能なウワサの第3書庫です。最近はエアコン代がかさむので、もっぱら第3書庫の中で生活してるそうです。

第3書庫には、おおまかにわけて1階に日本の小説、2階に海外の小説が収納されていますが、蔵書の移動もしばしばあるそうで、「理想の本棚などない。本棚は、自分の納得できるかたちを求めて並べ直していくうちに進化していくもの」というのが水鏡子さんの本棚観(?)だといいます。ちなみに時代小説を第3書庫から実家に移したときには引っ越し会社に依頼したのですが、わずか20メートルを移動させるだけなのに、いざ始めてみるとあまりの本の多さに途中で引っ越し会社から泣きが入ったそうです。

最後は水鏡子さんお勧めのなろう系小説について。

個々の作品については点数が多すぎるので、SFファン交流会のサイト

http://www.din.or.jp/~smaki/smaki/SF_F/akai.html

からリストをダウンロードしていただくことにして省略します。水鏡子さんによればなろう系小説の世界は、設定についてはみんな共有のものだという意識があって、盗作だのパクリだのという騒ぎはあまりないのですが、反面似たりよったりの話が多くなるので、そこからひと捻りふた捻りした作品の方が面白いといいます。

またこれらの小説の読み方に関しては、紙媒体はショーケースと割り切って、冒頭で気に入った作品があったら後はウェブで更新を追っかけるのが水鏡子さん流の楽しみ方です。ちなみに消化本数は週あたり約50作! 紙の本なら100冊! それも1日に8時間ゲームをしながらだというのだから驚きです。

最後に本棚のことで面白いエピソードをひとつ。本棚の中に一抱えもありそうな岩塩の塊が置かれていて、なんで岩塩が……と一同首を捻っていると水鏡子さんいわく「それは古本市場で売られていたもので、店が撤退するときに安く投げ売りされていたから買った」。水鏡子さんの書庫はもはや何でもアリの、それ自体がSFのような空間なのでした。

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 ■6月例会レポート by

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■日時:6 月 17日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名→500名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:前代未聞の《NOVA》がきた!
●出 演:大森望さん(アンソロジスト、翻訳家)、揚羽はなさん(作家)、池澤春菜さん(作家、声優)、溝渕久美子さん(作家)、藍銅ツバメさん(作家)

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今年4月に発売された『NOVA 2023年夏号』は、執筆陣が女性のみという、NOVAだけでなく日本SF史上でも初めての画期的なアンソロジーとなりました。今回のファン交では責任編集の大森さんのほか、執筆者13名の中から4名の方にお話を伺いました。

ただ大森さんによれば、全巻から2年ほど空いたので何かしらコンセプトの必要性は感じていたものの、女性作家限定と決めて取りかかった訳ではないといいます。女性作家優先で依頼をしていったところ、それだけで枠が埋まってしまったので、半ば後付けみたいなかたちで決定したそう。

原稿が集まったあとの配列は1日悩んだそうで、トップバッターは「日常から入っていける話は貴重」と池澤さんの「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」。動物つながりの話を中盤に並べて、シメは「ダークな『ヒュプリスの船』で終わるのもちょっとどうか」と、ほのぼのした藍銅さんの「ぬっぺっぽうに愛をこめて」を置いたといいます。

続いては個別の作品について。女性のダイエットが宇宙規模にまで拡大する「あるいは脂肪でいっぱいの宇宙」は時間がなく電車の中でiPhoneを使い、自分の書きやすい脚本のイメージで書いたものだそうです。「NOVAは幕の内弁当みたいなものだから、スパイスの効いたおかずのつもりで書いた」とは池澤さんの弁。

一方で、「シルエ」は「難産だった」と揚羽さん自身が言います。事故によって幼い我が子を生命維持装置の中で生かしておくしかなくなった親と、そこへやって来たアンドロイドの物語なのですが、大森さんが結末に納得せず、何度か書き直すことに。今の結末は、ある日ふと浮かんできた光景だそうです。

溝渕さんの「プレーリードッグタウンの軌跡」は何と語り手がプレーリードッグのお婆さん。もともとは橋本輝幸さんが「齧歯類小説のアンソロジーが読みたい」と呟いたことからヒントを得たものです。大森さんからは「1930年代の台湾を舞台に」というオーダーだったのを、プロットを提出して変更させてもらったといいます。また、デビュー作はSFじゃないと言われることがあったので、今回はSFの作法を忠実に守ったとか。

藍銅さんの「ぬっぺっぽうに愛をこめて」は、小学生の女の子が妖怪ぬっぺっぽうを育てて父親に食べさせる話で、もとはゲンロン創作講座の課題として書いた作品でしたが、掲載作は改稿してかなり短くしました。ちなみに藍銅さんは昨秋に菅浩江さん・新川帆立さんと旅行しましたが、そこで全員がNOVAから依頼を受けていることが判明しビックリしたそうです。

後半は日本SFにおける女性作家の位置づけについて、まずは大森さんから概説がありました。

アメリカでもSFは白人男性のものという時代が長く続き、その傾向が変わったのは1960年代になってからでした。初期の日本SF作家クラブでも女性の翻訳家はいましたが作家は皆無。

そんな中、SFマガジンが75年に女流作家特集を組みます。この号は鈴木いづみと山尾悠子が初登場を果たした号でもありました。それから程なくして新井素子、菅浩江らがデビューし、現在では新井のほか大原まり子・宮部みゆき・上田早夕里がSF大賞を受賞するなど、女性作家の位置づけは大きく変わりました。

続いて各出演者に、小説を書くとき女性であることを意識するかと質問すると、
揚羽さん「意識はしない。むしろ客観的に女性を見られるせいか男性視点の方が書きやすい」
池澤さん「自分が演じられる人物なら性別に関係なく書けるが、逆にどう演じていいのかわからない人物では書けない」
溝渕さん「小説は文化的なものだから、そこでどう振る舞うかは考える。実は創元SF短編賞で最終候補になったときPNを変えるよう言われて、あえて性別がわかるようにした。そうすれば女性がどのくらい候補になって受賞したか、統計的なプレゼンスができると思ったから」
藍銅さん「デビュー作でも30歳手前の青年を主人公にした。理想の女の子を描くことに執着があって、そのためには距離がとれる男性の方が書きやすい」

池澤さんは、男性でも女性でも作品の面白さに差はない、としながらも、韓国SF作家連帯ではメンバーの半数近くが女性であうことを指摘し「SFがこれまで沈黙を強いられてきた人の声を上げるきっかけになっているのかもしれない」と述べます。男性性と女性性をめぐる表現については、2次会でも話が続きました。

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 ■7月例会レポート by 

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■日時:2023年7月15日(土)14時集合、16時すぎ解散(予定)
■集合場所:豊島区立トキワ荘マンガミュージアム前(豊島区南長崎3-9-22)
●テーマ:トキワ荘ゆかりの地めぐり


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7月のファン交は3年半ぶりのオフライン企画、しかも相当久しぶりのお出かけ企画となりました。SFマガジンが藤子・F・不二雄の特集を組んだことにちなみ、ゆかりのトキワ荘マンガミュージアムを訪ねました。

周辺は、築50年以上らしい建物も珍しくない閑静な住宅地。大江戸線落合南長崎駅から細い路地を5分ほど辿った南長崎花咲公園内にマンガミュージアムはあります。

入館料500円を払い、靴を脱いで上がると、1階がラウンジと企画展示室、2階が昭和30年代はじめの漫画家たちの部屋を再現した造りになっています。

案内人の小出さんは、トキワ荘復元プロジェクトに最初期から関わっており、漫画家のエピソードだけでなく、建築や周辺の歴史にも通じた方でした。間取りの復元に際しては、当時の住人からの聞き取り調査や解体工事中の写真を参考にしました。また各部屋の大きさについては、豊島区の職員が保存していた天井板の現物が決め手になったそうです。ただ実際の建築に当たっては、木製のサッシや磨りガラスなど、当時の建材を生産している工場が少なく、入手には苦労したといいます。

1時間ほどで見学を終え、入り口前の看板で記念写真を撮ると、小出さんと星野勝之さんの案内で周辺の施設へ。実際のトキワ荘跡地を訪ね、トキワ荘通り昭和レトロ館で昔の豊島区の様子を見学した後は、トキワ荘通りお休み処に行きました。ここは1926年築の元米屋で、出桁造りと呼ばれる典型的な昔の商家の建物です。

お休み処の2階には、トキワ荘時代の寺田ヒロオの部屋が、写真を元に家具から小物に至るまで精密に再現されているほか、トキワ荘自体のジオラマが展示されています。一行はここで、大島さんという女性からお話を伺うことができました。

大島さんは昭和30年生まれ。幼少時にはトキワ荘の漫画家のもとへ遊びに行っていたというまさに当時の生き証人です。「2階で騒いでいたら1階の住人に怒られた」「トキワ荘は廃材で造られていたので、その中に潜んでいた南京虫にみんな悩まされた」など、貴重な証言をされていました。また大島さんは、赤塚不二夫が借りていたアパート・紫雲荘のオーナーで、現在でも漫画家の卵を月2万円の家賃で住まわせています。

最後に一行はふたたび花咲公園に戻り、園内の喫茶店でお酒の飲める人は寺田ヒロオ考案のチューダー(焼酎のサイダー割り)を飲んで解散となりました。ちなみに星野さんいわく「子供のころはチューダーに憧れていたのに、いざ大人になったら下戸だと判明した」だそうです。

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 ■8月例会レポート by  

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■日時:2023年8月6日(日)予定
■会場:第61回日本SF大会「Sci-Con2023」《浦和コミュニティセンター》
●テーマ:SF入門書で「SF再入門」

●ゲスト:池澤春菜さん(作家、声優)、冬木糸一さん(書評家)、牧眞司さん(SF研究家)


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8月のファン交例会は、第61回日本SF大会「Sci-con2023」内の企画の一環として行われました。

まずは牧さんからSF入門の歴史について概説がありました。

牧さんは福島正実・石川喬司・野田昌宏を「SF伝道師のビッグ3」と位置づけます。

SFマガジン初代編集長としてSFの普及に心血を注いだ福島は多くの入門書を著しましたが、中でも有名なのが1965年に日本SFシリーズの別巻として出た『SF入門』で、ロングセラーとなり70年代の前半あたりまでは新刊で入手できました。

評論家として草創期の日本SFを支えた石川には作家論・SF論をまとめた『SFの時代』(77年)がありますが、ほかにも新聞記者という前歴を生かしたジャーナリスティックなセンスが光る著書もあります。

SFの文学的・社会的意義を強調した前二者と違い、SFのワクワク感を読者に伝えたのが野田でした。『SF英雄群像』(69年)で日本にスペースオペラというサブジャンルを定着させただけでなく、英米のイラストの紹介にも力を注ぎました。

後半は、最近SF入門を上梓した冬木さんと池澤さんの話となりました。

ビジネス書を中心に出版しているダイヤモンド社から『SF超入門』を上梓した冬木さん。当初の企画では、月に30冊読む読書術というコンセプトだったのですが会議で却下され、SFの本にシフトしたそうです。

手本になったのがNHKの『100分de名著』で、内容をガッツリ紹介するよう心がけただけでなく、AI・VRなど現代的なトピックと関連付けるようにしました。ただSFの歴史について7万字も書いたのに、それはあえなくボツになったとか。

一方、『現代SF小説ガイドブック』を出したPヴァイン社は韓国文学のガイドブックを以前に出していて、その流れでSF入門の企画も決まったといいます。監修の池澤さんの仕事は、紹介する作家50名のセレクトと、ライターの選択。ライターは、コラム担当は実績のあるベテランを指名、逆に作家担当はゲンロンや大学SF研人脈を通じて若い人に依頼しました。

作家紹介に関しては原稿のガイドラインを決め、池澤さん自身が見本を提示、事実だけでなくライターの偏愛も見せてほしいと要請したそうです。読者にはSFを読み始めて「次」を読みたい人を想定。価格は安く手に取りやすいようにとパッケージングにも腐心しました。

「まったく白紙の状態でSF入門を読む人はあまりいない。何らかの興味を持ったからこそ入門書を手に取る」と牧さん。SF入門の概説から始まって、入門書とは何かという問題にまで降りていくような企画でした。

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 ■9月例会レポート by  

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■日時:2023年9月16日(土)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:10月まで待てない! レイ・ブラッドベリの世界
●ゲスト:中村融さん(翻訳家)、牧眞司さん(SF研究家)、井上雅彦さん(作家)

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2012年に亡くなったあとも読まれ続けるブラッドベリ作品。今回は7月に創元SF文庫で『何かが道をやってくる』の新訳を担当した中村融さん、ブラッドベリのファンである牧眞司さん、井上雅彦さんにお話を伺いました。

自分がブラッドベリを翻訳するなんて夢にも思っていなかったという中村さん。はじめて訳したのは河出文庫のアンソロジー『20世紀SF』を編集したときで、「もう一生訳すことなんてないだろう」と編者権限を行使して「初めの終わり」を新訳しました。ところがこれが編集者の目にとまり、『塵よりよみがえり』『万華鏡』など単行本も手がけることに。

そして『何かが道をやってくる』となるわけですが、今回はこれまで培ってきたブラッドベリ翻訳のノウハウが通用せず相当苦労しました。理由は50年代と60年代では原文の文体が違っているからで、特に説明もなく比喩がポンポン出てくるのに手を焼いたといいます。ただしこれは日本人だからという訳ではなく、ブラッドベリの文章は、英語が母国語の読者でも読みづらいという人がいるそうです。

面白いことに、中村さんは十代の頃はブラッドベリが「甘っちょろい」と好きではなかったとのこと。評価が変わったのは大人になって『恐竜物語』を読んでからで、子供にはノスタルジーという感情が理解できなかったためだと自己分析します。

一方、中学生の頃からブラッドベリを愛読していた牧さんは、子供にもノスタルジーはあると言い、ブラッドベリ作品には「少年時代に見る悪夢」のテイストがあると指摘します。牧さんがブラッドベリに惹かれたのは、SFのメインストリームとは違う独自の作風があったことはもちろんですが、星新一・伊藤典夫・川又千秋の文章に影響された部分もあるそうです。

井上さんには、ブラッドベリさながらの幼児体験がありました。昭和30年代、大人に連れられて行った後楽園ゆうえんちで、ピエロが人間の首を絞めているポスターを見てすごく怖かったそうです(後で考えたら、それは後楽園でも後楽園ホールのプロレスのポスターで、デストロイヤーとジャイアント馬場の組み合わせだったらしかったのですが)。そのときの記憶が、ブラッドベリを読んだ際に蘇ってきて衝撃を受けたといいます。

井上さんはプロになってから、コンベンションでブラッドベリに会っています。その折り、ブラッドベリ作品への愛を縷々綴った『異形コレクション』を持参したところ、その本にブラッドベリがキスをするというファン冥利に尽きる経験もしました。

最後はお三方オススメのブラッドベリ5冊。中村さんは「無人島へ持っていきたい5冊」ということで、『恐竜物語』『火星年代記』『刺青の男』『たんぽぽのお酒』『緑の影、白い鯨』。最後の『緑の影、白い鯨』は映画『白鯨』の脚本を書いた経験を基にした非現実的要素のない自伝風小説とのこと。

牧さんは「想い出に残る5冊」ということで『10月はたそがれの国』『メランコリイの妙薬』『ウは宇宙船のウ』『華氏451度』「Futuria Fantasia」。「Futuria Fantasia」はアマチュア時代のブラッドベリが作ったファンジンで、テキストはプロジェクト・グーテンベルクで読めるそうです。

井上さんは「僕を咬んだブラッドベリ ベスト5」ということで『黒いカーニバル』『ウは宇宙船のウ』『ハロウィーンがやって来た』の単行本のほかに、短編「群衆」「死人使い」。作家としては「第二のアッシャー邸」「亡命した人々」など、先行する作家にオマージュを捧げたメタな怪談に影響を受けたと語りました。

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 ■10月例会レポート by  

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■日時:2023年10月21日(土)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:キム・ニューマンのハロウィンパーティ
●ゲスト:鍛治靖子さん(翻訳家)、北原尚彦さん(作家、翻訳家)、冬木糸一さん(書評家)

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今回はハロウィンにちなみキム・ニューマンのお話です。

まずは冬木さんからニューマンのプロフィールについて。

ニューマンは1959年生まれ。当初はジャーナリストとしてホラー映画のノンフィクションなどを書いていましたが、ジャック・ヨーヴィル名義でウォーハンマーRPGのノベライズを発表し作家デビュー。92年発表の『ドラキュラ紀元』シリーズで人気作家になります。

その一作目『ドラキュラ紀元』(現『ドラキュラ紀元一九八八』)の邦訳が刊行されたのが95年のこと。梶元靖子名義で翻訳を手がけた鍛治さんによれば東京創元社の編集者から「ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』って読んだことある? 切り裂きジャックって知ってる?」と訊かれ「はい」と答えたところ原書が送りつけられて来たのだとか。

それで取りかかった感想は「……文中の固有名詞、全部訳すの?」。というのもニューマンはオタク気質で、しかも自分の知識を全部作中にぶち込むタイプなので、登場人物の名前だけでなく地の文にもいちいち典拠があるからなのでした。

当時はインターネットが普及していなかったため、図書館に通い詰めたほかニフティサーブで質問するなど大変なことになりました。鍛治さんによれば訳している倍の時間を調べ物に費やしたそうです。結果、付録につけた人名辞典は200名に上りました。現行版ではさらに増補されて1000名ほどになっています。現在ではネットの恩恵をこうむることができますが、それでも調べ切れない箇所があるそうです。

シリーズには未訳のOne Thousand MonstersとDaikaijuがあって、どちらも日本が舞台。こちらでもニューマンの博覧強記とネタ密度は相変わらずで眠狂四郎、加藤保憲、犬神明、麻宮サキ(と思われる登場人物)が出てくるそうです。

一方、シャーロッキアンである北原さんはホームズパロディの原書を買い集めているうちにニューマンがアンテナに引っかかってきたといいます。そしてあるときニューマンがインタビューで「モリアーティものを書いている」と語っているのを目にします。それが後に北原さん自身が訳すことになる『モリアーティ秘録』なのでした。

2011年に原書が出ると即購入し、一晩で内容をチェックすると東京創元社に翻訳権を取るよう依頼、翌年には翻訳に取りかかりました。ところがここでもニューマンの凝り性が災いして邦訳の刊行は18年になってしまいます。ヴィクトリア朝時代の俗語を使って書かれているので、英和辞典を引いてもピッタリくる訳語がなかなか出てきません。結局、16年に訳し終えたものの訳し直しと調べ物でさらに1年を費やしました。

ただ、時間がかかったことで結果的によかったこともあるといいます。ひとつは長らく品切れ状態だった『ドラキュラ紀元』の再刊とタイミングが合ったこと。もうひとつはその間に映画やマンガによってモリアーティ教授の存在がメジャーになったことでした。

気になる今後の邦訳ですが「やりたいことはやりたいが『またアレか……』という気分もある」と鍛治さん。海外でも「翻訳者によるキム・ニューマン暗殺計画がある」というジョークが出るほどの難物のようです。

それは措くとして、未訳書には日暮雅通さんがニューマンの小説に登場する権利をオークションで競り落とした結果、バロン日暮なる名前で登場、しかも扱いがいい――など、本家に負けないマニアックな情報が飛び交う企画となりました。

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 ■11月例会レポート by  

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■日時:2023年11月11日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:ドードー鳥とSF鳥
●出 演:川端裕人さん(作家)、八代嘉美さん(幹細胞生物学者)

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今回はドードー鳥の話です。

先日『ドードー鳥と孤独鳥』を上梓した川端さん。『不思議の国のアリス』などで知られるドードーですが、川端さんが興味を持ったきっかけは高校時代に読んだウォルドロップの「みっともないニワトリ」だったそうです。

ドードーはインド洋のモーリシャス島に棲息していた鳥類。16世紀末に人間に発見されたあと100年も経たずして絶滅に追い込まれてしまいます。

そのドードー研究史で大きなトピックがあったのが2014年のこと。オランダの公文書館に残されていた長崎・出島のオランダ商館の記録から、江戸時代初期の日本にドードーが持ち込まれていたことが判明したのです。

惜しいことに日本に来たドードーがその後どうなったのかは不明です。ただ川越市内の神社には、同時代の松平信綱が持ち帰ったといわれるオオサイチョウの標本が保存されていることから、ドードーもひょっとしたらどこかに……と考える研究者は多いそうです。

川端さんは、17年にモーリシャス島の化石発掘に参加してきました。モーリシャス島は火山性の島で土質が酸性のため、仮にドードーの骨が残っているとしても、今が発掘できる最後のタイミングなのだといいます。一行は洞窟はもとより岩の隙間まで探しましたが、結局収穫を得ることはできませんでした。

ちなみにモーリシャス島では、ドードーは島のシンボル的存在として切手のデザインから酒のブランドまで、あちこちでお目にかかることができます。これは島の住民の大半が、ドードーが絶滅したあと労働力としてインドから連行されてきた人々の子孫で、自分たちが絶滅させたという意識が薄いこと、またこのような来歴からドードー以外に住民を統合するシンボルがないことが理由だといいます。

ではドードーをはじめとする絶滅した動物を、脱絶滅――バイオテクノロジーを駆使して復活させることは可能なのか。後半は八代さんをまじえ、そのことに関する問題について話がありました。

現在、復活プロジェクトでもっとも盛り上がっているのはマンモスです。マンモスは近隣種のアジアゾウを代理母としてクローンを造る構想がありますが、そもそもアジアゾウ自体が絶滅を危惧される種。マンモスより先にアジアゾウの保護が先ではないかという議論が出てきます。

これに対してマンモス復活を推進するコロッサル社は、復活プロジェクトはアジアゾウの保護にもつながるし、復活したマンモスを寒冷地に放てば現在の針葉樹林の何割かは草原となり、地球温暖化への対策にもなると主張します。マンモスも復活し、アジアゾウも保護され、環境問題も解決して三方よしということです。ただ私(鈴木)は、それって人類の起こした温暖化の始末をマンモスに押しつけているだけではないか、と思いました。

さらに鳥となると卵生ですから、哺乳類とはまた違った技術的問題があります。モーリシャス政府はドードーの復活には前向きなのですが、それは観光資源にもなるし、ドードーは飛べないので周囲を囲っておけば生態系への悪影響もないという理由です。つまり、マンモスやドードーに限らず絶滅動物の復活には技術と政治の問題が複雑に絡んでいて、ゲノムが解読できれば即復活というわけにはいかないようです。

そもそも絶滅した動物を復活させるといえば聞こえはいいですが、何をもってして復活――「元」の自然へ戻ったと見なすのかという問題もあります。

人間の手がつかない「元」のままの自然をウィルダネスといいます。しかし川端さんも八代さんも、ウィルダネスというものが存在し、それ自体に価値があるという考え方には懐疑的です。人間の手の入っていない自然がそもそもないという立場だからです。

そしてウィルダネスを認めるかどうかは、単に抽象的な価値観にとどまらず、バイオテクノロジーによる医療や農水産業をどこまで許容するかというきわめて現実的な問題にも直結します。今回はドードーから始まって、人類と自然との関わりとは何か、というところまで発展した企画でした。

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 ■12月例会レポート by  

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■日時:12月23日(土) 17:00-22:00
会場: 「台湾料理 味王」
(JR新宿駅東口徒歩3分/新宿区新宿3-36-18 三協ビル 3F)
●テーマ:納会&プレゼント交換会

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楽しいひとときでした!

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