ファン交 2022年:月例会のレポート

 ■1月例会レポート by y鈴木力

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■日時:2022年1月22日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)

●テーマ:2021年SF回顧「国内編」&「コミック編」+『SFマンガ傑作選』
●ゲスト:森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、香月祥宏さん(レビュアー)、福井健太さん(書評家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、林哲矢さん(SFレビュアー)

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今回は毎年恒例、2021年の国内作品とコミック回顧のほか、アンソロジー『SFマンガ傑作選』を上梓された福井健太さんにお話を伺いました。

一昨年に引き続き、コロナ禍に明けコロナ禍に暮れた2021年。森下さんと香月さんがまず挙げたのが『ポストコロナのSF』でした。19人の作家がさまざまな切り口でコロナ禍の世界を描いたアンソロジーです。「SFは以前から現実と対応しながら作品を生み出してきた。これはSFの機動性、自由さが生かされた本」と森下さんは評します。

話題となったアンソロジーといえばもう一冊『異常論文』。「論文というのはふつうキャラクター性を排したものだけど、本書を読むと、こんな論文を書くのはどんな人なんだろう?と逆説的にキャラが気になってくる」と香月さん。

2021年の国内作品は、長編で大物が出なかった代わり、アンソロジー・短編集に収穫の多い年でした。短編集としてお二人が挙げたのが高野史緖『まぜるな危険』と小田雅久仁『残月記』。前者は19世紀ロシア文学とオタクカルチャーをリミックスしてとんでもない世界を描き出した作品、後者は月をモチーフとする連作を収録していますが、パンデミックものとして始まったらディストピアものとなり、果ては異能バトルになるという先の読めない作品です。

SFプロバー以外で香月さんオススメの短編集は稲葉祥子『あやとり巨人旅行記』。作者は純文学系の同人誌で書いている人ですが、表題作は電線であやとりする巨人と女性のロードノベル、また収録作の「大和川」は、世界中のパソコンの起動時間を集めて生み出された人間が主人公(何を言ってるのかわかりませんが本当にそういう話だそうです)と、とにかく発想が異常な作品だといいます。

森下さんがノンフィクションの収穫として挙げていたのが浅羽通明『星新一の思想――予見・冷笑・賢慮のひと』。星新一の評伝だった『星新一 一〇〇一話をつくった人』とは方向性が違い、星作品を読み込むことで、彼が世界をどう見ていたかを探った本です。

続いてコミック編では、各人のオススメを数作ずつ挙げてもらいました。

福井さんのオススメ、辻次夕日郎『スノウボールアース』は最近珍しい正統派のロボットアクションもの、有馬慎太郎『地球から来たエイリアン』はテラフォーミングを管轄するお役所が舞台のコメディ、山本和音『夏を知らない子供たち』は短編集でSFはそのうち3作のみですがどれも高レベル。SFMでもHMMでも書評欄で採り上げられたとか。

林さんのオススメ、水上悟志『最果てのソルテ』は異世界ファンタジーですが2巻まで読むとSFらしい背景が見えてくるとのこと。速水螺旋人『男爵にふさわしい銀河旅行』はこの作者らしいアナログなメカが出てくるコメディで、レムのロボットものに近いテイスト。瀬野反人『しらずの遭難星』はブラックホールを周回する惑星で遭難した登場人物のサバイバルものです。

日下さんのオススメ、『BoichiオリジナルSF短編集』は『Dr.STONE』が大ヒットしたBoichiの作品集で、「今一番濃いSFを描く人」(福井さん)との評も。どぜう丸原作・上田悟司漫画『現実主義勇者の王国再建記』はライトノベルのコミカライズですがとにかく漫画家が上手いとのこと。また日下さんはトピックとして椎名高志『絶対可憐チルドレン』の完結を挙げていました。

最後は『SFマンガ傑作選』のお話です。東京創元社から福井さんへ「SFマンガのアンソロジーを作らないか」と電話があったのが5年前。その後、しばらく企画を寝かせたりなど紆余曲折ありましたが昨年末にやっと刊行までこぎつけました。

最初から70年代限定にする意図はなかったそうで、入れなければいけない作品を絞っていったら結果的にそうなったとのこと。80年代以降は発表形式が短編から長編にシフトし、また、各時代から均等に採るとクオリティが揃わないという事情もあり、最終的には割り切ることにしたそうです。

ただ、当時の文脈を再現することは意識していて、たとえば佐藤史生の「金星樹」を入れた背景には、ロマンスSFというサブジャンルが忘れられているという考えがあったといいます。

作品の配列は発表時代順ですが、「頭に手塚治虫が来て、最後は星野之宣の「残像」でうまく収まった」と福井さん。その一方で著作権所有者の許諾が得られず断念した作品も少なからずあったそうです。また「面白くても入手しやすい作品を入れるか、多少質は落ちてもレアな作品を入れるかは悩む」とも。こうした福井さんの言からはアンソロジー作りの面白さと難しさが垣間見えました。

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■2月例会レポート by y鈴木力

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■日時:2022年2月19日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:2021年SF回顧(海外編・メディア編
●ゲスト 中村融さん(翻訳家)、添野知生さん(映画評論家)、縣丈弘さん(B級映画レビュアー)、冬木糸一さん(レビュアー) 


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2月のファン交は、2021年の海外・メディア回顧でした。

海外編は、まず中村さんからいくつかトピックとそれに関する作品の紹介がありました。

まず第一は、収束しないコロナ禍に関連してパンデミックものが刊行されたこと。平凡社ライブラリーから出たアンソロジー『疫病短編小説集』には、エドガー・アラン・ポー、ブラム・ストーカーなどと共にJ・G・バラードの作品が収録されています。

第二に、旧作の新訳が次々刊行されたこと。特にバラード『旱魃世界』は『燃える世界』をバラード自身が大幅に改稿したもので、翻訳も素晴らしいとのこと。他にアシモフ『銀河帝国の興亡』シリーズなどがあり、中村さんもノースウェスト・スミスの新訳版『大宇宙の魔女』を共訳で上梓しています。

第三に、1990~2000年代の比較的新しい怪奇幻想小説が紹介されたこと。中村さんが代表的な作品として挙げていたのがジョー・ヒルの短編集『怪奇疾走』で、作者は何とスティーブン・キングの息子だそうです。中村さんいわく「短編は父より上手い」。

第四は、日本オリジナルの短編集・アンソロジーが多数刊行されたこと。特にエドワード・ケアリー『飢渇の人』は、作者自ら日本版のために書き下ろした作品を含む短編集です。他にも『去年マーズ・ヒルで』、『移動迷宮』、『海の鎖』などの書名が挙がっていました。

続いて冬木さんからは、話題となった長編の紹介がありました。堂々完結した劉慈欣『三体Ⅲ 死神永生』は、侵略ものだったⅠ、地球と三体文明の葛藤を描いたⅡよりさらにスケールアップしてこの宇宙そのものの行末を描きます。「今後10~20年で、これを超えるものが出るかどうか」と冬木さん。

アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は作者が『火星の人』路線に回帰した作品で、ど真ん中の冒険SF。N・K・ジェミシン『オベリスクの門』は『第五の季節』に続く三部作の第2部で、第1部では伏せられていた設定が明かされるとのこと。エイドリアン・チャイコフスキー『時の子供たち』はトレンドの地球外文明もののひとつで、テラフォーミングされた惑星で、進化した蜘蛛の視点から描かれた科学や人間の姿が読みどころです。

本格SF以外で冬木さんのオススメは、エストニア発のファンタジー『蛇の言葉を話した男』。帯でトールキン、ベケット、トウェイン、宮崎駿の名前が引き合いに出されていますが、少年ジャンプのような味わいもあるとのことです。

メディア編は添野さんの総論から。

昨年公開された邦画では興行成績上位に『シン・ヱヴァンゲリオン劇場版』などSF的設定の作品が多くランクイン。また『夏への扉―キミのいる未来へ―』『Arc アーク』という海外SFの映画化作品が同日に公開されるという出来事もありました。こういった背景には、SFが社会に受け入れられ、ことさらSFと強調しなくても見られるようになった状況があります。一方、洋画では『ゴジラvsコング』などを除くと興行的にヒットした作品はあまりありませんでした。

続いてお二人のオススメ作品です。縣さんが劇場で見て仰天したというのが『JUNK HEAD』。独学で映画を学んだ監督が、脚本・世界設定その他あらゆるパートを兼任したストップモーションアニメで、わずか3人で足かけ3年かけて撮ったという執念の産物です。

邦画で添野さんオススメが『サマーフィルムにのって』。高校の映画研究会が舞台で、時代劇を撮りたい女子部員が主人公。主演にぴったりの少年を見つけるが実はその正体は……という内容。青春SFの傑作として『サマータイムマシンブルース』に匹敵するレベルだそうです。

洋画では昨年ファン交でも採り上げた『DUNE/デューン 砂の惑星』が最重要作品とのことでしたが、それ以外では『エターナル』を添野さんは高く評価します。普通の人間に交ざって生きる不死人を主人公に、古代から現代まで文明のありようを問うた壮大な作品。縣さんのお気に入りは『サイコ・ゴアマン』。宇宙一凶悪なモンスターを自由に操る悪ガキが周囲に迷惑をかけまくる低予算カルトムービーです。

テレビ・配信作品での重要作は円城塔脚本の『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』。SF作家主導で作られたという意味では初代ゴジラへの回帰であると同時に、ヴィルヌーヴ監督作品など現代SFの映像化からの影響もあると添野さんは指摘します。ネット配信のアニメでお二人が絶賛していたのが『リック・アンド・モーティ』。マッドサイエンティストと孫の少年が多元宇宙を渡り歩く内容で、SFアイデアもブラックユーモアも満載。人類など何回絶滅したかわからないくらいということでした。

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 ■3月例会レポート by ねもと

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■日時:2022年3月26日(土)14:00-17:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ: 「SFという名の高速道路に乗って」ーー第9回ハヤカワSFコンテスト大賞・優秀賞作家に訊く
●出 演: 人間六度さん(大賞作『スター・シェイカー』著者)、
安野貴博さん(優秀賞作『サーキット・スイッチャー』著者)聞き手・鈴木力さん(ライター)ほか


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SFファン交流会3月例会では、「SFという名の高速道路に乗って」と題し、ゲストに第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞の人間六度さん大(『スター・シェイカー』著者)と優秀賞の安野貴博さん(『サーキット・スイッチャー』著者)をお招きし、聞き手を鈴木力さん(ライター)にお願いしインタビューを行いました。

先ず、初打ち合わせの時、人間六度さんは、なんとお呼びしたら、「人間さん?」と戸惑うスタッフに「六度でお願いします。」との答えに一同なんだかほっとしたり(笑)。タイトルは、色々悩まれたそうですが、お見せいただいた創作ノート(ネタ帳のようなもの)の片隅に既に『スターシェーカー』の文字が書かれていたり、コンテスト投稿や様々な執筆活動の裏には読書家のお父様を初め、ご家族との絆があったりとの現役大学生の六度さんの知られざる大学生活をお聞きすることができました。

また、ダブル受賞となった『きみは雪をみることができない』についてもお話をお聞きしました。今回のインタビューを通じてどちらの作品からも10代の頃に白血病を患い闘病生活を乗り越えた六度さんの熱いスピリットを感じとることができることを改めて実感することができました。

そして、現役のソフトウエアエンジニアとして活躍中の安野貴博さんお話も実に面白く、ソフトバンクグループのロボットペッパー君をプログラムしてM-1に出る等異色の経歴をお持ちだったり、封鎖された首都高を爆走する完全自動運転車が走りまくる小説を書いているのに実は運転免許を持っていませんとい一同驚きの告白があったりしました。他にも安野さんの科学技術への造形の深さやその視点から生まれる物語の構成の流れなどとても興味深かったです。

安野さんも『コンティニュアス・インテグレーション』で星新一賞の一般部門優秀賞を受賞されていたりと六度三だけでなく安野さん複数のコンテストの受賞経歴をお持ちだったり共通する部分が沢山ありました。特に、お二人の発言の端々から科学技術への信頼と期待とSFへの愛の強さを感じることができ、SFファンの集いとしてとても心地の良い3時間となりました。
ご出演いただいたゲストの皆様、ご参加いただいた参加者の皆様ありがとうございました。

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 ■4月例会レポート by y鈴木力

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■日時:2022年4月23日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:こんなのファンタジーなんかじゃない! 〈マニュエル伝〉の世界
●ゲスト:中野善夫さん(翻訳家)、安野玲さん(翻訳家)


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4月は国書刊行会から刊行された〈マニュエル伝〉と、その著者ジェイムズ・ブランチ・キャベルについてです。今回はゲストのお二方の他、垂野創一郞さん(翻訳家)、藤原義也さん(藤原編集室)、伊藤里和さん(国書刊行会)にもご協力いただきました。

ジェイムズ・ブランチ・キャベル(1879-1958)はヴァージニア州リッチモンドの名家の生まれ。幼少時からギリシャ・ローマ神話やアーサー王伝説、聖書などに親しみ、大学卒業後は系図調査・作成の仕事に就きつつ創作を始めます。

1919年発表の〈マニュエル伝〉の一編『ジャーゲン』が猥褻文書として発禁処分を受けたことから注目を集め、ベストセラーとなりますが、もともとが一般ウケする作風ではなかったことにより、一時は忘れられた作家となります。

しかし死語、ル・グインやリン・カーターらが絶賛したことで再評価が進み、現在ではリッチモンドに彼の名を冠した図書館があるほどです。またウィリアム・フォークナー、ジーン・ウルフ、シオドア・スタージョンなども自作の中でキャベル作品に言及しています。

さてその代表作〈マニュエル伝〉とは、13世紀の豚飼いマニュエルを祖とする人々の歴史を8世紀・23代に亘って描いた全18巻の物語で、今回邦訳された『ジャーゲン』『イヴのことを少し』『土のひとがた』は、その中でも特に評価の高い3冊とのこと(これ以前にも『夢想の秘密』が世界幻想文学大系の1冊として訳されています)。

その特徴としては茶化しのユーモア、アメリカ南部への諷刺、時にストーリー展開を見失うほどの登場人物の饒舌などが挙げられます。中野さんいわく「早く書かれすぎた、異世界ファンタジイが溢れた現代以降の小説。シリーズものの剣と魔法の物語が嫌いな人にこそ読んでほしい」。

もともと邦訳の企画は、垂野-藤原ラインと、中野-伊藤ラインで別個に立てられたものでした。ところがひょんなきっかけからお互いのことを知り、一緒にやることになり、安野さんにも声がかけられたそうです。

翻訳に際しては訳語を統一するため、中野さんが1000語以上に上る用語表をスプレッドシートで作成し進めましたが、訳し終えての感想はお三方とも「もう二度とやりたくない」。垂野さんいわく「英語というよりキャベル語」だそうで、また安野さんも、言葉遊びや単語に込められた含意が多く、考えれば考えるほど泥沼にはまるような作業だったといいます。

今回は池澤春菜さんに推薦文を書いてもらいましたが、編集部から依頼してくれと言われた中野さんもプライベートな連絡先を知りません。ツイッターのDMだけが頼りでしたが普通に出しても見落とされてしまうだろうと考えた中野さんは、何とスペイン語でDMを書くという奇策に出ます。結果は大成功で池澤さんからもスペイン語の返信が届き、無事今回の推薦文となったのでした。ちなみに池澤夏樹さんも『夢想の秘密』に推薦文を寄せており、図らずも親子二代でのオススメとなりました。

国書刊行会版の〈マニュエル伝〉は、印刷や造本も凝っているのが特徴です。イラストはキャベル本人にも絶賛されたフランク・C・パペの作品を完全収録。印刷の鮮明さは、これまで世界中で出たどの版をも凌ぐものだそうです。また折り込みの地図も、わざわざ特殊な地図折り機械を探すなど編集の伊藤さんの執念が実った結果だといいます。

『夢想の秘密』は残念ながら現在品切れ中ですが、これを読むと他の3冊のこともいろいろわかるそうで、何とか復刊できれば……というのが関係者の皆さんの一致した希望でした。

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 ■5月例会レポート by  鈴木力

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■日時:2022年5月28日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:春のSFきのこ狩り
●ゲスト: 高原英理さん(作家)、飯沢耕太郎さん(きのこ文学研究家、写真評論家)、池澤春菜さん(作家、声優)


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今回のテーマはきのこです。

まずはお三方のお気に入りのきのこから。池澤さんは大きくて食べでがあるという理由からカラカサダケ。飯沢さんは『地球の長い午後』でSFファンにはおなじみのアミガサダケ。高原さんは毒きのこながら白くて美しいシロオニタケ。

続いてはきのこが登場するSFについて。池澤さんが挙げたのが上田早夕里「くらびらの道」(光文社文庫『魚舟・獣舟』所収)。人間がキクラゲ状の真菌に取り憑かれる話で、この真菌は肉体だけではなく精神にも影響を与え、取り憑かれた人は幻覚や幻聴を訴えるようになります。「きのこの怖い面と蠱惑的な面の両面を描いているところが魅力。きのこ好きには幸せ」と池澤さん。

飯沢さんはティドハーやヴァンダミアも寄稿したアンソロジー『FUNGI-菌類小説選集』(Pヴァイン)の解説を担当していますが、これはもともと飯沢さんが原書で読んだところ面白くて、出版社に邦訳を売り込んだものだそうです。飯沢さんは十代のころ読んだ『地球の長い午後』の印象が強いと言い、作中の他の生物名は伊藤典夫さんによる意訳なのにアミガサダケのみは直訳であると指摘します。

高原さんはブラッドベリ「ぼくの地下室へおいで」(創元SF文庫『ウは宇宙船のウ』所収)。この作品によってきのこ侵略もののフォーマットが確立されたと高原さんは言います。またこの作品は萩尾望都によってコミカライズされていますが、コミックの分野でもきのこの胞子を操る魔術師が登場する林田球『ドロヘドロ』や、人類が菌類に奉仕させられる未来を描く片山あやか『菌と鉄』など注目すべき作品があります。

そしてきのこ好きなら忘れてはならないのが、ホジスンの「闇の声」を福島正実たちがアレンジした映画『マタンゴ』。『FUNGI-菌類小説選集』の編者にも多大な影響を与えたこの作品、他の登場人物がきのこを怖がる中、水野久美演じるヒロインだけが美味しがって食べるシーンが印象的だそうで、「いつかリメイクで『シン・マタンゴ』を……」という声もありました。

後半は、高原さんが昨年末に上梓した小説集『日々のきのこ』についてです。

もともと山歩きのついでにきのこを観察していたという高原さん。収録作の1編は2010年に文芸誌に発表したもので、40年ほど前に見た夢が元になっています。「自分にとって夢は架空のものではない」と高原さん。

ちなみにこの文芸誌では同じ号に飯沢さんのきのこ文学論も掲載されており「われわれの見えない菌糸のつながりを感じた」と言います。ただし当初は、1冊にまとまるほど翔とは思っていなかった、とも。

池澤さんは本書について「あらすじ紹介が難しくて書評を書くのに苦労した」と言いつつも「日本のきのこ文学の決定版」と絶賛、飯沢さんも「きのこ好きによるきのこ好きのためのきのこ小説。将来、きのこ文学史が書かれるとしたらこの時代から書き起こされるだろう」と評します。最後には、池澤さんによる本文朗読もありました。

名うてのきのこ好き3名がきのこSFについて語り尽くした今回の企画、「私が死んだら菌葬にしてほしい」という池澤さんの言葉が印象的でした。

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 ■6月例会レポート by 鈴木力

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■日時:2022年6 月 25日(土)14:00-16:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名→500名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:SF作家とウルトラマン
●出 演:北野勇作さん(作家)、牧野修さん(作家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)、東雅夫さん(アンソロジスト

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みなさんは『シン・ウルトラマン』はご覧になったでしょうか。今回のファン交ではウルトラシリーズと怪獣を愛してやまない方々を迎えてお話を伺いました。

まずは『シン・ウルトラマン』の感想から。1958年生まれで『ウルトラQ』からリアルタイムで見ていたという牧野さんは「冒頭の場面が一番興奮した」。牧野さんと同い年でウルトラ経験を同じくする東さんは「2回見ました。ガボラが登場したところで泣きました」。62年生まれでウルトラマンより怪獣に思い入れがあるという北野さんは「訳のわからない存在としてウルトラマンと怪獣を同列に扱っている点が好き」。68年生まれでリアルタイム視聴は『帰ってきたウルトラマン』からの日下さんは「昔のウルトラマンを踏まえた展開が面白い」。

続いて話は怪獣に移ります。
『怪獣文藝』二部作を編集した東さんは『幽』関係の規格だったため「怪獣と怪談」というテーマを無理矢理考えたと舞台裏を明かします。このアンソロジーは佐野史郎・吉村萬壱・樋口真嗣などユニークな執筆者を揃えましたが、残念ながらあまり売れなかったそうです。

牧野さんは怪獣の魅力について不条理性、シュールレアリスティックな感じを強調。怪獣を見慣れていたおかげで、大きくなってシュールレアリズム美術に接したときも違和感なく入って行けたと言います。

怪獣とホラーの関係については「怪獣と目が合うと怖い」と牧野さん。これには東さんも「あまり巨大化しすぎると人間と目を合わせづらくなる。東宝フランケンシュタインみたいに身長20~30メートルくらいが一番怖い」と言います。

後半はSF作家と特撮の関係についてです。
まずは日下さんから歴史の概説がありました。

空想科学小説コンテスト(のちのハヤカワ・SFコンテスト)の第1・2回は早川書房と東宝の共催でした。これは香山滋原作の『ゴジラ』を撮った東宝が映画の原作を欲したためで、選考委員には円谷英二や田中友幸も名を連ねていました。また東宝に限らず当時のSF作家にはアニメ・特撮にアイデアを提供したケースが多々ありますが、「彼らは自分のやりたいことがどこまで通るか懐疑的だった」と東さんは指摘します。

今になって面白いのは筒井康隆と眉村卓が原案を担当した『SFモンスター作戦』。これは筒井や眉村の備忘録などには名前が出てくるものの結局実現しなかった幻の作品で、どんな内容だったのかほとんど記録が残っていません。日下さんによれば、以前ネット古書店で企画書が30万円で売られていましたが誰かに買われてしまったそうです。

こうしたSF作家と特撮の関係は一旦疎遠になりますが、21世紀に入る頃から大倉崇裕・朱川湊人・小林泰三らが登場しシーンが活性化します。

ここで話題は先年物故された小林泰三さんのことに。ウルトラシリーズが大好きだった小林さんは、北野さんたちが全然関係ない話をしていても「そういえばウルトラマンではね」と何でもウルトラマンを引き合いに出していたそうで、「それもその時々に放送中のウルトラマンの話をするんですよ。いや、僕らそんなの知らへんし。だから『多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー』でも、他の作家はQとかマンとかセブンなのに、あの人だけギンガでしょ。そういう人やったんです」と北野さん。それにしても、巨大フジ隊員を愛するあまり『ウルトラマンF』を書いた小林さんが、巨大長澤まさみを見たら何と言ったでしょうか。

今回の企画は北野さんの「SF作家に僕ら62年前後の生まれが多いのはウルトラマンと大阪万博の影響。だからひょっとしたら『シン・ウルトラマン』を見た若い世代からも新しい才能が出てくるかもしれん」という言葉で幕となりました。

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 ■7月例会レポート by ねもと

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■日時:2022年7月23日(土)21時30分〜22時30分(SFセミナー合宿企画内)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:夏だ! SFだ! アンソロジーだ!!
●出 演:大森望さん(アンソロジスト)、溝口力丸さん(早川書房)、水上志郎さん(竹書房)

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SFファン交流会7月例会は、『夏だ! SFだ! アンソロジーだ!!』と題してゲストに大森望さん(アンソロジスト)、書房溝口力丸さん(早川書房)、水上志郎さん(竹書房)をお呼びして、刊行が続く日本SFのアンソロジーについてお話をお伺いしました。

 先ず、90年代は、アンソロジーは壊滅的だったという大森さんの話から、角川文庫から出版したアンソロジーシリーズ『不思議の扉』の2007年以降増えていった印象とのお話がありました。

 最近の傾向としては、創元短編賞やゲンロンの創作講座などから新人作家が増えて作品数が集まるようになったこと、長編を書くのには時間と労力が必要な為、新人作家にも短編は書きやすかったりストックを貯めやすいというメリットがあるそうです。

 その代わり、掲載の場が減っているため、長編はなかなか出てこないという問題が発生しているのではないか?とのことでした。

海外のアンソロジストは、作品の選定、掲載交渉、編集まで全部やり一つのパッケージとしてほぼ完成したものを出版社に渡すそうですが、日本ではアンソロジストと編集者が二人三脚で作り上げる為、掲載交渉や版権取得等の事務仕事全般など編集者の行う仕事が膨大に膨れ上がり出版まで時間がかかってしまうことも少なくないのだとか。布団でゆっくり眠れないこともあるのだとか。竹書房の水上さんからは、「新社屋になり床で寝ても体がかゆくなりません!」なんて話も飛び出し、編集者のみなさんの健康で文化的な生活を形代に数々のアンソロジーが誕生したのだと思うと、刊行が続いていることのありがたみが増すというものです。

シリーズででるアンソロジーのタイトルには、できれば年号や番号などを振って欲しいという読者の要望に対して、年号や番号を振ると売りにくいという出版社の営業事情があるそうなんですが、竹書房の年間傑作選はそのまんまストレートな名前で読者に優しいといった話や装丁イラストを依頼する時の編集者独自のこだわりなど、出版にまつわるそれぞれのこだわりをお聞きすることができました。

また、早川書房からアンソロジーを続けて刊行している伴名練氏のアンソロジーにかける情熱とそのこだわりを担当編集者の溝口さんよりたっぷりお話していただきました。

 100名を超える多くの参加者の皆様、ご出演いただいたゲストの皆様の支えにより当初1時間を予定していた7月例会でしたが予定時間を超えての大盛り上がりとなりました。

 7月例会では、様々なトラブルが発生してしまい多くの皆様にご迷惑をおかけしました。当日参加していただいたゲストの皆様、参加者の皆様、Twitter等でフォローしてくださった皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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 ■8月例会レポート by 鈴木力

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■日時:2022年8月27日(土)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:吉田隆一の羊のお茶会「マンガと音楽とSFと」ゲスト:西島大介氏

●ゲスト:吉田隆一さん(SF音楽家)、西島大介さん(マンガ家)



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8月例会はSF大会の会場と、出演者・参加者をZoomで結んでの開催となりました。

まずは吉田さんによる西島さんへのインタビューから。中学生の頃から『海外SFハンドブック』や『世界のSF文学総解説』を手引きに翻訳SF作品を読んでいた西島さん。将来はSF作家になって青背から本を出したいと思っていたそうです。またアニメでは絵コンテ集を買うほど『トップをねらえ!』に熱中していた西島さんでしたが、漫画に関してはコロコロもジャンプも経験していないといいます。

そんな西島さんに転機が訪れたのは日本SF大賞授与式のパーティ。ここでたまたま出会った塩澤快浩SFマガジン編集長(当時)に「いまのSFMはダサい。若者は誰も読んでいない」と絡んだところ、「そこまで言うのならやってみろ」と音楽のコラムを担当させられることに。そしてライターからイラストレーターへとキャリアを積んでゆく中でJコレクションが創刊されると「ちゃんと1冊描けるのなら出してもいい」と言われ『凹村戦争』の上梓に繋がりました。

ここで話は西島さんが2020年に始めた個人電子出版レーベル「島島」のことに。日本では出版社が作家を囲い込み、権利を右から左へ動かすことでお金を得ていると西島さんは言います。

ところがイタリアで自作を出したところ、日本では1巻目が売れないと後が出せないのに、あちらでは何巻も出してくれたそうです。というのも海外では再販制度がないので、本のディスカウント販売が可能だから。アドバンスとして全巻分の印税を受け取った西島さんは「これは資産運用だ」と悟ったそうです。

こうした経験を踏まえ、「島島」のコンセプトは「普通の出版社が嫌がることをする」。だから売れない作品ほど大事にするし、自作の二次創作も奨励します。また無名の新人との競作にも取り組みます。「大儲けはできないけど昼飯代くらいは出るようになれば」と西島さん。吉田さんはこのコンセプトを音楽業界になぞらえて「大手レーベルでもなければ自主製作でもない、インディーズのありように近い」と指摘します。

吉田さんが西島さんの名前を知ったのはジョン・クリストファー『トリポッド』の表紙。その後『SFが読みたい!2004年版』掲載の漫画で意識するようになり、自作アルバムのジャケットのイラストを依頼するようになります。

最後にお話はSFと音楽の比較論へ。吉田さんは「単なる物理現象に過ぎない音が、人間の精神に影響を与えるのが音楽」と言い、その意味でそもそも音楽とはSF的なものであると主張し、「何が音楽か、とか、何がSFかは送り手が決めるものではなく、受け手が決めるもの」と言います。

一方、スノッブ的な音楽の聴き方に反発を覚えるという西島さんは、自作でシンプルな絵柄とシリアスな内容のギャップがよく言われることに対し、「レゴブロックの人形だって見方によってはエモくなる。絵をリアルに描き込めばシリアスに見えるというのは制度に過ぎない」と述べます。どうもお二人に共通しているのは「こういうものがSF/漫画/音楽だ」という社会的な思い込みに対する違和感のようです。

現在お二人は、音楽演奏とトークと読書会が一体となったイベント「チャリで来た。」をスタートさせています。
8月に開催された第1回の課題図書は『所有せざる人々』。
第2回は10月13日(木)を予定しています。会場は、1回目と同じ荻窪のライブハウス「ベルベットサン」の予定。
http://www.velvetsun.jp/

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 ■9月例会レポート by  鈴木力

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■日時:2022年9月24日(土)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:古本と横田順彌を語ろう!
●ゲスト:北原尚彦さん(作家)、日下三蔵さん(アンソロジスト)ほか

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今回は横田順彌さんの『平成古書奇談』刊行にちなみ、生前の横田さんと親交のあった北原尚彦さんと日下三蔵さんにお話をうかがいました。

まずは『平成古書奇談』刊行の経緯から。横田さんの死後、蔵書を整理していた北原さんが雑誌『文芸ポスト』の掲載作に気付き、日下さんに確認してもらったところ、単行本未収録の連作であることが判明。『古書狩り』を刊行した縁でちくま文庫からの刊行が決まりました。

作家志望の青年・馬場浩一が古書にまつわる不思議な出来事と出会う――というのが本書の内容ですが、作中に出てくる古書ネタは虚実入り乱れているといいます。せっかく抽選で目当ての古書が当たったのに、本人を騙る何者かに持ち去られてしまったという第7話のエピソードは、なんと横田さんの実体験だそうです。

横田さんの古書蒐集の原点にあるのが、押川春浪をはじめとする古典SFの研究です。その成果は『日本SFこてん古典』にまとめられていますが、北原さんは同書について「独力で古典SFというジャンルを創り上げた」と指摘し、と学会など広く文化に影響を与えたといいます。さらに横田さんはライフワークの集大成として『近代日本奇想小説史』に取りかかり、こちらも各方面で高く評価されたものの、残念なことに未完に終わってしまいました。

ハチャハチャSFで人気を博していた横田さんが、明治時代を舞台にした作品に本格的に取り組みはじめたのは1987年の『火星人類の逆襲』からでした。北原さんは最初に横田さんの書庫を見たとき、SFとは関係ない書物が多数あることに驚いたといいますが、「自分が創作する立場になってみると、ディテールの調べ方がよくわかる」と述べます。

横田さんの調べ物の極意は「調べ物は周辺から行え、いきなり答えを知ってしまうとそこから広がらない」で、一見SFと関係なさそうな蔵書も、明治SFのディテールを支える大事な資料となっていたのでした。

古書マニアの中には、自分の集めた本について情報を公開したがらない人もいるそうですが、横田さんは出し惜しみなく他人に教えていたといいます。「他人に知られることで古書価が上がる一方、紹介したからこそ、これまで捨てられていた本が残るという面もある」と日下さん。

北原さんも現在、買った古書についてはSNSで公開するようにしています。するといろいろな人から関連情報が寄せられて知識が増えていくそうです。横田さん本人は亡くなっても、そのポリシーは多くの人々に受け継がれているというお話でした。

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 ■10月例会レポート by 鈴木力

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■日程:2022年10月16日(日)夜
■時間:京都SFフェスティバル合宿枠(部屋2の2コマ目19:15〜20:15)
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:編集者小浜徹也をもっとよく知る14の質問<
●ゲスト:小浜徹也さん(東京創元社)

※より楽しんでいただくため、できるだけ京都SFフェスティバル合宿への参加申し込みをお願いします。
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今年度で40周年を迎える京都SFフェスティバル。今回は京大SF研OBで京フェスの生き字引ともいうべき小浜徹也さんにお話を伺いました。

1962年生まれの小浜さんが京都大学に入学したのは80年のこと。SF研の先輩には大森望さんがいました。

京フェスは、当時4年生だった大森さんが就職活動で上京したことがきっかけで始まりました。当初はSFセミナーを名乗るつもりだったのが、「他人の名前でやるのはよくない」とある先輩に諭され、小浜さんが学食で考え出したのが今の呼称です。

記念すべき第1回は、特にゲストとして呼んだわけでもないのに浅倉久志さんと川又千秋さんが来てくれたのが嬉しかったそうです。毎年開催するつもりはなかったのですが、牧眞司さんに別れ際「また来年!」と言われたのが今に至る40年の始まりでした。

京大時代はどんな人だった?という質問に「面倒くさい人だった」と小浜さん。当時、関西圏には武田康廣さんたちのゼネラル・プロダクツがあり、SF小説、わけても海外作品を読むSFファンはアニメ・漫画ファンに押されていました。そんな中、マイノリティの矜持ということを考えながらファンジンを編集していたといいます。

80年代初頭は電子メールも通販サイトもない時代。通信方法は郵便で、ファンジンの代金は定額小為替で支払っていました。そうした中から中央大の中村融さん、名古屋大の殊能将之さん、ぱらんてぃあの山岸真さんなど、同世代のファンとの連絡網が出来上がっていきます。「今の人脈の半分は大学時代のもの」と小浜さん。

プロの編集者になったきっかけは、東京創元社が1名採用すると聞いて「編集ならできると思った」。初めての仕事は武部本一郎の画集のお手伝い、一から自分で企画した本はハインラインの『ラモックス』でした。ちなみにこれまでで最も売れたのはクラークの『イルカの島』。はからずもイルカブームとバッティングした結果だそうです。

以来、創元のSF部門をひとりでまかされてきた小浜さんですが、「翻訳はどこへ向けて売るかというマーケティングとパッケージングがほぼ全て」「作家ではなくて編集者を育てたかった」といいます。

本を出した以上は売れたい、せめて誉められたいと小浜さんはいいます。しかし現在は、SFに限らずベストセラーが出にくい時代になっています。もちろんバズればそれに超したことはありませんが、そんな時代だからこそ、売れれば何でもいいのかと小浜さんは問いかけます。

入社から40年近くを経て、最近は自分のいなくなった東京創元社をよく想像するという小浜さん。「編集者にとって最も大事なのは志。自分は出版という世界で何をやっているのか、創元はそこでどう振る舞えばいいのか。そこを見失ったらダメになる」という言葉が印象に残った1時間でした。

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 ■11月例会レポート by 鈴木力

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■日時:11月19日(土)
■時間:午後2時〜5時
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:2020年代のSF自主出版とファンジン
●出 演」橋本輝幸さん(Rikka Zine主宰)、甘木零さん(「Sci-Fire」責任編集者)、 岡野晋弥さん(「SFG」代表)、井上彼方さん(Kaguya Planetコーディネーター)

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20年代に入ってからSFの世界では新しいメディアが活発化しています。今回のファン交では、そんな新しいメディアの担い手の皆さんにお話を伺いました。

橋本輝幸さんがRikka Zineを始めたのは19年。当初はSF作家へのインタビューなどノンフィクション記事ばかりでしたが、そのうち創作も掲載したいと思っていたそうです。ところがこの年の文学フリマが終了した後、コロナ禍で停滞してしまいます。このままではダメだと思い切って募集をかけたところ100近くの作品が集まりました。応募作品の中には英語で書かれたものも多数あり、それも中国・ブラジルなど英語が第一言語でない人によるものが一定の割合で含まれていたことが特徴でした。

甘木零さんが編集を務める「Sci-Fire」は、ゲンロンSF創作講座1期生のうち、もっと書きたいというメンバーが中心になって17年に創刊。創刊号は何と1時間で完売したそうです。ここの特徴はメンバーのプロ化率の高さで、斧田小夜さん・櫻木みわさんなど錚々たる作家を送り出しています。特に昨年は文フリ前日にファンタジーノベル大賞の発表があり、そこで藍銅ツバメさんが大賞に選出されるという劇的な展開もあったとか。また本誌を読んだプロの編集者から連絡が来ることもあるそうです。

岡野晋弥さんが編集するファンジン「SFG」は情報誌で、Gはゼネレーションの意味。岡野さんは「一人で全部読むのは大変」だからと、大勢が情報を持ち寄るスタイルで編集しています。また多くの人たちにSFを読んでほしいという気持ちも強く、毎回「アイドル」「異世界」など特集を組み、敷居を高くしないよう内容だけではなくビジュアル面にも気を遣っています(モデルは「スターログ」だそうです)。

もともとウェブジン「VG+」で活動していた井上彼方さんが、かぐやSFコンテストを始めるきっかけになったのは19年のSF大会。そこで藤井太洋さんから「創作も載せてみてはどうか」と言われたからだそうです。継続的に作品を掲載する場として「Kaguya Planet」を始め、22年にはクラウドファンディングでコンテスト関係者の書き下ろし作品を集めた『SFアンソロジー/新月』を刊行、商業ベースでの紙媒体に進出しました。

やって大変だった点は?という質問に対し、岡野さんは「本業の傍らで夜中に作業をしているので、生活がメチャクチャになる」。橋本さんも作業期間は睡眠時間が4~5時間で虫歯を放置していていたらひどく悪化したとか。

またメディアを継続していく上で避けて通れないのがお金の問題です。橋本さんは作家・翻訳家に対しては報酬を支払い(「Sci-Fire」でも招待した作家には原稿料を払っているそうです)、またKaguya Planetでも新作は公開から1ヶ月は閲覧を有料にして作家への支払いに充てていますが、収支は楽なものとはいえないようです。

この背後にあるのが外国と違い、セミプロ的な文化活動に対して補助金が出ないという日本の法的・制度的な問題です。クラウドファンディングには事前に資金を確保でき、また宣伝にもなるというメリットもありますが、個人で行った場合、税務署的には収入としてカウントされるので、注意しないと翌年の確定申告で大変なことになってしまいます。

一方でやってよかったことでは、岡野さんは「本の現物が出来上がると気分があがる」。井上さんは「推しの作家の新作が真っ先に読める」、甘木さんは「憧れの作家さんに読んでもらえる」との回答があり、やはり辛さを上回るだけの楽しさが、活動を続ける原動力になっているようです。

例会の翌日には東京で文学フリマがあり、出演者全員が出店していました。筆者(鈴木)も各ブースを回ってみましたが、いずれも盛況の模様でした。

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 ■12月例会レポート by  鈴木力

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■日時:2022年12月17日(土) 14:00-17:00
■会場:オンライン上(Zoomシステム使用)/定員100名(ゲストスタッフを含む)
●テーマ:SFガイドブックの魅力(仮)
●ゲスト:池澤春菜さん(作家、声優)、三村美衣さん(書評家)

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2022年最後のファン交は、ブックガイドのお話です。

まずは池澤さんの近著『SFのSはステキのS+』のお話から。本書はSFマガジン連載分に加え、SF作家クラブ会長座談会、書き下ろし短編を収録。毎回本を出すたびに「これが出せたら死んでもいい」つもりで作っているという池澤さん。帯にある劉慈欣推薦の文言は、なんと池澤さん自ら交渉して取ったものだとか。

続いて池澤さんが監修を務めた『SFガイドブック(12月17日時点での仮題)』について。池澤さんは、紹介する作家のセレクション・コラムのテーマ立て・ライター選びを担当しました。「自分でやってみて監修とはどういうものかわかった。その哲学で本のコンセプトに対して責任を持つものだったんです」と池澤さん。

紹介する作家は日本50人、海外50人の合計100人。「今のSFがわかるものにしたい」とンネディ・オコラフォーや伴名練など新しい作家を積極的に取り上げ、コラムでも非英語圏SF・ジェンダー・アフロフーチャリズムなどをテーマにしたといいます。また、ライターも若手を中心に起用しました。ただその反面、池澤さん個人が好きな作家でも、最近訳書が出ていないという理由で泣く泣く落とした人も多いとか。三村さんによれば、アシモフら御三家など定番の作家と、本が入手しやすい最近の作家はいいが、その間にあるニューウェーブ~サイバーパンクの作家はどうしても割を食うそうです。

一方、三村さんは自身がライターとして参加した『SFベスト201』の思い出を語りました。紹介する本を選ぶ段階で「この本はあいつにだけは担当させたくない」とライター同士の潰し合いが起こり最終的に決まるまで3年、そのあと監修の伊藤典夫さんが序文を書くまでみんな放置していたのでさらに6年かかったといいます。「セレクションしている段階が一番楽しい」と三村さん。

その三村さんが子供のころ聖典と仰いでいたのが筒井康隆さんの『SF教室』。読者にSF者になれとアジテーションする強烈な内容で、三村さんだけでなく多くの読者の人生を狂わせたといいます。反対に俯瞰的なSFガイドのない時代に育ったのが池澤さん。なぜ自由国民社の『世界のSF文学総解説』のような網羅的な本がなくなったのかについて、池澤さんは現在ではテーマ別の作品分類が難しくなっているのではと指摘します。「だって円城塔や高山羽根子って、どこに入れたらいいのか迷うでしょう?」。

お二人が理想とするブックガイドは?という質問に、三村さんは「ハッシュタグがたくさんついていて、読者が『こういうのが読みたい』と検索できるようなもの」と言います。ちなみに三村さんは以前、ブックガイドをショッピングモールに見立てて「お店やさんもの」の小説を紹介する本を考えたそうですが、その後この手の作品がめちゃくちゃ増えたので断念したそうです。

池澤さんが挙げたのは『ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーランド観光ガイド』です。ファンタジーのお約束を片っ端から裏切るこの著者らしく、「ファンタジーあるある」を意地悪な視点から記述した本で、三村さんいわく「ファンタジー版悪魔の辞典」、池澤さんも「これは入門編じゃなくて卒業編かも」。

というわけで、お二人の読書歴からSFというジャンルの歴史的変遷まで幅広く盛り上がった2時間でした。『SFガイドブック』は2023年2月にP-VINE社から発売予定です。

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『現代SF小説ガイドブック(仮)』( ‎Pヴァイン/2023.2.8)↓
https://www.nippan-ips.co.jp/business/distribution/distributionbookstore/9784910511375.html
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『SFのSは、ステキのS+ 』(早川書房/2022)↓
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000614170/
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『大人だって読みたい!少女小説ガイド』(時事通信社/2020)↓
https://bookpub.jiji.com/book/b547158.html
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『SFベスト201』(新書館/2005)↓
https://www.shinshokan.co.jp/book/b568794.html
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