記憶の遁走曲
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【3】



「あ、あぁ、はぁぁあっ」

 切ない声が暗い部屋に響いて、壁に映った青年の影が揺れる。
 規則正しく、一定の間隔で上下に揺れる青年の影。その影が頭を大きく振る度、それを包む薄い色の長い影が、ばさりと大きく体の周囲に舞っている。

「は、はぁ、あ……あ、はぁ、いいっ」

 影の元となる青年は、快楽に潤んだ瞳で天井を見上げて大きく喘ぐと、呆けたように口を開き、唾液で濡れそぼった唇から舌を伸ばす。淡い金髪を背まで伸ばし、女性めいた顔立ちの青年は、今まさに、女の様に男を受け入れて悦びの声を上げていた。
 ぐち、ぐち、といやらしくもリズミカルな音が、彼らの肉同士の繋がりを生々しく知らせる。二人分の体重に、ベッドが不機嫌な悲鳴を上げる。女性よりは少し低い、けれども切なげな高い声が、甘く断続的に更なるリズムを刻む。
 今、静かな部屋の中は、彼らの行為を示す音しか聞こえなかった。

「リーメリ……少し、屈めよ」

 低い唸り声と共に下の男が言えば、男にしては長い金髪を軽くかきあげて、リーメリは言われた通りにゆるく腰を揺らしたまま体を屈める。そこへ、下から伸びた手が、両側から金髪の青年の胸を包むように撫で、それからきゅっと固くなった乳首を指でつまんでいく。

「あぁぁんっ」

 高い声が上がって、長い金髪が振り乱れて揺れる。

「すげ締め付け……ココいいのかよ」

 軽い笑い声と共に下の男が言えば、一度止まっていた金髪の青年は、抗議するように腰を何度か強く揺らした。

「うあ、……っぁ」
「ぅ……ん、腰、止めるな……よ……」
「わぁってる、よっ」

 甘く喘ぎながらリーメリが言えば、下の男も負けじと相手を下から突き上げる。

「ふぁ、ん、あぅ、はぁ、は、ぁっん」

 リーメリの白い肢体が、暗い部屋の中で、何度も波打つように揺れる。下にいる男の手は、そんなリーメリの体を支えるように彼の腰を押さえ、だが時折彼の股間や胸やらに伸びる。そのたびに、リーメリの少しだけ高い声が上がって、彼らの交わる行為は更に動きを速くしていく。

「リ、メリ、そろそろ……だ」
「ん、ん、あん、俺、も」

 激しすぎる動きを受け止めている安いベッドは、いよいよ泣くほどに高い音を鳴らして軋み、上にいる者達へと抗議をする。けれども二人は止まらない。更に激しく、小刻みに揺れる彼らの影と共に、喘ぎとも唸りとも言えない声が交互に上がり、部屋の中を甘く満たす。

「ふぅっぁあぁぁあああっ」

 悲鳴のような声が上がれば、今までの激しい動きが嘘のように、その影は止まる。
 それから、上にいた青年は下にいる青年の上にゆっくりと崩れるように倒れこみ、そうして二人は、自然と唇と唇を合わせあった。







 団の宿舎では、遅くまで起きてる者は基本ほとんどおらず、明日に備えて皆早く寝るのが通常だった。とはいえ、つい数日前までは夜更けまで遊んでいたような若者達は、突然早寝出来る訳でもない。特に後期組の面子はその手の者が多い事もあって、後期の始まったばかりのこの頃は、遅い時間まで起きているものは結構いたりするのだ。
 周囲の部屋がとっくに寝静まった中、まだ起きている二人の青年は、一つのベッドの中で肌を触れ合わせ、睡魔の誘いがくるにまかせて微睡んでいた。

「んで、なーに機嫌悪いんだ、お前は」

 言いながら、栗色の髪の青年が、淡い金髪の青年の髪を撫でる。

「別に……悪くはない」

 だが声はどう考えても怒っているように聞こえて、わかりやすい奴だと、栗色の髪の青年ウルダは思う。

「ま、理由は分かってるけどな」

 言って笑えば、キッと金髪の青年リーメリが睨みつけてきて、更にウルダは笑いが抑えられなくなる。

「まぁ、気にしないほうがいいさ、リーメリ。何せどう見たってお前のが勝ってるとこがない。無駄に対抗しようとか考えないで、あっちはあっちと考えとけよ」
「勝ってるとこがない、っていうのは言い過ぎじゃないか、ウルダ」

 リーメリが抗議してくるのを、その彼の男らしくない長い金髪を撫でながら、ウルダはにやにやと笑って言う。

「ならどこ勝てるんだよ。顔も腕も家柄も、十人中十人が向こうが上って答えんだろ、それとも髪の長さとでも言う気かぁ?」

 言いながらウルダは長い金糸の髪の中に顔を埋め、ついでに見えた相手の耳に軽く歯をたてる。びくりと、リーメリは肩を上げて、ウルダに余計険悪になった瞳を向けた。

「頭も悪くない、お堅いし少々きついが性格も悪くない。知ってるか? 前期の連中は、あの人が来た途端、そりゃー真面目に訓練するようになったってよ、しかも自主的にってこった。人望もあるって奴じゃないか?」

 言いながらウルダは、今度はリーメリの肌に手を滑らせる。胸の上を軽く撫でて、小さな尖りに指がひっかかれば、彼は反射的に甘い吐息を漏らした。

「……そんなの、ただの色じかけだろっ。前期の連中なんて単純バカばかりだし、女っ気もなくて溜まってるだろうしっ」

 軽く下に触れてやれば、既に彼の雄が反応しかかっているのが分かって、ウルダは唇の笑みを深くする。そのまま握って少しだけ擦ってやれば、喘ぎと共に彼は背をびくりと反らした。

「あ、ん……やめっ……」

 弱弱しく逃げようとする腰を片手で押さえて、もう片方の手は彼の体のイイ部分を触っていく。この関係もこれで2年目になる、こういう時の彼の体は彼以上に知っている自信がウルダにはあった。

「お前と一緒にすんなよ……まぁ、あんなお堅く見えて、あっちの方は慣れてるかもしれないけどな。……あのセイネリアの女だったってのが本当なら、の話だが」

 たまに胸の尖りをちゅっと口で吸ってやれば、甘い声が上がる。
 すぐに息を上げて快感に染まっていく青年を、ウルダはにやにやとあまり人のよくなさそうな笑みを浮かべて見ていた。

「堅いもんかよ……あんなに、誘いまくってる空気出してるのにっ」

 耐えきれなくなったリーメリが少し体を起きあがらせて、横にいるウルダの首に抱きついてくる。近づいてくる青年の唇を当然のように受け止めてやってから、少し乱暴な口づけを交わして離す。それでも、未だに不機嫌そうに睨んでくるリーメリには、見せつけるように視線を外して、いやらしい笑みを浮かべて見せた。

「確かにまぁ、近くで見て初めて分かったが、ヤバイな、ありゃぁそそる。ぜひお近づきになって、味見くらいしたいとは思うね」

 舌なめずりさえして見せれば、再び噛みつくような勢いで、リーメリはこちらに口づけてきた。
 
「なんだ、妬いてるのかよ?」

 にやにやとしながら言うウルダに、怒りにか羞恥にか、リーメリは顔を赤くして睨んでくる。

「こういう最中は、他人の話をしないのがルールだろ」
「なんだよ、お前のせいでこういう話になったんだろー?」

 少し茶化せば、やはり怒る。その反応は男ながら女のようで、女役ばっかやってると精神的にも女性化するもんなのか、などとウルダはこっそり感心していた。……もし、本人にそれを言ったら、ベッドから蹴りだされる事は確定だが。
 まぁ、これでリーメリは実際腕は悪くない。昔から、顔が良かったせいでいろいろムカつく連中に声を掛けられていた分、雑魚は自分でどうにか出来るようにそれなりに訓練したらしい。
 だから、最初に冗談交じりでやらせろといった時は、自分より強かったらと返してきた訳で、自信は結構あったのだろう。
 ただウルダの方は、家は商家とはいえ、子供のころからずっとお守り役だった騎士に剣を習ってきている。更にいうと体格的にもこちらの方が恵まれているのだ、余裕とまではいかなかったが、それなりにちゃんと実力差を見せて勝つ事が出来て、今ではこういう仲になっている。
 とはいっても、後で聞いたところでは、こちらと寝る事にしたのは、それが決定的な理由ではないそうだが。

『あぁ、お前だったら別に寝ていいかと思ってた。全く鍛えてないようなひょろい奴だったら嫌だったって程度だな。お前顔割と好みだったし、何よりロメサ家なら利用価値もあるじゃないか』

 あっさりと、そんな本音を返してきたのには苦笑を通り越して大笑いをしてしまった訳だが、互いに割り切った関係ならウルダとしても望むところだった為、それからこうして騎士団勤務期間はこの関係を続けている。
 ちなみに、本当は最初、この部屋はもう一人、やはり商家出身のサッシャンが割り当てられていたのだが、いびきがうるさいという事で、彼には別の部屋に移ってもらっていた。サッシャンは、いかにも金持ちのぼんくら息子なのだが、人がいいため、それをあっさり信じて進んで部屋移動した。勿論、本当は追い出す程うるさかった訳ではなく、単に邪魔だったからだが。

「で、そう言ってくれるなら、もう一回付き合ってくれるって事かな?」

 キスの合間にそう聞いてみれば、リーメリは、もうすっかり熱に染まった顔の中、わずかに眉を顰めた。

「ここまでやっといて今更聞くのか? ……それとももう限界か、老けたな、ウルダ」

 やっと機嫌が直ってきたのか、彼がいつも通りの誘うような笑みを浮かべる。

「ジョーダン、まだ全然いけるぜ」

 リーメリの腕が撓って背に回る。
 ウルダは引かれるままに顔を落とし、また唇を合わせ、彼の股間に自分の熱い肉欲の証を押し付ける。リーメリが足を広げて、更にウルダを招き入れる。秘所をさぐれば、先ほどの行為の余韻で熟れた内部はもの欲しげに蠢いて、早く男が男欲しいのだと誘っていた。そこへ熱いウルダの肉塊を突き入れれば、嬉しそうに飲み込んで引き込んでいく。

「はぁ、ああああぁぁんっ」

 熱い吐息と甘い声が、再び静かな部屋の中を満たした。




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そんな訳で、デキてる二人の話(笑)。
そういえば、隊員同士でってのは初めてでしたね。



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