愛しさと悔しさの不協和音
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【9】




『あ、うぐ……うぅぅっ』

 押さえ込もうと必死に歯を食いしばり、それでも漏れるシーグルの声が聞こえる。
 ぎゅっと目をつぶり、必死に声を押さえようとする彼の深い青の瞳には涙さえ見える。むき出しにされた腕は、黒い騎士の腕を押さえようとしているのか真っ赤に染まってぶるぶると震え、けれども相手の腕はまったくそれを意に介す事なく動いている。胸を撫で、股間を撫で、シーグルが唸れば、男が笑っているのが低い声の響きで分かった。
 黒い装備をつけたままの男の腕が、無造作にシーグルの片足を持ち上げ、開かせて胸に押し付けた。だが即座に、もう片方の足が男の体を蹴る。それはおそらく、シーグルにとって精一杯の力であった筈だろうに、黒い騎士はまったく動じる事なく、少しもダメージを受けたようには見えなかった。
 黒い騎士は、体を倒して自らの体を押しつける事でシーグルの上体を押さえると、広げた足の奥にもう片方の手を入れていく。同時に、びくんとシーグルの体が跳ねる。

『う、ぐぅぅっ』

 シーグルの涙に濡れた青い瞳が見開かれて、歯を噛み締めたまま彼が唸る。すぐにその瞳はまたきつく閉じられて、ひたすら耐える表情に戻ったものの、何があったのかはロウにはすぐに分かってしまった。

『しーちゃん……だね、もう……じゃないか』

 相変わらず男の方の声は聞き取りづらいが、シーグルを馬鹿にして笑っている事だけは確かだろう。男は楽しそうに喉を鳴らして、指でシーグルの秘所を慣らしながら、顔を背けているシーグルの耳たぶを時折吸って、いやらしい水音をたてている。

『なかなかここも慣れ……きたんじゃないか? ひくついて……しそうだ』

 楽しげな男の声に、シーグルは薄目を開けて男を睨む。だが即座にその目は大きく見開かれて焦点を失い、彼は喉から、悲鳴の代わりに唸り声を上げた。

『が、う、ぐ、ぐぅぅぅっ』

 それでもまだ、シーグルは耐えようとして、急いで自分の口を手で押さえる。両手で悲鳴を押し込むように必死に口を押えて、見開かれた瞳だけが宙を凝視して涙を流す。

『しーちゃ……だ、耐えられる気で……るんだ』

 ぶるぶると硬直したように震えているシーグルの上で、男が喉を震わせて笑い声を上げる。ぴったりとシーグルの足の間に押し付けられた男の股間で、シーグルが何に衝撃を受けているのかは考えなくても理解出来てしまって、ロウは我知らず掌をきつく握り締めていた。
 やがて、男は腰を揺らしだす。ゆっくりと引いて、一気に奥を突いて。突かれる度にシーグルの体がびくんと跳ねあがって、抑えきれなかった声がくぐもって響く。それに男の笑い声がまとわりつく。

「や、めろ……やめてくれ……」

 見ている間に、ロウは自分も泣いていた。
 まるで玩具のように、男の動きに合わせて跳ねる姿。ロウが知る、誰よりも強くて誇り高い騎士である青年が、ただ嬲られるだけの人形のように扱われている。

『う、うぅぅっ……ぐ、がっ』

 残された最後の砦でもあるかのように、必死に喘ぎ声を上げまいとする彼の出す声は獣のようでさえあった。どれだけ今、彼がなりふり構わない状態なのか、それで痛い程分かってしまう。

 けれどもそんな中、やがて、シーグルの体の反応は変っていく。

『う、ぁ、ぁ、ぐ……ん……』

 突き上げれば背を撓らせて、引かれれば腰が男の後を追って浮き上がる。
 まるで彼の体自体が波打っているように、男の動きに合わせてシーグルの体は揺れ、腰が妖しくうねり出す。黒い騎士の体の下では華奢すぎる白い腰が、雄を引き入れて淫らに蠢く。

『んんぁ……ぐぅっ、ん、んんっ』

 動きはだんだんと速くなり、手で押さえたシーグルの口からは、苦痛にまみれた唸り声の中に甘い音が混じり出す。口を押さえても鼻から抜ける、甘い吐息が隠し切れなくなっていく。

『ゃぁ……ん……うぅん……』

 ただ見開かれていた瞳は細められ、変わらず涙を流しながらも目元は赤く染まっていた。頃合いを見計らっていた男がシーグルの腕を掴めば、もう力が入らない手は簡単に唇から引きはがされ、大きく開いた彼の口からは、より鮮明な声が漏れた。

『あぅ……あぁぁっっ、やだ……嫌……嫌だぁっ……』

 虚ろな瞳で虚ろな声を出すシーグルのその濡れた頬を舌を出して舐め、男は彼の耳たぶを水音を鳴らして吸う。ちゅ、ちゅくと聞こえる音は酷く淫らで、男の腰の動きに合わせて鳴る様は、それが耳を吸う音なのか、下肢の繋がりからの音なのか判別できなくなる。
 腰だけは止まる事なく、深く、浅く、ゆっくりとしたリズムで動かす男は、今度はシーグルの腕を地面に縫い付けたまま、曝された彼の白い胸に唇を下していく。再び、ちゅ、と水音が鳴ったのは、シーグルの胸の頂きを吸い上げた音だとロウには分かった。

『や、ぁぁん、嫌ぁ……やめ、ろぉ……うぅっ』

 シーグルの声は、喘ぎというよりも、最早嗚咽に聞こえた。
 子供のような泣き顔で顔を左右に振っても、彼の体は既に快楽を受け入れていて、もう引き返せないところにある。

『すっかりここは……の……を覚えたようだな』

 男の笑い声も、その言葉も、必死なシーグルには届いていないだろう。
 びくんびくんと跳ねるように時折体を硬直させて、シーグルの足が、彼も無意識なのだろう、もどかし気に膝を立てて間の男の体を挟む。
 もう押さえつける必要もないというのか、男の手はシーグルの腕を離し、その大きな手で白いシーグルの胸を撫で、乳首を擦り、そこから体全体を鷲掴みにでもするような手つきで、胸から腰、尻までを伝っていく。最後にシーグルのすっかり膨らんだ雄の欲を掴むとそれを扱き上げ、シーグルの唇はまた細く苦し気な声を吐き出した。

『やぁっ……やめろぉっ……くっそぉぉっ……ふ……ぐ、あぁ』

 これだけひたすら拒絶をしていても、シーグルの体は男の体の下で快感を受け入れていた。それはおそらく、シーグルも自覚している。だが……それでも、シーグルは否定する、拒絶する、嫌だと叫ぶ。

『シーグル、お前はどこま……抗える? いいぞ、やはりお前は……だ』

 男の低い笑い声と、楽し気で残酷な声が微かに聞こえて、男は急に動きを速める。小刻みに、奥をひたすら擦り上げるように、シーグルの体に被さると、今度は両足を掴んで更に大きく開かせ地面に押し付けた。そうして浮いてしまった彼の腰へ、自らの昂ぶり切った凶器を乱暴に突き立てる。
 宙を蹴る足が体の動きに合わせて揺れ、シーグルの唇からは、動きに合わせて押し出されたような声が漏れるだけだった。
 思いきり広げられた白いの尻の間に、濡れた赤黒い肉が現れては消える。その質量があの細い体に根本まで入っているなんて、ロウは信じたくなくて、見ていられなくて、とうとう目を瞑ってしまった。
 音だけでも、行為は益々荒々しくなり、男の動きが速くなっていっていくのが分かる。
 シーグルの、もう言葉にさえならない悲鳴と、唸り声と、喘ぎと吐息に、乾いた肉同士が激しくぶつかる音がリズムを刻んで、耳の中に延々と流れこんでくる。

 それでもやがて、シーグルの声が聞こえなくなれば、男の動きも止まる。

 ロウがそうっと目を開ければ、シーグルの体は完全に力を失い、ただ地面に倒れていた。その上にいる男は暫く余韻を楽しむようにそのままの体勢でいたが、満足げなため息を漏らすと、今度はシーグルの体を抱き上げた。

 その光景をじっと見つめたまま呆然と立ち尽くし、ロウはただ涙を流した。
 涙の意味の大半は、怒りと、悔しさだった。

「こんなの……完全に、ただの強姦じゃないか」

 どうしようもない怒りに、ロウは誰にいうともなく呟く。

「どうみてもセイネリアって奴はシーグルを無理矢理犯してるだけだ。なのになんで、シーグルの答えは『分からない』なんだ。こんなヤロウが愛してるなんて言ったって、そんなの嘘に決まってる、なのになんでなんだよ……」

 口に出せば納得出来なくて、怒りしか湧いて来なくて、ロウは憎しみの目でシーグルを抱く黒い騎士の姿を見つめる。
 だがそこで、後ろで今まで黙っていた魔法使いが、杖をすっとセイネリアの影ともいうべき映像に向けて伸ばした。

「そうですねぇ……それは、ここからのあの男の顔を見ていればもう少しは分かると思いますけどねぇ」

 黒い騎士は、下肢でつながったままの体勢で、気を失ってしまったシーグルの体を抱き上げ、その顔をじっと見下ろしていた。
 先ほどまでの犯していた時の笑いとは一変して、その口元は静かな微笑みをうかべ、瞳を細めて眠るシーグルの顔をただ見つめていた。初めて見た時、見ただけで体が竦んだあの肉食獣のような瞳を柔らかく細めるその様は、どう見ても愛しい者に対する以外の何物でもなかった。
 動かなくなったシーグルの顔から銀糸の髪を払い、顔を優しくなぞり、男はゆっくりと唇を重ねていく。
 そのまま、じっくりと味わうように唇を何度も合わせなおしては時折唇で彼の頬をなぞる。その様からは、男がどれだけ今こうしてシーグルを抱いている事が嬉しいのかが分かってしまった。

 けれども、それはロウにとっては更に腹立たしいだけだった。
 ロウには、先ほどまで、黒い騎士はただ自分の楽しみの為にシーグルを嬲っているようにしか見えなかった。いや実際、どう見てもそれ以外には見えない光景だった。だから今、どんなにセイネリアがシーグルを愛しそうに見ていたとしても、それが信じられる筈がなかった。

「なんだよこれ……あんなに酷い事しておいて、なんだよこの男は。何考えてるんだよ、おかしいだろっ」

 ロウが拳を握りしめて呟けば、やはりこんな時でも声だけなら気楽そうな魔法使いの声が返してくる。

「えぇ、おかしいでしょうねぇ、実際、この男はおかしいんですよ。……まぁ、更におかしい事を教えて差し上げるとですねぇ、この男、この時点ではまだ、自分がシーグル様の事を愛してるってぇのに気付いてないんですよ。自分が何故、シーグル様に付きまとって犯してるかさえ分かってない。先に見た、犯して踏みにじっているのが楽しくて、それだけしか自分は望んでいないと思っているんですよねぇ……どうです? 笑えますよねぇ」

 魔法使いの声はどこまでも他人事として、ただの笑い話でも話すように気楽に言ってくる。けれどロウは、勿論、その言葉をおかしいと笑い飛ばす気にはならなくて、その理解出来ない理由に怒りをぶつける事しか出来なかった。

「なんだそれはよっ、頭おかしいだろっ」

 ロウのその様子を見て、呆れたように、魔法使いは笑って肩を竦める。

「だからぁ、この男はおかしいといったじゃないですかぁ。心の中身がずっと空っぽで他人に感情が向く事などなかったから、自分が人を愛せる筈がないと思っていたんでしょうねぇ」

 魔法使いは笑う、ロウはまったく面白いと思えないのに、何が楽しいのか魔法使いは声を上げて笑う。
 けれど、急に笑い声は止み、魔法使いは淀んだ瞳をロウに向け、感情を消し去った声で呟くように言った。

「だから……それに気づいた時のこの男の葛藤が想像できますか? これだけの拒絶を返す相手を、本当はただ愛しくて大事なのだと分かった時の、この男の絶望と喜びが想像できますか?」

 ロウはそれに何も返せなかった。自分と違いすぎる相手に対して、想像する事も出来なければ理解など出来る筈がない。立場も、生き方もまるで違う、だからおそらく……愛し方も違うのだと、そこまでは考えられても、そんな彼の行動を認める訳にはいかなかった。

「分からない、分からねぇよ……こんな男の事なんて、俺には分からねぇ、シーグルがそれでもこの男の事を憎いと言わずに『分からない』って答えるのも全部俺には分からねぇよ」

 だからロウには、確かな事はこれしかいえない。

「でも俺は、この男が許せねぇ。どんだけこいつがシーグルの事愛してたとしたって、それが真実だって、そんな事言う資格はこいつにはない、こいつがシーグルの事を愛してるっていうその事も俺には許せない」

 それに少し呆れたような間があって、魔法使いは、苦笑して口を歪ませた後、軽く笑い声を上げた。

「まぁ、そうですねぇ……貴方の意見は正論ですねぇ。まぁでも、その程度はあの男本人も分かってはいるんですよ……」

 そうして魔法使いはまた黙る。
 ロウもそれ以上何かを言う事もせず、ただ、繰り広げられる目の前の光景を見つめていた。

 愛し気に――そうとしか表現のしようのない顔で、黒い騎士はシーグルにキスをする。
 抱きしめたまま、今度は優しくシーグルの体を揺らして行為を再開すれば、意識のない銀髪の青年の口からは、素直に甘い声が漏れる。

『あ、あぁ……んぁ……ぁん』

 今のシーグルが声を抑えられないのは仕方が無い。体の感じる感覚のままに、ただ快楽の吐息だけが紡ぎだされる。
 それを本当に嬉しそうに、満足げに見つめ、時折キスを落として、あくまで優しく、黒い男は、ロウにとっても最愛である美しい青年の体を味わう。
 男の唇が快楽だけではなく、心からの喜びをうかべて笑みを作る様を、忌々し気にロウは睨む。瞳から流れる涙は、先ほどとはその意味を変え、怒りと悔しさが憎しみとなって心の中の深い部分に積もっていくのを感じていた。

「俺は許さない……絶対に、許さない。たとえどれだけ……こいつがシーグルを愛してても、それを許しちゃならないんだ……こいつの存在は絶対にシーグルを不幸にするに決まってる」

 ただ立ち尽くすロウの後ろで、キールは苦笑をすると、軽く頭を掻いて視線を遠い星空に向けた。

「そうですねぇ……それは間違っていないでしょうねぇ。シーグル様の事だけを考えるなら、この男はいない方が良かったのでしょうねぇ。……貴方みたいに、それだけを考えればいいのなら、私も楽だったんでしょうけど」

 魔法で作られた、影達の演じる過去をじっと睨むロウにはそんな小さな呟きが聞こえている筈もなく、キールもまた、彼に自分の中の葛藤を言う気は少しもなかった。



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久しぶりのエロでした。ってか、エロいかどうかまでは保証できないシロモノですがorz



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