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【４】 「何だリーメリ、お前、本っ当にいっつも基本、機嫌悪いのな」 言われれば、金髪の長い髪の青年は、ぎろりと裸の同僚を睨み付ける。 とはいえこちらも裸で、おまけに情事のあとの同じベッドの中とくれば、いくら睨み付けても向うの余裕顔が消える筈はない、というのはリーメリ自身よくわかっていた。 「前期の連中が気に入らなかった、ってんじゃないんだろ？ お前にしては珍しく、結構うまくやってたんじゃないか？」 「まぁな」 「変な色目使ってくる奴もいないし、そういう意味でからかってくるものもいない。びっくりするくらい善良な奴らで驚いたくらいじゃないのか？」 「あぁ……まぁな」 憮然としたその声に、ウルダは肩を震わせて笑う。 同じベッドにいるのだから、当然、その振動がこちらにも伝わって、やけに気に障る。 だからリーメリは、とりあえず、この無神経な同僚兼情人を、一発殴っておくことにした。 「いてっ……たく、お前本当にいつでも機嫌悪いな」 「お前が無神経すぎるのが悪い」 「無神経って……あぁもしかして、お前、ひょっとして、いつもみたくちやほやされたかったのか？ 残念だったな、ここの奴らは健全過ぎて、今回その役はすっかりラナだったからな……ってだぁっ」 ベッドから蹴り落とされたウルダが叫ぶ。 それを無視して、リーメリは少し考え込んだ。 こういう容姿のせいか、リーメリはいつも、初めての場所に紹介される度、汚らしい欲の目で見られる事が多かった。それらをどうにか対処してから、やっと自分の居場所を確保出来る、というのがだからいつもの順番だった。 だが今回は、なんだか普通によろしくと言われるだけで、多少それっぽい見られ方をしたと言えば、『お、中々の美人さん、公私共によろしく頼むな、昼夜問わず』と茶化す親父一人の発言があったくらいで、しかもその親父は、他の同僚から発言中に殴られていた。 正直、肩透かしをくらった、というくらいには気が抜けたリーメリだったが、余計な心配をする事なくすんなりと受け入れられてしまったというのは、なんだかむず痒いようなくすぐったいような、嬉しいけれど複雑な気分があって、よく分からないがもやもやするものがあったのだ。 「まぁあれだ、隊長殿の人徳って奴のせいだろ」 ベッドに戻ってきたウルダが、急いで上掛けの中にもぐりこんで来ながら言う。 「冷たい、あんまり近寄るな」 「だーれのせいだっ」 とはいえ、足で蹴られると、ウルダもそれ以上、こちらにくっついて来ようとはしてこなかった。 「人徳か……まぁ確かに、気持ち悪いくらい、隊長様な状態だったよな、あいつら」 リーメリはごろりと上向きに寝ころんで呟く。 じりじりと、再び少しづつ近づいてくるウルダは、今度は放っておく事にした。 「ま、あの隊長を見慣れてたら、お前だって特別美人って程でもない、ただの新しいメンバーってだけだろ」 「……そんなの、分かってる」 天井を見上げ呟けば、突然がばりとウルダが起き上がり、こちらの両肩の上に手を置いて、上から覆いかぶさってくる。まるで今押し倒したと言うような体勢のまま、彼の顔が真上から見下ろしてくる。 「ただ、こういう相手なら、俺はお前の方がいいけどな」 そうして、軽く笑った彼に、今日初めてリーメリも笑う。 「ぬかせ、あっちこっちで手を出してる遊び人のくせに、よく言う」 そうして、近づいてくる彼の唇を受け止める為、リーメリは彼の首に手を伸ばした。 「だがな、俺が遊んでるのが分かってて付き合ってんのはお前くらいだぞ、リーメリ」 「そうだな、遊んでる連中は、少なくともお前にとって俺以下しかいないって事は分かってるからな」 目の前でのそんなやりとりの後、にっこりと嫌味な程の……実際、嫌味で笑顔を返せば、ウルダは肩を震わせて笑った。 「随分、余裕あるじゃないか」 「まぁな、そもそもお前じゃ俺以上のを引っ掛けるのは無理だし」 「いってくれるぜ」 少し拗ねたように言う男の頬を手で撫でる、それから。 「まぁ、俺もお前以上はそうそうひっかけられないけどな」 そう言って口付ければ、彼はいつになく、優しく、丁寧に舌を絡ませてくる。 口腔内の粘膜で交われば、すぐに身体にも肉欲の火が灯る。 部屋が甘い喘ぎと、熱い吐息で満たさせるのには、そこからさほどの時間を必要とはしなかった。 そして翌日、後期の人間が来て２日目。 早朝の訓練を終えて、朝礼も終えた隊の連中は、訓練に入る前に、後期組の者の回りに集まっていた。 「貴方がたもかなりの腕とか、ぜひ一度俺とお手合わせ願いますっ」 生真面目なシェルサは、そう言ってウルダとリーメリに頭を下げる。 こういう素直な反応に慣れないリーメリは、軽く体を引いてウルダの後ろに隠れるような体勢になり、自然前に出る事になったウルダが仕方なくそれを受ける。 とはいえ、相方を取られてしまうと、リーメリは組む相手がいない。 仕方なくウルダとシェルサを見ていれば、その横にマニクとセリスクがやってきて話しかけてきた。 「シェルサの奴やる気だなぁ。あー、あいつはですねぇ、クソ真面目っていうか、とにかく思い込んだら突っ走るタイプなんで、まぁ、気にせず勝てそうなら思い切りやり負かしてめためたにしてやって下さい」 「……彼がやるのはウルダとだろ？」 「えぇ、でも終わったら貴方に来ると思いますんで、がんばって付き合ってやってください」 それを聞いたリーメリは内心焦った。 なにせ、ウルダが受けた時点で、自分は関係ないと、すっかり傍観者の気分でいたのだ。 「いや待て、俺はウルダより弱いんだ。俺とやっても意味ないだろっ」 だから焦ってそう返せば、同じ背くらいの、恐らくこちらと余り歳の変わらない青年は、そのいかにも愛想が良さそうな顔を不思議そうに傾げた。 「何で意味ないなんて思うんですか？」 そんな反応をされると、リーメリとしては困るしかない。 「それは……だって、俺達の実力をみたいだけなんだろ？ なら、強い方だけ見れば大体レベルは分かるだろうし……」 そこまで言えば青年は、にっこりと、その人好きのされそうな笑みを顔に浮かべた。 「強い弱いだけが問題じゃないですよ、人間、同じ訓練を受けていたって、まず絶対に全く同じ動きをしないし、考え方が違って発想が違う、剣を振るって事一つとっても、必ずその人物特有の攻撃方法や切り返し方がある。だから、例えいくらかなりの差があって自分より弱い相手だとしても、剣を合わせればその人物から学ぶものは必ずある」 と、そこまで言うと、今度は隣にいた青年がくすくすと笑いながらそれに付けたした。 「っていうのを隊長が言ってたんですよ。だから強い弱いだけに拘らず、出来るだけいろいろな人物と相手してみろってね」 あぁ、成程、と何故かそこでリーメリはそんな感想を持った。 しかもこちらの青年の誇らしげにいうその様子に、シーグルがどれほど彼らに慕われているかもわかってしまった。そして、そんな彼らなら、本気で信用しても良いんだろうなとも思う。心の奥では、なんだか悔しいところがあったりもしたが、それは馬鹿な嫉妬だというのは、ちゃんとリーメリ自身自覚はあった。 「ま、そういう事だから、シェルサはきっと次は貴方に言ってきますよ」 セリスクがそう締めくくると、話を取られた形になったマニクが軽く咳払いをする。セリスクはそれにくすりと笑うと、一歩引いてマニクにまた場所を譲った。 「えーと、それでですね、それが終わったら、ぜひ俺も手合せを頼みたいなと思ったん……ですが？」 少し言い難そうに言ってくる彼に、リーメリは思わず笑ってしまって、だからつい、それに了承の返事を返してしまった。 「あ、終わったら勿論、俺も頼みます」 再び付け足すように、マニクの隣から顔を出したセリスクを、今度はマニクが嫌そうに睨み付ける。 「なんだよ、さっきからずっと俺の便乗じゃねぇか」 「いいだろ、頼むならいっぺんに頼んだ方が、リーメリさんも調整しやすいだろうし」 「るっせ、お前いつでも俺に先言わせて楽なポジションにいるだろ」 「マニク、それはお前のフォローをしてるっていうんだ」 おそらく仲がいいだろう二人のやりとりを見て、リーメリは思わず声を上げて笑ってしまった。 なんだか、肩からの力がすっかり抜けて、リーメリは楽しくなってきている自分に気がついた。思えば今まで、近い年齢の者と、最初からこんな気楽な気分で会話をする事はなかったなと思い出す。今までは大抵、その集団の上にいる人間に取り入って居場所を確保していたから、同年代の者からは反感を持たれる事が多かった。 だから、なんだか、少しだけくすぐったくて、そしてやはりうれしい、とリーメリは思う。 ３人はその後、丁度始まったシェルサとウルダの戦いに急いで目を向け、途中野次を飛ばしつつも、自然と話をしながら彼らの動きを観戦した。 終わった後は、やはりシェルサは今度はリーメリに頼み込んで来て、リーメリはそれを快く受けた。 その後も、リーメリとウルダは、途中から入ってきたクーディも交えて、隊の若手組とその日は一日剣を合わせたりして、ともに訓練に汗を流した。 ただ、訓練が終わる頃の時間、ふと疑問に思ってリーメリはマニクに聞いてみた。 「ところで、何で俺達になんだ、アウドやラナは？」 言えばマニク達若手組の連中は、かなり困った顔をしつつ答えた。 「あー……アウドさんは、もう少しちゃんと盾ありの動きを慣らしてから頼もうかなって思ってて……ラナ嬢は……ウチのスケベ親父が、今は傍についてて面倒なんで……」 そういえば、ちらと見たラナは、古参組の騎士とつきっきりで何かやっていたらしい、とリーメリは思い出した。 「まぁ、グスも一緒だから間違いは起こらないと思ったんだけどさぁ……出来れば後で謝っておいてくれないかな」 最初と違って、すっかり口調も砕けたマニクが、そう言って頭を下げた事で、リーメリはウルダと顔を見合わせる事となった。 --------------------------------------------- 今回はちょっと後期組、そのほかの面子のお話でした。 次回はシーグルとアウドの話。 |