憎しみの剣が鈍る時
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【2】



「ふ……く……っ」

 肉を打つ音が響いて、押さえつけたシーグルの手が固く握られる。
 熱の所為か、彼の吐息は面白いくらい簡単に熱くなる。
 恐らく体調が悪化したのだろう、最初に触れていた時よりも、その体は熱を持ち、吐く息は荒い。

 セイネリアは、それでもその彼を見下ろして彼の中を味わう。

 突き上げられる度に、びくりびくりと肩を上げる彼の体は、確実に抱かれる快感を知ってしまっている。腰は肉欲を受け止めて怪しく蠢き、中は貪るように締め付けては引き込み、男を喜ばせる。拒絶して顔を背け、声を耐えるその顔さえ、それがどれだけ男の欲を引きずり出すかなど、シーグル本人は想像さえしていないだろう。
 いつも以上に体力がない彼では、細かい吐息のような声を抑える事までは出来ない。小さな喘ぎは甘く響いて、抵抗しようとする体は快楽に身を捩るようにしか見えない。本人の意思とは相反するように、男を誘うその姿は艶やかで、普段の彼のイメージとの差でより淫らに見えた。

 それでも、シーグル本人にしてみれば、必死に耐えているのだろう。
 たまに反射的に上がる高い声には流石に自分でも気付いて、唇を震わせながら歯を噛み締める姿は、必死すぎて痛々しい程だ。
 熱に浮かされて体の力も入らず、呼吸も荒く……ここまで悪化すればもう体を動かす事も酷く辛いだろう。そんな状態でも、掌を固く握り、歯を噛み締め、彼は残された気力で必死に声を抑える。喘ぐ事を拒絶し続ける。
 抱かれる行為そのもの以上に、こうして耐えようとしている事が更に体力を消費しているのは明白だった。

「シーグル、耐えるな、声を出せ」
「う、う、ぐ……」

 いつもなら言い返してくる、それだけの気力も体力もシーグルには残っていない。

「馬鹿め、そうして耐えているから余計きついんだ……」

 セイネリアは眉を寄せて、少し乱暴に彼を突き上げた。

「がっ……うぅっ」

 目を見開いたシーグルが、半ば意識を飛ばしかけているのだろう、口をわななかせて宙を見つめる。その体を支えて唇を重ね、更に奥を抉れば、彼の体がびくびくと震えて達した事をセイネリアに知らせた。

「う……ぅ……ぁ」

 呟くように小さな声が漏れて、シーグルの体から力が抜ける。
 同時に中の媚肉がきゅうっと締め付けてきて、セイネリアも僅かに眉を寄せる。びくびくと痙攣するように蠢く内部を数度突き上げ、それから普段より熱い彼の体の中に精を放った。
 そのまま、セイネリアは彼の体を抱きしめると、意識を手放したシーグルの顔を覗き込む。

「まったく、馬鹿め……」

 いつもの事ながら、眠っているシーグルの顔は、普段を知るものなら驚く程に幼い。あのキツイ瞳が閉じられているだけで、子供のような顔になる彼のこんな無防備な姿を見ていると、セイネリアの中を何か……満足感とも言える感情が満たしていく。それに、セイネリアは気付くと同時に途方に暮れるしかなかったが。

「無理を、させすぎたか」

 彼の体はどこも熱い。
 シーグルが意地になって耐えた所為で、予定以上に体力を消耗させてしまった。
 気を失っていても苦しそうに眉を寄せる彼を見ていると、セイネリアも自分の中に痛みを感じ、それに我ながら嗤うしかない。

 ――何をやっているんだ、俺は。

 自分らしくないという自覚はある。
 今、こうして彼を抱いているこの行為が、怒りのままにした事だという事は分かっている。いや、怒りというよりも憤りといった方がいいかもしれない。そしてその矛先は、シーグルへと向かう以上に、自分へと向かっている。

 汗に張り付いた髪を顔から避けてやって、その汗を拭ってやる。
 ピクリと、彼の瞼が動いて、ゆっくりと青色の瞳が姿を表す。

「放、せ……」

 セイネリアの姿をその深い青の中に映した途端、シーグルは声を絞り出して言う。

「馬鹿が、寝ていろ」

 セイネリアは、押さえつけたまま彼を見下ろす。

「放せ、お前だけには、助けられたくも……ない。お前だけは……」

 その言葉に、セイネリアの口元には自嘲の笑みが沸く。
 今の言葉が、セイネリアの中で痛みを生んだ事など、シーグルは想像もしてはいないだろう。

「結局、お前は、俺を弄んでいる……だけ、だ……」

 熱に揺れながらも睨んでくる青い瞳は、ただただセイネリアの顔を憎しみを込めて見つめていた。
 それを否定するだけの言葉は、セイネリアの口からは出ない。

「まだそんな体力があるのか、大人しく気絶してろ」

 代わりにそう言って、この男にしては優しいとさえ言える手つきで、シーグルの髪を撫ぜる。琥珀の瞳はあえて表情を映さず、心の内を明かさない。

「お前、が、いな……ければ、お前さえいなけれ……ば」

 呪いの言葉のような弱々しい呟きを、セイネリアは目を細めて聞く。
 気力だけで意識を保っているシーグルは、気を抜けばすぐにでも意識を飛ばしてしまうのだろう、瞳だけに力を入れて、セイネリアの顔を睨んでいる。

「寝ていろ、シーグル」

 言って、まだ彼の中に埋めたままだった肉の楔を深く穿つ。

「う、あぁっ」

 搾り出すような悲痛な悲鳴と共に、シーグルの腕が震えてセイネリアの腕を掴もうとする。
 けれどもそれが成される前に、律動を再開したセイネリアの所為で、シーグルの腕は宙を彷徨う事しか出来なかった。
 セイネリアは顔から表情を消し、事務的な動作で彼を突き上げる。
 肉と肉が当たる乾いた音が、ただ響く。

「う、あ、あぁ、ぁぁ……」

 さすがに声を抑える事が出来なかったのか、快感を感じさせない悲鳴をあげて、シーグルの瞳から意志の光が消えていく。
 それでも、最後の気力を振り絞るように、シーグルの腕がセイネリアの顔に向かって伸ばされ、揺さぶられながらも彼は呪詛の言葉を言い切った。

「お前さえ、いな、ければ……俺は、行くべき道を行けたの……に」

 そうして、今度こそ完全に意識を深くまで落としたシーグルの体を乱暴ともいえる動きで蹂躙し、その中に再びセイネリアは精を注ぐ。
 深く、息を吐き、彼の中を味わうようにゆるく突き上げる。
 意識を失っていても、彼の中は注がれたものを喜んで飲み干すように蠢き、びくびくと引き攣るような動きで、セイネリアの雄を締め付けてくる。
 未だ自分から出ているものを最後まで彼の中に注ぎ込むように、セイネリアは彼の深い場所で動きを止めると、その締め付けを愉しむ。
 暫くそうして彼の中を感じ、それからゆっくりと自らを引き抜くと、意識なく目を閉じているシーグルを見下ろした。

「俺さえ……いなければ、か」

 熱を帯びた体は紅色に上気し、何度も押さえつけた所為か、体のあちこちに痣らしきものが出来ている。それだけでなく、見覚えのない傷痕をその体に見つけて、それだけにささくれ立つような不快感を感じた自分にセイネリアは呆れる。

 感情のままで行動を起こすなんて事、今までのセイネリアにとっては有り得なかった。それ自体が驚きであり、そして、そんな事をする自分がどうなっているのか把握出来なくて、それに恐怖さえ覚える。まるで、自分が得体の知れない人物であるかのような……そんな気にさえなる。
 自嘲の笑みを張り付かせたまま、セイネリアはシーグルの顔を撫ぜた。

「そうだ、シーグル。お前さえいなければ……俺は俺の知る俺のままで居られた」




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今回のエロは短め。いや、エピソードが長いのでラストまでそういうシーンなしも寂しいなと入れてみたという話も……。


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