後悔の剣が断つもの

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【3】




 シーグルを押さえながら、セイネリアの手は中のベストを開き、その下に着ていた絹のシャツを開ける。
 そうして、外気に暴かれた肌を見たセイネリアの手が止まった。
 不気味な程ゆっくりと、セイネリアの手が曝されたシーグルの肌の上を辿る。
 琥珀の瞳はただ冷たく、肌に触れていく指先を追うように静かに動いていた。

「誰だ?」

 掠れた、けれども昏い響きのその声に、シーグルがびくりと震える。
 つい一昨日、男に嬲られた体は、行為の跡が肌に僅かに残っていた。他の打撲跡と一見して見分けがつくようなものではないから、着替えを手伝った使用人達に気付かれはしなかったものの、セイネリアならすぐ気付くだろう事はシーグルにも分かっていた。

「シーグル、答えろ」

 セイネリアはシーグルの顎を押さえ、鼻同士が触れる程の傍まで顔を近付けて聞く。
 それでも、シーグルは答える訳にはいかなかった。
 目を閉じて口を閉ざせば、セイネリアの瞳が細められる。

「分かっているな?」

 シーグルを体で押さえつけたまま、セイネリアの手がシーグルの下肢に伸ばされる。
 ゆっくりと服の上から腰を撫で、それから下肢の衣服に手を掛けると一気に引き摺り下ろす。

「やめ、ろ……」

 目を見開いてシーグルが呟く。
 その様子を目の前で、表情もなくセイネリアは見下ろす。
 それから無造作に彼は右手を口元に持っていくと、今日は篭手を着けていないその手から、口で銜えて皮製のグローブを外す。
 グローブ越しではない、指の感触がシーグルの曝された下肢を撫ぜて、それから強引に尻を割り開いて体の中を目指す。

「うぁっ……」

 衝撃に顔を顰めて顎を上げたシーグルを、琥珀の瞳は冷ややかに見ているだけだった。

「やめ、ろ、やめろっ、セイネリアっ」
「誰だ?」

 尋ねながら、セイネリアの指はシーグルの体の中を乱暴に犯していく。殆ど湿っていない肉同士は滑らずに反発し合い、中の柔らかい肉壁は指に捻り擦られ、シーグルの中には痛みしか生まない。指が動く度に、固い彼の腹筋が激しく上下し、喉が引き攣って息を飲むのがセイネリアには分かった。
 それでもセイネリアは瞳に感情を一切浮かべず、ただ、彼の体を嬲る作業を続ける。

「つ……うぁっ」
「誰に抱かれた?」
「ぐ……うぅっ」
「言え、誰に抱かれた?」
「っ……」

 シーグルは答えを拒絶して首を振る。
 冷たい怒りだけを瞳に宿したまま、セイネリアの抑揚のない声だけが放たれる。

「他の者に抱かれる意味を、お前は分かっている筈だな」
「うあっ、く…………」

 痛みに油汗を流して、シーグルは歯を食いしばる。
 その様をセイネリアは、昏い怒りを凍るような視線に乗せて、瞳を動かさずに見下ろしていた。
 歯を噛み締めながらも、シーグルの耐え切れなかった呻き声が漏れる。
 目を瞑って懸命に耐える彼が、セイネリアを見る事はない。
 押し返そうとしているシーグルの手はぶるぶると震え、顔が時折激しく左右に振られる。
 その姿をやはりセイネリアは何処までも冷たく見下ろして、まるでモノを扱うように彼の中へ入れた指を動かした。
 だが、痛みに顔を顰めるシーグルの、その頬に朱が差し、吐息に僅かな熱が混じりだしたと同時に、セイネリアはそこから指を引き抜いた。

「……な、に?」

 目元に赤みを差したシーグルの瞳が、恐る恐る開かれる。
 セイネリアは表情を変えぬまま下肢の衣服を寛げ、猛る欲望を取り出した。

「や、めろ……」

 シーグルは大きく瞳を見開いて、逃げようと体を引こうとする。けれども勿論、それが叶う事はなく、セイネリアの腕一本で彼の体は逃げ場を無くす。

「嫌だ……」

 セイネリアの手がシーグルの足を掴み、広げる。

「嫌だ……」

 シーグルの下肢にセイネリアの熱が触れる。

「嫌だ、嫌……」

 セイネリアが舌を出して指を舐め、その指で中を再び突き上げる。

「や……あっ、うぅ、嫌……」

 そのまま指で入り口を広げ、肉塊が狭いシーグルの中を引き裂いていく。

「うぁっ、嫌だっ、嫌だっ、やめろっ、や……」

 押し殺した掠れた声でシーグルが言っても、見下ろすセイネリアの瞳は冷たいままだった。ただ、まだぬめりらしいぬめりのないそこへ押し込んで、強引に腰を揺らして奥まで挿れる。

「う、う、が……うぅっ」

 相当の痛みなのか、まるでひきつけを起こしたように、シーグルは瞳を見開いたまま顔を強張らせ、体が固まったように小刻みに震えていた。根元までセイネリアのものが彼の中に納まった時には、その瞳からは意識が抜けかけていて、声も出せず、口を魚のように開いては閉じる事を繰り返すだけだった。
 中の締め付けの方も酷く、セイネリアでさえ眉を寄せた。

「誰に抱かれた、シーグル」

 耳元に唇を寄せ囁けば、ごくりとシーグルは唾を飲み込む。

「俺以外の誰にこの体を触らせた」

 言いながらセイネリアが奥を突けば、シーグルの口からは短い悲鳴が上がる。
 顎を上げ、口を大きく開いて背から肩を上げる、シーグルのその肩を地面に押し付けて、セイネリアは抽送を開始する。

「や、め……う、ぁ、ぐ……」

 開いた口からは、言葉になる程の声が上がる事はない。
 勿論、喘ぎでさえない。ただ、雑音とでもいうべき音が、体の動きに合わせて喉から絞り出される。
 セイネリアは、彼を引き裂くように突き上げる。
 ぬめりのない中は、ひきつってただ締め付ける事しか出来ない。それでも強引に奥を抉り、無理矢理引き抜き、また押し込む。
 セイネリアの体を押し返す為に肩に伸ばされたシーグルの手は、押すだけの腕の力を無くし、掌をきつく握り締めて、まるで抱かれる相手に縋りついているようにさえ見える。大きく開かれていた瞳からも力が抜けて半開きのようになり、目元に朱を散らしたその顔は酷く淫らに見えた。
 口から零れる音も、心なしか甘い響きが増えている。
 開きっぱなしになった唇からは、透明な液体が垂れる。
 セイネリアは、一瞬だけ、忌々しげに眉を寄せて舌打ちした。

「何時の間に、男を誘うようになったんだ」

 セイネリアが荒い息で言えば、僅かに正気に戻った彼の瞳から涙が零れる。
 何処を見ているのか分からなかったぼやけた瞳が、未だ呆けながらもセイネリアを見る。

「こんなやり方でも感じるのか……もう、誰に抱かれても感じるんだろう、お前は」

 動きに合わせて頭を揺らし、涙を流しながらもシーグルは力なく首を振ろうとする。そんな動作さえ男を誘う雌のようで、セイネリアはより乱暴に彼の中を抉り、貫いた。
 そして、彼の中に注ぎ込む。
 ぶるりと、目を閉じて体を震えさせるシーグルが、熱い溜め息を漏らす。
 中の肉が飲み干すように蠢いて、セイネリアにより強く快感を与えてくる。
 意識を手放しかけて呆けた顔をしている彼に、セイネリアは口付ける。

「ンッ……」

 噛み付くように、唇全体を覆うように口付けても、シーグルは吐息を漏らすばかりで抵抗しようとはしなかった。何度も唇を吸い上げ、舌を絡め取っても、シーグルは最早抗おうとはせずに、セイネリアにされるがまま受け入れた。

 唇を離し見下ろせば、薄く開いた瞳から涙を流し、唇を唾液で濡らして開いたままの彼がいた。何かを諦めたような瞳はセイネリアの顔を映さず、ぐったりと、男に組み敷かれるまま熱い吐息を漏らしている。

 セイネリアは歯を噛み締める。
 震える手で彼の頬を撫ぜ、そこから首筋に触れて胸にまで下りるとそこに爪を立てた。

「つっ……」

 ぴくりと、シーグルが痛みに眉を寄せる。
 見開かれた青い瞳に映るよう、彼に顔を近付けて、セイネリアは囁く。

「諦めるのか。男に組み敷かれ、足を広げて突っ込まれて、ただ喜んで腰を振る事しか出来なくなったのか。ただの雌に成り下がったなら、お前に何の価値がある?」

 シーグルの瞳がゆっくりと焦点を合わせ、セイネリアの顔を真っ直ぐに見る。
 再び瞳から涙が零れて、表情の消えていた彼の顔が苦しげに顰められる。

「誰が……こんな事好きでやるものか……抗う事が出来るなら……こんな……」

 震える唇の下で、彼の噛み締めた白い歯が見える。
 涙を溢れさせるその頬を再び撫ぜて、セイネリアの琥珀の瞳が痛みを浮かべて彼を見下ろす。

「嫌ならちゃんと抗ってみせろ、諦めて、受け入れていれば男娼と同じだ」
「お前に……何が、分かる……」

 セイネリアは口元に笑みを浮かべる。
 それが、シーグルを嘲笑う為でなく自嘲の笑みであるという事は、セイネリア本人にしか分からない。
 再びセイネリアは彼を突き上げる。
 びくりと震えたシーグルは、熱い息を吐きながらも顔を左右に振る。
 先程とは違い、ぬめりを帯びた中は征服者の動きを助け、ただきつかっただけの締め付けは、今度は柔らかく引き込むようにセイネリアの雄を包む。

「嫌……だ」

 もう完全に快感しか感じていない事が分かる表情で、それでもシーグルは顔を振る。
 熱い息を吐き、肌を染めて、それでも瞳は拒絶に涙を流す。
 穿たれた男を熱く包み蕩ける中は余りにも淫らで、切なげに寄せる眉と細められた青い瞳は男の征服欲を引きずりだす。細い腰は打ちつけるセイネリアの雄を受け止めるにはあまりにも頼りなく、けれども淫らに揺らめいて貪欲に男を飲む込み、引き込んでいる。
 誰が抱いても分かる、この体が男を何度も受け入れている事など。彼が望む望まないに関わりなく、この体は男に犯される事を快感だと知っている。
 それでも、まだ、彼は嫌だと呟く、抗えない悔しさに涙を流す。
 ギリギリの位置で、彼は心だけはまだ堕ちまいとする。
 足掻いて、手を伸ばしても何も掴めないまま、それでも手を伸ばして堕ちる自分を止めようとする。

 そんな彼だからこそ、セイネリアには――愛しい。

 彼に向かう感情は狂おしい程に凶悪で、思うままに体を任せれば、彼をこのまま貪り尽くして壊そうとしかねない。それが分かっているからこそ、セイネリアは怒りと憤りと後悔と、そして彼への愛しさで溢れそうになる感情を押し留めなければならなかった。彼を貫けば貫く程、昏い悦びに熱くなる体を制して、荒れ狂う感情を押し殺さなければならなかった。
 やがて、再びセイネリアは彼の中に吐精し、シーグルもまたセイネリアに注がれた感触で達する。
 乱れた息を飲み込み、焦点の合わない瞳で宙を見つめるシーグルの顔をセイネリアは見下ろす。
 一瞬だけ、胸の痛みを抑えきれずに瞳を震わせたセイネリアは、すぐにそれを消し去るように目を閉じて彼の顔を視界から消し、頭を数度左右に振った。





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はい、二人の(精神的に)痛いHでした。でもあまりエロくなってませんね、すいません……。


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