悲劇と野望の終着点
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【14】



 がちゃん、がちゃん、と頭上で鳴る枷の音の聞きながら、シーグルは精一杯の声で叫んだ。

「嫌っ、嫌だ、やめろっ……いや、はな、せ……」

 けれども悲痛に響く声は、凌辱者の耳には心地よく届くだけだった。
 叫べば叫ぶ程リーズガンは笑い、シーグルの体の中に穿たれた彼の肉は興奮に膨れ上がる。より勢いをつけて奥を擦られ、体の中に嫌で堪らない男の存在を強く感じる。

「面白いね、体はこんなに悦んでいるのにこれ程嫌がるとは。それとも、よいからこそ嫌なのかな」

 圧し掛かる男の体が揺れる。リーズガンの笑みは揺れて、ぶれて、まるで何人もの顔があるようにシーグルには見えた。
 嫌で嫌で逃げたくて暴れても、もう、体に力が入らない。
 吐き気がまたこみ上げてきたが、もう、吐くものがない。
 最初にリーズガンに挿れられて中に出された時に吐いて、その後も何度か吐いて、あげくもう吐けなくなった辺りで水を掛けられた。その時に少しだけ頭がクリアになったが、それからリーズガンが服を脱いで圧し掛かってきたので、より相手の匂いを強く感じるようになって嫌悪感は悪化した。

 がちゃん、がちゃんと腕が暴れて枷が鳴る。逃げられないのを分かっていても、体が逃げようとして跳ねる。
 逃げたい、逃げたい。すんでのところで『助けて』という声をシーグルは飲み込む。今ここで、あの男の名を呼んで助けてくれと叫んでしまえば、ぎりぎり踏みとどまれているその場所から崩れ落ちてしまいそうだったから。

――それでも、あとどれくらい持つだろうか。

 揺らされる視界の中、シーグルはもう殆ど考える事が出来なくなっている頭で呆然と思った。

「ふ……うむ、本当に慣れた体だ」

 リーズガンが満足そうな息をわざとこちらの耳元で吐く。
 それが嫌で顔を背ければ、今度は唇を塞がれて体を擦り付けられ、肌が粟立つ。
 それから、体の動きを止めた男の体液が体の深くに流し込まれる。冷えた体の中に入ってくる熱い流れに、反射的に下肢に力が入って持ち上げられた足がきつく男を挟み込む。体中の筋肉が収縮して、中にある男の欲を絞りあげる。腕が強張って、暴れて、がちゃがちゃと頭上で枷を鳴らす。

「あぁ本当に……体はこんなに悦んでいるよ。まだ足りない、もっと欲しいとぎゅうぎゅうに締め付けてきて男を強請っている。なんて淫乱な体だろうね」

 嬉しそうにやはり耳元で囁いて、リーズガンは抜く事なく体を起き上がらせると、手でシーグルの雄に触れた。

「おや、今のではイケなかったのか、それはすまなかったね、可哀想に」

 そうして、先端に軽く爪を立てて、反射的にシーグルの体に力が入る。

「ぁっ」

 びくんと体が跳ねれば、やはり未だ中にいるリーズガンを締め付けてしまう。
 がちゃん、と腕が鳴らす音とともにシーグルは叫ぶ。

「嫌だっ、いやっ、抜け、抜いて……ぁ、いやぁぁあっ」

 そうすれば益々顔を笑みにゆがめて、リーズガンはわざとその欲の肉でシーグルの奥深くを突きあげた。それでシーグルの雄が爆ぜる。

「ふふ……あぁ、嫌だって? 嫌じゃないだろ、これでイってしまうのだから」

 中ですっかり大きさを取り戻したリーズガンの肉が、そこでまた動き出す。
 勢いをつけて激しく中を擦り上げ、今度は高い位置からこちらを見下ろした体勢のまま、下半身だけでシーグルを突き上げる。

「いやぁ、あ、あぅ、はぁ、ん、あぁ嫌ぁ、ん、あ、ぁ……」

 リーズガンの言う通り、体は快感を感じていた。
 途切れることなく嫌だと言っているその言葉に、甘い吐息が混じる、高い喘ぎ声が混じる。それでも心はただ拒絶を返して、感じる快感を追い出そうとするように、ぞわぞわと肌から入り込んでくる嫌悪感が全身の神経を逆なでる。
 心も身体も追い詰められて、逃げたいのに逃げ場がない。

「すごいね、まだこんなに締め付けて、絡みついてくるようだよ」

 笑い声を上げて、リーズガンの手がシーグルの腰を両手でつかみ尚一層抽送を速くする。そこから僅かに体を倒して、腰のラインを上へとなぞりながら手を胸まで持って行き、その頂きを両手で摘まんだ。

「あぅっ、やぁっ、あっ、あー」

――あぁ、まただ。

 がちゃんという音と共に、体にぎゅっと力が入る。下肢が乱暴に揺さぶられて、中にリーズガンの精が注ぎ込まれる。嫌なのに嫌なのに、体は強く男を締め付けて、足が男の体に絡む。びくびくと体が跳ねて、離れたいのに男に自ら下肢を押し付けてしまう。

「本当にこれは……セイネリア・クロッセスに相当仕込まれたと見える。これなら中身が壊れても使い道に困る事はないだろうね」
「あ……嫌、いや……嫌ぁ」

 閉じる事も出来ない瞳を見開いて、シーグルは涙を流す。
 視界を無くせば、体の感覚が更にダイレクトに精神へと繋がってしまう。彼ではない男の匂いと、彼ではない男の気配と、その感触と、声に、精神と身体が拒絶する。逃げたくて逃げたくて仕方なくなる。体が逃げられないから――心が、体から逃げ出してしまいそうになる。いやおそらく、もう半分逃げかけている。

「まったく、どれだけ淫乱な体なんだ。まだ欲しがって……」

 だがそこで、リーズガンが深いため息をつきながらも、やっと中に入りっぱなしだった彼の雄を抜いて体を起こした。
 一時の安堵に、シーグルの体から力が抜ける。
 抜かれたそこからどろりとリーズガンに注がれたものが溢れ出て、無くなった中の質量を探してひくりと肉が蠢く。その度にそこからとろとろと体内と同じ温度の液体が伝い落ちて、下肢全体を濡らしていく。
 その感触にさえ背筋はぞくぞくと悪寒と快感の両方を伝えて、自由になった足がこみあげる感覚をどうにもできなくてガクガクと震えながらさまよう。その足を片方だけ、伸びてきたリーズガンの手が掴んで持ち上げた。

「本当に、どれだけここに男が欲しいんだね」

 言いながら、指を中にいれる。

「あうっ……んんっ」

 指が中をかき混ぜて水音を鳴らす。
 中を開かれて、奥にあった液体が体内から落ちてくる。指がそれを掻き出すように突き上げる動きをしてきて、それに腰が揺れてしまう。

「ほら、ほら、指でさえこんなに悦んで。まったくよく仕込まれているじゃないか」

 指が動く度に、ぐぷ、と空気と液体が体の中で混じる音がきこえる。ぐぷ、ぐぷ、と音を体の中に響かせて、リーズガンは指でシーグルを犯す。リーズガン自身が圧し掛かってきていない分、相手の気配や匂いを感じずに済んでいるせいか、身体は大人しく快感を受け入れてしまう。

「あ、あぅ、あん、んんっ」

 身体も心も疲弊し過ぎた今、それを止めようとする力もなく、唯一拒絶としての反応は涙を流すくらいしかなかった。もう、嫌だ、という言葉を出すのさえ億劫で、唇が意識して動かせなくなれば、やっと下肢の指が去る感触と共にリーズガンが離れていった。

「流石に私も疲れた、暫くはお前達でやっていろ。なんなら、一度水を掛けて洗っておくといい」

 言葉は聞こえていても、頭が理解をしようと働かない。
 だからシーグルがこれから起こる事が分かったのは、また水を掛けられて、リーズガンではない男が体の上に乗り上げてきてからだった。








「東だ」

 セイネリアの言葉を、そのままラストはレストに伝える。そうすれば彼らはその扉を戻って別の扉に入る。
 いくつもの扉をとりあえず片端から入ってみれば、次第に法則性というものも見えてきていた。転送で出来た扉の迷路は王城の6つある塔の内の4つの塔の間をいったりきたりするようになっているらしく、上に向かうにはそれらを同じ順番で通っていかなければならないようだった。

「マスター、なんか見張りがいる扉に出たから中を確認してみるって。見張りは一人だから大丈夫だろうって」

 だがセイネリアの目には、丁度断魔石の効果が強い位置なのかレストの魔力の位置は見えなかった。だから今出来る指示は一つしかない。

「カリンの判断に任す、と言え」

 彼女なら、状況もセイネリアの心情も十分理解している。それでそう判断したのなら、後は彼女に任せるしかない。だからセイネリアはただ無言で彼女からの報告をまった。
 自然、自分でも意識せず、セイネリアの左手は持ちあげられてグローブの上から指にある指輪を唇に押し当てていた。それをラストは不安そうにずっと見ていたが、思った以上に長い時間が掛かってやっと双子の弟から連絡がくると、それに一瞬安堵して……それからすぐにその表情を沈ませた。

「どうした?」

 表情で良くない事があったのを察したセイネリアが、すぐにラストに聞いてくる。普段なら報告してくるまで待つ彼がこうして聞いてくるというだけで、今のセイネリアがどれだけ焦っているかというのがラストにも分かった。

「見張りはカリンさんが眠らせたって。それで扉も開けられたんだけど……あのね、中には誰もいなかったんだって。それで見張りの人の記憶をレストが見てみたんだけど……確かに、本当はそこにシーグルさんがいたんだって。でも、少し前にシーグルさんは部屋から連れ出されてて……今は……何処に、いるか分からない、みたい……」

 セイネリアの琥珀の瞳が見開かれる。空気の変わったその様子に怯えて肩を竦めたラストは、彼が顔を下に向けた事でそのまま彼を見ている事が出来た。
 ラストにとってセイネリアは絶対の存在だった。いつでも自信があって、いつでも全てを分かっていて、何があってもどうにかしてくれる。どれだけ不安な事があっても彼がいれば大丈夫――その彼が、最愛の青年の事にだけは心を乱す事は分かっていても、ここまで影響があるとは思っていなかった。想像できなかった。
 今、最強と言われた黒い騎士は、下を向いて顔を左手で覆い、右手の拳を握りしめて床に強く押しつけていた。右手の拳はぶるぶると震え、同じく震える吐息と様子から彼が歯を噛みしめているのが分かる。

「何故……今……だ」

 呟く声は、ラストに対して指示を出す余裕もない。
 ラストはそんな彼を見ていられなくて天井を見上げる。真っ暗な空間に向かって泣いてしまいながら祈りを捧げる。

――全ての者に等しく平穏を与えしアルワナよ、どうか彼の一番大切な人をまだ貴方のみもとに迎えるのはお待ちください。どうか、彼の手に返して……。

 だが目を閉じて一心に祈り始めたラストは、ふと何かの気配を感じて目を開く事になる。
 そうして目の前に、金銀を散りばめた立派な服装に、錫杖を持ち、王冠を被った老人の姿がある事に気付いた。
 老人とはいえ服装に負けない威厳を備えたその人物は、ラストと目が合うと僅かに笑った。そうしてから部屋の一方を指さし、その姿は光となって霧散する。けれどもその光はラストの中を通り過ぎ、ラストに一番知りたかった事を教えてくれた。
 アルワナは永遠の眠り――死を司る神でもある。だからこそアルワナの神官は死者との対話さえ可能とする。とはいえラストはその方面はあまり得意ではない。強い意志が残っていて向うから呼び掛けられれば見える程度だ――だからそれだけ、今の人物は強い想いを持ってこちらに伝えたかったのだろう。

 ラストは涙を拭って立ち上がる、それから未だ下を向いて蹲ったままのセイネリアに力強く告げる。

「マスター、大丈夫、シーグルさんのところにいけるよ」

 暗闇の中、セイネリアの琥珀の瞳がこちらを見上げてくるのを確認して、ラストはにっこりと微笑んだ。

「建国王アルスロッツの魂がシーグルさんの居場所を教えてくれたんだ、私のシルバスピナを助けてやってくれって」




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 エロ少し短め……なのは次回もエロがあるからって事でおゆるしを。



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