悲劇と野望の終着点
※この文中にはちょっとだけ性的表現が含まれています。嫌いな方はご注意ください。




  【13】



 リーズガンの手が、じっくりとシーグルの顔を撫でる。いや、その手つきは撫でるというより撫でまわすといった方がよく、大き広げた掌で額から頬をなぞって、顎を撫ぜ、首筋をなぞる。愉悦に歪んだ瞳は楽しそうにうっとりとシーグルを見つめ、唇は薄く開いてちらちらと舌が見える。

「君は覚えていないだろうが、私はもう二度程君の体で愉しませて貰った事があるんだよ。淫らに男を誘って喘ぐ君はそれはもう……たまらなくよかったよ」

 シーグルは嫌悪感に震えそうになる体を抑えて、リーズガンを睨む事しかできない。リーズガンの手はそのまま体を下りて行き、服の上から胸を撫ぜ、腰を撫ぜ、足の付け根を撫ぜていく。

「でもこうして今のままの君を抱けるのは最後になりそうだからね、折角だからまずは正気のまま嫌がる君を愉しませてもらおう」

 言いながらリーズガンは、シーグルの服の胸の紐を解き、上着の前を開く。現れた喉元に口付け、吸い上げ、舐めて汚らわしい唾液の跡を残す。

「嫌そうだね、肌がとても緊張している。触れるだけでぴくぴくと動いている」

 シーグルは何も言い返しはしなかった。唇を引き結んで、歯を噛み締めて、ただ感覚に耐える。
 リーズガンの笑う吐息が肌を擽る。ぴちゃと音を立てて唾液を塗りたくるように肌を舐められると、快感よりも背筋に寒気が走った。

「ふむ、黙っている気かね。……まぁ、どこまで耐えられるかが見ものだが」

 言いながらリーズガンは、シーグルの下肢の衣服に手を掛ける。今のシーグルの服装は金属具は使われていないため、ベルトはなく、紐を解けば簡単に脱がす事が出来た。
 下肢を曝され、胸も大きく開けられて、腕以外ほぼ全裸と言える格好になったシーグルを、リーズガンは一度体を離すと満足そうに眺めた。

「いい格好だ、羞恥に耐える顔もまたいい」

 言いながらまた近づいてくると、背けていた顔を顎を掴んで無理矢理前に向けさせる。

「悔しいかね、君は相当私が嫌いなようだからね……」

 そうして押さえて動けない顔に、リーズガンは顔を更に近づけて唇を合わせてくる。

「ンー」

 近づいてくる彼の顔に、噛んでやる、と直前まで思っていたシーグルは、だが唇が触れる直前に自分の性器を掴まれてそのタイミングを逃した。下肢に気を取られたせいで口腔内に舌の侵入を許し、口の中一杯に大嫌いな男の匂いが充満する。

「う……ングゥ……」

 離そうと顔を振ってもリーズガンの手はがっしりとシーグルの顎を固定している。
 おまけに下肢の手の方も、握っているシーグルの性器の根本から先端までをやわやわと扱いて刺激を与えてくる。

「ウ……ウゥ」

 その状態では喉で唸るくらいが精いっぱいの抵抗で、それを嘲笑うかのようにリーズガンはシーグルの口腔内に彼の唾液を流し混んでくる。噛めないように、深く舌をいれると同時に手の動きを強くして、嫌がって跳ねるシーグルの体を上から完全に圧し掛かって押さえ込む。

 嫌だ、嫌だ、と心で叫んで――けれど、シーグルにとって不幸な事は、心の悲鳴がそれだけでは済まなかった事だった。

 その変化は、最初、シーグルにも自覚できなかった。
 ただ、口腔内にリーズガンの匂いを感じ、圧し掛かってくる体にその存在自身を感じて……気づけば、自分でも訳が分らない程、シーグルの体は震えていた。

「おや、震えているね? そんなに嫌かい?」

 リーズガンでさえ、最初はその様子に笑っていた。
 だがその反応がおかしい事は、シーグル本人には分かっていた。

――まさか、この手の状況なら……今まではこんなことなかったじゃないか。

 身体が嫌悪感に震える。吐き気がして、嫌で嫌で堪らなくて、耐えられなくて、逃げ出したい。この感覚はレザに抱かれている時に感じたモノと同じだった。あの時あそこまでおかしくなったのは、正気の状態で無理矢理自分で自分を抑えて抱かれ続けていたからだとシーグルは思っていた。それまで何度も無理矢理抱かれていた時にそういう感覚がなかった分、それが原因だと思ったのに――なのに今、シーグルはあの時と同じ感覚の中にいた。
 嫌で嫌で嫌で嫌で……耐えられない、逃げたい。肌が総毛立ち、どうにか心を抑えようとしても体が震えてどうにも出来ない。

「ウーウーウーッ」

 ガチガチと頭上で固定された枷が鳴る。
 意識せずに逃げ出したくて暴れるシーグルは、戒められた腕を滅茶苦茶に動かして逃れようとする。
 やっとシーグルの様子が尋常ではないと理解したリーズガンが、一度唇を離した。

「嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……嫌……離せっ、離せーーーっ」

 叫んだ後、口を閉じても歯がガチガチと震えて音を鳴らす。
 うわ言のように『嫌だ』と呟く。瞳の焦点が定まらない、目の前のリーズガンの姿がぶれてぼやけて視界全体が歪んでいく。
 リーズガンが離れてさえ、狂気に浸食されだした精神を落ち着かせることなどもうシーグルには出来なくなっていた。パニックを起こし掛けているシーグルは、こみ上げてくる吐き気を抑えるのに必死で、リーズガンがどんな目で自分を見ているかさえ気にする余裕がなかった。

「これは……それほど嫌かね」

 リーズガンがシーグルの胸を撫でる。
 それに、ひ、と高い声を上げて固定された台の上で逃げようと体を捩るシーグルの姿を見て、リーズガンは楽しそうに目を細めた。

「どうやら、君を壊すのは案外簡単そうだ。これは都合がいい……つまりこのまま、壊れるまで犯し続けてやればいい訳か」

 シーグルの悲鳴とリーズガンの笑い声が、部屋の壁に反響して響いた。







 建国以来、一度も敵に攻められる事がなかったクリュース城は破壊された事もなく 、増築も計画的に行われてきた為、内部も整然として一見分かりやすい作りに見える。だが計画的に作られている分、意図的に隠された通路や部屋がいたるところにあり、おまけにそれらの殆どには魔法による仕掛けが入っている為見つける事は困難を極める。
 ただし逆に、魔法だけで隠蔽されている場合ならセイネリアに対しては意味がない。共に行動しているラストに分からずセイネリアに見えている場所は、そこが魔法で隠されていた場所であるという事だ。
 これだけ徹底してシーグルの居場所が隠されてきた事を考えれば、ほぼ確実にそこへ向かう道は何らかの仕掛けで隠されている事は間違いない。シーグルがいる部屋が高いところで紙を投げられるような窓があるというなら、部屋自体が外壁に面しているか、塔になっている場所で、そこへ至る通路が隠されていると考えるのが自然だ。
 セイネリアでなくとも、断魔石の効果が途切れている場所を探せば、そこには何かしら魔法が掛かっている可能性が高いと分かる。だから常に『見る』事でそれを確認出来るソフィアはその手の仕掛けを探しやすい。カリン達裏の連中は、魔法には疎いが貴族の屋敷の隠し通路を探す事には慣れている。目のいいロスターも違和感を探しやすい。そして後は、レストやラストが地位の高そうな見張りを眠らせて居場所を聞き出してみる……とにかくまずは、シーグルの居場所を見付けるのが最優先事項だった。

「ラスト、ここの扉だが、いくつ並んで見える?」

 整然と並んだ扉に妙な違和感を感じてセイネリアが足を止めて聞くと、双子の片割れの神官は答える。

「3つ、かな」
「4つだ。おそらく、これに魔法が掛かっている」

 セイネリアが指差せば、その隠れた扉の前にラストが立つ。セイネリアは扉の横の壁に張り付きながら、そっと扉を開ける。

「誰もいない。空の部屋だよ」

 それでセイネリアも中を覗けば、確かに中はただの誰もいない小部屋だった。ちなみに、この手の隠し扉や隠し部屋を見つけたのは初めてではない。ただ今回少し気になったのは、扉だけでなく、開けたその先にも魔法の気配を感じた事だった。

「ちょっと入ってみるね」

 言ってラストが部屋に入ると、セイネリアの視界的に彼の姿は消えた。それを追ってセイネリアも部屋に入ってみたが、見えた通りの部屋の中にそのまま入れただけで勿論ラストの姿は見えなかった。
 セイネリアは思わず舌打ちする。

「……こういう時に、魔法が効かない、というのが裏目に出るとはな」

 どうやら、この部屋は別の部屋に繋がっているらしい。
 術者本人がいるなら、その人間からくる流れを許せばその魔法を受けることも出来るのだが、セイネリアにとってこういう設置型の魔法はただ一方的に無効になる。
 だがそこで、ラストがまた扉の外に姿を現す。どうやら一旦戻ってきたらしかった。

「マスター、向こうの部屋から出ると階段が上に続いてる。僕行ってみてくるね」
「まてラスト、ここにレストとカリンを呼べ」

 セイネリアが付いていけないとなれば、ラスト一人では敵がいた場合に詰む事になる。普段ならアルワナの術で眠らせればいいだけの話だが、断魔石の効果範囲だったら術が使えない可能性もある。
 となれば、ラストではなく、カリンとレストに行かせるほうがいい。双子の意志疎通能力は断魔石に関わらず使えるので、行った先の報告をこちらで受けて他の者を更に呼ぶか、彼ら二人に任せるかを決めればいい。
 少し待てば、割合近くにいたらしく、カリンとレストがこちらに合流する。

「カリン、ここの隠し部屋が魔法で別部屋に繋がっていて、そこから階段で上がれるらしい。二人で行ってみてこい。状況はレストを通してこちらに報告しろ。人手が必要なようなら一旦戻ってこい」
「はい、分かりました」

 魔法で繋がっている、というだけでカリンもセイネリアが行けない事を理解出来たのか、彼女は軽く苦笑するものの何も聞き返さずに了承し、レストを連れてその部屋の中へ入っていく。
 そうして彼女が部屋に消えたのを確認してから、セイネリアはラストを抱き上げた。

「え、マスター?」
「そろそろ見張りが来るかもしれんだろ」

 そうしてカリン達が行った部屋の中へと入ると、セイネリアに抱かれている為、ラストも共に転送されずに元の空部屋の中に入る事になる。

「ここなら隠れるには最適だ」
「……確かに、そうだね」

 扉を閉めてしまえば、扉自体も隠れてしまうし、ここの術を設置した魔法使い以外はここに入れない。部屋の中にラストを下してその場に座ったセイネリアの前に、ラストも向かい合って座った。

「マスター、レスト達だけど、階段の先に扉が何カ所かあるみたい。隠し扉もあるって。とりあえず一つづつ入ってみてみるってさ」
「そうか」

 魔法仕掛けの隠し扉は幻術を使ってるものが多く、一般人でもたいていは触ってみれば分かる。カリンの事だから壁ぞいを慎重に触りながら行っているのだと思われた。

「あちこち別部屋と繋がってるみたいだって。全部調べるとかなり時間がかかりそう」
「そうか……」

 セイネリアは、そこで自分の冒険者支援石を取り出す。誰かがシーグルを見つければ知らせてくるようになっているその石は、今はまだ光ってはいない。
 これが地方の監獄などであれば、いっそ建物全てを破壊する勢いで探す事も可能なのに、と思いながらも、自分が相当に焦っている事を自覚する。そんな自分を抑える為に、セイネリアは一度目を閉じた。
 何処にいる、と心の中に投げかけても、当然返事が返る事はない。いっそ魔剣を抜いてみれば、彼に行く魔法の流れが分かるだろうかとさえ思う。
 それでもまだ、理性は動いている。
 冷静さを失ったらすべてが終わると自分にいい聞かせて、ただ待つよりはマシかと城の内部の魔法の気配を探ってみる。
 黒の剣を手に入れた時から、セイネリアは強い魔法の気配を見る事が出来るようになっていた。とはいえ断魔石か、もしくは別の仕掛けのせいなのか、ここではところどころ見えない場所もある。それがなければシーグルらしい魔力の気配を見つけられる筈なのだが、現状セイネリアにはそれでシーグルを見つける事は出来なかったのであるから意味はない。
 ただ一通り城を見渡せば、丁度レストらしい魔力の動きが城の上に向かおうとしては途中から全く別の場所に移動して、移動して……戻っているのが見えた。

「ラスト、レストに言え。元の場所に戻っていると」
「うん……やっぱりそうなんだって、カリンさんが」
「なら、一度扉をくぐったらそこで待て。どこへ出たかこちらで教える」
「マスターは見えてるの?」
「お前らの魔力が高いからな、目印として役に立つ」

 言えば、ラストは嬉しそうに笑って、双子の兄弟に向けてセイネリアの指示を告げた。




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 つぎがやっとこさのエロです。



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