愚かさと間違いの代わりに
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【12】



 そもそもこの男の『触れるだけ』は絶対それだけでは済まないと分かっているのだが、少なくとも最後までやる気はないなら仕方ないか、と思ってしまった段階でこちらの負けだ。

 体から力を抜けばセイネリアが今度は左足のつま先にキスをして、やはり一本一本丁寧に指を舐めてくる。それにいたたまれなくて顔を反らしていれば、セイネリアの唇は足から足首、そうして脹脛(ふくらはぎ)へと確実に上にあがってくる。膝を越えてくると緊張が走って思わず足を閉じたくなったが、それを逆に開かされて彼の唇は腿を少しづつ上がってくる。足の付け根の傍までくれば、中心で反応する自分の雄に彼の髪や手が偶然なのか意図的なのかたまに触れる。彼は恐らくわざとそれには触れず、腿と足の付け根にキスして、肌を吸って、そうして舐めて、唾液で濡れたその表面に息を吹きかける。
 けれど唐突に彼はそこから顔を離して、少しだけ体を起こした。
 シーグルはほっとしたが、その直後に彼の手がそっとこちらの性器のその付け根を撫でるようにして触ってくる。

「あ……」

 思わず足が跳ねれば、セイネリアはくすりと笑う。

「お前は感じやすいな」

 シーグルは自分の顔がとんでもなく熱くなっているのを自覚した。

「うるさいっ、誰の所為だっ」

 セイネリアはこちらの顔を見て、それから嬉しそうに笑う。

「俺の所為、と言ってくれるのか?」

 シーグルが答えを返せなくて彼の顔を見る事しか出来ないでいれば、今度は唐突に彼の顔が下におろされる。そうすれば当然彼の顔は自分の股間の上に行く訳で、シーグルは自分の性器が温かい彼の口の粘膜に包まれた事を知った。

「あ……馬鹿っ、そこまで……は」

 セイネリアは口では何も返してこない。ただわざと水音までさせて、シーグルの雄を口の中に入れ、舌でその先端を擦りながら舐めてくる。

「ふ……は……」

 慣れている男は舐めるだけでは済まさずに、手でその周囲を撫ぜてくる。横腹から手を滑らせてその根元に届くとその周囲をなぞって擦り、そこを濡らしている唾液を広げるようにして茂みや下の膨らみに馴染ませる。口からの水音だけではなくその周囲を撫ぜる水音まで聞こえてくるから、シーグルとしては感じるの半分の、恥ずかしくて仕方なないの半分でへたに声を出す事も出来なくなった。
 とはいえ、こういう行為における自分との経験値の差があり過ぎる男はやたらうまくて、シーグルは早々に耐えるのを諦めた。

「は、あ……っ」

 先端を吸われてはびくんと背を上げ、彼の頭を手で掴む。跳ねあげた足はセイネリアが腿からひざまですっとなぞるように支えて上にあげさせ、その足自体を彼の背に乗せてくれる。
 くちゃ、くちゃ、と水音と彼の吐息と自分の声だけが静かな部屋に響く。
 セイネリアは周りから柔らかい刺激を与えてきたかと思うと唐突に一番感じる先端に強い刺激を与えてきて、それでイキそうになったシーグルが震えればそこから口を離し、また周囲に緩い刺激しか与えてくれなくなる。そのタイミングの外し方が絶妙で、一度や二度ならまだしも、何度もやられればシーグルでさえ頭まで快感を追う事で一杯になる。

「あ、あ、……はぁ……馬鹿、いい加減にしろ……」

 それでもどうにかそれだけを言えば、自分でもそれが涙声になって震えているのを自覚してしまった。悔しくてぎゅっと彼の髪を掴めば、彼の笑った気配が濡れた性器に掛けられた彼の吐息で分かってしまった。

「ならシーグル……ちゃんと見ていろ」

 そう彼が言ったから、涙が浮かぶ目で下肢にある彼の顔をシーグルは見た。
 セイネリアは口から出したそれを舌で根本から先端まで愛おし気に舐め上げ、それからゆっくりと全体をまた口の中に入れた。そうして唇を窄めて上下に動かし出せば、既に限界に近かったシーグルは膝を立てて彼の頭を挟むように足を閉じようとしてしまう。彼はそれを気にせずますます強くシーグルの雄を扱いてくるから、シーグルはびくびくと体のあちこちを震わせながら競りあがってくる快感に身を任せた。

「は、あ、あ、あ、あ――ッ」

 開放された時には全身から力が抜けて、疲れ切ってしまって何も言う気にならなかった。ただ彼はそれで止めてくれる事なくシーグルの吐き出したモノを最後まで吸い上げ、周囲に零れたモノさえ惜しむように舐めていた。

「もう、いい……十分だろ」

 最後までしないならそれで終わりにしてもいい筈だとシーグルは思ったのだが、セイネリアは顔を上げて口を拭うと、見せつけるように口の周囲を舌で舐めてから笑って言う。

「何を言ってる、全身に教えてやると言ったろ?」

 それで彼が少し体を浮かせて脇腹からへその周囲をぐるりと舐めてきたから、シーグルは呆れながらも天井を仰いで諦めるしかなくなった。ただでさえイったばかりの体は怠くて力が入る筈もなく、おまけにここのところの寝不足と食べてないことで体力が削られきった体では最初から抵抗のしようがない。
 セイネリアは腹の辺りにキスをした後に舐めて、それからふと気づいたように起き上がって、今度はシーグルの右手を持ち上げるとその指先と手の甲にキスをする。その姿がまるで貴夫人に対するソレのようで、シーグルはぐったりとしながらも笑ってしまった。それをちらと見てきたセイネリアも唇に笑みを纏い、尚も指の先端から節、付け根、甲と一本一本の指に丁寧にキスをしては手首や、掌にまで数えきれないくらいキスをしてくる。

「手へのキスなら、女性にしろ」

 男の自分にするものじゃない、とシーグルは言いながら苦笑する。いくら美人だ細いと言われても、シーグルの手は指は細長いが節くれ立っていて皮は硬い。自分としては自分の体で一番男らしいと思うくらいで好きな箇所だが、だからこそこうしてキスされるのには違和感しかない。

「戦士らしいお前の手の方が俺はいい。この手はお前がずっと積み重ねてきた努力の証だろ」

 言って本当に愛おしそうに琥珀の目を細めて、彼は手にキスを続ける。
 その言葉に何故か泣きそうになってしまって、シーグルは唇をきつく結んだ。
 セイネリアは尚も手にキスをして、それからやっと手首から先に上がってくる。前腕全体をキスしてその筋を舐め上げ、それから上腕に鼻を押し付けてキスをしてくる。肩までいけば今度は腕を切り替えて、左手の指先からまた繰り返す。
 こちらは一度イっているからいいとして、彼の方は本当はかなりきついのではないかと思うのだが、彼はただ手に優しいキスをするだけでその表情には辛い様子は見えない。
 時折わざとちゅ、と音を立てて吸ってきてはこちらの顔を見てくるくらいには余裕があるようで、シーグルは呆れながらももう全て諦めて彼の好きにさせる事にした。

「まったく……お前はそれで楽しいのか?」

 呆れ過ぎてつい聞いてしまえば、彼は笑って答える。

「見て分らないのか?」
「……とても楽しそうだな」
「当然だ」

 そんなやりとりをして互いに笑って、そうして彼は体を伸ばしてこちらの体に覆いかぶさってくると力を抜いてしまった。つまり、完全にこちらの上に乗って胸と胸、体と体をぴったりと重ね合わせたような体勢になる。

「少し休憩させろ」
「何が休憩だ、疲れていないくせに……重い」
「疲れてはいないが、少し落ち着かせる時間が欲しくてな」

 言って下肢を擦りつけてきたことで、シーグルは余裕そうに見えた彼が本当はかなりきつかったことが分ってしまった。

「そんなにきついなら……一回だけなら……付き合ってもいい、が」

 言えば彼は鼻で笑って、彼の肩にあるこちらの頭を撫ぜてきた。

「今回はドクターにも言われたしな、耐えておく事にするさ。そもそも入れたら一回で済む気がまったくしない」
「お前は性欲がありすぎだ。どれだけヤれば気が済むんだ」

 娼館育ちで若すぎる頃からその手の行為が日常だったとはいえ、彼の色事に関する噂話を聞くだけでいつもシーグルとしては呆れていたからそれくらいは言いたくなる。彼は頭の上でこちらの髪に顔を埋めて、彼もまた少し呆れたように言ってくる。

「お前は逆になさすぎだろ。10代の一番やりたい盛りから色事方面は拒絶しかしてなかったじゃないか」

 それには少しむっときて、シーグルは不機嫌な声で彼に返した。

「俺がその手の事にまず嫌悪感を抱くのは、だいたいは貴様の所為だ」
「……そうか」
「そうだ、特に男相手は嫌な思い出ばかりで嫌悪感を抱いて当然だろ」
「確かに、そうだな」

 彼の声には自嘲がある、宥めるように髪を撫ぜてくるのはこちらに対して少しは申し訳ないと思ったからだろうか。シーグルは考えて、それから言葉を付け足した。

「だが今はお前以外だと嫌悪感を抱くようになったんだから不思議なものだ」

 髪を撫ぜる彼の手が止まって、彼の顔が頭に更に押し付けられてくる。
 すん、とこちらの匂いを嗅いだのが分ってしまえば少し恥ずかしいが、なんだかその行動が動物じみていて笑えてもくる。

「正直、男に抱かれるのなんか嫌だ……だが、お前に抱かれるのは嫌じゃない」
「俺だけは……か?」
「あぁ、お前だけには……だ」

 そうすれば彼はくくっと喉を鳴らして、笑った声のまま呟いた。

「まったく……どうしてくれる。抑えるつもりがいつまで経っても収まらないじゃないか」

 それにはシーグルは顔を引き攣らせて、けれども男として少しは同情もしてしまったから文句を返すのは一応止めた。

「仕方ない、緊急処置だ、許せ」

 言って彼は腰を浮かすと、彼のすっかり膨れた熱をこちらの萎えたものに擦りつけてきた。

「おい、お前……」
「お前に触れてると思うと、それだけでイケそうだ」

 つまり彼は互いの雄同士を擦り合わせてきている訳で、シーグルはそれで自分のモノもまた反応してきているのを自覚してしまった。
 自分が出しているものか、彼が出しているものか、くちゃくちゃと粘液が立てる音が聞こえてくる。擦られれば彼のその熱さや大きさ、そして硬さが良く分かる。それで何も反応するなという方が無理な話で、やがて彼の大きな手がそこに添えられて双方を掴んで擦ってくるに至ってシーグルは泣きたい気分になった。滑らかで熱い彼の雄の感触と硬い彼の手の感触を自分のソレで分かってしまって、そこが直接見えなくてもどういう状況かをつい想像してしまって恥ずかしくなる。彼の手の中のソレだけでなく顔が熱くて仕方なかった。

「お前……これは、恥ずかし過ぎるぞ……」

 つい呟いてしまえば、彼は嬉しそうにまた顔のあちこちにキスしてくる。

「何度も触れてお前の中に入ってるものだ、何が恥ずかしい?」

 こういう事を平気で言ってくる辺りが、彼が慣れているというか、ヘンタイじみているというか、シーグルとしては堪らなく恥かしくなるところだ。

「ヘンタイめ……っん……」

 言えば彼は少し息を荒くしながら喉を震わせて笑う。

「お前も興奮してるじゃないか」

 そうして彼の手が激しく擦ってくるから、シーグルも耐える為に声をヘタに出せなくなる。くちくちと水音も早くなる、彼の体もそれに合わせて小刻みに揺れる、はぁ、はぁと自分と彼の呼吸音が混じりあう。

「っぁ……」

 彼の体がぶるりと震えて、そこ周辺に暖かい液体が広がる感触があった。そしてシーグルもそこから間もなく自分も果てた事を自覚する。
 今、部屋にあるのは互いの呼吸と荒い息をつくその音だけで、二人して言葉もなくただ互いの呼吸を整える音を聞いていた。
 セイネリアは最中は体を浮かしていたものの今では完全にこちらの上にぐったりと乗っている状態で、シーグルとしては重くて仕方ない。ただ、重くても胸同士がぴったりと合わさっていれば心臓の鼓動が感じられてそれはなんだか安心する。だから文句も言わずそのままでいたのだが……暫くしてセイネリアは動きだすと、またシーグルの顔にキスをしてきた。

「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない、疲れ切って指一本動かす気になれない」

 そういえば彼は苦笑して、すまないな、と呟きながらまた顔の数か所にキスしてくる。やけに謝ってくる彼には慣れないが、慣れた彼の気配と優しいキスは気持ちが良くて、シーグルは憎まれ口を言いながらも唇は笑みを作ってしまう。セイネリアもそれで笑っているらしく、微かに体に振動を感じた。

「耐えるつもりだったんだがな……考えれば久しぶりにこれだけ触れてる時点で俺が耐えられる訳がない」
「呆れたな、お前忍耐力ないだろ」
「……気を付けておけ、お前だけには俺はどこまでもポンコツになるぞ」

 その言い方にはシーグルも笑い声を上げてしまって、けれど疲れ切った体では大声で笑える訳もなくすぐに声自体が出なくなる。

「だからお前はその分しっかりしていろ。お前が言えば俺は気づけるからな」

 そんな事を偉そうにいう彼が笑えて、そうしてその言葉が嬉しかった。



---------------------------------------------


 セイネリア……楽しそうだな。
 



Back   Next


Menu   Top