戦いと犠牲が生むモノ
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【11】



 勝敗が決した事で、ヴネービクデの街は単純にその勝利を祝う声で溢れていた。もっとも彼らがこうして素直に喜べるのは黒の剣の力を見ていないからで、力をその目で見た兵達が帰ってくればその声はまた違ったものになるだろう、とシーグルは思う。

 ともかく、剣の力を使った後のセイネリアは彼とは思えないくらいぐったりとしていて、それを支えてシーグルも一足先に街に入って領主の館へと帰る事になった。剣を使うにはセイネリアの体力が必要なのか分からないが、今の彼はずっとシーグルに支えられて立っている状態で、言葉の方も必要最小限の命令を伝える程度しか話していなかった。さすがに敵が大崩れして完全に勝敗が決するまでは戦場にとどまっていたものの、それからすぐにバン卿の勧めもあって、シーグルはセイネリアを連れて街へ帰り、バン家の屋敷の部屋にまできたのだが。

「セイネリア?」

 部屋に入ってドアを閉められてすぐ、ぐったりと肩によりかかっていた筈のセイネリアが唐突にシーグルの兜の顎の留め金を外しだす。それから毟りとるように兜を取って床に放り投げると、シーグルを引き寄せて有無を言わさず口づけてきた。

「ン……うぁ、まて……ン、セイッ……」

 最初は驚いて反応が遅れたものの、どうにかまずは一旦離して欲しくてシーグルは顔を背けて唇を外そうとする。だが腰を抱え込んだ片腕だけでセイネリアは完全にシーグルの体を押さえ込み、もう片手で顔を押さえてきて逃げようがない。

――くそ、さっきまでのアレは『フリ』だったのか。

 これがつい今までぐったりしていた人間の筈はない。先ほどまでの彼の様子は演技だったのかとシーグルは思ったが、既にここまで体勢が詰んでいればシーグルにはもう逃げる術などある筈がなかった。
 セイネリアは執拗に口づけてくる。逃げようと唇をずらせば更に強く押しつけてきて強引に舌を絡めてくる。口腔内で逃げても唇を離せないなら逃げ場はなく、やがてシーグルも諦めて体の力を抜き、彼に応えて好きにさせた。

「ン……ゥ」

 抵抗を止めれば腕も唇も押し付けてくる力は緩むものの、そうなれば今度は本気で舌で蹂躙しにくるのだから性質が悪い。慣れた男の舌を感じて、匂いを感じて、吐息を感じる。強引に絡ませるだけだった舌が、舌先だけで滑らせてきたり、こちらの舌を吸って来たりと変化してきて、おまけに時折わざと水音をさせてくれれば、ぼうっとなってきた思考の中、自然と身体がその先を期待して疼きだしてくる。

「ふ……ンァ……ん」

 手が意識せずに彼の背に行き、自ら体を彼に擦り付けるようにしてシーグルはセイネリアを抱きしめた。そうすれば彼はこちらの鎧を外しにきて、シーグルも自然にそれを手伝うように体を動かす。その間もずっと彼は唇を離さない。シーグルも彼に抱きついて唇を押し付ける。

「ふ……あ、ぁぁ……」

 鎧が脱がされてしまえば後は早い。キスに夢中になっている内に鎧下は脱がされて、彼の手が直に肌に触れてくる。そうしながらも気づけば既にシーグルはベッドの上で寝転がされていて、彼の大きな体の影の下で彼の唇を上から押し付けられていた。残っていた上半身の下着も全て剥ぎ取られて肌が空気に晒されて、そこでやっとセイネリアは唇を離してくれた。けれどまだ頭が呆けている中、今度は喉や胸を唇でなぞられて、シーグルはそれに甘い吐息を漏らす。

「あ、ぁあ、あん……あ」

 セイネリアは何も言わない。ただ代わりにぴちゃぴちゃと水音をさせて、シーグルの体の敏感な場所に舌を這わせてくる。それだけではなく彼の手は下肢の服さえさっさと緩めて、その中に手をつっこんでくる。

「あ……やめっ……セイネ、りア……」

 そこで熱を溜めてきているシーグルの雄を握られれば正気に戻る暇などある筈がない。疼いていた熱が一気にそこに集まって、驚くほど強い感覚が生まれてシーグルは体を丸める。それでも当然、セイネリアの手は止まらない。的確にそれに刺激を与えながら、耳元や首筋、目元を口づけては吸って、音を立てて、舐めて快感の中に引きずり込んでいく。

「ふ……ん、ん……ぁっ」

 次々と与えられる感覚で生まれた熱がシーグルの思考を鈍らせていく。体をびくんと震わせて跳ねて嫌がれば、また彼の顔が迫って来て口づけられる。唇で繋がればまた何も考えられなくなる。口の中の感覚だけでも思考が蕩けていくのに、欲望に震える雄を他人の手で弄ばれればただ快感に流されても仕方ないではないか――そう、シーグルは意識の片隅で考えた。
 けれど。
 彼の背を抱く腕に力を入れて抱きついて、ぶるりと全身を震わせて上り詰める感覚を味わってから――後ろに、冷たい指の感触を感じて、一気に思考が戻ってくる。

「ま、て、まてまてまてっ、冗談じゃないっ」

 シーグルが慌てて飛び起きれば、セイネリアはそこから指を離すものの不機嫌そうに睨んでくる。その瞳の凄みに息を飲みはしても、シーグルもまた彼を睨み返して言った。

「戦いには勝ったとしても、これから後処理がいろいろあるだろ、いくらなんでも俺はここで潰れる訳にいかないぞっ」

 だが、セイネリアの瞳の剣呑さは変わらない。彼はじっとこちらを睨んでくるだけでやはり何も言って来ない。だからこそその威圧感は更に増して、シーグルでさえ声が出なくなりそうだった。
 それでも、ここはシーグルも引く訳にいかなかった。

「……大勢死んだ……こんな状況でお前に抱かれて、俺に大人しく寝てろというのか」

 セイネリアの眉がピクリと動く、忌々し気に眉を寄せて、口元も歪む。
 今の彼にこのまま最後まで許せば、動けなくなるくらいに徹底的に抱かれるのは目に見えている。いくら治癒を受けても、本気で今日明日は使い物にならない自信があった。

「急ぐんだろ、すぐにここを立つ準備をするんじゃないのか、俺が後からついていくような事態になっていいのか」

 そこでやっと、セイネリアの顔に表情らしい表情が浮かぶ。彼は舌打ちした後、突然片手で顔を覆うと、ため息をついて体を離した。

「俺もかなり辛いんだが……」

 声も相当に不機嫌そうで、それでもやっと話を聞いてくれたらしい彼にシーグルも一先ず安堵の息を付く。そしてこちらを見ずに顔を手で覆ったまま下を向いている彼に向けて言った。

「なら俺が口で……する、それでいいだろ?」

 セイネリアはそこで顔を上げてシーグルの顔を見た。少し意外そうに、後はこちらの真意を見ようとするように。だからシーグルはじっと彼の顔を見つめて、彼に本気でやる気はあるのだという意志を示した。

「お前に口でさせるのは好きじゃないんだが……やる、というなら断らんぞ」

 言ってセイネリアはベッドに座りこむと自分の装備を外し出す。シーグルはそれで体を起こそうとしたのだが、気付いた自分の余りにも酷い恰好に思わず少し落ち込んだ。なにせ、上が全部脱がされているのはいいとして、足は装備をつけたままで、中途半端に下の服が脱がされかけて股間が曝されているという有様だ。
 それでせめてもと下だけでも服を直そうとすれば、見ていたのかセイネリアから声が掛かった。

「どうせなら全部脱げ」

 口で済むならその必要はないのではないか……とは言いはせずに、シーグルは大人しくそれには従う事にした。今ここでヘタにまた逆らって、それで済むものが済まなくなったら最悪だ。これ以上彼の機嫌を損ねる訳にはいかなかった。
 シーグルが全部脱いでセイネリアを見れば、彼の方も全裸でベッドヘッドに寄り掛かって座っていた。立て膝をたててこちらを向いていれば当然彼のものが見えてしまう訳で、シーグルは一瞬怯みそうになった自分を心の中で叱咤して彼に近づいていく。

「早くしろ」

 顔を彼の股間におろして、直前で止まって見てしまえばそう声を掛けられる。だからシーグルは目をつぶって、思い切って口の中にそれを入れた。

「ウ……」

 だが勢いをつけすぎたのか、あまりにも思い切って奥までくわえ込んでしまって喉に当たって噎せそうになった。だから急いで一度顔を引いて、今度は慎重に半分ほどを口に入れ、歯を立てないように唇を窄める。幸い、ともいうべきか、むせかけたせいで口腔内には唾液が溢れていて、入れた時は乾いていた彼の雄は口の中ですぐに液体のぬめりに包まれる。そうすればそのぬめりのまま頭を動かすのも容易になる。後はとにかく、くわえて、吸って、舐めて、唇で扱いて……を繰り返した。
 始めてすぐ、セイネリアの手が頭に置かれる。
 その手は優しく髪を撫でてきて、無理矢理させられている時のように頭を押さえ込まれるのとは全く違う感覚を与えてくれる。こちらは必死ではあるのだが、髪を撫でる彼の手があまりにも優しいから、その感触に思わず気持ちがよくなってしまう。
 ところが、そんな優しい手で撫でてきながらも、彼はぼそりと呟いたのだ。

「ヘタくそ」

 それにカッとなって、シーグルは思わず顔をあげた。

「悪かったな、ちゃんと教えられた訳じゃないんだ、上手い筈がないだろうっ」

 そうすればセイネリアの顔は笑っていて、おまけにそれから暫くじっとこちらの顔を見て、突然吹き出すと肩まで震わせて笑いだした。

「何がおかしいっ、俺が上手いとでも思ったのかお前は」

 何故笑われているのか分からない分なんだかよけいに恥ずかしくなって、シーグルは顔を真っ赤にして叫ぶ。

「気にするな、お前をバカにしたい訳じゃない」
「へたくそ、がそれ以外の何だというんだっ」

 言えばセイネリアは、笑みを納めて少し考えながら口を開いた。

「……そうだな、苦手で嫌なくせにお前があんまり一生懸命にやっているから……俺としてはうれしかっただけだ」

 その時の彼の顔が本当に嬉しそうだったから、シーグルの怒りも一瞬で霧散する。かみしめるように幸せな笑みを浮かべるセイネリア・クロッセス、なんてモノを自分以外の誰も見たことがないだろうと思えば鼓動が跳ねて、今度は別の意味で顔が赤くなってくる。
 そこでまた、セイネリアの手が近づいてきて頬に触れる。その手は噎せた所為で濡れていた頬の筋を辿るように顔の上へと移動していくと、目元に溜まった涙を拭って離れていく。
 シーグルはなんだかすごい恥ずかしくなって、顔を下に向けるとまた彼の股間に埋めた。




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 長くなったので次に。次回でこのエピソードは終了です。



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