呼ぶ声と応える声と
※後半にレザ×シーグルなHシーンがちょっとだけあります。




  【3】



 馬鹿野郎、とウィアは独り言ちた。

 秋に入った首都セニエティは冬支度と聖夜祭の準備で忙しくなる。
 いつもなら祭が近づけばそれだけで気分が浮かれて、意味もなく街をぶらついたり、食べ物を売る露店で祭の為のお菓子の試作品を買ってきたりしてしまうのだが、その年は祭が近づいてきても少しも楽しくなどならなかった。

――馬鹿野郎、おまえのせいだぞシーグル。

 慌ただしく行き交う街の人々を見ながら、ウィアはしかめっ面のまま、今度は心でそう怒鳴った。

 祭り準備に追われる首都とは間逆のように、ここからさほど離れていない港町リシェは静かだった。つい最近領主の葬儀を行った事もあって街が喪に服しているのだから当然といえば当然だが、リシェといえば活気のある商人の街として有名だから、祭準備にリシェの港へ降りた人間は皆別のところへ来たかと思う程だ。
 見目良く騎士としても信頼された領主は領民に人気もあり、しかも彼の父親も若くして亡くなっている事もあってその分の期待も彼には注がれていた。幼い内に親と離された可愛そうな子供であった彼を見守るように愛してきた街の人々にとっては、彼の訃報は街の空気さえ変えてしまう程の悲しい出来事だった。

 けれども、でも、彼は死んでいない。ウィアはそう思っている。

 というよりも、彼と親しい者は誰も彼が死んだなんて思ってない。
 シーグルの訃報を知らせに来た彼の部下達だって絶対に生きているといっていた。少なくとも騎士団から発表された崖からの転落死は別人だという事は確かで、死体が見つかっていないことからも生きている可能性は高いということだった。

『シーグルは生きてるよ、多分ね』

 それは彼の弟で魔法使い見習いであるラークの言葉で、彼は自分の師達にそれとなく聞いてみたそうだ。
 理由はよく分からないが、魔法使い達にとってシーグルの存在は何か重要な意味を持つらしい。だからシーグルについて何かヘンな反応があるかどうか、それを見るために。

『ウォルキア・ウッド様は言ったんだ、きっと彼は生きているよって』

 ウォルキア・ウッドというのは治療師としては首都でも名高い魔法使いで、おそらく魔法ギルドの方でもそれなりの地位にいる筈の人物だった。彼がギルド側の人間であるなら『シーグルを守ろう』としている人間の一人であると思っていい筈で、おまけに彼はシーグルのかかりつけの治療師でもある。つまり、信用はしていい方の魔法使いだと思われた。
 ただの弟子を励ます為に言った言葉……という可能性もあるだろうが、それはないとウィアは思う。師匠というのがラークの性格を知っているなら、そういう上辺だけの返事はしないだろうからだ。
 ともかく、魔法ギルド側で調べた上でも、少なくともシーグルが死んだ事は確定出来ていない、ラークの発言からウィアはそう結論を付けた。

 なら、それ以上の情報を持っているとすれば、あとはもうあの男しかいない。
 あの男なら、絶対、使えるモノを全部使って全力でシーグルの事を調べる筈だった。それこそ死にもの狂いででも……あの男が『死にもの狂い』なんて姿は想像出来ないが、彼は必死でシーグルを探しているか……もしくは失意の底に落ちて酷い有様かのどちらかだろう。

「とは言っても、どーやって連絡つければいいんだよ」

 確実に彼に連絡がつけられるだろう傭兵団は今は首都ではなくアッシセグにあり、そこまで行って聞いてくるのはさすがに厳しい。彼に繋がる何者かは確実に首都にいる筈なのだが、その人物との連絡の取り方がウィアに分かる筈もない。

「事務局行って直接親書送ったとしても……連絡返してくれるか分かんないよなぁ」

 セイネリアの状況がどうであっても、どちらにしろその程度の連絡なんか見てやる暇も返事を返してやる暇もないと思われた。というかこの場合、セイネリア自身に連絡をつけようとするより彼の状況を知っている人間に連絡をつけたほうがいいのは確実だとウィアは思う。

「多分あの不気味な薄ら笑いヤローが首都いると思うんだよな。まっさか一緒に戦場まで行ってシーグルを見てたりは……してないと思うんだよなぁ」

 がっくりと肩を落としたウィアは、最後の手段を試す事にする。
 息を思い切り吸って覚悟を決めると、人の多い大通りに向けて怒鳴った。

「セイネリア・クロッセスの大ぉまぬけ野郎ぉっっ」

 その命知らずな発言に、その名を知る冒険者達が足を止めて皆固まった。







「いやー、本当に効果あるもんだな」
「そんな命知らずの事を人前で言えるのは、この国でもあんたくらいのもんっスよ」

 表情の読みとり難いこの男にしては珍しく、心底呆れた顔で灰色の髪と灰色の瞳を持つ男はため息混じりにそう言った。

「いやでもさぁ、ぶっちゃけあいつ、俺程度が悪口言ったくらいじゃ別に気にしないだろ。それに今回の大まぬけって言葉には、あいつ自分で『そうだな』とか言い出しそうなんじゃね」

 セイネリアのマネのつもりで、顎に手を当ててカッコをつけて自嘲の笑みを浮かべながらウィアが言えば、脱力した様子で相手は乾いた笑いを返してくる。

「そもそもあの人の事をあいつ呼ばわりするだけでも驚きなんスけど……まぁそうですねぇ」

 セイネリアと言う男に関してウィアがわかっている事といえば、小物がどうこう言った程度はまったく気にしないくらい自信があるという事と、とんでもなくシーグルを愛していて彼の為になんでもすると言う事だ。それだけは間違いなく絶対で、だからシーグルの為だという事なら多少の細かい事は彼にはどうでもいい筈だとウィアは確信している。

「で、何の用件なんスか? あんた明日から有名人っスよ」
「まぁいいんじゃね。どうせ知り合いなら俺ならやりそうだの一言で済むし」

 フユはため息交じりに苦笑する、この男がここまで表情を見せるのは珍しいかもとウィアは思った。

「あーまぁこの状態で用件っていったらアレだろ。シーグルの件、あんた達のとこなら何か知ってる事はあるんじゃないか?」
「知ってるというのはどういう事っスかね?」

 分かっているだろうにとぼけていつも通りの笑みを作った男に、ウィアはすぐにキレて怒鳴った。

「シーグルが生きてるかどうか、生きてるならどこにいるかだよっ」

 それに眉を軽く曲げるだけの反応をした男は、そこから無言でじっとウィアの顔を見てから口元を苦笑に歪めた。

「それはこっちが知りたいとこなんスけどねぇ」
「……つまり、あんた達でもシーグルの居所は分かってないのか。でも、落ちて死んだのはシーグルじゃないってのは分かってるんだろ?」
「そうっスね」
「シーグルが酷い怪我してたって事も知ってるんだろ?」
「えぇそりゃ」

 はぐらかすような返事ばかりで何も教えてくれる気のなさそうに男から情報を引き出す事は諦めて、ウィアはともかく一番確認したかった事を聞いた。

「セイネリアは今、どうしてんだ?」

 それにはさすがに即答を返せず、灰色の男は口を閉じたまま固まる。けれども、じっと見上げるウィアの目を暫く見て、僅かに口元を歪めながら答えた。

「探してますよ、あのボーヤを」
「あいつ自身が? んじゃ勿論あんた達もシーグルの情報探してるのか?」
「そりゃ当然そうっスね」
「……そっか」

 ウィアは男に笑みを返す。
 ならばシーグルは、あの男の情報網を持ってしても、少なくとも死んだという決定的な確証がとれていない。部下に指示を出して本格的に探してるなら、死んだのを信じられなくて闇雲に動いてる訳でもないだろう。

「ならさ、大した情報じゃないけどあいつに言っといてくれよ。魔法使い側でも少なくともシーグルが死んだとは思ってない、生きてると思ってるってさ。後、身内特権でフェズがシーグルの支援石の場所探して貰ったらな、少なくとも探せるとこにはいないってさ。シーグルが支援石を持ってるなら国外かどこか隔離された特殊な空間かってとこだろうって」

 そうすれば灰色の髪の男も口元の笑みを深くして、伝えておきます、と言った。






 大きな男の体に覆いかぶされる。
 荒い息遣いの音が耳の傍で聞こえてくる。獣のような男の唸り声と、女のような自分の鼻から抜ける音が、揺れる体の動きに合わせて延々と耳の中で交わる。互いの体と体の間で温まった空気が体に纏わりついて息苦しい。

――サッシャンの絵の方が上手いな。

 天井にある奇妙な動物の絵を見つめながら、シーグルは意識を体の感覚から切り離そうとまったく関係ない事を考えていた。
 だが、そういう事をしていればこの男はすぐに気づいて、意識を無理矢理行為に戻させようとする。

「あ、ぐっ」

 力任せに奥を抉られて、同時に体を擦り付ける事で体の間に挟まっているシーグルの性器にも強い刺激を与えてくる。その衝撃に目を見開いたシーグルは、目の前にある男の顔が怒っている事に気付いた。

「ったく、そんなに嫌か?」

 シーグルはそれに睨み返す。

「当然だ」

 そうすれば男は今度は悲しそうに眉を下げて、大きな戦士らしい手で優しく頬を撫でてくる。

「ほんとにお前は意固地だな。どうせ逃げられないなら、割り切って楽しむとか出来ないのか?」
「生憎、全く楽しくないものを楽しむ事など出来る筈がない」
「嘘言えよ、お前の体はちゃんと楽しむ事を知ってる」

 言いながら男がまた抽送を始めれば、会話に気を取られていた分準備が出来ていなくて、シーグルはビクリと体を震わせて反応を返してしまう。

「ほら、いい感じに締めつけてくる。これは男を知っててここで感じられる奴の反応だ」

 耳元で言われた声を否定するように首を振って、シーグルは懸命に声を抑えた。

「嫌がってたって得するモンなんか何もないだろ。お前がどんなに嫌がってても俺は抱く事を止めてやる気はないぞ。何しててもヤられることが変わらないなら、大人しく感じてりゃいいだけだ」

 そうして耳朶を甘噛みしたかと思うと、今度はそれを舐めて、吸い込んで、ちゅくちゅくと水音をわざとさせてから、激しく下肢を突いてくる。
 シーグルはそれを嫌がって首を竦めるものの、下肢に重い衝撃を重ねられればそちらに気が行かなくなってくる。

「うっ……ぐ、ぅ、ぅ、ぅ……ぁ」

 男に担がれている右足は別として、ベッドに置いたままの左足さえ動きの激しさに浮いてはベッドを叩く。まだ治り切っていない足はそうすれば痛むのは当然で、それでかろうじてシーグルは意識を快感一色に染めずに済んだ。
 力任せとも言える激しい律動をつづけた後、男の欲望が体の中で弾ける。肉では届かない奥まで熱い流れが注ぎ込まれて、シーグルも体を震わせて達した。

「ったく、これでイける段階で、耐える意味もないだろうによ」

 さすがに化け物並の体力の男も直後は荒い息で、言いながらシーグルの目の端から零れた涙をなめとってきた。

「うるさい……」

 シーグルも荒い息の中そう返せば、男が喉を震わせて笑った振動が、胸と、繋がっている部分から伝わってくる。

「早く抜け……一回だけの筈だろ」

 シーグルの怪我は治り切っている訳でもない。だから無理をさせず一日一回だけだとは、シーグルの治療を担当している魔法使いでもある青年に言われている筈だった。

「とはいってもなぁ、俺がそれで収まる訳がない」
「ふざけるな。なら最初から手を出すなっ」
「それこそ冗談じゃない、もう限界もいいとこだったからな」

 男が笑っていると、動いていないのに振動が中を揺らす。それに感じてしまうのをどうにか抑えて、シーグルは歯を食いしばった。

「お前も足りないんじゃないのか? ここの反応はもっと欲しいと言ってるぞ」

 言いながら男は軽く1、2度、入ったままのものを動かしてみせた。

「黙れっ……くそ、早く抜けっ」

 それでも勿論男が抜いてくれる訳もなく、彼は楽しそうにその体勢のままシーグルの体のあちこちにキスをし出す。抽送はしないものの彼が動けばその振動やら体勢を変えた分の動きが中に伝わってくる訳で、それにいちいちビクビクと震えてしまうシーグルを楽しそうに見つめながら、男はシーグルの体のあちこちを愛撫していく。

「まぁ、ラウにまた怒られるとお預けを食らうからな、無理はさせないさ。ヤルのは一回だけだが、すぐに終わらせろとは言われてない」
「な……」

 男の言い分をそれでシーグルも理解する。つまり、今はただ終わった後も入れているだけで、回数的なカウントではないという事だ。

「屁理屈というんだ、それはっ」
「理屈は通ってるぞ。そもそもお前の怪我に激しい運動が不味いから制限されてる訳だからな、こうして動かしてないなら問題はないだろ」

 言いながらも、男の手や舌はシーグルの首や胸や腰をなぞり、その度に反応して締め付けてしまう事でシーグルは中の男の存在を体の中に感じてしまう。

「それにな……結構これは俺の方も辛いんだぞ。こんなに締め付けられて……動いちゃダメだってのはな」
「ならさっさと抜けばいいだろっ」

 動かされないと、自分の中がどれだけ男の肉を締め付けてびくびくと動いているのかがより分かってしまう為、シーグルとしては自分の感覚を抑えるのが辛かった。だから男に言う声も余裕がなく涙声になってしまって、怒鳴る声にも力が入らない。

「嫌だな、折角お前をゆっくり味わえるんだ。出来るだけ楽しませて貰わないと……ぐっ」

 言う通り男の声は辛そうで、そして中の感触でも一度は萎えた筈のそれが大きく膨らんでいるのが分かるから、確かに向うも辛いのだろうというのはシーグルも理解出来る。出来るがそれには微塵も同情する気が起こる訳もない。シーグルは尚も体のあちこちを触ってくるその感触に歯を噛みしめた。

 結局そうして互いに耐えた後、耐えきれなくなったレザが抜いた直後に出して終わりとなったものの、やはり無理をさせたとして魔法使いの青年にレザはその後怒られる事になったのだった。




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 久しぶりにウィアらしいとこをみせられました。しかしレザさんヤル事ばっか考えてて後先考えてない(==;。



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