ある日の夜の物語
将軍と側近での二人。単に夜のいちゃいちゃ話。
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。



  【5】



 シーグルは頑固でプライドが高い。
 なにせ無理矢理犯していた時は当然としても、これだけ一緒にいてこれだけ抱いているのに彼は未だに快楽に溺れ切ってくれない。真面目過ぎて色事に抵抗があるのは分かるが、それだけなら普通は慣れて当たり前になれば逆に反動で溺れ切ってしまうものだ。
 だがシーグルの場合はひたすら『意地』で耐える。
 男としてのプライドに掛けて快楽に溺れ切らない。だからいつまでたっても彼は慣れ切らない。体はとっくに慣れていても、彼の心は抱かれて溺れる自分を許さない。快楽に染まりきらないように理性を引き留めている。

 きっとそんな彼だからこそ、こちらも飽きる事がないと言うのはあるのだろう。

 自分の腕の中で快楽に溺れるシーグルを見るのもセイネリアにとっては嬉しい事だが、溺れまいと意地を張る彼を見るのは更に楽しい事であった。
 だからキスをして離れた後のぼうっと熱に浮かれた彼の顔を見て口元がにやけてしまった後、暫くして正気を取り戻した彼が睨んで来た時には笑い声さえ漏れてしまう。

「……何を笑っているんだ」

 当然シーグルは更に不機嫌そうに怒ってくるが、それで笑うのをやめられる訳はない。

「分かってるだろ? お前に触れてるだけで俺は楽しくて仕方がない」

 言いながら顔中にキスしてみれば、体の抵抗を諦めた彼が口だけで文句を返す。

「楽しいのはいいが、しつこく楽しむのはやめてくれ」
「すぐに終わらせたら勿体ないだろ」
「二回目なんだぞ、そこまでじっくりやらなくてもいいだろ。お前はしつこすぎるんだ」

――これでもかなり抑えてるつもりなんだがな。

 思いながらも、セイネリアはそこでキスを一旦やめて、わざと楽しそうな笑みを浮かべながら不満一杯という顔をした彼を見下ろした。

「違うなシーグル、一回目は余裕がないから急ぎぎみになるが、二回目は余裕が出来てじっくり楽しめるんだ」

 明らかにシーグルの顔が引きつったから、セイネリアはまた笑い声を上げる。けれど、彼に反論する暇は与えてやらない。舌を出して彼の顎から喉を通って鎖骨の辺りまでを舐めると、彼の肌が震えて彼の緊張が分かる。すかさず胸の頂きを舐めてやれば、びくりと分かりやすく反応してくれるから楽しい。赤い尖りを口に含めて、舌先で擦るように舐めて唾液をつけてやってから離し、ふっと息を吹きかけてやる。

「うぁ……」

 想定外の事に驚いたのか彼が声を上げたから、また楽しくてセイネリアは笑う。まったくどれだけ反応が初心なんだと、彼のそのいつまでも慣れない様子が楽しくてうれしくて仕方がない。

 実際、セイネリアにとってこれくらいは愛撫というより遊んでいるという感覚ではある。出来るならもっとじっくり彼の体の隅々までを感じさせてやって反応を見てみたい……と思う事もあるといえばある。
 だがシーグル相手でセイネリアが本気を出し過ぎる訳にはいかない。なにせ育ちのせいで慣れてる連中ばかりを相手していたセイネリアだから、徹底的にやればシーグルが途中で正気を取り戻せないくらいの状態に落すのだって本当は造作もない。
 ただそれではシーグルの体力的に負担が大きいし、やったらきっと後で相当怒って拗ねられる。そしてなにより自分もつまらないし、やればきっと後悔するのも分かっている。
 それにそれでも物足りないとは思わず、不満を抱え込まなくて済むのは……シーグル相手の時だけは、セイネリア自身も余裕がないというのがあるからだ。そういう事ではある意味今の状態が一番丁度よいとも言えた。
 まぁ時折ちょっと調子に乗ってやり過ぎる事はあるが――とりあえず許してもらえない程やり過ぎないようにはしているので、今のところは最悪でも1週間くらい部屋に入れて貰えない程度で済んでいた。

 とはいえシーグルにとって不運な事に、今日はその少しばかり調子に乗ってしまった日だった。ちょっとした悪戯心が湧いて、セイネリアはあおむけに寝ているシーグルの腰とベッドの隙間に腕を入れると、そこから彼を持ち上げた。丁度腰の上辺りを持ち上げられたシーグルはのけ反るような恰好になる。

「おい、何をする気だ?」

 彼が元気な時だったら暴れて抵抗したのだろうが、だるそうに藻掻く程度ではこちらの行動の妨げにはまったくならない。セイネリアは持ち上げられた彼の胸から腹を筋肉に沿って舌でなぞってやった。

「ちょ、セイネリアっ……っあ……う……」

 やっている事は別段珍しい事ではないが、こうして中途半端に持ち上げられた不安定な体勢だと彼が焦るのが楽しい。しかもこの体勢だと彼は自分の下肢を見る事が出来ないから、彼の足を開かせてその間にこちらの体を挟んで少し揺らしてやる。そうすれば彼の股間がこちらの体に擦られるから、彼の白い容貌はみるみる内に真っ赤になっていく。

「お、い……何やってんだお前」
「イイようにしてやるから大人しく感じてろ」
「ふざけるなっ……て、え?」

 彼が驚いたのはそのまま上半身を完全に持ち上げられて、座っている自分の腿の上に向かい合わせで座らされたからだろう。当然ながら正面から向かい合うカタチになったシーグルは、真っ赤な顔のままこちらを睨んで来た。

「お前は何をしたいんだっ」

 セイネリアはそれに答えず笑っただけだが、それからすぐにその体を抱き寄せて、彼からこちらに抱き着かせるような体勢にさせると言った。

「そのまましがみついててくれないか?」
「何っ、させる気だっ」
「このまま入れる」
「おい待てっ」

 と彼が怒鳴った時にはその尻を両側から掴んで持ち上げた。
 倒れないために仕方なくシーグルはこちらの体にしがみついてくる。セイネリアは彼の尻を持ち上げながら位置を調整し、自分のものを彼の後孔に押し当てる。この状態だと彼の入口を広げるのはやりやすい。入りだせば彼の重みでそれは簡単に中に入っていく。

「う、うぅ……あぁっ」

 しがみついているからシーグルの顔はこちらの顔のすぐ近くにある。だから耐えようとして漏れてしまう声がダイレクトに聞こえてセイネリアとしては楽しくて仕方がない。

「もう入ったから腕を緩めてもいいぞ」

 言ってみれば彼は小さな声で、うるさい、と呟いた。
 だからまた楽しくなってしまって、セイネリアは彼の尻を持ったままそれを上下にゆすった。

「あ、や、……う、ぅ、ん、あ……」

 必死に耐えて、それでも漏れる声が耳の傍で聞こえるから、セイネリアとしては自分も興奮してきているのを自覚する。何度も上下に揺らしてやれば、シーグルの腕から力が抜けていく。そうすれば下に落とした時に更に深くまで彼の中を抉って、その度にシーグルが上げる彼らしくない高い声を耳で受けとる。

「あ、あ、あ、ぁ、ぁ……」

 しがみついてこちらの肩に顔を埋める彼の声は、動きが小刻みに早くなるにつれて更にか細く、高くなっていく。それを心地よく聞きながら、セイネリアは更に下から彼を突き上げ出す。

「あぁ、あ、あ、や、ぁ、ぁ、は、……」

 シーグルの声は更に高くなる。まるで泣いているように。顔を必死に肩に押し付け、おそらく口は閉じられず開けたままの状態だ。だから思わず。

「噛んでもいいぞ」

 そう言ってやったら肩に歯は立てられなかったが、代わりに背中に爪を立てられた。とは言っても女のように長く伸ばしている訳ではないからさほど痛いものでもない。多少跡にはなっているかもしれないが、それもすぐには消えるだろう。セイネリアとしてはこのまま残って欲しいと思っても、明日中には消えるのが分かっている。それでも、この手の軽い傷は長く残る方ではあるが、彼がつけた傷だと思うとどうしても惜しい。

「う、く……」

 シーグルはどうやらこちらの肩を噛まずに歯を噛み締めているらしく、喘ぎ声が止まって、唸るような声だけが聞こえるようになる。耐える彼を見るのは楽しいが、顔を見えないのに声も抑えられては面白くない。だからセイネリアはわさと彼の体を大きく持ち上げ、落として深くを抉った。

「うあ、あっ」

 それでまた声を上げ、腕に力を入れてしがみついてきた彼の反応に笑みを浮かべる。ただそろそろセイネリアの方も遊ぶ余裕はなくなってきていたので、ここからはそのまま動きを速くする事にした。流石にシーグルも文句を言ってくる余裕はなく、あとはただ荒い息と共に泣きそうな声を上げているだけだ。セイネリアの方だって、もう何か話すような事もなく、ただ体中全ての感覚で彼を感じて体と心が満たされていくのに溺れるだけだ。

 密着した肌と肌が汗ですべって、時折筋肉同士が当たって乾いた音が鳴る。
 ただ彼の喘ぎ声を耳元で聞いて、その吐息を感じて、後はもうひたすらに彼の中を突き上げてセイネリアは彼の体内に包まれるその締め付けを楽しんだ。




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 すみません、あと一話あります。
 



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