旅の事情
最終話とエピローグの間の話。アウグで旅している最中あたりの二人。
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。



  【3】



 セイネリアは嘘はつかない。
 勿論相手が嘘八百の貴族達との化かし合いなら嘘も使うが、それでも基本、約束事は守るし、嘘よりは相手に都合の悪い事はわざと言わないか、解釈違いでどうともとれる言葉を使って相手を思ったように誘導する手の方を使う。
 相手が誠実であれば当然、嘘もつかないし相手の立場も考えて行動する――という事で、数々の黒い噂があってクリュースの恐怖の象徴なんて言われているクセにセイネリアは実はとても約束事には誠実である……というのをシーグルは知っている。

 だから約束は守るし、言った事は必ず実行する。

 セイネリアが朝言っていた通り、あの後は朝食を食べて……勿論ミルク粥を作ってくれて、ゆっくり食後のお茶をしつつ休憩までしてから夕飯用の獲物を取りに行った。時間に余裕があったせいかシーグルに弓の使い方を教えてくれつつ狩りをして――結局仕留めたのはセイネリアだったが、その後の捌くのもシーグルに教えてくれながら一緒にやった。その時点でまぁまぁいい時間になってはいたがそこから久しぶりに思いきり剣で打ち合いをして、それから水浴びという事になった……訳だが。
 最初は普通に汗を流してさっぱりして楽しんでいたシーグルは、そろそろ上がるかという段階でセイネリアに捕まった。

「おい、セイネリア」
「なんだ?」

 こちらは怒っているのに、向こうはやけに楽しそうな声……というのはいつもの事ではある。こちらの抗議をまったく無視している彼は、後ろから抱きしめてこちらの首筋にキスしてきたり耳たぶを吸ってきたりしている。どう見てもやる気だ。

「離せ、俺はそろそろ出るぞ」
「そうだな、体が冷えてきただろう、温めてやる」

 いらん――と彼を突き飛ばして無理矢理水から出たいところだが、そもそも腕力差的に彼を突き飛ばせないという問題がある上、シーグルだってこの事態くらい予想出来ていた……というのもある。
 なにせ彼は今日、ここまでずっと全部シーグルが喜ぶだろうことをしてくれている。そういう時の彼にそのあとの下心があるのは明白過ぎて、更にここは水場があって事後に体がちゃんと洗えて時間もあるという条件も揃っている。セイネリアとしては、ここなら多少強引に始めてもシーグルは許してくれるだろう、という計算で動いているに違いない。

 まぁだからシーグルとしてはため息をつくしかない訳で。
 そうして半分覚悟もしていたから、仕方ないという思いもある。

――まったく、こいつに甘い顔をするとロクな事にならないのは分かってるのに。

 なんて思いながらも、今日のセイネリアがいろいろやってくれた事を考えると仕方ないかという結論になる。なんというか、先払いされたから許さざる得なくなっているという感じだが。

「もうすぐ暗くなってくるからな、しつこいのは嫌だぞ」

 そうすれば顔を上に向かされて、嬉しそうに彼が顔中にキスをしてくる。
 外でやるのは基本嫌だと言っているシーグルだが、ベッドと違って外だとしつこく延々と付き合う事にならずに済むという利点もあった。

「分かった、折角豪華な飯を予定しているのに、お前に食う気力がないと言われたくはないからな」

 ……まぁ、いろいろ言いたい事はあるが、今まで外でやる事になった場合、動く気力もないという状態にまでされたことはないのは確かだから信用は出来る、と思う。

「って、おいっ」

 だが許した途端、セイネリアの手がこちらの股間を撫でてきて思わずシーグルは逃げようとした。勿論、そんな事は無理だったが。
 セイネリアはくすくす笑いながらこちらの耳元をキスしては舐めてきて、そうして片手で股間を緩く触って、もう片方の手で腰や腹を撫でていたかと思うと胸を触ってくる。

「ん……」

 胸の手は最初は手のひら全体で撫でているだけだったのだが、それが意図的に乳首の辺りを潰すように撫でだして、そうして最終的には指でそこばかりを弄りだすようになる。その間にも彼はこちらの耳周辺を吸ったり舐めたりしているから、耳にはぴちゃぴちゃという水音が直に聞こえてきてシーグルとしては無性に恥ずかしい。当然手は股間と胸を弄って遊んでくれているから、シーグルとしては自然と体を折ってしまって彼に後ろから覆いかぶさられるような体勢になる。そうしてその体勢なら、尻の辺りに彼のが当たっているのも分かるのだ。

「お前……なぁっ」

 なんだかもうとにかくムカついて声に出せば、彼はこちらの顔をのぞき込みながら頬をすり合わせて来て言うのだ。

「何だ? どうして欲しい?」

 それがやたら嬉しそうな声だから本当にムカつくのだが、いくら怒っても彼が喜ぶだけで怒る意味もない事も分かっている。こちらは急所を掴まれて弄られているから耐えようとしてどんどん背が曲がってしまうのだが、その背中に体をぴったりくっつけてくるから彼もどんどん自分を後ろから抱き込んでいるような体勢になる。終いにはこちらの尻に彼が自分のものをこすりつけてきて、その感触で益々こちらはなんだかいろいろな感覚が限界になってくる。

「くそ……しつ、こいっ」

 だから嫌味を返すつもりがその程度しか言えなくてあとは歯を噛みしめていれば、唐突に彼は手の中のシーグルのものを強く擦って先端を指で押さえ込んだ。

「うぁっ」

 それにぎゅっと目を閉じてしまえば、突然片足が持ち上げられた。

「え……おいっ」

 不安定な体勢に驚けば、セイネリアはこちらを後ろに押しながらこちらの片足を持って体を彼の方に向かせる。そうなれば当然後ろに倒れそうになる訳で、慌ててシーグルは彼の腕を掴んだ。
 だが、いつもならそこで彼がこちらの体を掴んで支えてくれる筈が、足と腕は離さないもののそのまま押し倒してこようとする。
 シーグルは、彼がこのまま水の中に押し倒す気かと思った。
 だが思いのほかすぐ背は何かに当たって、シーグルはその場で止まった。

「え……岩?」

 どうやら背後に大きな岩だか石があったようで、シーグルはそこに押し付けられたのだ。というか、自分たちは岩の前にいたのか、いつの間にという疑問でシーグルは一瞬固まった。それをセイネリアが笑う。

「お前、俺から逃げようとして岸に向かっていただろ」

 ……自分としては体を前に倒していただけのつもりだったのだが、どうやら逃げようとして岸方面に歩いてもいたらしい。

「丁度よさそうな岩があったからな、歩かせるついでに少しそちらに誘導した」

 いかにも、『計画通りに上手く行った』という顔で得意げにこちらを見てくるから、当然シーグルはムカッとする。ただそこで何かを言おうとする暇も与えず、セイネリアは掴んだ方の足を持ち上げて岩に押し付け、体を擦り付けてくる。

「おいっ、やめ……」

 だがそれ以上は声にならない。それは当然、セイネリアに唇をふさがれたからだ。

「ン……ぅ」

 かみ合うような形で唇をぴったり塞がれて、いきなり舌を絡めとられる。水に入っていたせいで少し冷たくなっていた口の中に彼の舌が熱い。最初は大胆に舌を掬い取るように絡めてきたくせに、こちらが応えると舌先だけを擦り合わせてくる。唾液があふれてきて感触がぬるぬるしてくる。口の中で受け止めきれなくて、やがて唾液は唇の隙間から溢れていく。
 そうすればやっと唇が少し離されて、彼の舌はこちらの唇の端を舐めて溢れたそれを吸ってくれた。

「あ……」

 ただその時には頭がぼうっとしていて、何か言うより息を吐くだけしかできなかった。そうすれば彼は今度は唇をついばむように2回程合わせては離し、それから満足そうにこちらを見た。

「やはり、お前の顔をちゃんと見れないと面白くないからな」

 実は最初、そういわれてシーグルは彼が何をいいたいのか理解できなかった。けれどそれで考えて……急激に思考がはっきりしてシーグルは目を見開いた。そしてすぐ、彼を睨んだ。

「それで無理矢理お前の方に向かせたのか」

 顔が熱い。ちょっと前まで体も冷え来ていた筈なのに、今は体も熱い。

「あのままの方がお前の負担が少ないのは分かってたんだが、お前の顔がよく見えないのはやはりつまらない」
「無茶はしない約束だろ」
「大丈夫だ、俺は上手い」

 だから多少無理のある体勢でもうまくやってやる――という事なのだろうが、そしてまた、そう言えるだけの経験がある男ではあるが……やっぱりシーグルとしてはむかつくしかない。だか彼はそんなこちらの心情も分かっているから、反論しようとする前に今度は後孔に指を入れてきた。

「うぁ……」

 そうしてやはり文句を言わせる間もなく、また彼が体を倒してきて唇を塞がれる。この辺りは水の深さも膝程度だから水が体の中に入ってくる事はないが、さっきまで水の中にあった彼の指は少し冷たくてその感触に飛び上がりそうになる。それはどうにか我慢したが指が中を探ってくるその感覚には体に力が入ってしまって、目の前にある彼の肩を掴んで耐えた。

「ん、ん……」

 こちらが唸ると、セイネリアはなだめるように丁寧に舌を舌で撫でてくる。
 川の流れのせいで自分の下肢で鳴っているだろう水音が聞こえないのはまだ良かったが、冷たい指の感触にいつもとは違うゾクゾクしたものを感じてしまうのは仕方がない。その間も当然ながら唇は塞がれたままで、彼は好きに自分の口腔内を蹂躙してくれていた。
 ただそれで熱に浮かされそうになっていれば、体の中の指の感触がなくなった事に気がついて、シーグルは更に彼の肩……というか腕を掴んで目をぎゅっと瞑った。




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 思ったより長くなったので次回はセイネリア側から続き。次回で終わり予定。
 



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