だから、待っていて
この話は26話でシーグルが一度死なずに帰った場合の別ENDです。バッドENDの一つのつもりでしたが割とラストは明るいです。
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【5】



 ひたすらしつこいキスは、それでもかろうじてそれ以上までいかずに終わってくれた。場所が場所だけにあんなところで最後までやる筈がない、とは思うが彼の場合好きにさせるとどこでも始めそうなので油断は出来ない。240年我慢(とはいっても彼の事だからヤるだけなら相手はずっといたんだろうが)していて歯止めがなくなっている事も危惧していたが、もしかしたら彼も外見年齢相応に多少は抑えが利くようになったのかもしれない。

 ……などと、あの地下から出た時には思ったものだが。

 魔法使いの検査が終わって部屋に帰ってきたら、当たり前のようにこちらをベッドに下ろした後すぐ全裸になった男を見て、240年経ってもやっぱりこの男の根本は変わっていない、とシーグルは呆れた笑みを浮かべた。
 当然脱いだらさっそくベッドに乗り上げてきてこちらの服を脱がしてくる訳で……鎧は検査の時に既に脱いでいたからこちらが全裸にされるのも本気であっという間だった。

 ただ意外だったのはそこから先で、彼は裸で寝ているこちらの上に覆いかぶさるように体を重ねると、そのまま何をするでもなく、顔をこちらの頭の傍に埋めて動かなくなってしまったのだ。

「……セイネリア?」

 あまりにも動かないから思わず名を呼んでみれば、彼は頭だけを少し動かして、なんだ、と聞いてきた。

「その……何、をしてるんだ?」

 聞いてみれば彼の片腕が上がって、こちらの頭を抱えるようにしながら髪を撫ぜてきた。

「お前を……感じてる」
「ヤるんじゃないのか?」
「今は、性欲に任せてお前を貪るのは勿体ない。もっとじっくりお前を感じてからだ」

 シーグルは正直少し感動した。さすがに240年も経てば彼も大分考え方が変わるものだと。やはり体も歳を取るようになったのが大きいのか、それともあまりにも240年が長すぎて彼の言うようにすぐ手を出すのは『勿体ない』と思っただけなのか。彼の240年も眠っていたシーグルにとってはついこの間の事ではあるので、正直いきなり外見が変わった彼には違和感があったりするし、彼の中身がどうなったのかはまったくの手探り状態で少しこわごわ接している部分もあったりする。
 ……とはいえ、ともかく抑えてくれる事自体は全面的に歓迎すべき事なので、シーグルも少しほっとして彼の背に手をまわしてゆるく抱き着いた。……本音を言えば乗っかられるのは少々重くて苦しいのだが、そこは今日くらいは我慢してやるつもりだった。

「ずっとこうしているだけでもいいぞ」
「それは厳しいな。だが……こうしてお前の感触を噛み締めているだけでも、相当満足ではある」

 そうして本当に満足そうな息を吐いた彼に、シーグルは笑ってその背中を軽くたたいてやる。そうすれば彼も笑いながら顔をこちらに擦り付けてきて、まるで動物が懐いてきているような彼の所作にシーグルは思わず彼の頭を撫でた。

「さすがに240年経ったら、俺に対するうしろめたさでぐだぐだ考えていたのも吹き飛んだようだしな」
「当たり前だ、見ていることしかできないお前をずっと見ていて……死ぬ程後悔したからな」
「……どんな後悔だ?」

 自分でも少し意地が悪いなと思いながらも聞いてみれば、彼は顔を上げてこちらの顔を見つめてきた。

「俺は馬鹿だった、一分、一秒でも多く、もっとお前に触れていればよかった、お前を感じていればよかった、とな。お前と距離を取るくらいだったら、片時も離れず付きまとって謝り倒してお前をうんざりさせてやればよかった、とかもな」
「それはそれではた迷惑だな」
「お前にとっては今更だろ」
「確かに今更だな、お前にはさんざん迷惑を掛けられまくった」

 二人で笑いあって互いの体温を感じ合う。それをとても心地よく感じてシーグルは彼が何をいっても笑えてしまう。全てを持っていた筈の男に、にこうして何よりも必要されている事が嬉しい。
 セイネリアがまた顔をこちらの肩に埋める。だが次に聞こえた彼の声は小さく……笑ってはいなかった。

「お前は俺を許さないかもしれない……だが、お前がこうして眠る事を選んだのは俺のためなのだと思ったから……待てたというのもある。馬鹿な事に俺は、お前が本当に俺を選んでくれたんだとそれで確信できたんだ」

 確かに――あの時にシーグルはセイネリアのために本気で彼以外を捨てたとも言える。愛する家族や部下達に二度と会う事が出来なくなっても、この男の為に眠る事を決めたのだから。

「まったく、本気で面倒な男だ。でも……ちゃんとお前が俺の家族をずっと守ってくれたのを俺は知ってる。シグネットが最後まで幸せそうだったのも知ってる」

 そうすれば彼がまた顔を上げたと思ったらこちらの唇を塞いでしまう。ただキスは気が遠くなる前に離してくれたから、シーグルとしてはほっとしたが。

「らしくなく本気で抑えてくれてるじゃないか。……正直言えばさっき、いきなりがっつかれなくてかなり安心した」

 言えば、少し不安そうだった彼の顔がまた笑って、くすくす息を漏らしながら鼻で髪をかき分けるように顔を擦り付けてきた。

「実は始めたら抑えが利かなくなるから我慢してるんだがな」
「それでも本気で我慢出来るようになったんなら感心だったんだが」
「安心しないほうがいいぞ、本当は今すぐ貪りたくて仕方ないとも思ってる」
「それでも抑えてくれるなら……少しだけ惚れ直してやる」

 それにはワンテンポ遅れてから彼が声を出して笑いだして、それから上半身だけ体を浮かせるとこちらの顔を見下ろしてくる。

「そう言われたら抑えざる得ないな」

 シーグルは笑うセイネリアに手を伸ばしてその頬を撫でた。

「抑える事をちゃんと覚えてくれ、俺もお前ももういつまでも若い訳じゃないぞ」

 それには彼がまた楽しそうに笑い声を上げて、シーグルも一緒に笑った。

「だがまだもう暫くは歳を考えなくてもいいだろ」

 言いながらセイネリアが顔のあちこちにキスしてくる。それをくすぐったそうに笑ってうけながらも、シーグルは彼の髪を軽く掴んだ。

「まぁ、少なくともお前の体力が無限じゃなくなった分は安心だな」

 すると彼は一瞬止まって、だがその後は意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。シーグルは直後、今の発言は失敗だったと後悔した。

「確かにそうだが……今の俺でどこまで体力が持つか試してみるか?」

 確かに今の彼の体力は有限だろうが、もともとがもともとだけに彼の体力が尽きるまでこちらが持つ筈がない、絶対にない。だからシーグルはこの件はあっさりと降参する事にした。

「悪かった、お前の体力が切れるまで俺が絶対持たない、やめてくれ」

 彼はますます喉を震わせて笑う。それから顔を下ろしてきて、耳元に囁きかけてくる。

「……まぁ、極力抑えはする。なにせ、抑えないと今日は歯止めが利かなくなる自信がある」
「迷惑な自信だな」
「240年分だからな、好きなようにやったら終わらないぞ」
「いやそれは……冗談でもやめてくれ……」

 ひきつった顔のシーグルに笑った後、彼の唇はこちらの唇を塞ぐ。じっくり、ゆっくり、舌でこちらの口腔内をさぐってきて、触れたこちらの舌を絡めとってくる。ただ本気で抑えてくれているのは確かそうで、前のようなかみつくような、こちらの意識を奪っていく勢いのキスではない。
 ゆっくりと丁寧に舌で触れ合って唇を合わせ直して、時折舌先だけでじゃれあうようにこすり合わせる、そんなキスは楽しくて心地よくて、気分もゆっくりと高揚してくる。キスをしながら自然と互いに体をこすり合わせて抱きしめ合って、彼が笑って自分が笑って幸せな気持ちになる。
 実を言えばシーグルとしては快感に追い上げられている状況よりこうしてじゃれあっているような状態が好きなので、ただずっとこうしている方が嬉しくはあったりする。
 それでもやはり、それだけでは終わらない事も分かっている。
 セイネリアがこちらの体のあちこちにキスをしながら足を掴んだから少し覚悟して、その足を広げられて引き寄せられたから目をつぶった。

「う……」

 指が入ってくるとその感触は少し気持ち悪くて苦しい。なかなか解れないのか、彼があまりに長くそこをならしているから、シーグルとしては耐えているうちに我知らず歯を噛み締めてしまっていた。
 それでも、いつまでも苦しいだけではないし、気持ち悪いわけではない。
 指に合わせて鳴る水音や中を擦られる感触に、少しづつ自分の中の肉壁が反応しているのを自覚する。最初はただ締め付けているだけだった彼の指を、動かされる度に包み込むように反応している。自分のそこに体の熱がたまっていくのが分かる。

「ん、ん……」

 いつの間にか指の動きに合わせて声が漏れてしまっていて、明らかに息が荒くなってくる。下半身にじんわり広がる疼きに耐えられなくて、腰が自然と揺れてしまう。
 しまいには彼がこちらの性器を口に咥えたから、シーグルはそこから大した時間かからず、悔しい程あっさりと一度目の開放を迎えてしまった。
 更に言うなら、悔しいやら恥ずかしいやらの気持ちで彼を見下ろしたら、彼がそれはそれは美味そうに喉を鳴らして飲んだところで、満足そうに口を拭う彼を見たらとてつもなくいたたまれない気持ちになった。
 しかも彼は目があった途端、美味かったぞ、と口に出していってくれて、シーグルは反射的に熱くなる顔をそむける事しか出来なかった。

「挿れるぞ」

 それでも、足を広げられて彼の体が覆いかぶさってくれば、その体にすがりついて息を飲む。入ってきた彼を感じて体が震えて、けれどそこで額にキスされたから少し緊張が取れた。そこへ、彼が一気に入ってくる。

「あっ……ぅく」

 あまりにも最初の勢いが良かったせいで、口から内臓が飛び出すような感覚がきた。それでも入った事が分かるとほっとして、体の力を少し抜く。だがそこで彼が急に動き出してくれたおかげで、やっぱり一瞬悲鳴が漏れてしまったが。

「うぁっ、んっ、う、あ、ぁ、ぁ」

 ここまでかなり抑えてくれた彼だが流石にこれ以上は厳しいらしく、すぐに奥を突かれてシーグルは彼に抱き着く腕に力を入れる。
 そうすれば苦しい体勢なのに彼は唇を無理やり合わせてきて、それだけでなくこちらの性器の先端に指を絡めて擦ってくる。

「や、あ、ぁ、ぁ、ん……」

 それでまたイきそうになったら手がするりとそこからそれて腹を撫ぜ、腰を撫ぜ、脇を撫ぜて胸を撫ぜる。胸板全体を大きな彼の手のひらが撫ぜて、手の腹で乳首をつぶしてこすってくる。
 それに合わせて下肢の動きも速くなるから、シーグルももうあれこれ考えていられなくなるし、彼の事を見ていることさえできなくなる。

「あ、だめ、だ、や、あ、あぅ、ん、あぁっ」

 体の奥が疼いて仕方ない。熱い感覚がせりあがってきて、どうしようもない快感を耐えるのが精いっぱいで声なんて抑える余裕がない。ただ彼に必死にしがみついて、体のあちこちが勝手にびくびくと震えて、そうして体の深くに熱い感触が注ぎ込まれた事でシーグルもまたきゅぅっとせりあがる快感のまま二度目の開放を迎えた。

 そうして、一度ふわっとした波に誘われるまま意識を薄くしたシーグルは、その熱が退いていく心地よさに暫く身を委ねた……のだが。

 予想通りとはいえ、呆けていたところから意識が戻ってきたら彼は中にいたままで、そのままの体勢でこちらの体の届く限りの場所にキスしている最中だった。

「今日はここまで、という訳にはいかないか?」

 一応聞いてみれば、彼はこちらの目元と頬にキスしながらあっさり言ってくれた。

「あぁ無理だ」
「240年寝てたんだぞ、少しは考慮しろ」
「お前こそ、240年見てるだけだった俺の気持ちを考慮してくれ」
「……なら、あと一回だ、それで勘弁してくれ」
「約束はできないな」
「ふざけるな、それ以上はどう考えても無理だぞ」
「だからお前は寝てるだけでいいぞ。俺は勝手にお前を味わう」
「そういう問題じゃないっ」

 だがそこで彼が唐突に動きだしたからシーグルは急いで彼にがみついた。吐き出されたせいで彼の動きに合わせてくちゅ、くちゅ、と派手に水音が響いて、しかも奥を突かれる度に暖かいものが溢れているのが感触でわかるから恥ずかしくて溜まらない。

「や、あ……」
「お前もここで止められないだろ」

 言いながら彼の手が今度はすっぽりとこちらの雄を手でつかんで扱きだす。出されたせいで滑りがよくなっているのもあって、中を擦り上げる動きも先ほどよりも速くて勢いをつけて奥を抉ってくる。益々水音も激しくなるから、シーグルは荒い息をつきながらも甘い声で喘ぐしかない。体を包むこの快感をどうにかしたくて彼にしがみつき、彼の動きを受け止めて腰を揺らす。
 肉と肉がぶつかって渇いた音を鳴らし、中から溢れたものが濡れた水音を鳴らす。

 やがて彼が、耳に軽くかじりついてきて、息を吹きかけるように囁いてくる。

「愛してる」

 それにシーグルはまた、体を震わせた。



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 240年で相当セイネリアも丸くなったろう、と思ったら……。
 



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