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リアル・ストーリーの光と影

STAGE_04 「光と、舞と」 SCENE#9
「あれは・・・何でしょうか?」

 少し惚けたように言う翔(しょう)に、葵(あおい)は眉根を寄せて思案する。

「神殿、の様に見えなくもないわ」
「神殿? じゃあ、ここがリュオンの言っていた、“神”に呼ばれている場所──そう取るべきですか?」
「断言はできないけれども──何事も偶然と取るか、必然と取るかで、私たちの置かれた状況も変化する・・・」
「葵さんは、どちらだと思いますか?」
「ここに来ている事が必然だと考えれば、これも必然ね。」
「・・・」
「普遍的に言うと、“神さま”は万能でしょう?」
「故にこの程度は、不思議でもない、と?」
「えぇ。」
「リュオンは“時を超越した存在”と言っていましたから、僕たちの概念で言う“神”とは違うのかもしれません」
「神学的には差があるのでしょうけれども、“超越している”と言う点から考えると、私たちにとっては差はないわね」
「そうですね。でも、そうであっても、現実に目の前にすると、信じがたいですけど」

 如何にも年代を経たような石造りの建造物──確かに、旧時代の冒険映画で見た、中東か何処かの神殿に見えるな、と翔は思った。

「入ってみましょう。」

 きっぱりと言うと、葵は一歩踏み出した。
いつの間にか、順序が逆転してしまっている。少し情けなく感じながらも、翔は後に続いた。
 円柱の立ち並ぶ神殿正面の真ん中に、大きな入口があった。ここを入ると、両側に円柱が並ぶ大きなホールが奥へと続いている。

「薄暗いですね」

 目を凝らしながら、翔は奥の方を伺った。だが、闇に包まれて杳としてしれない。

「明かりが必要ね。」

 その葵の言葉に反応するかのように、葵が手にした剣──フォウチューン──が光り始めた。

「えっ?」
「葵さん、剣が光っていますよ!」
「何も、していないのだけど・・・」

 二人の驚きを余所に、フォウチューンはその名にしおう黄金色の輝きを増していくと、程なく辺りがある程度識別できる光度となった。

「便利・・・と言っていいんでしょうか?」
「今は、有り難いと思いましょう」

 ね、と微笑む葵に、翔も笑み浮かべて頷いた。
 フォウチューンの輝きを頼りに、翔と葵はゆっくりと先に進んだ。しばらく行くと、正面に壁が見えてくる。どうやら、広大なホールもここで終わりのようだ。

「行き止まりですね」
「扉も何も、無いみたいだけれども・・・」

 その葵の言葉が発されると同時に、音もなく壁の一部に黒い入口が現れた。思わず、顔を見合わせる翔と葵。

「これって・・・」
「招かれている、ようね」

 でも、不思議と厭な感じは受けないから、と葵は言った。

「それなら、先に進みましょうか」
「えぇ。ここまで来のなら、最後まで行ってみましょう」

 明快な葵の言葉に、翔はおや、と思った。斯様な事態にあっても、葵は自分の感覚を信じて、冷静沈着に物事を進めている。ぽっかりと壁に開いた入り口は、如何にも薄気味悪く思えるのだが──葵の、剛毅とも言える行動に、翔は華奢な外見で判断してはいけないなぁ、と自分の認識を改める思いだった。

 入口の先は、下りの階段となっていた。緩い傾斜の石段が、地の底へと続いていく。

「どこまで深く潜るんだろう・・・」

 ふと漏らした翔の呟きに、葵はちらりと肩越しに振り返った。

「・・・怖い?」
「えっ? えっ! いえ、怖いだなんて!!」

 己が名誉の問題とあって、翔は必死に否定しようとするのだが、葵はフフフ・・・と笑うばかりで、相手をしてくれない。

「葵さ〜ん、酷いですよォ」
「・・・」
「葵さ〜ん」
「・・・」
「葵さ・・・」
「静かに。何か聞こえるわ」

 翔を制すると、葵は立ち止まって耳を澄ませた。はっとなった翔も、身動ぎせずに必死に音を拾おうとする。

「・・・水音?」
「・・・はい、僕にもそう聞こえます」
「先に行かなければ、判らない・・・」
「どの道、一本道です。行ってみましょう」
「そう、ね」

 気を取り直して、二人はまた歩を進めた。水音は、だんだんと大きくなっていく。途中、何度か立ち止まって音を確認しながら、慎重に道を辿る。そして、更にしばし進んだ後。唐突に葵が立ち止まった。

「翔くん、先が明るいわ」
「え? あ、本当だ」

 葵がフォウチューンを鞘にしまい、その黄金の輝きが無くなると、進行方向の先の方が仄かに明るい事がはっきりと判った。

「終着点、でしょうか?」
「今はまだ、どちらとも言えないけれど・・・」

 でも、用心に超した事はない、と葵は結んだ。翔に異論があるはずも無く、葵の言葉に大きく頷く。
 先程以上に慎重に時間を掛けて、二人は階段を降り続けた。しばらく行くと、階段はお終いになり、その先はアーチウェイになっていた。水音と明かりは、そのアーチウェイの向こうにあった。二人は、最後の数段手前で脚を止めた。静かに集中し、何かを感じ取ろうとする葵を、黙って翔は見つめた。

“葵さんは、先程『厭な感じは受けない』と言ってたけど──僕には、さっぱりだなぁ”

 自分は徹頭徹尾一般人なのだろうと思うと、翔は安心する反面、少し悲しくも感じていた。何せ葵の場合は、いきなり無から空中に生じた金杯(リュオン曰く、漠羅爾の神杯)の上に、然るべき人からリュオンが預かっていた黄金の剣(リュオン曰く、宝剣フォウチューン)もある。その剣も、ただ持っているだけじゃない──使えてしまっているのだ! どう考えても、今の自分は葵のお荷物かもしれない──そう思うと、がっくりくる翔であった。

「翔くん?」

 はっと我に返ると、いつの間にか葵がじっと翔を見つめていた。

「・・・何か、心配事?」
「いえ、特にありません!」

 本当のところが翔に言えるはずも無く、慌てて誤魔化すと逆に葵を促した。

「葵さん、先に行きましょう」
「・・・えぇ」

 くすり、と笑みを浮かべる葵に、翔は内心を見透かされた思いで、顔が赤らむのだった。
☆☆ SCENE10に続く ☆☆

天査からのメッセージ
 二年近くぶりの更新ですね(汗)。一体、何をやっているんだが──お待ち頂いた方々には平身低頭の思いです。とりあえず、リハビリを兼ねて、まずは第一ステップのみアップしましたが、読み返してみると『訳わからん』(笑)。全面的に改稿して、なんとか第九節を完成させました。どうにも、書く方の調子はまだまだと感じます。更新頻度を上げて、感覚を取り戻さないとね(笑)。

 御意見・御感想・御要望は 天査 まで!