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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 3 「開かれた、扉」 SCENE#1
『シャン、シャン』

 鈴の音が鳴った。薄衣を纏い、ベールで顔を覆った踊り子が六人。いつの間にか柱の影に現れると広間の中央に進み出る。どこからともなく流れてくるもの悲しいハープの調べに合わせて、軽やかに踊り出す。

『シャン、シャン』
『タン、タタン』

 手足に付けた鈴の音と、軽い靴音が交錯する。その間を縫って、高い澄んだソプラノの詩が聞こえてくる。

「・・・踊れ、踊れ 時を忘れて
  黄泉の踊りを、さぁ踊れ
  まこと現世(うつせ)の柵(しがらみ)を
  想い その身に解き放ち
  黒き流れに 溺るるならば・・・」

 声のする方に、華奢な“黒の女王”の姿があった。滑る様に進み出ると・・・。

「皆様、“アルカナの舞”にようこそ。古(いにしえ)の理(ことわり)に従い、定めの席へと御案内致しましょう」

 そう言うと、“黒の女王”は一人一人を石の椅子に導いていった。

「魔導卿、北天座へどうぞ」
「姫君、北天座へどうぞ」
「龍の盾様、北天座へどうぞ」
「大戦士様、北天座へどうぞ」
「吟遊詩人様、東天座へどうぞ」
「近衛騎士様、東天座へどうぞ」
「騎士総帥様、南天座へどうぞ」
「守護者様、遊星座へどうぞ」
「魔剣士様、西天座へどうぞ」

 最後に、“黒の女王”は“黒の王”の手を引いて西天座に導いた。

「さぁ、相方を御紹介致しましょう。歓迎して下さいませ」

 ふっと全体が暗くなった。そして、唐突に紅い光が広間の周囲に生じた。その光は次々と広間に滑り込んでくると、それぞれの石の椅子に停まった。激しく光ると、黒い姿の人影を生んだ。

「各々方。紹介を」

 黒の女王の言葉に、一人一人立ち上がると名乗りを上げる。

「黒の巫女。宜しくお見知りおきを」
「黒の剣聖・・・」
「黒の導師。よろしゅう」
「黒の使者です。またお逢いしましたね」
「黒の魔王」
「黒のぉ、恐騎ぃ!」
「黒の聖女。お初にお目に掛かります」
「黒の衛士と申す」
「黒の楽人です」
「そして、わたくし。黒の女王はご存じですわね」

 一つ、空席が残った。

「まことに残念ですが、我らが主(あるじ)は所用でこの“舞”に来ることが出来ません。何れ、直々に皆様方に御挨拶に参ることでしょう。さぁ、まずは宴をお楽しみ下さい」

 女王が手を振ると、黒い姿のサーバントが宙から生まれた。手に捧げた金の杯を一つ一つ、恭しく配って行く。

「詩を、踊りを」

 陽気な曲が流れ、舞姫達が優雅な踊りを披露する。

 吟遊詩人が星天球に投げた杯は、手を離れた瞬間に金の盾へと変化していた。近衛騎士の杯もまた、宙でその姿を変貌する。今や二十枚の金の盾が浮かぶ広間は、金色の輝きで淡く照らされていた。そんな中、黒の女王の澄んだ声が広間に響き渡る。上古の詩なのか、言葉を理解は出来ないものの、意味するところは不思議と全員に理解される。

「・・・そに輝くは“大地の精髄”、“大地の証”
 運命の理(ことわり)、我は畏敬を持ちて尊ばんとす
 光、尚も眩しく輝けれど彼方に遠く離れ
 近き隣人とて、その背に影の有するを知る
 時至れり、望みの扉よ開かれん
 総てこれ初見にあれど、人よ努々(ゆめゆめ)忘るるなかれ
 そは生まれし時に失われし記憶也・・・」

 金色に輝く盾は、一斉にその者の頭上へと浮かび上がった。星天球の中心に燃える緑の旭光が一段と輝くと、二十二本の光の剣となってその切っ先を四方に伸ばした。

「汝の行い、ここに現れよ!」

 緑炎の剣が、金色の盾に突き刺さった。そして、女王の呪言と共に、盾は剣の刺さった箇所から変化を始める。黒の陣営の盾が調和の中にて一様に変わる中、白の陣営の盾は己が矜持故か、各人各様に変わって行く。

「魔導卿には“魔術師”を」
「姫君には“女祭司”を」
「黒の女王には“女帝”を」
「大帝には“皇帝”を」
「龍の盾には“大祭司”を」
「黒の巫女には“恋人”を」
「大戦士には“戦車”を」
「吟遊詩人には“均衡”を」
「黒の導師には“隠者”を」
「黒の剣聖には“運命”を」
「近衛騎士には“意欲”を」
「黒の使者には“犠牲”を」
「黒の魔王には“死”を」
「騎士総帥には“芸術”を」
「黒の恐騎には“悪鬼”を」
「黒の聖女には“塔”を」
「守護者には“星”を」
「黒の衛士には“月”を」
「魔剣士には“永遠”を」
「黒の楽人には“道化”を」
「・・・かくて“舞”は始まらん
 在りしが如く、今も何時も現世に伝わらん
 子らよ、汝恐るるを知れ
 躰に記し、始源の定めを」

 詩が止んだ。今やその身に“影絵”を映し出した金色の盾が宙に輝いていた。

“・・・然り・・・然り・・・然り・・・”

 無言の声か。心に肯定が伝わると、盾と盾が緑光で結ばれる。

 “魔術師”と“塔”が。
 “女祭司”と“悪鬼”が。
 “女帝”と“芸術”が。
 “皇帝”と“死”が。
 “大祭司”と“犠牲”が。
 “戦車”と“道化”が。
 “均衡”は空位を。
 “隠者”は“永遠”を。
 “運命”は空位を。
 “意欲”は“月”を。

 総ての闇を“星”が照らし、総ての光を“恋人”が導く。

「・・・独星には一位を
 連星には二位を
 星座には整合を
 遊星には自由を
 理(ことわり)には定めを
 運命には言葉を
 流るる時には 終焉の刻を・・・」

 盾の輝きが薄れてくる。それと共に、周囲の状況が朧気になって行く。

「・・・踊れ、宴に・・・さぁ踊れ・・・」

 女王の声が遠くなっていく。それと同時に、その光景が遠くなり、ぼやけていく・・・
☆☆ SCENE#2に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 いきなりのシーンで始まりましたSTAGE3。何が何だか、判りませんよね。それもその筈──訳は、SCENE 2をお読みになれば判り・・・ればいいなぁ(笑)。まぁ、余り過大な期待をせずに刮目して待ってて下さい。
 さて、多少はRPG用の真面目な解説もせねば(笑)。上記のシーンは、RSPに於いて比較的多用される『ESCAPE START』手法です。自分の通常世界(プレーン)とは別の、異世界や異空間に放り込まれたところからスタートするので、装備があればマシな方、何も持ってない所謂“脱出”パターンだったり、かなり難易度の高い、記憶すら失った状態の“自己探索”パターンであることもあります。重要なのは、最初の情景に於ける『インパクトの大きさ』と、『雰囲気を十二分に表現する』ことです。自信がなければ、カラオケボックスででも口調の抑揚、滑らかな言葉の流れを反復練習しましょう。
 余談ですが、RSPのシナリオの開始手法には、他に『POWER START』(PC主導開始型)、『STORY START』(NPC主導開始型)、『NORMAL START』(通常開始型)などがあります。

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