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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 2 「仲間、と呼ばれて」 SCENE#9
「どしたの、葵。何かいいことあった?」

 珍しく笑みを浮かべている親友に、亜里沙は尋ねてみた。文芸部の一件があって以来、葵が笑みを浮かべることなどめっきり減った。だいたい葵が笑ってる事自体、亜里沙が無理して笑わせているようなものだった。それが、今日は朝から優しげな笑みが時折零れる。

「ん・・・、そうね・・・」

 語尾を濁らせて言葉を返してきた葵に、亜里砂は眉根を寄せて腕を組んだ。

「気になる?」
「そりゃあね。だって、葵ってばこのところやたら暗かったもの」

 亜里沙以外からこんなことを言われたのなら、傷ついてしまう言葉だったが、葵は特に気にしなかった。全てを知った上で、普通に接してくれる、腫れ物を触るようなことをしない亜里沙を、葵にはとても楽に感じられたからだ。

「あててみようか?」
「何を?」
「葵が、そんなに嬉しそうにしてる理由」
「わかるの?」

 へへへへ、と笑うと亜里沙はビシッと葵を指さして言った。

「一年の三奈瀬翔くん! 彼が葵の凍った心を溶かしたのね!」
「え?」

 思わず息をのむ葵。畳みかける様に続ける亜里沙に目を白黒する。

「み・・・奈瀬くん、がどうかしたの?」
「何かあったでしょや。いや、何かあったわね?」

 断定口調。このルーチンに入った亜里沙は怖い。本人が満足するまで、その追求の手を決して緩めることがない。

「さぁ、吐きなさい。早く吐いた方が、早く楽になれるわよ」

 にやりと笑った表情に、いつもながら寒気を感じた葵は、早々に観念して白旗を揚げた。

「謹んで、話させて頂きます」
「宜しい。」

 鷹揚に頷く相手に、それでも葵は最後の抵抗を試みた。

「でも、こんなに大勢の人がいるところだと・・・」
「じゃ、ガーデンにでも行きましょ。あそこなら、人がいないスペースなんて幾らでもあるでしょ」

 一瞬で、その儚い抵抗も完膚無きまでに粉砕されたのであった。

★  ★  ★

 UNO学院の庭、通称『Garten』はメイン・エントランスの反対側からでた所にある。学院の各棟を南から半円形に取り囲む様に設置されたこの庭は、幾何学模様に剪定された植木の壁が迷路を成した広大な庭園だ。葵と亜里砂は、リフトでエントランス・ホールまで降りると、ホールの脇のベンディング・スペースでパックのジュースを買った。どうやら、長期戦になりそうね、と苦笑しながら葵は思った。
 綺麗に剪定された植木の間を、二人はゆっくりと歩いていく。、暫く前から人の声がしないな、と葵が思っていると、不意に亜里沙が立ち止まった。

「大分奥まで来たわね。ここなら、誰にも聞かれないと思うわ。座りましょ」

 ハンカチで手際よくベンチを拭くと、自分の隣をポンポンと叩いてみせた。大雑把に見えて、その実細かいところまで気が回るのが亜里沙だった。一つ頷いて、葵は静かにベンチに腰掛けた。周囲は鳥の声で満ちていた。青空の下で黙って座っていると、、話そうと思っていたことが自然に整理されていく様な、そんな爽快感を感じた。

「あの、ね・・・」
「うん。」
「あの子たち・・・とても純粋で、邪気がない・・・。だから、心が洗われる様・・・。そのように、感じたの」
「彼らが?」
「えぇ。取り繕うことも、偽ることも、隠すこともない。想ったことを、思った通りに表現出来る。それが、とても楽に思えるの」
「それは、良かったね。葵」

 ホントに良かったね、と我が事の様に喜びながら、亜里沙は葵の両手を取った。ぎゅっと握りしめてくるその両手の暖かさに、葵は思わず瞳が潤む思いだった。亜里沙がいてくれて良かった──亜里沙がいなかったら、葵はあの辛い体験を乗り越えられなかっただろう。

「ありがとう、亜里沙」
「これで一安心だわ」
「?」
「葵に、また心を開ける相手が見つかったことよ。」
「そう・・・ね」

 真面目な翔の顔と、悪戯っぽく笑う彰の顔を思い出して、葵は微笑んだ。

「ごめんね、今まで心配を掛けてしまって」
「いいの、謝らなくても! 信じていた相手に裏切られる辛さは、あたしも、よく知っているから。」
「亜里沙・・・」
「あたしもね、あなたがいてとても心強く感じてたのよ。だからね、葵。お互い様よ」
「ん。」

 葵は亜里沙の言葉に頷きながらも、亜里沙は自分よりも遙に心が強いと思っていた。自分は、人間関係が辛くて文芸部から逃げてしまったけれども、亜里沙は相変わらず弓道部で頑張っている。一年にして抜擢されて、それが為に虐めを受けたものの、亜里沙はへこたれずに部活を貫いているのだから。葵には、到底真似出来ないことだった。そんな亜里沙が、自分の存在が彼女の為になっていると言ってくれている──その心使いが葵の心を暖かく包み込む様だった。

「今度は、何時彼らと会うの?」
「次の約束は、明日の放課後よ」
「ふぅん。また、屋上でやるの?」
「えぇ。人が、いないほうがいいから・・・」
「そうか。じゃ、ビシビシ鍛えてあげなよ!」

 軟弱者と軟派者っぽいからね〜と、断定口調の亜里沙に、葵はちょっぴり苦笑いを浮かべるのだった。
☆☆ SCENE#10に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 あぁ、何だかゲームからの脱線傾向が強まっていると感じるのは私だけでしょうか? いや、違いない(苦笑)。実は、STAGE1+2は「出会いと理解」がメインで、実際の物語へのインターバル的な要素が強いので、AD&Dに関する話や、ファンタシィ的な部分が殆ど出てきません。私としても、皆様に登場人物とこの世界のことを少し判って貰う意味で書き進めています。(少なくとも、そのつもりです)その意図が成功しているのかどうかは──結果が怖くて、到底考えられません(笑)。何は兎も角積み重ねですね。
 葵は、亜里沙と言う親友に色々と支えて貰っています。葵自身は、決して弱い人間では無いのですが、件(くだん)の『文芸部事件』(#0.5の番外編で書きたいのですが、内容にちょっと辛いモノがあるので、書くことから逃げてしまっています)のお陰で、すっかり人間関係に弱くなってしまっています。亜里沙がいなければ、学院に来ること自体も無くなっていたかもしれません。心から信頼出来る友人がいること──これに勝る“宝”はなかなかありませんね。
 次回は、いよいよSTAGE2の最終回。どのように決着がつくのか、乞うご期待です。

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