リアル・ストーリーの光と影
◆STAGE 2 「仲間、と呼ばれて」 SCENE#8
屋上を後にすると、翔と彰はリフトホールへの階段をゆっくりと下った。途中、折り返しの踊り場を抜けたところで、翔が徐(おもむろ)に口を開いた。
「彰。ちょっと聞いてくれるかい」
翔の声は真剣だった。彰は、いいぜ、話してみろよと気軽に応じる。
「自分の自己満足だって事は判っている。それでも、君とのこれからのことを考えると、どうしてもはっきりさせておきたいんだ」
「何をだ?」
「僕は、君のことを羨んでいたんだと思う。」
大きく息を吸うと、翔はゆっくりと先を続けた。
「僕と違って明るくて、決断が早くて何でもできて・・・正直、君に嫉妬していたと思う。」
黙って、聞いている彰。
「漸く自分で出した結果も、君に取られるかも知れないと思った。神和姫先輩にも指摘されたけど、本当に自分でも嫌気がさすよ。それでも、僕は君と友人でいたい。こんな僕でも友人でいさせてくれるなら・・・」
「ふざけるなよ、翔」
彰は、翔に仕舞いまで言わせなかった。顰めっ面をしながら、彰は強く言った。
「俺のセリフを取らないでくれよ、翔。だいたいな、俺の方こそ、お前に謝んなきゃならないことがある。」
「彰が?」
「そうさ。俺こそ、お前のことが羨ましくなっちまったのさ」
「えぇ?!」
心底驚いた表情の翔に、彰は、何だよ気が付いてなかったのか? と、呆れた様な笑みを浮かべた。
「あぁ。お前は俺には無い才能を持っててよ、俺よりも真面目で物事をとことん追求する。そんな殊勝なこと、俺には出来ない。正直、先輩と話しているお前が羨ましかった。俺も参加したかったが、自分の実力じゃどうにもなんないってことも判ったた。だから、ちょっと卑怯な手を使っちまったよ」
はぁ、と彰は肩を僅かに落として溜息を付いた。
「でもな、先輩の言葉を聞いて──これじゃアカンと思ったんだ。このまま、翔と袂を分かってしまっていいのかってな」
「それは──ぼくもそう思った。最後の最後で・・・ここで踏み留まらなきゃ駄目だって思ったら、言葉が自然に出ていたんだ」
翔は自分の言葉に苦笑いしながら言った。
「それもこれも、その事を気づかせてくれた人のおかげだけどね」
「そうっか。そいつはホントによかったな」
そうだね、と頷く翔。
「お互い、動機は似た様なもんだったってことか・・・」
「へっ、そういうことだな」
「そうか」
「そうだぜ」
何時しか、二人の表情には笑みが浮かんでいた。あははは、と笑い始めると、それが泊まらなくなる。二人で腹を抱えて涙が出るまで笑った。
「なぁ、翔」
「なんだい」
「もっと遠慮無く、お互いに話そうぜ。こんなこたぁ、もうこれっきりで御免だぜ」
「そうだね。僕もそう思う。彰とはずっと友達でいたい。だから──隠し事何かしたくない」
「なら、友情の再確認と行くか!」
「ははは、全く彰らしいね」
がっちりと握手する二人。二人の絆が、今まで以上に固く組み合わさった瞬間だった。彰は、翔の手を握りながらもにやりと笑って宣言した。
「でもな、神和姫先輩のことは簡単には譲らないからな」
「はぁ、まだそれか、彰」
「それ以外に、何かあるって言うんだよ翔!」
ここがポイントなんだぜ、翔はホントに判ってないな、などと一人で盛り上がっている彰の傍らで、大きく溜息を付いて、はたして彰と友人でいるのは本当に賢い判断だったのか、今一自信が持てない翔だった。
☆☆ SCENE#9に続く ☆☆
★天査からのメッセージ
言葉にしないと、旨く伝わらないことがあります。自分の価値観を相手に押しつけると、無用な軋轢を生みます。相手の価値観を認め、自分の価値観を話してみる。お互いの、相互理解への第一歩です。翔も彰も、まだまだ未熟ではありますが、それでもお互いの事を理解しようとする勇気を持っています。その為には、自分の心のガードを下げて、相手と相対する必要があります。信用を得る為には、まず相手を信用する──基本の第一歩、という所でしょうか。考えてみる価値が有りそうな命題ですね。
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