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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 1 「出会いは、唐突に」 SCENE#2
 UNO学院の昼休みは1時間と長い。この時間は、生徒にとって至福の時。一日の中で、最も活気がある時間だ。午前の授業が終わるやいなや、どの教室も毎度の如く喧騒の場となる。

 神和妃葵は、黙って頬杖をついたまま窓の外に視線をさ迷わせていた。眼下の白い校庭には空から燦々と陽光が降り注ぎ、抜けるような空が蒼い。

「・・・あおい。ねぇ、葵ってば。」

 はっとして声をしたほうを向くと、親友の高国亜里沙の心配そうな表情が目に入る。

「え? どうしたの?」
「え、じゃないわよ。ぼーとしてどうしたの? 具合でも・・・」
「どこも悪くないわ」
「それならいいけど。ね、もうお昼よ?」
「そう・・・ね」

 教室では、思い思いの組み合わせで生徒たちがお昼を食べ始めていた。

「今日は、お弁当?」
「うぅん。購買部」
「じゃ、早く行きなさいよ。さいてーのしか残らないわよ、この時間だと」

“どうでも、いいんだけど”

 心の中でため息をつく。そんな想いが表情に出たのか、亜里沙が怖い顔をして言った。

「ほらほら、きちんとお昼を取らなきゃ病気になっちゃうわよ! なんでもいいから、あるもの買ってきなさいよ!」
「え、えぇ。」

 諦めて席を立つ。食欲なんて全然なかったが、形だけでも食べないと、またこの怖い親友に心配をかけてしまう。

「先に食べていてね、亜里沙」
「待ってるって! だから、早く買ってきなさいよ」

 ちょっと苦笑い。どうしても急がなくてはいけなくなった。財布を鞄から出して教室を出ると、突然自分の名前が呼ばれる。

「先輩、神和妃先輩!」

 驚いて声がしたほうに振り向くと、日に焼けた男子生徒が廊下を走ってきた。

「ちわっす! 覚えてますよね、先輩。河邑っす」
「河邑くん・・・?」

 胸のネーム・プレートは「青」・・・つまり、1学年下だった。浅黒い顔に浮かぶ、その屈託ない笑顔には見覚えがあった。

「・・・この間、図書館で本を運ぶのを手伝ってくれた?」
「ピンポーン、そのと〜りっす!」

 満面の笑みを浮かべて、おもいっきし頷く彰。

「今日はちょっ〜ち先輩にお願いがありまして・・・。あっと、先輩。こいつ、ダチの三奈瀬っす」

 彰の後ろには、いつのまにか男子生徒がもう一人立っていた。涼しげな、けれども意思の強そうな表情をしたその男子生徒は、丁寧に頭を下げる。

「1年の三奈瀬翔です。すみません先輩、お忙しいところをお邪魔して」
「何か、私に用?」
「はい。創作物に関して、先輩のご意見を伺いたいと思いまして・・・」
「創作物?」
「そうっす。この間UNOテレビでやってた“最後のユニコーン”のラストが気に食わないって翔と二人で話してたんすが、それならって翔がオリジナルのラストを書いてみたんす。その批評を先輩にお願いできないかなって考えたんすが」
「私に?」
「先輩、文芸部の部長っすよね? そう言うことはお手のもの、朝飯、あっと今だと昼飯前じゃないかって・・・」

 笑顔で言いかけた彰は、思わず言葉を飲み込んだ。話を聞いていた葵の表情が、目に見えて強ばったからだ。見ると、小刻みに躰が震えている。

「あ、あの、先輩・・・」
「ごめんなさい。友達を待たせているから・・・」

 葵の態度の急変に、二人は戸惑った。抑揚のない声で目線を合わせずに小声で言うと、葵は二人の間を抜けるようにして、足早にリフトのほうに歩み去った。声を掛けようとして、翔は思い止まった。小さく嘆息すると、余りの状況に呆然としている彰に声を掛ける。

「・・・行こうか、彰」
「あ、あぁ・・・」

 葵が歩いて行った方を未練がましく見やると、彰は大きなため息をついた。

「わりぃ、翔。どうも、俺、調子に乗りすぎちまったようだ」
「いいんだ。もともと、こっちが押しかけたんだ。縁がなかったと思えば何でもないよ」
「そ、そうだな」

 きびすを返して、立ち去ろうとしたとき。

「ちょっと、あんたたち。」

 髪を高口で切りそろえた、気の強そうな女生徒が睨んでいた。胸章を見ると、「高国」と書いてある。

「はい?」
「あんたたち、葵に今何言ったの?」
「あ、いえ・・・創作物を読んで貰って、批評をお願いしようと思ったのですが・・・」

 怒った表情の亜里沙に訳がわからず、怪訝そうな二人。

「あんたたちねぇ・・・葵は文芸部やめたのよ」
「えっ? 本当っすか、それ!」

 驚く彰に、亜里沙は冷たい声で言う。

「本当よ。当分、葵は“文芸”には一切関わりたくないって言ってるわ」

 翔は素直に頭を下げた。慌てて彰も後を追う。

「すみません、全く知りませんでした」
「ほんとにすまんです」

 ふぅっと嘆息すると、亜里沙は恐縮して謝る二人を見て態度を少し和らげた。

「あたしに謝ってもらっても仕方がないけど・・・まぁいいわ。葵には、後で言っといてあげるから」
「すみません」
「すんません」

 翔と彰はもう一度亜里沙に頭を下げると、その場を立ち去った。

☆☆ SCENE#3に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 二回目です。翔や彰と並んで、物語の核となるキャラクター「葵」が登場しました。今後とも、ガンガン活躍してくれる…かなぁ? 最初の出だしで、何か躓いているような感じを受けるのは私だけでしょうか? やれやれ・・・。
 さて、今回の課題点は「相手に話しかけるタイミング」です。状況によって、その結果は雲泥の差が付いてしまいます。上記の状況では、あまり相手の状況を考えずに、翔と彰は葵に会いに行ってしまいます。そして結果は御覧の通りでした。これを一言に「運が悪かった」と片づけてしまうと、また次回同じ轍を踏むことになりかねません。素直に自分の非を認め、筋を通して謝罪すること。それがここでは必要ですね。さてさて、翔と彰は、きちんと葵に謝れるのでしょうか??

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