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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 1 「出会いは、唐突に」 SCENE#3
「ったーっ! まいったぜ!」

 学部棟の屋上。燦燦と日光が降り注ぎ、遠くの山からの涼風が吹いている。翔と彰は、昼食のパンと三角パックのコーヒー牛乳を持って屋上に来ていた。いつもは教室で昼を食べているのだが、今日は先程のことを騒がしい教室で話すのに気が引けたので、人気のないこんな場所を選んだのだ。

「致命的な大ポカしちまったなぁ…あぁ、もう心証最悪ってとこだぜ。それにしても、神和妃先輩、文芸部辞めてたなんてなぁ・・・知らなかったぜ」
「・・・最近のことじゃないのかな」
「へ?」
「いや・・・さきほど高国先輩が言っていた、神和妃先輩が文芸部を退部したっていう話だよ。彰が図書を運ぶのを手伝ったのだ最近だろ? その時は、まだ文芸部に在籍していたんじゃないかな」
「そりゃ、そうだよな。確かに、文芸部を辞めてたら、そんなことなんかしないよな」
「そう思う。だから、辞めたのは最近ってことだよ」
「なーる」
「つまり・・・それが事実ってことなら、僕たちが話し掛けたのは最悪のタイミングだったってことだね。知らなかったとはいえ、そんな言い訳は通りそうもないね」
「はぁ、まじったなぁ・・・完全に嫌われたぜ、ありゃ」

物言いたげな表情で、翔は大袈裟に嘆く友人を見た。

「・・・ふ〜ん。彰は結局、そこが本音なのかい?」
「え? あ? い、いや〜」

 恐る恐る、友人の顔を見る彰。にっこり笑顔を浮かべているが、目が笑っていない翔。顔マジな友人が怒るとどんなに恐ろしいか熟知している彰は、みるみる青くなった。背中に汗がつーっと伝わる。

「ま、いいけどね」

 蛇に睨まれた蛙状態がしばらく続いた後、ようやく放免された彰は大きく息を吐いた。気を取り直すように、努めて明るく言う。

「しっかしなぁ。知らなかったといっても、まじぃことをしちまったから。やっぱどっかで謝らないと」
「そうだね。でも、この状況じゃ、話しかけることも難しいな」
「そーだな」
「そうだよ」
「なんとか、話しかけるチャンスを見つけないとな」
「どうやって?」
「ほら、こう、ぱぱーっとだな・・・」
「ぱぱっーと、なんだい?」
「あ〜〜〜わからんよ、そんなもん!」

 頭を使うのが苦手な彰は、ものの十数秒で考えるのを止めてしまう。いつものことだが、こうなると解決策を考えるのは、翔一人の仕事となる。これみよがせに大きな溜息を付くと、翔は立ち上がった。

「?」
「昼休み、終わるよ」
「もうそんな時間か。かーっ、頭を使うと時間が過ぎるのも早いぜ!」

翔は目一杯脱力した。それを見た彰は、事も在ろうに自分の事を棚に上げて放言する。

「おいおい、翔! お前だけが頼りなんだからな。しっかり解決策を考えてくれよな。あ、力仕事ならいっくらでもやるからよ、いつでも声を掛けてくれよな!」

 明るく無責任に笑って言う彰に、ちょっとこめかみに青筋を立てる翔だった。
☆☆ SCENE#4に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 三回目です。状況は膠着状態で、何ら好転していませんね(笑)。彰は全く頼りにならないし、翔も大変です。おい、彰。お前そのまんまだと翔に愛想尽かされるぞ! って、全然堪えている風じゃないけどね。まぁ、タフなこと(笑)。
 さて、今回の問題です。何かを計画する時には、漫然と物事を惰性で行わずに、「何が目的」で「誰が為」に行うか、少なくともこの二点くらいは熟考しておく必要がありますね。その様な事前準備を行わなくても、結果が偶然巧く行ってしまうこともあるでしょう。しかし、明確な認識を持って行わない事柄は、再現性に欠け甚だ不安定です。不安要素を減らし、安定要素を増やして自分のペースを掴む・・・人にとって、現実社会にとって、「思考した結果」は、まさに自分の経験を積み上げることになるのです。そして、その経験は必ず自分を助けてくれるでしょう。


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