「線香花火」-2-
---  明美の部屋  ---
明美、電気もつけず机の引き出しの中の小さなアルミケースを見つめている。
アルミケースを手に取る明美。
一瞬、一郎の姿が頭をよぎる。
それをさえぎるかのようなノックの音。
アルミケースを引き出しの中にしまう明美。
信次 いいかい?
明美 うん。
部屋に入る信次。
信次 社から連絡があってね。もう行くよ。
明美 うん、わかった。
信次、ベッドに腰掛けて、
信次 なあ、明美。
明美 うん?
信次 延ばしてもいいんだよ。
明美 延ばす・・・って何を?
信次 式さ。
明美 どうして?
信次 君には、まだ早かったんじゃないかって。
明美 ・・・ごめんなさい。違うの。
いろんなことが一度にドッとくるから・・・ちょっと戸惑ってるだけ。
信次 そうか。
明美 ごめんなさい、心配かけて。
信次 じゃあ、オレ、行くよ。
キスをするふたり。
---  玄関  ---
清子 それじゃあ、気をつけて行って来てくださいね、北海道。
信次 はい。どうも、おじゃましました。
絵里 信次さん、お土産お願いね!
信次 いいよ、何がいい?
絵里 エロビデオ!
信次 え! えろ・・・!?
絵里 冗談よ。
信次 カンベンしてよ、絵里ちゃん。
明美 気をつけてね。
信次 ああ、向こうに着いたら連絡するよ。
明美、信次を見送り、門を閉め自室へ戻る。
---  明美の部屋  ---
ベッドに腰掛け、アルミケースを取り出し、フタをあける。
中には使いかけの線香花火。
見つめたまま、横に倒れる明美。
明美 悪い娘ね。
枕に顔をうずめる明美。
---  河原  ---
雲一つない夜空に花火が色をつける。
地方色が濃いが賑々しい花火大会。
---  金魚すくいの夜店  ---
子供たちに混じって興じている明美。
金魚に気を取られ浴衣の裾が濡れる。
明美 あっ、む〜〜!
急いで拭こうとするが、ふと手が止まり、昔を覗いたような顔つきになる。
肩をたたく手。振り返る明美。
露出度が高く、派手な服を着た女が立っている。
あ・け・み。
明美 はい?
あ、香? 香じゃない。どうしたの?
どうしたのじゃないわよ。帰ってきたのよ。
明美 なあんだ、帰ってきたのなら言ってくれれ・・・(香の後ろの男に気づいて)
もしかして・・・彼?
つなぎよ、つなぎ。
明美 しかし・・・なんて格好してるの。花火大会よ?
いいでしょ、あたしが花火なんだもん。
それより明美、聞いたわよ。結婚するんだって?
明美 しますよ。
本当なの? ぜーんぜん知らなかった。連絡してくれればよかったのに。
明美 したのよ、何度も。でも香、いつもいないんだもの。
まあまあ、そう言わずに。それでいつよ、いつ?
明美 来月の終わり。
ふうん、そうなんだあ。先越されちゃったわね。
明美 まだ、あまり実感ないんだけど。
でもよかった。
本当によかった。
明美 ありがとう。
明美、店のオヤジに、すくった金魚をビニール袋に入れてもらう。
そう・・・それが自然なのよ。
あれから4年も経つんだから・・・
明美、金魚を受け取り歩き出す。
明美 香は?(と言って香の彼氏を見やり)まだ結婚しないの?
私はまだいいのよ。なかなかイイのがいないし。(と、言われてるのもツユ知らず、嬉しそうにワタ飴をなめてる彼氏)
ねえ、どんなひとなの? 明美の旦那さん。
明美 そうねえ、いつも裸で仕事をしてるひと。
ハダカッ!?
明美 頭から血を出すこともあるわね。
頭から!? 何やってるひとなの?
明美 プロレスラー。
うっそ!! マジ!?
明美 ウソよ。
ホラ、いいの? 彼、待ってるわよ。
じゃあ、またね。
---  河原  ---
腹に響く重低音とともに鮮やかな花火が舞い上がっている。
歓声をあげる人々。
明美は歩きながらそれを見ている。
父親に肩車をされた子供が、花火を見てはしゃいでいる。
ひとりの男が明美とすれ違う。
すれ違いざま、立ち止まる明美。
少しの静寂のあと、ひときわ大きな音をたてて尺玉が打ち上げられる。

どーーーーん!!

振り返った明美の顔を尺玉が照らす。
その先に微笑んで立っている男。
スイッチが切れたように動かない明美。
一郎 ひさしぶり。
大きな歓声が上がる。