「線香花火」-3- | |||||
--- 金魚すくいの夜店(過去) --- | |||||
髪の長い明美が金魚すくいをしている。 興奮して浴衣の裾を濡らしてしまう。 |
|||||
明美 | もおー。 | ||||
急いで拭こうとするが、ハンカチが差し出される。 出したのは店番をしている一郎。 |
|||||
一郎 | あはは、何してんねん。 | ||||
明美 | 何してんねんって、お店の売り上げに協力してあげてるのに。 | ||||
一郎は笑っている。 | |||||
明美 | ねえ、先輩。 | ||||
一郎 | 一郎でエエよ。 | ||||
明美 | イチロー・・・・・一郎さん。うふふ。 一郎さん、なんだか金魚が元気ないみたいですねえ。 |
||||
一郎 | ああ、みんなにつつかれてるからなあ。 せやから明美が金魚すくってやらんと。 |
||||
明美 | ん? | ||||
一郎 | 裏の寺に池があるやろ? そこに捕まえた金魚放したったらエエねん。 ここにおるのは売り物やから、どうにも出来んけど、明美がすくったもんは明美のもんや。 |
||||
明美 | 金魚救い? 金魚を救う会。 | ||||
一郎 | おねえちゃん、金魚をすくうかい? | ||||
明美 | うふふ。 | ||||
明美、肩をたたかれ振り返る。 清楚な浴衣姿の香が立っている。 |
|||||
明美 | 香! 来てたの? | ||||
香 | 明美は? ひとり? あ、一郎先輩! 何やってるんですか? |
||||
一郎 | はっはっはっ。 | ||||
香 | (明美を見て)ふうん。 | ||||
明美 | ふうん、じゃないでしょ。家族と来てるの、家族と。 | ||||
二人の前をカップルが通る。 女の出で立ちは露出度が高く、派手な服を着ている。 |
|||||
香 | 花火大会よ。 何考えてんのかしら。 | ||||
しらじらしい目で香を見つめる明美。 どーーーん! と花火の音。 |
|||||
--- 寺へ向かう道(過去) --- | |||||
人気の少ない小道を行く一郎と明美の足。 | |||||
明美 | こんなところがあったなんて知らなかった。 | ||||
一郎 | まあな。昼間でもめったに人通らへんしな。 | ||||
その言葉に反応する明美。 | |||||
明美 | お店は・・・大丈夫なんですか? | ||||
一郎 | 心配いらへん、後輩に任したった。時間はたっぷりある。 | ||||
へんに意識する明美。 | |||||
一郎 | ああっ! | ||||
ビクッとする明美。 | |||||
明美 | なっ、何? どうしたの? | ||||
一郎 | ふたりきりや。 | ||||
明美 | え? | ||||
一郎 | オレら、ふたりきりや。 | ||||
明美 | そ、そうですか。 | ||||
一郎 | ええんか? | ||||
明美 | ええ!? | ||||
一郎 | 知ってんのか? | ||||
明美 | (答えに困って)・・・・・すこし・・・くらい。 | ||||
一郎 | 明美とオレがここに居てんの家族知ってんのか? | ||||
明美 | え? | ||||
一郎 | え、って親と来てるって、さっき言うてたやんか。 | ||||
明美 | ああ・・・ははっ、あれウソですよ。親には友達と行くって。 | ||||
一郎 | 悪い娘やな。 | ||||
あなたのためなのに!と言いたいが笑うしかない明美。 | |||||
一郎 | 着いた! | ||||
一郎に近づいていく明美につれて、眼下に街の灯が広がる。 夜空には花火。 |
|||||
明美 | うわあ、キレイ! | ||||
金魚を池に放してやる一郎。 放たれた金魚は、元気を取り戻し泳ぎ回る。 そのなかの1匹が岩陰に隠れて、 |
|||||
--- 寺の池(現代) --- | |||||
岩陰から出てきた金魚は大きくなっている。 | |||||
一郎 | おまえら、大きいなったなあ。 | ||||
一郎、池の側に供えてあった菊を見て、明美を見る。 | |||||
一郎 | ありがとうな。 | ||||
う、ううん、とぎこちなく首を振る明美。 まだ、困惑気味。 |
|||||
一郎 | なんちゅう顔してんねん。 驚き過ぎや。 | ||||
明美 | ・・・・・大丈夫なの? 帰ってきても。 | ||||
一郎 | お盆休みや。 | ||||
明美 | ・・・・・どうなの? 向こうの暮らしは。 | ||||
一郎 | 住み良いよ。まるで天国や。 | ||||
明美、緊張のタガがはずれ微笑む。 それに応える一郎。 |
|||||
一郎 | 持ってきたで。 | ||||
ハッ、とする明美。 明美の顔から笑顔が消える。 一郎が取り出したのは机の中にしまってあったアルミケース。 |
|||||
--- 寺の池(過去) --- | |||||
明美 | 線香花火! | ||||
一郎 | どや、明美も。 | ||||
明美 | うん! | ||||
一郎、線香花火を1本渡し、火をつける。 ふたり、言葉もなく花火を見つめている。 |
|||||
一郎 | 昔、よく賭けやってた。 | ||||
明美 | 賭け? | ||||
一郎 | 玉がな、途中で落ちずに最後までいったら願い事がかなう。 落ちたら願い事はかなわへんねん。 |
||||
明美 | ふふ、私も。 | ||||
一郎 | なんや、人生の縮図みたいや。 | ||||
明美 | うん。 | ||||
一郎 | 花火の中で一番スキや。 | ||||
明美 | うん。 | ||||
一郎 | 線香花火より、明美がスキや。 | ||||
明美 | ・・・・・・・ | ||||
一郎、顔を近づけ、明美は目を閉じる。 夜空の花火。 |
|||||
一郎 | なあ、どっちが長いか競争しよう。 | ||||
明美 | うん。 | ||||
ふたり、同時に火をつけるが、一郎の花火は玉が大きすぎて落ちてしまう。 | |||||
一郎 | あちゃー、オレ、生い先短いなあ。 | ||||
二人、笑う。 一郎、次の線香花火を取り出そうとするが、袋に戻す。 |
|||||
一郎 | これは、とっとこう。来年またここへ来てふたりでしよう。 | ||||
明美 | うん。 | ||||
3 |