「線香花火」
学生の頃に書いた短編です。
イラストはキヨさんからのいただきものです。
登場人
一郎
明美
史郎 (明美の父)
清子 (明美の母)
絵里 (明美の妹)
信次 (明美の婚約者)
(明美の友人)
---  河原  ---
川の両側の芝地には、花火大会の準備が進められている。
そこから少し離れた丘の寺。
寺の庭にある池。
池の中の金魚。
池の側には菊が添えられている。
---  メインタイトル  ---
---  明美の家  ---
テーブルを囲んで、明美が結婚式の招待状の宛名書きをしている。
母、清子はリストのチェックをしている。
座卓では信次が、明美の妹の絵里に宿題をつきあわされている。
清子 山口・・・田中・・・あら、佐藤さんのがないわよ。
明美 あ、忘れてた。どうしようかな。
清子 ダメよ、出さないと。随分お世話になったんでしょう?
明美 そうね。
ひょい、と顔を出した絵里、招待状の一枚を取ってマジマジと見る。
絵里 ねえ、結婚式の招待状って、みんなこんななの? お堅いねえ。
明美 みんなこうなの。
信次 絵里ちゃん、まだ終わってないよ。あともう少し。
絵里、信次のところに戻って、
「コノタビ、ワタクシ、タナカシンジ ト キノシタアケミ ハ・・・」とからかう。
父、史郎が帰ってくる。
史郎 ただいま。
清子 あら、おかえりなさい。
信次 おじゃましてます。
史郎 おお、信次君、いらっしゃい。また絵里につきあわされてるのかい?
絵里 秘密を握ってるからね。
信次 え! 秘密!?
絵里 バラされたくなければ明日の朝、港倉庫にキャッシュで1千万。
史郎 ああ、そりゃ助かる。1千万あれば、なあ、母さん。
清子 何言ってるの、信次さん困ってるじゃない。
史郎 はっはっは、冗談だよ。半分な。
信次 ・・・・・
史郎 それにしても暑いな。母さん、1本出してくれ。
明美 母さん、あたしも。
史郎 信次君、どうかね、君も。
信次 あ、それじゃ、お言葉に甘えて。
史郎 1本1千万だぞ。
信次 ・・・・・・・・
絵里 あたし、麦茶!
史郎、明美の書き終わった招待状を手に取り、
史郎 こんなの印刷にすればいいだろ。
明美 気持ちよ、き・も・ち。
史郎 ふむ。
絵里 終わったあ! 信次さん、花火やろ、花火!
信次 ん、やるか!
清子 ダメよ、絵里。信次さん独り占めしちゃあ。
信次 いえ、約束してたんですよ。宿題終わったら花火って。
史郎 明美、荷物はまだいいのか?
明美 大丈夫よ、まだ2週間あるもの。
荷物っていったって、とりあえずでいいんだし。
清子 そうね。荷物はいつでも送れるんだし。
史郎、縁側で花火に興じる絵里と信次を見て、
史郎 おお、そういえば明後日は花火大会が、なあ、母さん。
明後日だったかな。
清子 そうねえ。
そうそう、信次さんもどうかしら?花火大会。
明美 ダメよ。仕事があるんだから。
信次 明日から北海道なんですよ。
史郎 ほう、北海道。
絵里 ねえ、信次さん! どっちが長いか競争しよう!
その言葉に反応する明美。
信次 いいよ、やろう。
絵里、線香花火を信次に渡す。
ふたりの線香花火に火をつける信次。
絵里 うわあ、きれい! あ、でもちょっと大きいかな。
信次 はっはっは、この勝負もらったよ。
柳のような光を放つ線香花火。
ささやかながらも明滅する夏の情緒。
明美は静かに線香花火を見つめている。
と、ふいに信次の線香花火の玉が落ちてしまう。
ピクッとする明美。
絵里 やったー!あたしの勝ちっ! 信次さん、弱っちー。
信次 もう一度! ね、絵里ちゃん!
絵里 ねえ、今度はお姉ちゃんもやろうよ。
あれ?お姉ちゃんは?
清子 上にあがったわよ。